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【5部開始】転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~  作者:
6章 新たな展開

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65話 それから

 目が覚めた。

 天井が、知らない。またこの展開か?

 木目の板じゃない。滑らかで淡い灰色の石材が、柔らかい光を反射してぼんやりと広がっている。


 呼吸をするたび、乾いた布と薬草みたいな匂いが喉の奥に残った。

 かすかに甘く、苦いハーブの香りが鼻腔をくすぐり、肺に染み込んでくる。


 これは……どこだ?

 体を起こそうとして、背中がじわっと痛む。

 鈍い痛みが、遅れて、ゆっくりと広がっていく。

 ああ、生きてるんだって実感に変わる。

 骨がきしむような感覚が、逆に安心をくれた。


 ふと横を見る。

 ベッドの横の椅子に、エレナが座ったまま寝ていた。

 背筋はきれいに伸びてるのに、頭だけが少し落ちていて、金色の髪の先が肩に優しく触れている。

 真面目な人間ほど、こういう寝方をする。

 膝の上に置かれた錫杖が、微かに光を反射して、静かにそこにあることを主張していた。


 俺が身じろぎした、その小さな音だけで。

 エレナの瞼がぱちりと開いた。

 俺を見た瞬間、ぽろぽろと涙が落ちた。

 頬を伝い、白い衣の襟に染みていく。


 え、泣く?

 何が起きたのか分からなくて、俺は手を伸ばすにも伸ばせず、ただ固まった。

 喉が乾いて、声が出ない。


「ど・・・どうしたエレナ?」


「どうしたじゃありませんわ。もう目を覚まさないかと思いましたわ」


 エレナの声が震えていた。

 いつもより少し高い、掠れた響き。

 瞳が潤んで、涙が止まらない。

 彼女の手が、俺のシーツをぎゅっと握りしめているのが見えた。


「どういうことだ?」


「何も覚えておりませんの?」


 言われて、頭の奥の霧が少しだけ動いた。

 戦いの熱。息が焼ける感じ。視界が赤く揺れて。

 炎の翼。ザハクの最後の笑み。

 そして、掌に落ちたリングの冷たさ。


「ザハクと戦って、そうだ指輪をもらったんだ」


 俺は右手を見た。

 人差し指に、あの指輪がはめられている。

 金属の冷たさじゃない。

 体温に馴染んで、やけに落ち着いた重みだけが残ってる。

 黒みがかった青みがかった光沢が、淡く光を反射し、まるで俺の脈に合わせてゆっくりと呼吸しているようだった。

 指輪の内側に、古代の文字のようなものが浮かび上がり、俺の体温に反応して優しく脈打つ。

 

 エレナが、ゆっくりと立ち上がる。

 涙を拭いもせずに、俺の手をそっと握った。

 温かい。

 彼女の指が、少し震えていた。


「それから・・・」


 どうしたんだ?そこから記憶がないぞ?


「多分、気が抜けた瞬間に、無理をしていたものがいっぺんに出てしまい、気絶をしましたの」


 エレナの声が、少し掠れていた。

 普段の優しい響きに、疲れと心配が染み込んでいて、胸がチクッと痛む。


「ただの気絶かぁ」


 俺は軽く笑おうとしたけど、喉が乾いて声が震えた。

 ベッドのシーツが、汗で少し湿っているのがわかる。


「ただの気絶じゃありませんわ」


 エレナの目が、怒りでぎらっとした。

 普段の澄んだ瞳が、今は別物みたいに強い。

 怒ってるのに、泣いた跡のせいで余計に切ない。

 頬に残る涙の筋が、光を反射して細く輝いている。

 彼女の金髪が、わずかに乱れて肩に落ち、息が浅く震える。


「そんなに、青筋立てて怒っていたら綺麗な顔が台無しだと思うぞ」


 言った瞬間、しまったと思った。

 エレナの頬が少し赤くなって、戸惑うみたいに瞬きをして、はっとした顔になる。

 ……と思ったら、次の瞬間、また怒った。

 眉がきゅっと寄り、唇が震える。


「そうやってごまかすのは悪い癖だと思いますの、もう目が覚めないと思いましたわ」


「目が覚めない?ただの気絶だろ?」


 気絶なんて普通、長くて一、二分だ。

 漫画や小説みたいに数時間とか数日とか、そんな事は基本起きない。

 俺は軽く笑おうとしたけど、喉が詰まって声が掠れる。


「五日間眠ってましたわ」


「い……五日ぁ?」


 喉が変な声を出した。


 五日。

 俺の中で、時間の感覚が一気に崩れる。

 五日……も寝ていたのか?。

 エレナは毎日ここで、俺を待っていたのか。

 胸が締めつけられるように熱くなり、息が苦しい。

 エレナの瞳が、再び潤む。

 彼女の手が、俺のシーツをぎゅっと握りしめ、白くなる指先が震えていた。


「炎の民の皆様も大変心配してますわ」


 エレナの声が、優しく響いた。

 彼女の金髪が窓から差し込む柔らかい光に照らされ、淡く輝いている。

 瞳に残る涙の跡が、わずかに光を反射して、切なさを増していた。


「あれからどうなったんだ?」


 俺は喉の奥から声を絞り出す。

 体はまだ重く、ベッドのシーツが汗で湿っているのがわかる。

 頭の奥が、ぼんやりと痛む。


「今はヒルダさんを筆頭に町にいた魔物は全て退散か対峙いたしましたわ。ただやはりこの町を統治するのはかなりの時間がかかりますわ」


 エレナの言葉に、静かな重みが乗っていた。

 彼女の指が、俺のシーツを軽く握りしめ、白くなる。

 窓の外から、遠くで人々の話し声が微かに聞こえる。

 

 確かに、そうだろう。

 生まれた時から奴隷として生きてきた人たちは、それが当たり前だったはずだ。

 人として生きるって何だ、ってところから、積み直さないといけない。

 自由の意味も、尊厳も、最初から教わっていない。


 一番大変なのは人間牧場にいた人たちだ。

 体に刻まれた傷跡も、心に刻まれた恐怖も、簡単には消えない。

 でも、それは俺が抱える仕事じゃない。

 ここはヒルダたち炎の民と、この町の人間が考えていくしかない。


 俺は、別のことが気になって、エレナを見た。

 彼女の金髪が、窓から差し込む柔らかい光に照らされて、淡く輝いている。

 瞳が少し潤んでいて、さっきの涙の跡がまだ残っているのがわかる。


「エレナはどうするんだ?」


「どうするとは?」


 エレナは首をかしげた。

 小さな仕草が、いつもの真面目な彼女らしくて、胸が少し温かくなる。

 俺が何を言いたいのか、まだ掴めてない顔だ。

 頬がわずかに赤らんで、長い睫毛がぱちぱちと瞬く。


「俺はいったん戻ってヴァレリウス司祭に一応の報告はしようと思う。この指輪があるから一応は出入りはできると思うし、一回使ってみないとわからないしな」


 俺は右手の人差し指を見下ろした。

 指輪が、俺の体温に馴染んで、静かな重みを残している。

 黒みがかった青みがかった光沢が、部屋の光を優しく反射して、まるで生き物のように微かに脈打っている気がした。


「報告は必要ですわね。どうするとは?」


 エレナの声に、わずかな戸惑いが混ざる。

 彼女の指が、俺のシーツを軽く握りしめ、白くなる。


「俺としては、ついてきてほしいのだが」


 僧侶として、この街で慈愛を説くのは必要なことだろう。

 人が人として生きる道を伝えるのは、やりがいのある仕事のはずだ。

 でも、俺の胸の奥で、何かが疼く。

 エレナがいなく、一人で行動する想像が、妙に寂しいと感じてしまう。

 だけど、エレナの僧侶としての道を俺のわがままでつぶすわけにはいかないから聴いてみた。


「えっと、なぜそのようなことを聞くのですか?」


 エレナの瞳が、俺をまっすぐ見つめる。

 少し戸惑いながらも、真剣だ。


「いや、だってここで慈愛を説くのはアウリス神の信者としては必要じゃないのか?」


「もちろん必要だとは思いますわ。でもわたくしはシビさんとついていくと初めに決めておりますけど」


 エレナの言葉が、静かに響いた。

 声に迷いがなく、瞳に決意が宿っている。

 彼女の金髪が、微かに揺れて、光を散らす。


「本当にいいのか?」


 俺は思わず聞き返した。

 喉が少し乾く。

 胸の奥が、じんわりと熱くなる。


「はい、一人にすると一人で何でもやって限界超えて迄倒れてしまうシビさんが気になって、この街でお仕事はできませんわ。さいわい炎の民の中にもアウリス様の信者がいますわ。その方にお任せいたします。でもシビさんのパートナーはわたくししか務まりませんわ」


 エレナの頬が、ぽっと赤らんだ。

 でも、瞳はまっすぐ俺を捉えていて、逃げない。

 彼女の指が、シーツを握る力が少し強くなる。

 温かい吐息が、俺の頬に触れる距離で、彼女の決意が伝わってくる。


 言葉が、胸に落ちた。

 直球すぎて、反応が遅れる。

 エレナの言葉が、ぽっと灯ったキャンドルのように、心の奥でゆっくり揺らめく。

 なんか……告白されたみたいで、俺の顔が桜色になっていくのが自分でもわかる。

 頬が熱くなり、耳まで赤くなってるのが鏡を見なくてもわかる。

 喉が乾いて、息が少し浅くなる。


「口説いてるのか?」


 俺は照れを隠すように、軽く笑って言った。

 でも声が少し上擦ってるのが、自分でわかる。


「く……口説くなんて……わたくしとシビさんは同性でありますわ。もうそんなに元気なら大丈夫ですわね」


 エレナの頬がぽっと赤くなって、瞳が少し逸れる。

 ぷい、と言わんばかりに立ち上がって、エレナは部屋の出口へ向かった。

 金髪が揺れ、白い衣の裾がふわりと翻る。

 背中が少し小さく見えて、なんだか胸がチクッとする。

 慌てて、俺は声を投げる。


「エレナ、看病ありがとう」


 エレナは足を止めて、振り返らないまま少しだけ肩を落とした。

 背中が、わずかに震えているように見えた。


「はい、みなさんもかなり心配しておりましたので、お伝えしますわ」


 それだけ言って、エレナは出て行った。

 扉が閉まる音が、やけに静かな部屋に残った。

 カチリ、という小さな音が、胸に響く。

 部屋の中が、急に広く、静かになる。

 窓から差し込む光が、ベッドのシーツに淡い影を落とす。


 俺は右手の指輪をもう一度見た。

 黒みがかった青みがかった光沢が、俺の体温に馴染んで、静かに輝いている。


 五日眠っていた現実と、エレナの涙と、さっきの言葉をもう一度考えて、これからの行動をもう少し相談してみようと思った。

それから3日間この街で休養を明かした。

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