表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【5部開始】転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~  作者:
5章 グランベルグ解放

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/156

61話 再生。最後のプライド

 切った。 刃が深く入り、肉を裂く重い手応えがあった。

 骨の抵抗も、筋の弾力も、ちゃんと伝わってきた。

 これで終わりだ。

 そう思った。だけどここでは、油断はできない。

 心臓まで(えぐ)ったとしても、最後の気力で反撃してくるかもしれない。

 こいつはただの魔物じゃない。


 青白い閃光が残像を引いて消えるより早く、俺は反撃を恐れて後ろへ跳んだ。

 いや、跳んだって距離じゃない。


 でも、油断はできない。

 心臓まで抉ったとしても、最後の気力で反撃してくるかもしれない。

 俺は反撃を恐れて、後ろへ跳んだ。 それでも――

 目を逸らさない。 龍角の姿を、絶対に離さない。


「シビさんの勝ちですわ!」


 エレナの声が弾んだ。嬉しそうで、こっちまで胸が熱くなる。

 ……って、待て待て。

 こういう「勝ったぜ!」の瞬間って、絶対にヤバいフラグだろ。

 異世界だからフラグなんてねえのかも……って、一瞬思ったけど、

 嫌な予感はマジで当たるんだよな、これ。


 龍角は、片膝をついていた。

 俺が左肩から一刀両断した傷口は深く裂け、肉がめくれ上がり、骨の白さが覗いている。

 切断された左腕と上半身の一部が地面に転がり、血が砂に染み込んで黒く広がる。

 裂けた肉からはまだ熱気が立ち上り、湯気のように白く揺らめいていた。


 入口の方が、ざわついた。 炎の民の連中だけじゃない。

 城で戦っていたジグたち幹部連中まで、雪崩れ込むように闘技場の中へ入ってきた。


 龍角が、ゆっくりと周囲を見回した。

 その目が、怒りより先に諦めと、狂気、そしてどこか満足げな光を映している。


「まさか、人ごときが、ここまでするとはな。だが……」

 

 立ち上がらない。

 代わりに、残った右手で自分の首を軽く叩いた。

 その瞬間だった。 傷口の奥、皮膚の下から浮かび上がるように、紋章が現れた。

 見覚えのある、あの忌まわしい形。

 胸の奥を、冷たい針で刺されるような感覚が走った。


「この力を、使用するとは思わなかったぞ」


 思わず声が荒れた。


「なぜ、お前がその紋章を持ってるんだ!」


 自分でも驚くほどの大声だった。

 恐怖が喉を押し上げ、言葉を無理やり吐き出した。


「ほぉ。この紋章を知っているのか?」


 龍角の口元が、ゆっくりと歪む。


「持ち主のパワーアップ……」


 俺が絞り出した言葉に、龍角は喉の奥で低く笑った。


「間違いではない。だが、魔物のランクによって使い方が変わる。一段階目はただの強化。二段階目は、解放後、死んでも一度復活する――だが、その後、必ず死ぬ。俺が使えば?」


 嫌な間が落ちた。考えるより先に、体が動いていた。

 今、ここで止めを刺す。そうしないと――龍角が、短く吐き捨てる。


「遅い」


 その一言で、空気が変わった。

 裂けた体が、きしむような音を立てて再生を始める。

 肉が無理やり寄り集まり、骨がカチカチと鳴って繋がる。

 切断面が、まるで時間が巻き戻ったように塞がっていく。

 それだけじゃない。

 体が膨張する。二回り、いや三回り。

 筋肉が異様に盛り上がり、皮膚が鋼のように張りつめ、影が濃く太くなる。


「……っ」


 周囲で、人が次々と倒れた。

 突然膝を折る者。

 顔から砂に突っ込む者。

 片膝をついて、呼吸だけで精一杯の者。


「な……何をした?」


 龍角は、楽しげにさえ見えた。


「解放すると、生命力が弱いものから倒れていずれ死ぬ。この街には、自然もほとんどないからな」


 ぞっとした。

 闘技場だけじゃない。街全体が、巻き込まれてる。

 俺は振り返って叫ぶ。


 俺は振り返って叫んだ。


「ヒルダ! 全員をこの街から逃がせ!」


「シビ! お前はどうするんだ!」


 ヒルダの声が飛ぶ。

 あいつの目は、撤退と戦闘の両方を同時に見据えていた。迷いがない。

 それが、逆に心強い。


「俺はこいつに用がある。紋章のことを聞かないといけない。それに、俺が逃げたら――」


 その先を、龍角が継いだ。

 喉の底から這い上がるような、低く濁った声で。


「あぁ。貴様が逃げたら、この地域、いや南の街まで悪鬼羅刹と化して焼き尽くしてやる。俺はもう元に戻れん。生きている限り、すべての生命を喰らい尽くす魔物となったのだ」


 胃が、ぎゅっと縮む。

 こいつは脅してるんじゃない。

 ただ、事実を宣言している。


「なぜ、そこまで……」


 自分の声が、妙に冷たく聞こえた。

 恐怖を通り越して、冷静に奴を見つめていた。


「人ごときに負けは許されない。俺のプライドだ。このあと同族に殺されるかもしれん。だが、その前に貴様ら全員を殺す。それが、この町を収めていた俺の最後の意地だ」


 龍角が咆哮した。

 耳が痛むほどの、獣の咆哮。

 空気が震え、砂が舞い上がる。

 次の瞬間、体が光を帯びた。

 内側から燃えるように、白く眩しい光が溢れ出す。

 来る!

 俺は即座にエレナへ向いた。


「エレナ! 聖なる障壁セイクリッド・バリアを!」


 エレナは迷いなく頷き、両手を組んだ。

 神に祈る仕草。指先が微塵も震えていないのが、逆に頼もしい。

 光が降りる。

 薄い膜じゃない。

 何層にも重なった、光のカーテン。

 空間ごと包み込むように、柔らかく、でも絶対的に強い輝きが俺たちを囲んだ。


 次の瞬間。

 龍角を中心に、小規模な爆発が起きた。

 衝撃が壁のように押し寄せる。

 闘技場の砂が一斉に跳ね上がり、空気が裂ける音が響く。

 体が持っていかれそうになり、足が砂に沈む。

 視界が一瞬白く揺らぎ、耳がキーンと鳴った。


 光のカーテンが、悲鳴のように激しく揺れた。

 何層にも重なった輝きが、波打つ布のように歪み、ひび割れそうな音を立てる。

 それでも破れない。

 エレナの信仰が、ギリギリのところで踏みとどまらせた。


 彼女の両手が微かに震え、額に汗が浮かんでいるのが見えた。

 外では、炎の民の大半が吹き飛ばされていた。

 壁に叩きつけられ、潰れるように崩れ落ちる。

 動かない体が何人も転がり、砂の上に赤い染みが広がっていく。

 救助の声が飛び交うのに、返事が返らない叫びが混じる。


 「誰か!」「動け!」「……返事しろ!」


 混乱と絶望が、闘技場全体を飲み込んでいた。

 立っていられたのは、ほんの一握りだった。

 俺とエレナ。

 ヒルダ、イヴァン、ジグ、ロジャーズ。

 あと、数名。


 みんな息を荒げ、砂まみれで膝をつきながら、それでも武器を握りしめている。

 ヒルダは、すぐに動いた。

 倒れた仲間を引きずり、肩を貸し、声を張り上げる。


「動ける奴は担げ! 担げないなら引っ張れ! 退け! ここから退け!」


 撤退命令が、闘技場の中を駆け抜けた。

 ヒルダの声は、混乱の中で唯一の軸のように響き、残った仲間たちが慌てて動き出す。

 誰かが肩を貸し、誰かが腕を引っ張り、砂に沈む足を必死に引きずる。

 倒れた者の呻き声と、砂を掻く音が混じり合う。


 俺は、龍角から目を離せない。

 喉の奥が乾ききって、息が上手く入ってこない。

 肺が熱く、息を吸うたびに砂埃の味がする。

 心臓が耳元で暴れ、視界の端が少しぼやけている。


 聞かなきゃいけない。

 あの紋章のこと。

 こいつが、どうしてそれを持っているのか。

 ゴブリン、デュラハン、ミノタウロス……そして今、龍角まで。

 全部、繋がってる気がする。

 でも、同時に分かっている。

 今の龍角は、もうさっきの敵じゃない。


 体は膨張し、魔力が溢れ出し、ただ立ってるだけで空気が重くなる。

 目には狂気が宿り、口元には満足げな笑みが浮かんでいる。

 こいつは、街ごと殺しに来る。

 プライドのため、復讐のため、ただの破壊のため――理由なんてどうでもいい。


 生きてる限り、すべてを焼き尽くす気だ。

 俺は剣を握り直した。

 指先が震える。

 この体で、どこまでやれるか……。


 でも、逃げたら終わりだ。

 奴は自分の呪いをかけた。

 でも俺も、もしかしたら同じかもしれない。

 この体を借りて、シビの仇を討ち、ルーク、ミリア、カイの分まで生き抜く。

 俺はここで、終わらせない。

 剣の柄が、掌に食い込む。

 震えが、ゆっくりと決意に変わっていく。


 ふと、左手に温かみが宿った。

 視線を移すと、エレナが優しく手を重ねてくれていた。

 俺は驚いて顔を上げると、彼女は一度静かに頷いた。

 まるで「わたくしがいますから、安心してください」と言っているかのように。

 その瞳は、祈りの光を宿したまま、穏やかで、でも絶対に揺るがない。

 ありがとう、エレナ。

 俺は小さく息を吐き、剣を握り直した。

 震えは、もうない。


 龍角の光が、さらに強くなる。

 内側から膨張し、闘技場全体を白く染めていく。

 空気が震え、砂が舞い上がり、視界が徐々に白に飲み込まれていく。

 奴との、最後の戦いが始まる。

「転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~」をお楽しみいただけましたか?


もし「続きが気になる」「応援したい」と感じていただけましたら、ぜひブックマーク登録と、ページ下部にある【評価する】ボタンから評価ポイントをいただけると、とても励みになります!


皆さんの応援が、次の話の執筆を進める力になりますので、どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
綾の長編シリーズ!
他の長編もチェックしてね
新連載
紫微綾の事件簿 case2 白き子羊の檻(予定)
(百合×探偵×バイオレンス)

1. Liebe(一部完)
学園物百合小説
2. 白雪様と二人暮らし
女子高生と仏様とのほのぼの百合小説
3. 【完】紫微綾の事件簿
(百合×探偵×バイオレンス)

※R15・基本性的描写・残酷描写あり。苦手な方はご注意!

もっと知りたい人はTwitterで更新待ってるよ~
@VTuberAya_Nanjo
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ