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【5部開始】転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~  作者:
第3章 旅路

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10話 モンスターの紋章?

 村の入口に着いた頃、朝陽が木々の隙間から差し込み、霧の谷の余韻をゆっくり溶かしていった。

エレナのローブが朝露を払う音が、俺のブーツの足音と重なって、小さくリズムを刻む。

銀髪が風に少し乱れ、赤い瞳で、煙突から薄く煙を上げる村の輪郭をねめつける。

昨夜のデュラハン戦の疲れが、肩の奥にまだじんと残っているのに、エレナの治癒のおかげで体そのものは軽かった。


 それにしても、この胸の重みはいつ慣れるんだろうな。

歩くたびに革鎧が食い込み、ベルトの締め付けがやけに気になる。

女性ってすげえよな、ずっと軽い筋トレしてるみたいなもんだろ、これ。


 俺たちは、そのまま報告のために酒場へ向かった。


「おはよう、シビ! エレナさんも!」


  酒場の女将が、入口のカウンター越しに身を乗り出して、大きく手を振ってきた。

その隣に村長の爺さんと、数人の村人が立ってる。

影狼の噂で顔を曇らせていた連中が、今日はどこか肩の力の抜けた表情をしていた。

俺たちが近づくと、女将が肘でぐいっと俺の脇腹を突いてくる。

かなり心配かけてたんだな。そう思うと、不謹慎だけど、ちょっとだけうれしかった。


「無事なのか! また一人で無茶したんじゃなかろうか!」

痛えって、この体。生前より打たれ弱くなった分、一発一発の感触がやたら鮮明なんだよ。


「心配かけたな。影の狼は片付けた。ついでに帰りに、デュラハンっていうプレゼントまで付いてきたけどな」


 わざと軽く言ったつもりだったが、その名前を出した瞬間、空気がきしんだ気がした。

俺の言葉に、村人たちが一斉にざわつく。椅子を引く音や、誰かが息を飲む気配がやけに大きく響いた。

女将の目がまん丸になり、村長が髭を何度も撫でながら、長く息を吐く。


「デュラハンだと? あんな化け物が霧の谷に、お前ら、よく生きて戻ったな。名前しか聞いたことないが、普通の冒険者では太刀打ちできないと聞くぞ」


 村長の声は、脅かすでも大げさでもなく、本気で重かった。

確かにエレナがいなければ、俺はあそこで相打ちで終わってたはずだ。

そう思うと、背中の汗が、少しだけ冷たくなった。


 エレナが優しく微笑んで、聖印を胸にそっと押し当てる。

「アウリス様の導きですわ。シビさんがいなければ、私も危うかったですのよ」


 村人たちがどよめき、俺たちはそのまま酒場の中へ連れ込まれた。

テーブルには湯気を立てるスープと焼きたてのパン、それから昨日分の報酬が詰まった革袋がいくつも並んでいる。

袋を持ち上げると、金貨の重みがずしりと手に伝わった。

中身は影狼の討伐報酬に、村のみんなからの感謝金を足したものらしい。

村長が俺たちの前で、重々しく頭を下げた。


「こんな村に、これだけの報酬出したら村がつぶれるんじゃないのか?」


「言ってくれるねぇ、シビ。ここは森も山もあるだろ?首都とのやり取りも多いんだよ。見た目のわりには、この村はけっこう裕福なんだ」

女将が肩をすくめて笑う。

俺は追加でもらった袋を持ち上げて、みんなの顔をぐるっと見渡した。


「じゃあ決まりだな。今日は村人全員にごちそうだ!」


 長く泊めてもらって、飯も風呂も世話になって、心配までかけた。

そのお礼にここで使うなら、金貨も悪くない。

懐にしまい込むより、この場で笑ってる顔を増やした方が、よっぽど得だと思った。


「シビ、いいのかい」


「女将さんにも世話になったし、けっこう長居もしたからな。それに金は回してなんぼだろ。子供たちの分も、しっかり頼む」


 俺は、カウンターの奥で準備している料理人たちにも聞こえるように、顔を向けて言った。

鍋を振っていた連中がこっちを見て、にやっと笑う。


「これで村は当分安泰だ。狩人達も、みんな喜んでるよ。それでシビ、これからどうする? ここで永住するかい?」


 任務終了の空気が、酒場に広がる。エレナがスープを一口啜り、俺に視線を向ける。

青い瞳は穏やかで、どこか期待しているようだった。

俺はパンをちぎりながら、昨夜かわした約束を思い出す。これから一緒に旅をする。


「休養もしたいし、宴会にも参加はしたいんだけどな。霧の谷の異変は、ただの偶然じゃねえ気がする。ゴブリン、影狼、デュラハン……全部に共通の何かがある。見てみろ、これ」


 俺は腰のベルトから、小さな革袋を取り出した。中には、デュラハンの鎧の破片が入っている。

本来ああいうアンデッドの装備は、倒したら霧みたいに消えるもんだが、こいつだけはなぜか残っていた。

何かのヒントになるかもしれないと思って、拾っておいたやつだ。


 破片の表面には、ぼんやりとした紋章が刻まれている。

渦を巻く黒い棘みたいな模様で、その中心に、赤い瞳みたいな目玉が浮かんでいる。


 この世界に来てから、強いモンスターと何体か戦った。

影狼の毛皮にも、この紋章に似た模様がうっすら乗っていた。変種ゴブリンの爪にもかすかに刻まれていた。そして、デュラハン。

ゴブリンとデュラハンではモンスターのレべりは違うか、両方とも俺が知る限り以上の強化されていた。


「これ、モンスターの体に共通して付いてた紋章だ。何の印かはわからないが、間違いなく強化はされていた。きっとロクなもんじゃねえと思うんだよ」


村人たちが顔を見合わせ、女将の婆さんが首を振る。


「そんなもん、見たことないねぇ」


村長も腕を組んで、ゆっくり口を開く。


「古い言い伝えに、森の悪霊の印ってのがあったが……」


 森の悪霊、か。ありえそうだよなぁ。

俺はエレナの方に視線を向ける。

僧侶なら、紋章とか儀式の話も、それなりに聞いているかもしれない。


「エレナ、お前はどう思う? アウリス神の教えとか、教会の書物で、こんな紋章の話を聞いたことねえか?」


 エレナは破片を手に取り、青い瞳を細めてじっと見つめる。

三つ編みが肩にすべり落ちて、祈りの鈴が小さく鳴った。

しばらく黙って観察してから、ゆっくり首を横に振る。


「申し訳ありませんわ、シビさん。私、神殿で学んだのは主に癒しと加護の術ですの」


やっぱり専門外か。


「闇の刻印や召喚の知識は、魔導士協会に聞かないと。でも、この模様、確かに不気味ですわ。モンスターを操る『影の枷』みたいなものは、噂で聞いたことはありますけど、確かじゃありませんの」


 影の枷、俺の知識バンクにはないな。

モンスターをもし操るとして、その利益は何だ?

情報が少ないのに考えても仕方ないな。


 俺は破片をポーチに戻し、ため息をつく。

胸の奥で、モヤモヤが渦巻く。

あいつらの死が、ただのゴブリン騒動で終わるなんて、到底納得できねえ。

でも、もしかしたら俺はただ、あいつらの死を大きな事件にして、自分を納得させたいだけなんだろうな。


 ただ偶然にしては、共通点が多すぎる。

どこかの名探偵が、「全部の不可能を消したあとに残ったものが、どんなに変でも真実だ」って言ってたっけな。

ただ、あいつみたいにきれいに割り切れるほど、今の俺には材料が足りねえ。

でも、なんかそれとは違う気がする。

それでも、この紋章が鍵なのは、ほぼ間違いねえ。


「なら、調べるしかねえな。多分、この紋章が鍵だと思う。村じゃ文献もねえし、確か首都が近いって言ってたよな。なら行ってみるか。首都なら、王立図書館かギルドの古文書室に、何かあるはずだ」

俺はエレナの方を目配せした。エレナの目がぱっと輝く。


「ええ、いい考えですわ! 王都エリシオンの本殿なら、私の知り合いもいますの。あの神殿の司祭様が、古い儀式や呪いの記録に詳しいんです」


 アウリス神の本殿は王都にあり、長年の知識を持った司祭がいる。

その司祭、大丈夫なのか。

実は裏で怪しい本とか抱え込んでいました、なんてオチだったらシャレにならんぞ。

まあ、会うときは、手の届く距離で様子を見させてもらうか。


 王都エリシオン、か。

口に出してみると、少しだけ胸の奥がざわついた。

地図の上でしか知らない場所。俺の転生後の行き先が、やっと線でつながった気がする。


 村人たちが「おお」と頷き、女将が腰に手を当てて笑う。

「首都なら、何かわかる可能性はあるねぇ。あんたらが行くなら、きっと答えに近づけるさ」


「行くのは少し寂しいがな。けど、冒険者だから仕方ないのか」

村長が、くしゃくしゃになった目で俺たちを見る。

「行くんだったら、美味しいものを腹いっぱい食べてから行け。それからでもいいじゃろ」


 その言葉に、酒場の中がどっと沸いた。

木のテーブルが鳴り、ジョッキ同士がぶつかり合う音が響く。

子供たちが俺たちのまわりを走り回り、台所からは肉とスープの匂いが立ちのぼる。

エレナがくすっと笑って、両手を胸の前で合わせた。

俺たちは、旅の疲れをゆっくりほぐしながら、胸の奥の重さを少しだけ忘れられるひとときだった。


 次の日、

村の広場で別れの挨拶をすることになった。村人たちがずらりと並び、婆さんがニヤニヤしながらこっちを見ている。

木こりが酒樽を叩き、音が響くたびに村人たちの笑い声が重なって、子供たちが小さな花を手に持って、俺たちに投げてくる。

エレナが静かに祈りを捧げると、彼女の周りに柔らかな光の輪が広がり、村全体を包み込むような温かさが広がる。


 俺は銀髪を後ろでしっかりと縛り、赤い瞳で村人たちを見回した。

意外と、この村の人たちに好かれていたんだなぁと思う。

改めて、この村に来て良かったと心から感じた。


「みんな、ありがとう。あいつらの分まで、頑張るよ。この村は、俺のスタート地点だ。また戻るさ。みんな、またな」


 女将が目を潤ませ、村長が俺の肩を叩いた。

「待ってるぜ、お前も名誉村人だ」

何とも言えない気持ちで、俺はその言葉を受け取った。

ありがたいのか、ありがたくないのか、正直よくわからなかったけど、それでも少し温かい気持ちが胸に広がった。


 エレナと俺は、ちょう馬車に乗り込んだ。

街道を進みながら、車輪の音が乾いた道に響く。

埃っぽい道が、首都エリシオンへと続いているのが見える。

夕陽が背中を押し、風が銀髪を乱しながら通り抜けていく。


 エレナが隣で鈴を鳴らしながら、微笑んでいるのがわかる。

「きっと、真相がわかりますわね」


「エレナがいれば、きっとわかるだろ?」


「なぜですの?」


「アウリス神の加護があるからさ」


 俺はエレナに笑顔を向けて答える。

それだけで、少しだけ心が軽くなる気がした。


 俺は破片を握りしめ、その冷たさを感じながら、胸のモヤを押し込んだ。

王都で何が待っているか、正直わからない。でも、何とかなるだろう。

さて、この世界の首都というものは、どんな場所なんだろう。

少しだけ期待が膨らんで、目の前の風景がどこか新鮮に映った。

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