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【6部完】転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~  作者:
2章 それぞれの旅路

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162話E お城からの歓迎の品

【視点切り替えのお知らせ】第2章以降、アヤとエレナが別行動となります。

 1話A = アヤ視点

 1話E = エレナ視点 それぞれの視点で交互に物語が進んでいきます。

 どちらの視点かもすぐ分かるように、各話タイトルに「A」「E」を付けていますので、ぜひお楽しみください!


 心の中でシビさんにそっと謝りながら、わたくしは丘を登る道を静かに進んでいった。

 一歩進むごとに、空気が重く淀み始めた。

 甘く腐ったような、血と土と死が混じり合った不浄な臭いが(ただよ)い、肌を這い上がり、肺の奥深くまで染み込んでくる。

 冷たい湿り気が首筋を伝い、胸の奥を締め付けるような感覚があった。


 城に近づくにつれ、半壊した城壁がはっきり見えてきた。

 黒く変色した石は苔と蔦に覆われ、ところどころ大きく崩れ落ち、まるで血管のように太い蔦が壁面を這い回っている。

 長い年月、死と闇に浸されてきた城の姿は、ただの廃墟などではなかった。

 ……これは、やはり普通の廃城ではないようですわね。


 城門と城のちょうど中央あたりまで歩いたところで、わたくしは黄金律の鈴音アウリソナを胸の前に構え、足を止めた。

 その瞬間—— 地面が低く、鈍い震動を起こした。

 柔らかい土がいくつもの瘤のように不気味に盛り上がり、腐敗した手、折れた指、欠けた爪が、次々と土を掻き分けて這い出てくる。

 かつて人間だったであろう亡骸たちが、苦痛に満ちたうめき声とともに、次から次へと姿を現した。

 肉は黒く溶け落ち、肋骨が露わになり、虚ろな眼窩が暗い光を宿してわたくしを捉える。

 腐臭が一気に濃くなり、周囲の空気を毒々しく染め上げていった。


 わたくしは静かに、深く息を吐いた。

 慈愛の女神アウリスよ……ここは、死者の巣窟なのですね。

 僧侶として、皆様をその永い苦しみの鎖から解き放ち、成仏させてあげますわ。

 わたくしはゾンビたちに向かって、穏やかで慈悲に満ちた微笑みを浮かべて見せた。


 そうと分かっても、胸の奥に重い警鐘が鳴り響くだけだった。

 この先に進むならば、相応の覚悟が必要なのだと、はっきりと理解した。

 この禍々しい気配はゾンビだけではなく、それを使役したものがいますわね。


 城の奥深い闇から、わたくしをじっと見据える冷たく粘つく視線を感じる。

 ……待っていてくださいませ。

 きっとそこまで辿り着き、皆様をこの苦しみから解放して差し上げますわ。

 その正体お受けいたしましたわ。


 周囲を見渡せば、数えきれないほどのゾンビが、腐敗した喉から低いうめき声を漏らしながら、わたくしに向かってゆっくりと集まってきていた。

 地面を這う湿った音、骨がこすれ合う乾いた音、崩れ落ちる肉の重い音が、暗い空間に不気味に満ち、わたくしの鼓膜を震わせる。


「慈愛の女神アウリスよ、この者たちに健やかなる眠りを与えたまえ。そして御名の元で、安心できる休息を——浄霊(サンクティファイ)


 祈りが完成した瞬間、黄金律の鈴音アウリソナが眩い光を放った。

 純白の光がわたくしを中心に爆発的に広がり、波のように周囲を飲み込んでいく。

 光に触れたゾンビたちは、体を激しく痙攣させ、腐り落ちた肉が一瞬で黒く炭化し、露わになった骨が粉々に砕け散った。

 すべてが輝く光の粒子へと変わり、長年この地下で苦しみ続けた魂が、白い光の点となって次々と天井の闇へと昇っていく。

 その光景は、荘厳でありながらも、どこか哀しく、胸に沁みるものがあった。

 一瞬の静寂が訪れた。

 わたくしの周囲には、もう動く亡骸の姿は一つも残っていなかった。

 ただ、淡い光の残滓だけが、ゆっくりと舞い落ちていた。


 わたくしは、お城の方をきっと睨みつけた。

 死者の健やかな眠りをこのように(もてあそ)ぶなど、決して許しませんわ。

 そこで待っていてくださいまし。

 ……少し過激な考えですわね。

 まるでアヤさんみたいな考え方をしてしまいましたわ。


 城の入り口へと続く石の階段を上り始めると、足を置いた瞬間。

 ガリッ、という乾いた音が響き渡った。

 階段の一角が突然崩れ落ち、古い石が砕け散り、大量の埃と小石が雪崩のように舞い上がった。

 崩れた断面からは黒ずんだ土と根のような蔦が露出していて、まるでこの城が生きていて、わたくしの侵入を拒絶しているかのようだった。

 長い年月、死と闇に(むしば)まれてきた城が、悲鳴を上げて抗議しているようにさえ感じられた。

 それでも構わず先へ進むと、重厚で巨大な木製の扉が、威圧的に立ちはだかっていた。

 扉は二人がかりでも開きそうにないほどの大きさで、表面には複雑で禍々しい彫刻が施され、ところどころ黒く変色し、鉄の補強具は赤い錆に厚く覆われている。

 触れれば指が切れそうなほど荒れた木肌からは、微かな血のような臭いが漂っていた。

 ……こういう時は、ノックをいたしますのよね。

 わたくしは、扉を三度、静かに叩いた。

 その瞬間「ギギギ……」という耳障りな金属音とともに、重い扉がゆっくりと内側へ開いていった。

 錆びついた扉が苦痛に満ちた悲鳴を上げ、冷たく淀んだ空気が一気に流れ出てきて、わたくしの頬を撫でてきた。


 中に入った瞬間、わたくしは息を呑んだ。

 そこは広大で、かつては圧倒的な豪華さを誇っていたであろうエントランスホールだった。

 天井は遥か高く、巨大なシャンデリアがいくつも鎖で吊り下がり、薄暗い赤い光をぼんやりと落としている。

 光は血のように濁り、埃と蜘蛛の巣にまみれて不気味に揺れていた。

 床には深紅の絨毯が敷き詰められ、長い年月で色褪せ、ところどころ黒く変色した染みが不規則に広がっている。

 足を踏み入れるたび、絨毯は湿ったような感触を返し、古い血の臭いが鼻を突いた。


 両側の壁には金箔のほとんど剥げ落ちた豪奢な装飾が残り、埃を厚く被った巨大な肖像画がずらりと並んでいた。

 描かれた人物たちは皆、青白い顔で冷たい視線をこちらに向け、唇の端には薄笑いを浮かべているように見えた。

 まるで今も生きていて、わたくしの侵入を静かに嘲笑っているかのように見えた。

 空気は重く淀み、微かな血の匂いと古い埃、腐敗した花のような甘ったるい臭いが混じり合っている。

 奥へと続く大階段は赤い絨毯を巻きつけ、闇の奥底へと誘うように続いている。

 階段の踊り場には、割れた鏡がいくつも並び、歪んだ反射が無数にわたくしを映し出していた。

 ……なんて美しいのに、なんて穢らわしいのでしょう。

 わたくしは黄金律の鈴音(アウリソナ)を強く握りしめ、静かに一歩を踏み入れた。


 周囲には、半透明の女性たちが複数人いた。

 古びたメイド服を着た彼女たちは、悲しげで虚ろな鳴き声を漏らしながら、床の黒い染みを何度も何度も拭いていた。

 雑巾を握る手は透けており、床に触れているのかどうかすら曖昧で、まるで永遠に終わらない罰を課せられているかのように、同じ動作を繰り返し続けている。


 わたくしが息を潜めて見守る中、2階の奥から規則正しい足音が響いてきた。

 大階段をゆっくりと降りてくる、一人の女性。

 後ろで丁寧にまとめられた、長く美しい銀色の髪。わずかな前髪がその額にかかっていた。

 瞳は冷たく澄み切り、感情の揺らぎを一切見せない。

 黒を基調とした格式高いメイド服に、白いフリルとエプロンが鮮やかに映える。

 細やかに織られた襟元や袖口のレース。胸元には、小さな青いリボンが控えめに輝いていた。

 膝下までのスカート。皺一つない白いエプロン。手には白い手袋。足元は磨き上げられた黒い革靴。


 階段を一歩降りるごとに音は消え、背筋はぴんと伸びていた。

 指先の動き、足の運び、すべてが計算し尽くされたように歩いていた。

 全身から、近寄りがたい冷たさと、静かな威圧感を放ちながら、彼女は唇を開いた。


「ここにお客様なんて、珍しいですわね。招待状を渡した記憶はございませんが?」

 声は鈴のように澄んでいて、優雅でありながら氷のように冷たい響きを帯びていた。

 彼女は階段の途中で立ち止まり、白い手袋の右手をそっと胸に当てる。

 背筋をまっすぐに伸ばしたまま、流れるような動作で上体を深く傾けた。

 さらりと流れた銀髪の隙間から、冷たい瞳がまっすぐにこちらを射抜いている。

 頭を戻す動きすら完璧に美しく、そして――彼女が顔を上げた瞬間、わたくしは背筋にゾッと冷たい寒気を感じていた。


「一応、外で大変な歓迎を受けましたけれど」

「そうですか。主人から本日はお客様がいらっしゃるとお聞きしておりませんので、お帰りくださいませ」

「それは断らせていただきますわ」


 わたくしの額から冷たい汗が数滴、ゆっくりと伝い落ちた。

 ただ向かい合っているだけで、背筋に刺すような寒気が這い上がり、息が浅くなるのを感じた。


「それに! 死者を冒涜するばかりか、このようにずっと泣かせ続けるのは、良くないと思いますわ」

「そうでしょうか? 素敵な音楽だとは思いますし、他人から主人の音楽のセンスを咎められる筋合いはございません。お帰りを」

 メイドは胸に手を当て、ゆっくりと一礼した。

 その動きは優雅だったが、氷のように冷え冷えとしていた。

「お断りいたしますわ」

「そんなにこの場所がお好きなのでしたら、力づくで排除した後、この城にある誰もいない祈りの間に安置してあげますわ」

「ご主人に会わせていただけないのであれば、仕方ありませんわね」

 わたくしは、白金に輝く黄金律の鈴音(アウリソナ)の柄を両手で強く握りしめた。

 フードの隙間から、自分の前髪が視界の端で小さく揺れていた。

 視線を外さず、澄み切った相手の瞳をまっすぐに見据え返した。

 覚悟を決めて杖を構えたわたくしの動きに応じるように、先端の鈴が、チリンと清らかな音を立てた。


 その瞬間、わたくしたちの間に重く張りつめた、逃げ場のない沈黙が降りる。

 肌をピリピリと刺すメイドの静かな殺気が、容赦なく押し寄せてきていた。


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