63話 不死鳥
龍角の鋭い攻撃が俺を襲う。
爪が振り下ろされるたび、空気が鋭く裂ける音が響き、遅れて灼熱の風が肌を焼くように追いかけてくる。
まともに受けたら一瞬で終わりだ。俺は半歩、さらに半歩、紙一重で軌道の外へ滑り込む。
足裏が石畳を削り、火花のような摩擦音を立てながら、なんとかかわし切った。
その瞬間、ようやく気づいた。
俺の体が、薄い黄金の光に優しく包まれている。
さっき受けたはずの傷口が、熱を持ってじわじわと塞がっていく。
痛みが引いていく感覚が、逆に気味悪く心地よくて癒される。
俺は反射的にエレナの方を見る。
錫杖を握ったエレナが、息を整えながら俺をじっと見つめていた。
その瞳に心配と決意が混ざっている。
回復呪文を俺にかけてくれたんだと、遅れて理解した。
エレナが錫杖を一回、床に叩く。
乾いた音が合図のように響いた次の瞬間、彼女を中心に暖かい波動がゆっくりと広がった。
空気が柔らかく変わる。肌に当たる圧迫感が和らぎ、胸の奥に刺さっていた嫌な緊張が、ふっと薄れていく。
先ほどまで奴が撒き散らしていた威圧が、霧のように弱まっていくのがわかった。
周囲に倒れていた人たち、膝をついて動けなかった人たち。
その身体が、少しずつ動き出す。
指が床を探り、震える先端が石の冷たさを確かめるように這う。
肩がゆっくり持ち上がり、背中がわずかに反る。
誰かが、震える息を長く吐いた。
声にならない息が漏れ、喉の奥からかすれた音がこぼれる。
震える手が地面を押し、体がわずかに起き上がろうとする。
膝がガクガクと震えながらも、なんとか体重を支えようとする姿。 まだ戦えるわけじゃないけど、生きてる。
立ち直ろうとしてるんだ。
俺は、改めて奴を見る。
もう知性なんてほぼ残っていない。
目は濁りきって、獣みたいに俺だけを追い、ただ噛み砕くための動きだけになっていた。
爪の軌道は単純。でも速い。重い。殺意だけが、刃のように研ぎ澄まされている。
俺は闘牛士みたいに円を描いてやり過ごす。正面に立たない。直線に入らない。
一度、二度、三度。
奴の突進を横へ流し、背後へ回り込んだ瞬間、壁際で避難誘導をしているジグが視界に入った。
「ジグ!」
ジグが振り向く。顔が疲れきっている。周囲はまだ混乱の渦の中だ。
それでも彼は叫び返す。
「どうした。今こちらも避難させるのに手いっぱいなんだ、こちらが落ち着いたら手伝う。それまで持ち耐えてくれ」
無理なのは知ってる。奴なら持っているかもしれない。
俺は一縷の望みを賭けてみることにした。
「ドライアイス余ってないか?」
ジグの眉が上がる。少し間があってから、彼は短く答えた。
「一個だけなら予備で俺が確保してあるが」
賭けに勝った。
勝ち筋が一本、頭の中でぽっと点になる。
奴の動きを視界の端で追いながら、ジグが投げたそれを受け取る。
手のひらに受け止めた瞬間、指先が凍えるほど冷たい。
手袋越しでも、鋭い冷気が皮膚に噛みついてくるみたいで、指の関節が一瞬固まる。
これが切り札になるかどうかは、次の数秒で決まる。
心臓がどくんと鳴り、喉がカラカラに乾くのを感じた。
俺はエレナに視線を投げる。
この場の中心は彼女だ。
支えが折れたら、全部崩れる。
そんな確信が胸を締めつける。
「エレナ、まだ大丈夫か?」
「も……もちろんですわ。何か手伝えることありますの?」
声は強がってる。でも、肩が小さく上下してる。
呼吸が浅く、錫杖を握る指先が白くなってるのが見えた。
防御壁、回復、そして今の広範囲の技。
消耗が軽いはずがないのに、彼女はまだ俺や周囲を支えようとしてる。
「俺に炎の抵抗を上げる呪文をかけてくれないか?」
「構いませんが? 何をなさるつもりで?」
「みんな、退避場所はエレナの後ろで、エレナはそれが終わったら防御結界を最大限で」
俺は周囲を見ながら指示を出す。
動ける奴の顔を拾い、迷ってる奴の目を叩くように見つめる。
声が震えそうになるのを、喉の奥で押し潰した。
「動ける魔術師はその周囲に最大限の防御呪文を放ってくれ」
エレナが呪文を紡ぐ。
慈愛の気配が、温かい水みたいに俺の体をゆっくり巡った。
皮膚の上に薄い膜が張られた感覚がして、炎の抵抗が上がるのを自覚する。
熱いものが体を包み込み、さっきまでの痛みが少し遠ざかる。
続いて俺は再度幻鏡の呪文を使い、3人の分身を出現させる。
「虚ろなる鏡の欠片よ、我が周囲に舞い降りよ。真実を隠し、偽りを踊らせよ。幻鏡!」
詠唱が終わった瞬間、俺の姿が3つに分裂する。
視界の端で、俺が増える。
動きが増える。
3人の俺が同時に駆け、左右と正面から奴に迫る。
どれが本物か、奴の狙いが散らばるのがわかる。
奴の視線が一瞬迷った。
濁った瞳が、3つの俺を交互に捉えようとして、わずかに揺らぐ。
その迷った分だけ、こっちが先に動ける。
心臓の鼓動が少しだけ速くなるのを感じた。
俺は再度魔力回復のポーションを飲み干す。
瓶を傾けると、喉を焼くような苦さが一気に広がる。
胃の底に熱い石を落とされたみたいに、内側が重く熱くなり、魔力が急速に満ちていく。
絶対に体に悪いよな。ただのブーストだし。
でも、今はそんなこと考えてる暇もない。
息を整える時間はない。
俺はわざと芝居がかった声を作って、場の空気に釘を刺した。
声を張り上げ、わざと大げさに笑ってみせる。
「これが効かなかったら多分俺にはもう勝ち目がない。お前たちが言う古代の呪文の一端を見せてやる」
周囲が息を呑むのがわかった。
怖さと期待が混ざった、張りつめた沈黙が広がる。
誰もが俺の言葉に耳を傾け、動けなくなった。
その沈黙を、俺は利用する。
「みんなは俺が炎の技が相手に当たる瞬間に伏せてくれ。エレナもな」
「シビさんは大丈夫なのですが?」
エレナの声が揺れる。
心配が声ににじみ出て、錫杖を握る手がわずかに震えているのがわかる。
でも彼女自身も、もう理解してるはずだ。
通常の攻撃じゃ、奴は倒れない。
俺は呪文の紋章を空に書き、力ある言葉を唱える。
指先が空を切り裂くように動き、青白い光の軌跡が残る。
「水の精霊よ、集え! 渦巻く波濤を龍の姿に変えよ! 天を裂き、地を呑み、すべてを蒼き絶望に沈めろ。蒼龍激流」
空気が一瞬で湿る。
肌にねっとりとした水気がまとわりつき、息を吸うたびに肺に冷たい霧が入り込む。
頭上に、ありえない量の水が集まっていく。
水が水を呼び、渦を巻き、音を立てて形になる。
轟音のような水音が闘技場を震わせ、天井の石が削れる。
次の瞬間、それは竜になった。
透明なのに重い。青いのに黒い。
水の牙が、天井を削る勢いで唸り、鱗のように光が反射する。
水の竜が龍角に襲い掛かる。
巨体を押し流し、叩きつけ、飲み込む。
水圧が爆発的に奴を包み、鱗が剥がれ落ちる音が響く。
だが、膨大な傷を負っても奴は瞬時に再生しながらこちらに攻撃をしてきた。
再生というより、壊れた瞬間に作り直してる。
そんな異常な速度で、肉が蠢き、傷口が埋まっていく。
呪文を放った硬直のスキに、奴の爪が俺を切り裂いた。
レザーアーマーも魔法で編まれた服も耐えきれず、胸元が大きく裂ける。
布が裂ける鋭い音が耳を刺し、同時に皮膚が裂ける鈍い感触が胸を走る。
俺は奴の爪で切り裂かれた衝撃を利用し、あえて後ろへと大きく跳んだ。
体が宙に浮き、裂けた胸元から熱い血が飛び散る。
豊かな胸が激しく揺れ、無防備な肌に冷たい風が刺さるように当たる。
痛みが胸を焼くけど、俺はそれを無視して体を捻る。
空中で目をつぶり、痛みを意識の端へ追いやる。
視界が暗くなり、耳元で風が鋭く切り裂く音が響く。
髪が乱暴になびき、裂けた服の端がばたばたと鳴る。
体が回転し、重力に引っ張られる感覚が一瞬だけ自由を与えてくれる。
着地の瞬間、手の中の冷たさが意識を引き戻した。
ジグから受け取った、冷たすぎる切り札。ドライアイスの塊だ。
手のひらに刺さるような冷気が指先を麻痺させる。
皮膚が一瞬で引きつり、指の感覚がぼやけるけど、それが逆に俺を現実に戻す。
裂けた胸の熱い痛みと、手の冷たい痛みが対照的にぶつかり、頭がクリアになる。
「……計算通りだ。水龍の『水』は、単なる攻撃じゃない」
水が残ってる。奴の体表にも、傷の隙間にも。
鱗の間から滴り落ち、黒く濡れた巨体をさらに光らせる。
それが今は弱点になる。俺は着地と同時に身を翻し、濡れそぼった巨体へ正確に投げ込む。
裂けた胸が揺れ、息が詰まるけど、腕に力を込める。
冷たい塊を放つ瞬間、指先から冷気が離れていく感覚が鮮明だ。
「……昇華のエネルギーをなめるなよ」
当たった瞬間、白い煙が爆発みたいに噴き上がった。
視界が一気に白に塗りつぶされる。
霧が濃すぎて、距離感が壊れる。
周囲の音が遠ざかり、俺の息遣いだけが耳に響く。
その中で、巨大な影だけが不気味に揺れた。
ギチ……ギチギチッ!
霧の向こうから、肉が凍りつき、骨が軋むような異音が響く。
水龍によって細胞の隙間まで浸透した水が、ドライアイスのマイナス78.5℃の冷気に熱を奪われ、鋭い氷の結晶へと変貌していく。
超再生をしようが、内側から膨張する氷の圧力に耐えかね、ミクロ単位でズタズタに引き裂かれていってるはずだ。
凍る音が、肉の繊維が裂ける音と混じり、闘技場に不気味なハーモニーを奏でる。
霧が晴れ始めたとき、そこにいたのは禍々しい龍角ではなかった。
体中から白い蒸気を噴き出し、皮膚が青白く結晶化した「氷の彫像」だった。
ピタリと止まる。
再生しようと動くたびに、凍りついた組織がパリンと剥がれ落ち、再生の速度が凍結の速度に追い抜かれていってる。
鱗の隙間から白い粉が舞い、巨体が微かに震える様子が、まるで苦痛に耐える生き物のようだ。
息が漏れる。
勝てる。だが、まだだ。
こいつは、こんなもので終わらない。
「やはりこれでは決め手にならないか」
俺は再度力ある言葉を発する。
「業火の精霊よ、我が意に従い、敵を焼き尽くせ! 火炎流!」
普段なら左手にたまった炎の奔流を相手に向ける。
けど、俺は左手を自分に向けた。
「シビさん、それは不完全だと言ってたではありませんか」
聞こえてる。わかってる。
でも、今はそれしかない。
焼ける音が響いた。皮膚が焦げる匂いが鼻を突く。
腹に走る激痛で息が止まる。
魔力が暴れ、全身を内側から焼き尽くそうとする。
銀髪が熱風で舞い上がり、視界が赤に染まった。
裂けた胸の傷が熱で疼き、血が沸騰するような感覚が広がる。
それでも、拳を離さない。
エレナの炎の抵抗呪文が俺を護ってくれていた。
薄い膜が熱を少しだけ逸らし、皮膚が炭化せずに耐えられる。
「……まだだ、ここで終われるか、ぐあっ……くそ、この熱……!」
痛みで意識が飛びそうになる。
歯を食いしばって、声を絞り出す。
倒れたら終わりだ。倒れた瞬間、奴の爪が俺をバラす。
それでも、握りしめた拳を離さなかった。
「耐えろ……この炎を、纏うんだ……!」
炎が体に食い込み、衝撃が腹の奥で爆ぜる。
周囲の霧が一気に蒸発して、空気が歪む。
熱で世界が揺れる。
俺の息が、乾いた音になった。
そのとき、胸元で何かが鳴った。
俺が付けていたネックレスが、ぱきん……と小さな音を立てて割れだした。
俺のっていうより、シビが生前大切に付けていたものを、俺が感傷的にそのままつけていたものだった。
銀の鎖に嵌められた小さな石が、ひび割れを走らせ、ゆっくりと砕けていく。
割れた瞬間、炎が苦しくなくなっていた。
熱が消えたわけじゃない。
でも、俺の中で何かが噛み合ったみたいに、痛みの質が変わった。
息が通る。肺が広がり、酸素が一気に流れ込む。
目が開く。視界がクリアになり、赤く染まっていた世界が少しだけ鮮やかになる。
俺の前に、俺の姿が立っている。
いや、今の俺の体……銀髪の女性の姿が、そこにいる。
でも、瞳の奥に宿るのは、俺じゃない。
懐かしい、ツンとした視線。
幻覚を見ている感じがする。
自分の体が、俺の目の前に立って、俺を見下ろしてる……そんな不思議な感覚。
銀髪が優しく揺れ、懐かしい瞳が俺をまっすぐ見つめている。
「今まで見てたよ、おっさん」
声に、妙な懐かしさがあった。
少し低めで、ツンとした響き。
これはシビの残留思念か何かか?
胸が締めつけられるように痛む。
「これだからおっさんは頭でっかちだね。起きてることをそのまま認めればいいのに」
何がおきてる?
頭が混乱する。
でも、声は優しく、どこかからかうように続く。
「パニックになるなぁ。バカなの。時間無いから伝えといてあげる。私は死んだ。私のパーティもね。でもあんたはなぜか私に乗り移って、二度目の生を受けた」
喉が詰まった。
言葉が出る前に、謝罪が浮かぶ。
胸の奥が熱く疼く。
「すまない」
「謝ってほしいんじゃないの。人の話は最後まで聞け。あんたの思いをずっと見ていたよ。私の体で行けない遊びをしなかったのは感心。もうこの身体はあんたの物だよ。自由に使いなさい」
胸の奥が痛いのに、口が勝手に動いた。
「いけない遊びをしても?」
「セクハラはやめろ。あんたがしたいのならすればいいじゃん。私結構スタイルはいいからね」
めっちゃ顔を赤くして言うセリフじゃないだろうが。
でも、彼女の声は照れを隠すように少し尖っていて、懐かしいツンとした感じが胸を突く。
「もう話がそれた。私の魂はこれで完全に消えるけど、この制御は私がしてあげる。その代わりあの魔物を退治しなさい」
「ありがとう」
「最後に必ずあんたの幸せを見つけてこの人生を謳歌しなさい。娘みたいな年齢の人生を奪っちゃったんだから……満足して生きなさい。いいわね?」
胸の奥に、別の熱が灯る。
言葉に、重さがある。逃げられない重さ。
それは痛みじゃなく、温かくて、強い決意のようなものだった。
「あぁ、ありがとう。約束する」
「なら私がこの不死鳥の翼になってあげるよ」
その誓いが唇を割って出た瞬間、シビの姿が光の粒子へとほどけた。
だが、それは消失じゃない。
彼女の意志という名の奔流が、俺の血管の隅々にまで流れ込み、眠っていた魔力を根こそぎ叩き起こしたんだ。
背中から、爆発的な炎が噴き出す。
それはただの火焔じゃない。
一本一本の羽毛が意思を持つかのように、巨大な、そして神々しい黄金の翼を形作っていく。
内側から溢れ出すエネルギーは、俺の輪郭を焼き切らんばかりに膨れ上がり、周囲の空気を歪ませ、轟々と咆哮を上げた。
熱い。だが、苦しくはない。
俺の意思、シビの願い、そして不死鳥の魔力が一つに溶け合い、俺の身体は巨大な熱源体へと変貌を遂げる。
裂けた胸元の傷が、黄金の光に包まれ、肉がゆっくりと盛り上がっていく。
血が止まり、皮膚が新しく生え変わり、焦げた部分が滑らかな肌に戻る。
シビの体が……俺の体が、完全に再生していく。
痛みが引いていく感覚が、逆に懐かしくて、胸が熱くなった。
これはシビの最後の贈り物……彼女の体を、俺が失わないように守ってくれているんだ。
肩甲骨から生えた炎の翼がバサリと羽ばたき、周囲の白霧を蒸発させる。
「今から奴に突進する。当たる瞬間、伏せろ。いいな!」
仲間の防御フィールドが展開されるのを背中に感じながら、俺は息を吸い、肺の奥まで熱と覚悟を押し込んだ。
再生した体が、軽く、強く、まるで新しく生まれ変わったみたいだ。
「燃えろ、炎よ……剣に宿れ。炎剣!」
ミスリルソードが赤く燃え上がり、剣そのものが巨大な熱量の塊へと変貌する。
俺は剣を正眼に構え、深く踏み込んだ。
「――牙衝!」
床を蹴った瞬間、爆炎が走った。
剣の炎と、俺を包む不死鳥の炎が一つに重なり、俺自身の輪郭を飲み込んでいく。
俺は今、一羽の火の鳥と化して、凍りついた世界を切り裂く矢となった。
視界が赤に染まり、一瞬で距離を詰める。
回避も防御も許さない神速の一撃が、氷像と化した龍角の胸を真っ向から貫いた。
パキィィィン!
高く、鋭い音。
俺の突進で空いた風穴から、暴走する炎のエネルギーが龍角の体内へ逆流する。
龍角の口から漏れたのは、言葉ですらない空気の抜ける音だった。
体内で急激に膨張した水蒸気と二酸化炭素が、臨界点を超えて爆発する。
ドォォォォォン!!
後から追いかけてきた衝撃波が、ガラス化した地面をさらに叩き割り、円形状に爆炎を撒き散らした。
幾重に張られた仲間の防御フィールドが激しく軋み、伏せている彼らの背中を、熱風と砂塵が容赦なく通り過ぎていく。
舞い上がる火の粉は、まるで砕け散ったシビの魂の欠片のように、夜の空へ溶けては消えていった。
俺が突き抜けた背後で、かつて俺に「敗北」という絶望を与えた龍角の姿は、影さえ残さず霧散していた。
そこにはもはや、肉片一つ、骨の一片さえ残っていない。
ただ、激痛を伴うほどの超高温に熱せられた地面が、溶けたガラスのように赤くどろりと広がり、不気味な光を放っているだけだった。
俺はゆっくりと目をつぶり、背後で消えゆく不死鳥の残熱を逃がすように、ボロボロになったマントを大きく翻した。
「……終わったぞ、アヤ」
俺は呟きながら、足の裏に伝わる大地の震えを感じて着地する。
再生した胸に手を当てると、傷跡は薄く残っているけど、もう痛みはない。
体が完全に癒え、シビの体が俺の体として、生き返ったみたいだ。
背後ではまだ、衝撃波に引き裂かれた大気が悲鳴のような低いうなりを上げ、熱を帯びた渦を作って狂い咲いている。
だが、その喧騒さえもやがては遠ざかり、砂と化した奴の無残な残骸が、虚無の風に舞う微かな音だけが、耳を撫でていった。
「転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~」をお楽しみいただけましたか?
もし「続きが気になる」「応援したい」と感じていただけましたら、ぜひブックマーク登録と、ページ下部にある【評価する】ボタンから評価ポイントをいただけると、とても励みになります!
皆さんの応援が、次の話の執筆を進める力になりますので、どうぞよろしくお願いします!




