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【5部開始】転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~  作者:
5章 グランベルグ解放

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59話 龍角への道

 俺とエレナ、イヴァン、ロジャーズの四人で城に潜った。

 足音は殺してるのに、剣を振るたび、骨に響く音だけが残る。


 ゴブリンとコボルトの兵隊を斬り伏せる。

 血が床に広がって、焦げた臭いが喉の奥にまとわりつく。

 グランドホールは、もう戦場の匂いしかしなかった。


 階段の踊り場に、人影がいた。

 二十代半ばくらいの青年。

 細い首に、黒と銀の首輪が目立っていた。


「久しいな、イヴァン。あの方の元に戻ってきたのか?」


イヴァンが、青年をまっすぐ見た。


「……変わったな、ヒューリカ」


「違う。変わったんじゃない。真理を知っただけだ」


青年は喉の奥で笑う。


「人は家畜で、ペットだ」


「お前も人だろうが」


「人と同じ……ククク……」


首輪の青年が、口角を吊り上げた。


「俺は魔人だ。魔人ヒューリカ。あの方に名付けていただいた」


楽しげに目が揺れる。


「楽しいぞ。好きなように生きるのはな」


「知り合いなのか?」


 俺はイヴァンの横顔を見て、低く聞いた。


「ハハハハ……伝えてなかったのか? なら俺が教えてやろう」


「やめろ」


 止める声を無視して、ヒューリカは続けた。


「こいつ、イヴァンは元々この城の生まれでさ。あの方に一番可愛がられてた」


 笑いが、冷たく響く。


「なのに、あの夜いきなり消えたと思ったら……反乱軍側だ。笑えるだろ?」


 ヒューリカは指で俺たちをなぞるみたいに見回した。


「貴様らの仲間だと思ったやつは、人を家畜扱いして、抱きたくなったら抱いて、飽きたら喰ってきた男なんだよ」


そして、最後にイヴァンへと笑いかける。


「そんな奴がお仲間? 喜劇の主人公すぎるだろ、イヴァン」


 エレナは少し驚いた顔のまま、何かを考えているみたいだった。

 ロジャーズは黒装束で表情が見えない。けど、肩が小さく震えてる。知らなかったんだろうな。


 イヴァンも俺たちを見た。

 何か言いたそうに唇を動かしたのに、言葉が出てこないみたいだった。


「はぁぁぁぁ……なに?」


俺は息を吐いて、ヒューリカを見た。


「過去がそうだったから仲間じゃないって? お笑い草だな。人はやり直せるんだよ。知らなかったのか?」


 言った瞬間、ヒューリカの顔から笑みが消えた。

 楽しくもなさそうに俺を睨む。

 つられて、エレナもロジャーズも、イヴァンまで俺を見た。驚いた目で。


「過去は変えられないさ」


 ヒューリカが吐き捨てる。


「そうだな。変えられない」


俺は肩をすくめた。


「でもさ。倫理に背くことをしてたとしても、今それが間違いだって知って、前に立ってるなら」


 俺はイヴァンを一瞬だけ見て、それからヒューリカへ戻す。


「それって、すごいことじゃねぇの? 俺はこいつの被害者でも親族でもないけどさ」


 一拍おいて、俺は大げさに手を叩いた。


 「はいはい。つまり」

 口元だけで笑ってやる。


「イヴァンが消えて寂しかったんだな。だから焚きつけてる」


 俺は少ししゃがんで、わざとらしく見上げた。

 青ざめたみたいな嘲笑を浮かべて。


「それとも、仲間が増えて嫉妬してんのか? ほら、イヴァンは、今のほうが生き生きしてる」


 ヒューリカの顔が歪む。


「……殺してやる。殺してやる……」


声が震えた。怒りと、何か別の感情が混じったみたいに。


「いや、殺すだけじゃ足りない。お前らが嫌う連中に踏みにじられて、最後には泣いて許しを乞う。そういう顔を見せてやる」


「やれるならやってみろよ、坊主」


 俺が吐き捨てた瞬間、横から声が割って入った。


「あい、シビ。こいつの相手は俺がやる」


イヴァンが前に出る。


「てめえは先に行け。借りがあるんだろ」


「逃がすと思うのか、糞女!」


 ヒューリカが俺に向かって剣を振り上げ、突進してきた。

 けど刃は、イヴァンの剣に弾かれた。


「あぁ……お前の言う通りかもしれない。滑稽だよな」


イヴァンの声は低い。それでも揺れなかった。


「でも俺は、もう人と一緒に生きるって決めたんだ」


「なら、お前を一番惨めな家畜にしてやる!」


「先に行け!」


 俺は一瞬だけイヴァンを見た。多分これはイヴァンがやらないといけない闘いなんだろう。

 過去を断ち切るために。

 


 それからエレナとロジャーズを連れて、俺たちは先へ走った。

 グランドホールを駆け上がって、廊下を走り切る。

 数十体のモンスターが立ちふさがったけど、今の俺たちなら足止めにもならない。

 剣と魔法で一気に押し潰して、先へ進んだ。


 次の角へ踏み込んだ瞬間、嫌な殺気が肌を刺した。


「っ」


 俺は反射でエレナの肩を掴み、後ろへ跳ぶ。

 暗闇から現れたのは、黒装束の女だった。

 光を反射しない、マットな黒。胸元だけ白い肌がわずかに覗く。

 けど、そこに色香なんてものはない。

 あるのは、獲物を仕留めるための冷え切った殺意だけだ。


 低く構えたショートソードが、最短距離で俺の喉を狙う。

 一瞬でも判断を間違えたら終わり。そう感じるほどの圧。


 だが、女は深追いしない。

 警戒を切らさないまま、ふわりと後退する。

 その動きは、まるで影が滑ったみたいだった。


「ここは任せろ。暗殺者には暗殺者だ」


 ロジャーズが静かに前へ出る。


「エレナをかばいながら戦うのは無理だろ?」


「任せた。行くぞ、エレナ」


「はい……」


 俺たちが脇を抜けようとした瞬間、女は切り込む角度を探すみたいに身構えた。

 だがロジャーズの視線が刺さった途端、女はわずかに身を引く。

 その隙に、俺たちは一気に走り抜けた。


 目の前に、でかい扉があった。

 城の奥の奥。逃げ道なんて最初から用意してないみたいな重さ。

 鉄の帯が何本も走ってて、取っ手も鎖も、触っただけで冷たさが骨に染みる。


 俺は息を一つ飲んで、手をかけた。

 押してみたが、びくりともしなかった。


「……っ」


 腰を入れて、もう一度押してみると。

 重い音が腹に響いて、金属が擦れる嫌な鳴き声がした。

 扉が、ゆっくり開く。

 隙間から流れてきた空気は冷えてて、血と焦げの臭いとは別の、湿った獣みたいな匂いが混じってた。

 中にいたのは、あの龍角だった。


「やはりお前か。女連れとは、余裕だな」


「あの時の借りを返しに来たぜ」


「俺たちの仲間にならぬか? 人のしがらみが無くなり、自由で楽しい世界が待っているぞ」


 龍角は大きな薙刀を掴んだ。

 一歩。床が、重く鳴った。


「人のしがらみは無くなるかもしれない。けど、お前らとのしがらみが増えるだけだ」


 俺も一歩、踏み込む。


「それに、今度は一人じゃない」


 俺はエレナの方を見た。


「今度は、俺の最も信頼する相棒と戦う」


 それを聞いたエレナは俺を見て、ひとつ頷いた。

 笑って返してくれる。その笑顔だけで、十分だった。


「次は逃がさぬ。二度も俺の誘いを蹴ったことを、後悔させてやる」


「人の強さを見せてやるよ」


「人如きが……調子に乗るな。違いを見せてやる」


 言葉が終わった瞬間、音が消えた。

 呼吸の音すら邪魔に感じる。

 空気が張り詰めて、背中に冷たいものが落ちた。

 足元の石の冷たさが、靴越しにじわりと上がってくる。

 

 指先が熱くなる。剣の柄が、汗で少しだけ滑った。

 俺は剣を握り直す。

 エレナも、静かに構えた。並んだだけで、背中が軽くなる。


 俺たちと奴の、最後の戦いが始まった。


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