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【7部】転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~  作者:
5章 全てを取り戻すために

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151話 心が折れ受け入れた日

 俺が一歩踏み込しようとした瞬間だった。

 ひざまずいていた黒装束の男が、バネのように地面を蹴った。

 俺の意識の僅かな隙を突き、弾丸のような速度でタックルを仕掛けてくる。

 激突の直前、俺は体をひねりながら回転して跳び上がった。

 突進の勢いのまま俺の足元をすり抜けていく男の頭を、空中でガシッと掴み取る。

 そのまま落下のエネルギーをすべて乗せて、地面へと叩き落とした。


 ズガァンッ!!


 重い衝撃音が山頂に響き渡り、男の体が地面に激しく叩きつけられた。

 土が跳ね上がり、枯れ葉が舞う。

 その凄まじい反動を浮力に変え、俺は軽やかに上空へと前転しながら跳ね上がった。

 空中で体勢を整えながら、力ある言葉を静かに、しかしはっきりと唱える。


「白き霧よ、静寂の帳となり。昏き微睡みへ誘え—— 睡眠の霧(スリーピング・ミスト)


 音もなく、濃厚な白い霧が一瞬で溢れ出した。

 恐ろしいほどの速さで山頂のすべてを飲み込み、視界を真っ白に塗りつぶしていく。

 ドサリ、ドサリ……と、次々と肉体が地面に崩れ落ちる重い音が、霧の深淵からいくつも響いた。

 黒装束の男たちの姿が、一瞬で白い闇の向こうへと遮断される。

 男の呻き声も、裸体の女性たちの悲鳴も、すべてが濃霧の奥に吸い込まれ、急速に静寂が支配していった。


 周囲が深い眠りに包まれた、まさにその時。

 霧の向こうで、バムシスが冷酷に口元を歪め、手元のスイッチを押し込むのが見えた。

 不吉な金属音とともに、車輪付きショーケースの中央のシャッターが跳ね上がった。


 次の瞬間——

 檻の中に閉じ込められていたオークたちが、目の前にいる裸の女性たちを視界に捉えた。

 豚のような鼻をひくひくと動かし、血走った赤い目が興奮でぎらぎらと輝いていた。

 獣欲に満ちた咆哮が響き渡り、鉄の檻をガンガンと叩く音が激しくなる。

 シャッターが完全に開いた瞬間、オークの群れが獣のような勢いで突進してきた。


 数メートル先の女性たちに向かって、牙をむき出しにし、太い腕を伸ばしながら猛烈な速度で迫る。

 女性たちは恐怖に顔を歪め、悲鳴を上げて後ずさろうとするが、鎖に繋がれて逃げられない。

 着地寸前、俺は空中で右手を突き出し、一息に力ある言葉を紡ぎきった。


『天より落ちる紫の罰よ……稲妻を集め、槍を成せ……貫け、魂まで焼き尽くせ……――紫電穿槍ヴァイオレット・ピアサー


 手のひらに空間を噛み千切るような紫電の槍が凝縮し、放たれる。

 紫電の槍がすさまじいスピードで、群れのど真ん中へと突き刺さった。

 バチチチチィッ!!

 鼓膜を破らんばかりの激しい放電音が轟き、猛烈な紫の雷が密集したオークたちの肉体を駆け巡った。

 全身を硬直させ、奴らは悲鳴を上げる間もなく内側から煙を噴き上げ、肉が焼ける臭いを撒き散らしながら一斉に崩れ落ちる。


 数メートル先の女性たちは、傷一つなく怯えたままその場にへたり込んでいた。

 俺は冷たい山頂の空気を肺に吸い込み、静かに息を吐いた。


「面白いショーですよね」


 バムシスが、何でもないことのように軽く拍手をしながら、愉しげに呟いた。

 その声には、俺の苛立ちを嘲るような響きがはっきり混じっていた。


「ショーだと!」

「無駄な事をよくもまあ、一生懸命いたしますよね。こんなことをしなくても俺を攻撃すればいいものを」

「そうしたら……」

「ええ、女性はオークの慰み者に。別に構わないではないですか!俺を倒せばお前が考える悲劇はもう広がらないんですよ。そうでしょう?」

「うるせえよ!」

 俺は奴の戯言を遮るように、力ある言葉を唱えた。

風刃(ウインドカッター)!」


 手のひらから鋭い風の刃が連続して放たれる。

 空気を切り裂く甲高い音を立てながら、透明な刃がバムシスに向かって一直線に飛んだ。

 しかし——

 風の刃は奴の服の表面を軽く削っただけで、霧の中に消えていった。

 確実に身体を真っ二つにするタイミングで放ったはずなのに、まるで当たっていない。


「思った通りですねぇ」


 バムシスの赤い目が、突然真紅に染まった。

 その瞬間——。

 目から放たれた光線状の光が、まっすぐ俺の心臓めがけて飛んできた。

 考えるより先に、体が反応した。

 俺は全力で横へと跳躍し、その一撃を紙一重で回避する。

 光線は俺のすぐ横を通過し、後方の岩を抉って爆ぜ、土煙を上げた。


「話は最後まで聞きなさいって、親から教わらなかったのですか?」


 着地した俺に、バムシムの冷徹な声が追いかけてくる。

 その口元には、相変わらず余裕たっぷりの薄笑いが浮かんでいた。


「呪文がダメなら」


 遠距離の魔法が通じないのなら、肉薄して斬り伏せるまでだ。

 俺は腰に差した『月夜のグラディウス』の柄を強く握り直した。


 自分の身体を弓のように深く後ろへ反らし、限界まで溜めたバネを一気に爆発させて、奴めがけて突進した。

 地面を蹴る衝撃が足の裏に響き、風が頰を切り裂く。

 全霊を込めた必殺の突きを。


「『牙衝がしょう』!」


 目指すは、奴の無防備な首筋。

 風を切り裂くような速度で迫る。

 視界が狭まり、奴の喉だけがはっきりと見えた。

 刃が確実に捉えたと思った瞬間——手応えが、虚しく空を切った。

 刃の先は、奴の首の数センチ横を虚しく貫いていた。


 ……避けられた?

 俺の体が一瞬、硬直する。

 心臓が激しく鳴り、冷たい汗が背中を伝った。

 吐き気と怒りが同時に込み上げ、握った柄が汗で滑りそうになる。


「やっとこの距離まで来ましたね」

 必殺の一撃を逸らされ、信じられないといった俺の驚愕をよそに、バムシムが至近距離でねっとりとした笑みを浮かべた。

 次の瞬間、胸元に生々しい肉の感触が走った。


「――っあ!?」


 奴の手は、この身体になってからずっと邪魔だと苛立っていた俺の豊かな胸を、衣服越しに容赦なく掴み上げていた。

 五本の指が柔肉に深く沈み込み、荒々しく揉みしだく。布越しでもはっきりわかる熱い掌の感触が、俺の神経を直接刺激してくる。

 戦闘の最中だというのに、下卑た愛撫のような動きが容赦なく続き、俺の体がびくんと跳ねた。

 男としてのプライドが激しく抵抗する一方で、女の身体が勝手に反応してしまう不本意な戦慄が、背筋を駆け巡る。

 強烈な嫌悪感と、抑えきれない甘い疼きが混ざり合い、頭がぐちゃぐちゃになった。


「や……やめろ……っ!」

「身体がうずいてくるでしょう?」


 バムシムが耳元でいやらしく囁き、熱い息を吹きかける。

 その声が、俺の鼓膜を震わせて脳に染み込んでくる。


「な……なにを、した……!」


 視線を落とすと、奴の手のひらから分泌された、緑色のスライム状の粘液が俺の服をじっとりと濡らしていた。

 粘液は布地に染み込み、肌に直接触れるように広がっていく。

 その瞬間、体内の芯がカッと熱くなり、体温が数度跳ね上がったかのような錯覚に襲われた。

 肺が酸素を求めて激しく波打ち、自分のものではないような甘く乱れた呼吸が、口から漏れ出る。

 胸の先端が痛いほど硬く尖り、衣服に擦れるだけで鋭い快感が走る。

 腰の奥が疼くような感覚が抑えきれず、太ももが内側に震えた。

 俺は歯を食いしばり、必死にその感覚を振り払おうとしたが、粘液は容赦なく体を蝕み続けていた。


「精神防御を張っていようとも、意味はありませんよ」

「何をしたと、言っている……っ!」

「いやぁ、俺も相手には嫌だと思われたくなくてね。Hな動画とかによくあるでしょ。媚薬と興奮剤の効果を混ぜた特製品ですよ。本能が求めるものですから、抗えません」

「ふざけるな……!」


 意識が混濁しかける頭を怒りで必死に叩き起こし、俺は奴の股間めがけて全力の膝蹴りを突き上げた。

 だが、バムシムは俺の胸から手を離すと、嘲笑うかのように軽く後ろへと跳んでそれをかわした。


「その反応を見ると、経験が無いようで」

「うるせえ、よ……っ」


 呪文を唱えようと必死に意識を集中させようとするが、頭がまるで熱に浮かされたようにぼんやりとして働かない。

 それどころか、媚薬の影響で体が熱く火照り、男であるはずの俺の心に、強烈な羞恥と屈辱が波のように押し寄せてきた。

 胸の先端が痛いほど硬く尖り、衣服に擦れるだけで鋭い快感が走る。

 呼吸が甘く乱れ、吐息が自分でも艶っぽく聞こえて、耳まで熱くなった。

 ……くそ、何だこれ……体が、勝手に……

 俺は歯を食いしばり、必死にその感覚を振り払おうとしたが、粘液は容赦なく肌に染み込み、火照りをさらに煽り続けていた。


「シビさん。貴女は、人を殺したくないという思いから、無意識に急所攻撃ができないのです」


 防御結界の中から、エレナが悲痛な声を張り上げた。

 その声は震え、俺の胸に突き刺さるように響いた。

 ……っ!

 俺の脳裏に電撃が走った。

 あいつに攻撃が通じなかったのは、俺自身の迷いのせいだったのか――。

 人を殺したくないという、無意識に俺の刃を鈍らせていた。

 その事実に気づいた瞬間、胸の奥が締め付けられ、息が苦しくなる。


「エレナさん。答えを言うのが早いですよ。自分の頭で考えないといけないって、親から教わらなかったのですか?」


 バムシスは勝ち誇った笑みを浮かべ、俺の震える身体を値踏みするようにねめ回した。

 その赤い瞳が、俺の胸から腰、太ももへとゆっくり這うように動き、まるで商品を品定めするような、ねっとりとした視線だった。


「どのように敗北を知りたいですか? ボコボコにされて、人の尊厳をこれでもかと壊されての凌辱ですか? それともこのまま気楽に身を委ねて(メス)化しますか? それとも、仲間のいやらしいところを見て認めますか? ――同郷の身ですのでね、選ばせてあげますよ」


 バムシスの言葉が、ねっとりと耳に絡みついてくる。

「ふざけ、るな……!」

 俺は奴をキッと睨みつけた。


 震える指先で『月夜のグラディウス』の柄を強く握り直そうとした、まさにその瞬間だった。

 手のひらに伝わっていたはずの金属の冷たい質感が、網膜を刺す月光の青白い輝きが、脳内で(おぞ)ましい別のナニカのイメージへと強制的にすり替えられていく。

 まっすぐに直立する柄は、生々しい熱を帯てドクドクと脈打つ塊のように手のひらにへばり付き、月光を宿して青白く妖しくてかる刀身の輪郭が、脳髄の裏側に直接焼き付いて離れない。

 思考を真っ白に染め上げる悍ましい凶器を前にして、俺の喉は、言い訳のしようもないほど貪欲な音を立てて、ごくりと物欲しそうに鳴り響いていた。

 自分の肉体が立てたその卑猥な音が鼓膜を震わせた瞬間、言葉にならない驚愕と拒絶が全身の毛穴を突き抜ける。


 しかし、そんな魂の絶叫を嘲笑うかのように、バムシムの分泌した緑色の粘液は、防具の精密な可動機構の隙間という隙間から、まるで生き物のようにじわじわと肌の奥深くまで侵食し続けていた。


「……っ、あ……」

 必死に歯を食いしばって噛み殺そうとした喉の奥から、熱く、そして物欲しそうな声が吐息とともに漏れ出てしまった。

 脳裏をよぎるあまりにも不条理なビジュアルと、それを受け入れていく生身の女性の身体。

 内側に折れるように震え出した膝は、もう自分の体重すら支えるだけの力を残していなかった。

 カラン、と虚しい音を立てて、指先からグラディウスが地面へと滑り落ちる。

 あまりのショックに、俺は自分の武器すら手放して床へ膝を突いた。


 バムシムは、そのすべての崩壊を、網膜を真紅に染めながら極上の娯楽として愉しげに観察していた。

「心が折れましたか? どのみち、お二人をゲットして帰れば、俺も組織でもっと認められることでしょうね」


「シビさんが戦えないのなら……っ!」

 視界が霞み、トロンとした目で見つめる俺の目の前で、エレナ自身が作った結界を解き、こちらを助けるために外へと這い出そうとしていた。


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