184話E 彼女が起きたら
「アヤさんは、本当に大丈夫なのでしょうか……?」
今は、わたくしの胸に倒れてきたアヤさんをゆっくりと膝の上にのせて、その寝顔の様子を見ております。
だけど、この方が起きた時、一体どうなってしまうのかしら。
それだけが、今のわたくしにとって一番の、張り裂けそうなほどの不安ですわね。
アウリス様に、どうか彼女をお守りくださいと心の中で懸命に祈り続けて、もう1時間ぐらいが経過した頃でしょうか?
膝の上の銀の髪が微かに動いたので、ハッとして様子を見てみると、アヤさんが、目を覚ましたみたいですわね。
「あ……シビさん!」
「シビさんって……? ええっと、ここは一体どこなのですか?」
アヤさんは虚ろな声を漏らし、不思議そうに周囲の広い空間を見回していた。
「……ご自分の、お名前を言えますの?」
わたくしは胸の動悸を必死に抑えながら、そっと問いかけた。
「はい、アヤと言いますけど……。あの、ここはどこなんですか?」
わたくしがその答えに少し戸惑っていると、彼女は、わたくしの右隣に置いてある『黄金律の鈴音』をじっくりと見つめ、何かを激しく考えているようだった。
一体、どうしたのでしょうか?
「それは、黄金律の鈴音ですよね。……って事は、まさか」
わたくしから大きく距離を置いて離れていった。
そしてあろうことか、冷たい床の上に行き成り平伏し、深々と土下座をしてきたので、とまどってしまった。
「まさかアウリス様の愛娘、鈴の聖女のエレナ様になんて無礼を……っ! 本当にごめんなさい!!」
「ええっと……?」
この人は、一体誰なのでしょうか。
姿かたちは間違いなく、わたくしの知っているアヤさんなのに……。
わたくしは、これから一体どうすればいいのだろう。
「何やら介抱してくださっていたようですけど、私が置かれている状況はわからないんですが、ひざまくらで介抱なんて本当にごめんなさい」
床に額を擦り付けたまま、アヤさんはひどく恐縮した声で謝罪を重ねてくる。
その丁寧すぎる言葉遣いの一つ一つが、わたくしの胸に冷たい楔となって突き刺さってきた。
「……わたくしの事をご存じですの?」
震える声をなんとか堪えながら、膝を折って彼女の様子を覗き込んでみた。
「王国の国民にとって、貴女を知らない人はいません」
アヤさんは顔を上げ、畏れ多いものを見るような目でまっすぐにわたくしを見つめてくる。
「……アヤさんは、王国の人なのですの?」
「村ですけどね。今は、ゴブリンの襲撃で無くなりましたけど、王国民ですよ」
「それは……」
言葉が続かなかった。ゴブリンの襲撃で故郷が滅びたというのは、聞いたことが無いようでしたがそうだったのですね。
「ここは王国には見えませんけど」
アヤさんは、きょろきょろと周囲を見回しながら、不思議そうに呟いた。
「ここは、アヴァリス大公国の山脈ですよ」
「え? 何でこんな場所に……」
完全に混乱している彼女の姿を見て、わたくしはどう説明すればいいのでしょうか?
どこから手を付ければいいのか全く分からず、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
流石にどのように説明したらいいのかな?
「良く倒せたわね、あなた達。まぁ、無事とは言えないけれど……今から空間を開くわ。まずは、こちらに来なさい。話そうと思っても、そこだと安心できないでしょ」
広間の虚空から、ずっと戦いを見ていると言っていたレティさんの妖艶な声が降るように聞こえてきた。
固まっていた空間の理がぐにゃりと歪み、その向こうに、見覚えのあるレティさんの部屋が奥に見える空間の門がゆっくりと広がっていく。
アヤさんは、状況がわからないようで、きょろきょろしていますが、確かにわたくしも、この状況をはっきりと把握できていないのが現状だった。
だからこそ、レティさんのこの提案は本当に助かりますわね。
とりあえず、アヤさんが言っていた言葉通り、彼女の呪文の効果が解けて床に横たわっているヴァルさんの遺体へと静かに歩み寄る。
黄金の錫杖を掲げ、優しく光る防腐の呪文を丁寧にかけて回収の手筈を整えた。
わたくしは、自分の置かれている事情が何一つ分からないまま不安そうに佇んでいる彼女の手をそっと引き、レティさんが開いてくれた空間の門に向けて、寄り添うように一緒に歩き出した。
「転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~」をお楽しみいただけましたか?
もし「続きが気になる」「応援したい」と感じていただけましたら、ぜひブックマーク登録と、ページ下部にある【評価する】ボタンから評価ポイントをいただけると、とても励みになります!
皆さんの応援が、次の話の執筆を進める力になりますので、どうぞよろしくお願いします!




