149話 決戦間際
木々の上を高速で駆け抜けながら、俺はガーネットを至る所に落としていった。
枝から枝へ跳び移るたび、小さな赤い結晶が夜の闇に溶けるように落ちていく。
やはり、作動していない状態なら魔法探知はかからないみたいだ。
山の中腹を越えたあたりで、俺はコマンドを唱えた。
「晶石魔像生成」
山の至る所に配置したガーネットが反応し、人型に変化して動き出す気配がした。
下の方から鳥が一斉に飛び立ち、動物たちの慌ただしい鳴き声が木々の間を駆け巡る。
俺の背後で、ゆっくりと守護者たちが目覚めていくのがわかった。
前方に人の集団が見えた。
複数人が山頂に向かって急いでいる。
俺は素早く後ろに回り込み、最後尾の男の後頭部に手刀を叩き込んだ。
男が崩れ落ちる前に、クエルシオラの変形機能を発動させてその男の黒装束に姿を変える。
俺は集団の最後尾に自然と並び込み、息を潜めて走り続けた。
走りながら、至る所にマキビシを投げ捨てる。
金属の棘が地面に散らばり、後続の者たちが次々と悲鳴を上げ始めた。
「うわっ!」
「足が……!」
「くそ、何だこれ!」
後方から怒号と混乱の声がどんどん大きくなっていく。
俺は顔を伏せたまま、集団に紛れて山奥へと進み続けた。
山頂付近に、大きめの山小屋が建っていた。
木造の壁は苔と蔦に覆われ、まるでこの森に溶け込むように佇んでいる。
きっとここが、奴のアジトなんだろう。
トップを走っていた黒装束の男が、急に立ち止まった。
彼は息を整えながら、小屋に向かって声を張り上げた。
「バムシム様!」
俺も周りの男たちと同じように、その場に跪いた。
膝が冷たい地面に沈み、緊張で背中が汗ばむ。
やがて小屋の扉がゆっくり開き、バムシスが姿を現した。
その後ろから、エレナも連れ出されてきた。
彼女の顔には疲れなどが見えるが比較的元気そうだ。。
「奴はどうした?」
「まもなく来ると思いますが……どこにいるかは?」
「どういうことだ」
「仲間の悲鳴ばかりで、バムシム様がおっしゃった姿の人物は見えなくて、判断を仰ごうと」
「それはそうだろう」
その瞬間——
バムシスの爪が、鋭い音を立ててこちらに向かって飛んできた。
俺は即座に影走りを発動させ、体を低く沈めながら地面を蹴った。
「加速!」
太ももを強く叩き、魔力を一気に迸らせる。
世界が一瞬スローモーションのように感じられた。
「貴様の得意な闇夜の断罪はやらせん!」
奴の手が地面を叩き、力ある言葉を発していたが、俺には聞き取れなかった。
俺は奴の頭上を飛び越え、ダガーを投げつけた。
カンッ!という硬い金属音が響き渡り、ダガーはバムシムの周囲に張られた透明な結界に弾かれて宙を舞った。
その隙に俺はエレナのすぐ隣に着地した。
片腕で彼女の体を抱き寄せ、守るように引き寄せる。
彼女の細い肩が俺の胸に触れ、震える息遣いがはっきり伝わってきた。
「俺の大事な人を返してもらうぞ」
バムシムはわずかに目を細め、薄笑いを浮かべた。
「俺に攻撃をしずに、聖女を助けるとは。そんなに大事なのか」
バムシムは楽しげに目を細め、口の端を歪めて笑った。
赤い瞳が薄暗い山小屋の中で妖しく輝き、まるで獲物を前にした獣のような余裕と好奇心が混じっている。
彼はゆっくりと腕を組み、俺とエレナを交互に見比べながら、嘲るような視線を投げかけてきた。
「まさか時間内に来られるとは思わなかった」
「隠密技能と魔法があればできるさ」
「シビさん……」
エレナは涙を浮かべながら、俺にぎゅっと抱きついてきた。
彼女の体が小さく震え、温かい涙が俺の肩に染み込んでくる。
指先が俺の背中に強く食い込み、離したくないという想いが痛いほど伝わってきた。
「遅くなった、ごめん」
「信じておりましたわ……」
エレナの優しい抱きしめ感を味わいながら、俺は髪飾り大の大きさにした黄金の錫杖をそっと彼女の手に戻した。
「持ってきてくださったのですか……?」
「必要だと思ってな。だが、ここでのフォローはいらないから」
「なぜですの?」
「やつとは一対一で戦う」
俺はそう言いながらくるりと一回転した。
クエルシオラの変形機能が働き、黒装束からいつもの赤いドレスと黒のライダージャケットに戻る。
銀髪が風に靡き、腰のグラディウスが静かに鳴った。
「さて、始めようか」
「まともに戦ったら勝てはしないが、俺の策はまだ全部終わってない」
バムシスはマントを翻らせながら、余裕たっぷりに笑った。
赤い瞳が妖しく輝き、唇の端が不気味に吊り上がっている。
俺はグラディウスを構え直し、静かに息を吐いた。
今回短いのは、私がペース配分を間違えたせいです。
148話と一緒にすればよかったなぁって思いました。
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