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永劫のセツナ  作者: ALOE
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――帝国飛空戦艦・外縁区画。


金属の扉が叩きつけられるように開いた。

「いたぞ!!」


兵士の声が廊下に響く。

ジュリの肩がビクッと跳ねる。


(見つかった……!)


「右だ! 逃がすな!」


数人の具足の重い足音が迫る。

逃げ場はない。


ジュリは恐怖で目を閉じた。


「娘、目を開けろ、我も見えぬ。」

ギャリガンは静かに言った。


ジュリは固まって歯をガチガチ言わせている。


「怖い…怖いよ…」



「フォクシール様を呼んで来い

検体を捕まえたとな。」

兵の声が聞こえた。


「目を開けろ!ウスノロ!」

ジュリのあたまに大声が響く。


ジュリはビクッとしてゆっくりと目を開けた。


「そうだ、それでいい。」

ギャリガンは視覚を手に入れた。


「囲まれてるな…5、6人か」

ギャリガンがジュリの目で人垣の足元の向こうを見ると

何かの配管がむき出しになっているのを見つけた。


「おい、娘、お前の指を床の溝に置け。」


ジュリは震える手を言われるがまま床に置いた。


その時

「おら! 立て! 勝手に抜け出しやがって!」

そう言って兵士はジュリの髪の毛をつかみ乱暴に持ち上げた。


「痛い! やめて!」

ジュリは泣き叫び、手足をバタつかせた。


その時、人垣の向こうで声がした。


「うるさいんだよ、早く静かにさせろ!」

フォクシールだった。


一人の兵士がジュリの腹に剣の柄を叩き込んだ。


「ウッ…」

そういってジュリはぐったりしてしまった。



「娘などどうでもいい、瓶を探せ! これと同じものだ」

フォクシールは苛つきながら瓶を掲げた。


その時、廊下で轟音と共に、何かが噴き出した。

あっという間に辺りは水蒸気で満たされた。


「熱い!」

「なんだ!?」

兵士たちは全員後ろを振り返った。


「圧力調整パイプが破れているぞ!!」

どこからともなく声が聞こえ、辺りは騒然となった。


「何が起こった!? 前が見えん!」

フォクシールも慌てている。


フォクシールはふと廊下に立つ一人の兵士が目に留まった。


立ったまま、白目をむいて泡を吹いている。

よく見ると耳の中にロープの様な物が入っている。


そのロープはするすると耳から離れていった。

それを目で追うと、混種の娘が倒れている方向に

縮んで行くのが分かった。


「おい! 娘だ! 混種の娘を捕まえろ!!」

フォクシールが叫ぶが、船内の騒ぎで声がかき消されていく



「おい! 娘! 目を覚ませ!!」

ギャリガンはジュリの頬に触手を当てる。


「ウッ……ン…」


「早くしろ! 今がチャンスだ、外に出られるんだ!」


ジュリは殴られた痛みと恐怖で、吐き気と頭痛が交互に押し寄せた。


——力が出せない

そう持った時


「ジュリ!!」

ギャリガンが叫んだ。


ジュリは一気に現実に連れ戻されるように

目を見開いた。


「いいか、低い姿勢で走り抜けろ、道順は

我が指示する。さあ走れ!」


不思議と体が素直に動いた。


水蒸気で視界が悪い、それに加え人だかりで

隙間が無い。

しかしジュリには見えていた。

人と人が交錯する瞬間、歩く股の間。

なぜか自分が進む方向に光が当たる。


小さな混種の女の子は一気に雑踏を抜け

廊下に飛び出した。


「おい! 逃げたぞ!」

「あそこだ!」


「チッ…下等種が!」

フォクシールは舌打ちをしながら無詠唱で

魔法陣を展開する。


「フォクシール様!おやめください!

貴重な混種です!帝国法に違反します!」

一人の兵が言った。


「黙れ!」


そう言ってフォクシールは片手でもう一つ魔法陣を

作り、紫色の光の玉を自分を(いさ)めた兵にぶつけた。

兵士は壁に激突し、後頭部から血が

飛び散った。


呆気にとられる他の兵士をしり目に

ジュリはどんどん進んで行った。


触手のギャリガンが後ろを振り返る。


「おい!娘 伏せろ!!」


ジュリは半ば転げながら地面に伏せた。


間一髪、ジュリの上を高火力の魔法が通過した。

そしてそれは壁に激突し、爆発した。


間もなく、煙と共に冷たい空気が一気に流れ込んできた

フォクシールの放った魔法は、この船の壁に

穴を空けたのだ。


凍るような向かい風を這って前を進むジュリ。

そして、フォクシールが開けた穴付近まで来た時

後ろで声がした。


「貴様…八つ裂きにしてくれる…」


振り返るとフォクシールが鬼の形相で立っていた。


震える足。

喉が締めつけられる。

息を切らしながら、吸い込む空気は

恐ろしく冷たい。


真下に雲が見える。


「…ここから飛び降りるしかない」

ギャリガンが低く冷静な声で言った。


ギャリガンはそれ以上何も言わなかった。

半ば諦めているのかもしれない。


フォクシールの眼前には、紫色の光の玉が

浮いていた。

バチバチとスパークしている。


「フォクシール様!!」

後ろで兵士が叫ぶ。


「死ねぇい!!」

フォクシールが叫んだ!


その時、ジュリの視界が明るくなった。

まっすぐ下に光が伸びている。


「……ん……!」

ジュリは飛び出した。





風が、叩きつける。

息ができない。目が開けられない。

身体が引き裂かれそうな速度で、落ちていく。

「……っ!!」

声にならない。

上下の感覚が消える。

空と地面の区別がつかない。

(こわい……こわい……)

涙が風に散る。


「馬鹿者が…お前が死ねば我も死ぬ…」

ギャリガンがつぶやいた。


眼下に広がるのは青く広大な水だった。

キラキラと光っていて、所々に白い線が出来ていた。


「綺麗…」

ジュリは思わずつぶやいた。


「お前…このまま落下すれば死ぬのだぞ?

わかっているのか?」


「光が見えたの。光は下に向かっていた。

だから思わず飛び出ちゃった。」

ジュリはにこりと微笑んだが

涙が上に流されていった。


「……」


「それに…もういいの。」


「お前…」


「ありがとう、ギャリガン。

そしてごめんね。」


「おい!勝手に終わるな!ウスノロ!」


そしてジュリは意識を失った。





ジュリは森に居た。

小鳥たちの鳴き声、川のせせらぎ、沢山舞う蝶

その風景にジュリは溶けていった。

生命が生まれ、成長し子孫を残し朽ちていく

無数の生命の営みの流れにジュリも居た。


ふと目を覚ます。

眼下には青い水がきらめいている。

が、向かい風が弱くなっている気がした。


「おい! おい! ジュリ!」

何かが呼ぶ声がする。


目の前には目の玉をパチクリとした

細長いものがいた。


「ギャリガン…私は…死んだの?」


「違うよ!ウスノロ! 背中を見てみろ!」


ジュリが振り返ると、光る物が背中にあった。


「光る…羽? 蝶々みたい…これは何」


「知らぬ。我が聞きたい」


ギャリガンは何となく感じていた。

自分とこの娘が結合した事による影響であろう事を。


「だがこのまま下りたとて、下は海だ

どうするか…だ。」


「海?」


「塩水の水溜りだ。」


ゆっくりと落下していきながら

暫く二人は黙った。




――帝国飛空戦艦・内壁監視窓。


厚いガラス越しに、雲海を見下ろす影が一つ。

クロフォードは腕を組んだまま、落下する小さな点を追っていた。

(……まさか落下するとはな…)

視線は動かさない。

小さな点が雲に溶けていく。


その時、ジュリが落下した付近の雲が明るく光ったが

すぐに光はちいさくなった。


「……ふっ、やはり只では死なんか」


わずかに、口元が歪む。


(それにフォクシール、やはり奴は系統がちがうか。

だとすると…)

クロフォードは口をグッと引き締めた。


その時だった。

空が急に暗くなった。

何かが空を覆うように。

そして空の一角が、光った。

とても眩い閃光。


次の瞬間――

“線”が走った。

空を裂くように、真っ直ぐに。

音は遅れてやってくる。

爆音と轟音と共に船が激しく揺れる。


そして巨大なキノコ型の雲が沸き上がった。

やがて霧散していく。


「……!?」

クロフォードは目を見開いた。


見ると今まであった陸地が消滅していた。


「まさか…」

クロフォードは急いで上を見る。


そこに空は無かった。

黒光りする巨大な物体で空は覆われていた。

「移動要塞・キング・ヴァルディア‥‥完成したのか…」

クロフォードの心臓は早鐘のように脈打った。





同じころ

ふわふわと落下していくジュリの上を

巨大な光が走った。

そして、まばゆい光が瞳に射しこみ

次の瞬間、耳をつんざく轟音が辺りを包んだ。

そして遅れて爆風が襲って来た。


「きゃああ!!!」

ジュリは一瞬で吹き飛ばされた。


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