159話A 新たな出会い?
【視点切り替えのお知らせ】第2章以降、アヤとエレナが別行動となります。
1話A = アヤ視点
1話E = エレナ視点 それぞれの視点で交互に物語が進んでいきます。
どちらの視点かもすぐ分かるように、各話タイトルに「A」「E」を付けていますので、ぜひお楽しみください!
俺はこのドワーフの廃墟で、とりあえず夜を明かすことにした。
エレナがどこへ消えてしまったのか、今の俺には見当もつかない。
このまま夜の闇に紛れて盲目的に捜し回れば、それこそミイラ取りがミイラになってしまう。
胸を焦がすような焦燥感を必死に抑え込み、傷ついた身体を休めることに専念した。
無事に夜が明け、朝の光が遺跡を照らす頃、俺は廃墟を後にして再び険しい山道を歩き始めた。
やがて山道すら途切れ、周囲が鬱蒼とした森へと変わっていく。
かろうじて判別できる程度の、細かけもの道を進んでいた、その時だった。
静寂を引き裂くように、女性の鋭い悲鳴が響き渡った。
「エレナっ……!?」
心臓が跳ね上がり、声のする方向へと無我夢中で駆け出す。
しかし、走りながらふと冷静さを取り戻した。
耳に残るあの悲鳴は、エレナの凛とした声ではない。
だが、それにしてもおかしい。
モンスターの巣窟とも言えるこの危険な領域で、なぜ人間の女性の悲鳴などが聞こえるんだ?
ぬぐえない疑問を胸に抱きながら草むらを掻き分け、現場へとたどり着いた瞬間。
濁った咆哮を上げながら一人の女性を包囲していたのは、三匹のオークだった。
ずんぐりとした醜悪な巨体に、下顎から突き出た不揃いな牙。
下卑た欲望を剥き出しにしたドブネズミのような両の眼、そして血に汚れた粗末な大斧や棍棒を持っていた。
「ブモォッ!」
「グハハハ!」
一匹のオークが、耳を聾するような声を上げて錆びた斧を振り下ろした。
標的にされた彼女の金色の長い髪が、激しく、狂ったように揺れる。
上半身には、衣服など何一つ身につけられていなかった。
木漏れ日の下に完全に晒された白い肌は、べっとりと汗に濡れて妖しく光っていた。
襲い来る死線への恐怖からか、彼女の豊かな胸は痛々しいほど大きく、激しく上下に揺れ動いていた。
完全に全裸の女じゃねえか! またオークの奴ら、人間の女を襲ってやがるのか!?
本当に奴らにはそれしかないのかよ!
その凄絶な生々しさを、茂みの隙間から正面で目撃してしまい、俺は心臓がひっくり返るかと思うほどの衝撃を受けた。
一刻を争う戦場だというのに、網膜に飛び込んできた白く瑞々しい裸体の質感に激しくドギマギして、顔がカッと熱くなるのがわかった。
状況考えやがれ俺!
エッチな目線で見てる場合か!
今すぐ助けに行かないと、あの女性が危ないだろうが
羞恥とドギマギを感じながら、助けに飛び出そうとした、まさにその時だった。
彼女がオークの斧を避けるために鋭く身を翻し、それまでオークの影に隠れていた姿が完全に露わになった。
その腰から下の光景を見て、赤面していたことも忘れて完全にブッ飛んだ。
淡い茶色の毛並みに覆われた、しなやかで美しい鹿の胴体。
そこから伸びる、爆発的な野生の脚力を秘めた、四本の細長い脚。
は? 人間じゃない、半人半鹿の異種族……!?
確かいたなモンスター
えっと……
あまりの衝撃の事実に、俺の赤らんでいた顔は一気に引きつった。
全裸の女性だと思って勝手に一人で照れて、心臓をバクバクさせていた自分がアホらしくなるほどの、圧倒的な野生の姿。
彼女が上半身裸のままで微塵も恥ずかしがっていなかった理由が、その瞬間にすべて理解できた。
彼女は獣特有の鋭いステップで大斧の軌道から飛び退き、間一髪でその一撃をかわした。
凄まじい衝撃音とともに、黒い蹄が湿った土を激しく蹴り上げ、周囲に泥土が派手に舞い上がる。
だが、かわした先にはすでに二匹目のオークが回り込んでいた。
逃げ場を失った彼女は、額の左右から伸びる枝分かれした立派な角を突き出し、捨て身の突撃を敢行する。
激しく動く金髪の奥で、鹿の耳がせわしなく伏せられるのが見えた。
死を覚悟したような、悲壮な気迫が伝わってくる。
鈍い衝撃音が響き、角の先端が二匹目のオークの分厚い胸板を深く貫いた。
「ギチァッ!?」
オークが悲鳴を上げるが、強靭な筋肉に角が喰い込み、容易には引き抜けない。
「あ、……っ、はあぁっ!」
焦燥に駆られた彼女の白い肌は、激しい運動による熱で朱に染まり、必死に角を引き抜こうとする背中の筋肉が、悲痛なほどに張り詰めていた。
その隙を三匹目のオークが見逃すはずもなかった。
「ブモォオオ!」
背後から迫ったオークの太い腕が、彼女の鹿の腰を容赦なく組み伏せる。
「――いやぁあああっ!」
引き裂くような悲鳴が森に響き渡った。
強引に地面へ押し潰された衝撃で、二匹目の胸板に突き刺さっていた角が、肉を抉りながら無理やり引き抜かれた。
しなやかな四本の脚が虚しく空を掻く。
硬質な黒い蹄がパニックを起こしたように激しく泥を蹴るが、圧倒的な質量差を前に、その肉体は容赦なく泥の中に縫い留められていく。
押し伏せられた衝撃で、衣服のない彼女の無防備な白い胸元が地面に擦れ、汗と泥で無惨に汚れていく。
剥き出しの肌に泥がべっとりと絡みつくその様子は、戦場の残酷さと同時に、目を背けたくなるほど生々しい艶めかしさを放っていた。
胸からどす黒い血を流し、角を刺された二匹目のオークが、激昂しながら棍棒を振り上げた。
「グバァッ!」
下卑た笑い声を上げながら、オークたちの醜悪な手が、泥に塗れた彼女の全裸の上半身へと伸びていく。
その絶体絶命の光景を前に、俺の身体は反射的に動いていた。
力ある言葉を唱えた。
「風刃!」
手のひらを力強く突き出し、解き放った魔力を前方の光景へと叩きつける。
その瞬間、大気が激しく震え、俺の手のひらから不可視の狂風が解き放たれた。
発生した無数の風の刃は、狂い咲く鋼のごとき鋭さで空間を乱舞し、標的であるオークの集団だけを無残に切り裂いていく。
「ギブ、ァアアッ!?」
彼女の背後から太い腕で組み伏せていたオークが悲鳴を上げていた。
容赦なく浴びせられた風の刃が、その丸太のような両腕を容赦なく寸断する。
ボタボタと生々しい鮮血の飛沫が周囲の草木を赤く染め上げ、オークは絶叫しながらたまらず彼女から転げ落ちた。
間髪入れず、残る風の刃が、凶暴に立ち塞がる敵の群れへと襲いかかった。
残りのオークも、その凄まじい暴風にまとめて呑み込まれていた。
縦横無尽に切り刻まれる巨体。分厚い脂肪と筋肉が紙切れのように引き裂かれ、抉られた肉から大量の血が噴き出した。
魔法の暴風が収まる頃には、あの下卑た肉食獣どもは自らの血の海に沈み、苦悶の声を上げながら地面にのたうち回っていた。
「……はっ、あ、……っ」
オークの拘束から解き放たれた彼女は、泥の中にへたり込んだまま、まだ何が起きたのか理解できずにいるようだった。
無数の風刃は、彼女の衣服を纏わぬ白い肌や、淡い茶色の毛並みを、一本たりとも傷つけることなく寸分違わずオークだけを屠っていた。
金色の長い髪を風の余韻に揺らしながら、彼女は怯えと驚きの混ざった瞳で、ゆっくりと俺の方を振り返っていた。
その顔や肩には、至近距離で切り裂いたオークの体内から噴き出した、大量の返り血がドバッと激しく浴びせかけられていた。
金色の長い髪がねっとりと赤く染まり、熱を帯びた額や頬を伝って滴り落ちる。
浅く刻まれる「ハァ、ハァ、……っ」という吐息に合わせ、わずかに開いた唇の隙間で赤い液体が小さく泡立っていた。
震える顎の先から首筋へと、粘り気のある細い赤線がすうっと這い、激しく波打つ鎖骨の窪みを満たしていく。それは泥と汗を弾く無防備な白い胸元を濡らし、肉の起伏に沿いながら、どろりと重く流れ落ちていった。
ここに居ても仕方ない。何より、いつまでもあの無防備な裸体を見つめていたら、平常心を保てという方が無理だ。
汗と血に濡れた白い肌の、あの艶めかしい残像が脳裏に焼き付いて離れなくなる。
あの白くて、はち切れそうな胸が……って、違うだろ!
相手は半分鹿だったモンスターだぞ!?
俺は二度三度と激しく頭を振って雑念を追い払い、元来た道に戻ろうと踵を返した。
その時だった。
背中に、吸い付くような柔らかい弾力性が強烈に押し付けられた。
思わず息を呑む間もなく、ぎゅっと背後から抱きつかれる。
「――っ!?」
後ろからでも、その圧倒的な質量がダイレクトに伝わってきた。
押し潰される極上の柔らかさと、俺の腰回りに絡みついてくる、むっちりとした太ももの生々しい肉感。
太もも、だと?
あり得ない感触に、俺は弾かれたように斜め後ろを盗み見た。
そこにあったのは、さっきまでの硬い鹿の脚ではない。すらりと伸びた、汗ばむ人間の女性の脚だった。
四足歩行から二足歩行への、あまりに劇的な変化に、俺は改めて激しく驚愕した。
その瞬間、俺の頭の中に『セルヴィナ』という単語が電撃のように蘇る。
そうだ、彼女の種族はセルヴィナだ。
女性しか存在しない種族のはずだ。
だからこそ、血を絶やさぬために人間の姿へと変身し、人と交わって子孫を残すんだった。
背中から注ぎ込まれるセルヴィナの熱い体温のせいで、必死の理性で抑えてきた欲がうずきだしているのがわかる。
衣服越しに伝わる肉感だけで、背筋を甘い痺れが駆け抜け、身体が反応してくる。
うっかり口を開けば、男の怒声ではなく、情けない蜜のような喘ぎ声が漏れてしまいそうだった。
セルヴィナの柔肌に押し潰され、今まさに爆発しようとしていた理性を総動員し、俺は思いっきり彼女を振り払った。
突き放された彼女は、金の髪を乱したまま不思議そうに小首を傾げる。
「人、こうすると喜ぶと聞いた。なぜ嫌がる?」
「男性って、雄のことか?」
「そうだ!」
「なら、私と子を作ろう。きっとお前との子なら、強くて立派な――」
「だから! 俺はお前らの言う『雌』だから無理なんだよ!」
思わず怒声を張り上げたが、彼女はきょとんとしたまま首を傾げる。
「でも、雌同士でも喜ぶって聞いたことがある。私はお前にお礼をしたい」
「そういう種類のお礼は必要ない!」
俺は喉を一回鳴らし、きっぱりと拒絶の言葉を叩きつけた。
だが、体の奥底では本能が狂ったように訴えかけてくる。
――本当にやらないのか?
先ほどオークの返り血に濡れていた彼女の白い肌が、もし、別の白い濁った液状のナニカに塗れていたら……。
否定しようとしても身体はあまりに正直だった。
下腹部が熱く疼き出し、せり上がる衝動を必死で隠そうとして、自分の足が自然と内またになっていくのが格好悪いくらいによく分かった。
俺はもう一度強く目を閉じ、湧き上がる割り切れない唾をゴクリと飲み込んだ。
……違うだろ、落ち着け俺!
今もどこかで、エレナが彼女と同じようにモンスターに襲われているかもしれない。
そう思った瞬間、脳内を支配していた汚い欲の声は、嘘のように掻き消えていた。
「お前、こんなところで何をしに来た? ここは人間の来る場所ではない」
「魔族を退治に来たんだよ」
「人では無理だ。諦めて帰れ」
「そうもいかない事情があるんだから、仕方ないだろ」
目のやり場に困り、彼女の裸体を視界に入れないようにぶっきらぼうな返事をする。
「お前からは、魔族の嫌な雰囲気はしない……スパイではないのだな?」
「スパイが自分から『私はスパイです』なんて言うわけないだろ」
「人間というのは、そういうものなのか?」
納得したのか不満なのか、彼女がふっと息を漏らしていた。
これ以上構っていられないと俺が一歩を進めようとした、その時だった。
背後から突風が吹いたかと思うと、またしてもあの柔らかな肢体が背中に隙なく抱きついてきた。
「なら、私たちのアジトに招待してやる」
耳元で、吐息とともに甘く囁かれる。衣服越しに伝わる強烈な肉感と熱に、俺の身体はびくっと情けなく反応してしまった。
「……大きな声では言えないが、魔族に反対しているグループがある。お前をそこへ連れていく」
反対者、つまりレジスタンスということか。
どうにも俺は、そういう裏組織的な連中と縁があるらしい。
「――分かった、行く。行くのはいいけど、頼むから服を着てくれ」
「服? 邪魔だ、そんなもの」
「さぁ、行くぞ」
セルヴィナは俺の手首を掴むと、問答無用で森の奥へと走り出した。
「おい、ちょっと待てっ……!」
抵抗しようと足を踏ん張ったが、人間の姿になろうとも、彼女の根底にあるのは野生の獣の力だった。
圧倒的な腕力に抗えるはずもなく、俺は無防備な全裸の美女に引きずられるようにして、鬱蒼とした緑の闇へと連行されていった。
「転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~」をお楽しみいただけましたか?
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