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【5部開始】転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~  作者:
3章 不安定

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138話 不協和音

 賊の襲撃から三日が経ち、道中は幸いにも静かだった。

 だが、目的地の村が見え始めたその瞬間だった。


「シビさん……おかしくありませんか?」


 ハンスの声で、俺はハッと顔を上げた。

 自分の不調のせいで、ぼんやりしていたらしい。

 視線の先、村があるはずの方向から、黒い煙が何筋も立ち上っていた。


「……ああ、確かに変だな」


 夕食時なら炊事の煙くらい出てもおかしくはない。

 だが、あの黒さは違う。油でも燃やしたような、粘つくような黒さだ。

 胸の奥がざわつく嫌な予感が、背筋を冷たく這い上がった。


「ハンス、少し急いでもらえるか?」

「わかりました!」


 手綱を強く打つ音とともに、馬車が勢いよく加速した。

 突然の衝撃に、後ろの幌の中から三人の黄色い悲鳴が上がる。


「ハンス! 積み荷に高価な商品が詰まってるのよ!? 分かってるの!?」


 真っ先に響いたのは、イザベラの甲高い怒声だった。

 流石は商人、己の身より商品の心配が先か。相変わらずだ。


「シビさん……何かあったんですか?」


 エレナが不安げに身を乗り出してくる。俺は短く、しかしはっきり答えた。


「悪い。前を見てくれ。村の様子が……おかしい」


 ある程度まで距離を詰めると、俺の予感は最悪の形で的中した。

 街道の先に広がっていたのは、平穏な農村の風景などではなかった。

 家々の大半が半焼け、黒焦げの(はり)が無残に剝き出しになっている。

 地面には倒れた村人たちが力なく横たわり、血の匂いが風に乗って鼻を突いた。

 まだ生きている者もいるようだったが、立ち上がる気力すら残っていない。


「……くそっ」


 俺は思わず舌打ちを漏らした。

 賊どもはすでに去った後らしい。

 残されたのは、焼け落ちた家と、泣き声すら上げられないほどの惨状だけだった。


 エレナが、俺の顔をじっと見つめていた。

 急いでいるのは分かっている。

 だが彼女は、この惨状を見過ごせないタイプだ。


 ……魔物の紋章が、まだ完全に完成していないのはわかってるが、俺達もそこまで時間に余裕があるわけではない。

 幸い俺の持つミスリルソードが鍵になると聞いている以上、ここで足止めを食らうのは痛い。

 合理的に考えれば、小を捨てて大を救うのが正解だろう。

 あの紋章が完成すれば、どれだけの被害が出るか分かったもんじゃない。

 だが——

 村人たちの苦しげなうめき声と、焦げくさい空気の中で、俺も結局見過ごす気にはなれなかった。


「……俺たちも、やれることはやろう」


 エレナたちが「はい!」と元気よく返事をしてくれたので、少し胸が軽くなった。

「リーニャ、お前の村は大丈夫か?」

「私の暮らしている村はもう少し北ですので……多分、大丈夫だと思いますけど」


 そこから先は、本当に大変だった。

 馬車を降りるなり、エレナは迷うことなく負傷者が集まる広場へと駆け出していった。


「アウリス様、どうかこの者に慈悲を……!」


 金の錫杖を高く掲げると、柔らかな光が溢れ出す。

 苦痛に歪んでいた村人たちの傷口が、次々と塞がっていく。

 だが、大勢を癒すたびにエレナの顔から血の気が引いていくのがはっきり分かった。

 ……さすがに心配になってくる。


 イザベラも、いつになく必死な表情で動き回っていた。


「ハンス、その毛布を早く! リーニャ、あなたはそっちで炊き出しの準備をしてちょうだい!」


 自分の商品であるはずの備蓄食料や消毒液を惜しげもなく差し出し、次々と的確な指示を飛ばしていく。

 冷徹な商人かと思っていたが、こういう人情味もあるんだな……意外だった。


 俺とハンスは、主に力仕事を請け負った。

 まだ燻ぶっている家屋に水を運び、倒壊した建物の下から生き埋めになった村人を救い出す。

 煤で顔を真っ黒にしながら、何度も瓦礫の山を往復した。


「せーのっ……!」


 焼け落ちた太い梁をハンスと二人で持ち上げ、隙間に挟まっていた男を引きずり出す。

 ふと横を見ると、瓦礫の傍らで立ち尽くして泣いている小さな子供がいた。

 俺は腰のグラディウスを引き抜き、てこの原理で瓦礫の隙間をこじ開けた。

 魔法で持ち上げてもよかったが、こんな状況で不用意に魔法を使えば後々面倒なことになる。

 慎重に木彫りの人形を拾い上げ、泥だらけのそれを子供に差し出した。


「……ほら、これ」



 子供は泣き止み、俺の服の裾をぎゅっと掴んできた。

 俺は煤だらけの手でそっと頭を撫でてやると、少女の顔にぱっと花が咲いたような笑みが広がった。


 そうか……ここは魔法大国だったのをすっかり忘れていた。

 村人たちも簡単な魔法を使いながら、それぞれできることをやっていた。

 俺はポケットからアンバーの原石を数個取り出し、力ある言葉を紡ぐ。


晶石魔像生成(ジュエルガーディアン)


 淡い橙色の光が弾け、アンバーは瞬時に人間大の人型魔像へと姿を変えた。

 無機質な瞳が俺の次の指示を待っている。


「瓦礫をあそこにまとめてくれ」


 簡潔な命令で十分だった。

 魔像は重い梁や石を軽々と持ち上げ、指定した場所へ運び始める。

 便利な魔法だが、欠点は使い捨てになることだ。一度使ったら、もう元の宝石には戻せない。


 一段落ついたところで、俺は村長に事情を聞いてみた。

 どうやら、村の北西の森の奥、古い砦に盗賊の一団が住み着いていたらしい。

 貢ぎ物として食料と若い女を要求されたが、村が拒否した途端にこの有様になったという。


「……なるほどな」


 俺はハンスの方を向いた。


「ハンス、北西って言ったら」 「ええ、明日通る予定の道ですね」


 一応、歴史は学んできたつもりだが……。

 どうしてこうも、いつも女ばかりがそういう目に遭うんだろうな。

 生物の本能だとか、力関係だとか、理屈は分かっている。

 でも、胸の奥がざわつくのはどうしても抑えられない。


 夜風が焦げ臭い。

 焼け残った村の空気は、まだ熱を帯びていて、肺の奥にまとわりつくようだった。


「エレナはどうしたい?」

「今回は……わたくしより、シビさんの判断にお任せいたしますわ」


 俺が問うと、エレナは金色の長いまつ毛を伏せ、静かに答えた。

 ……意外だった。

 彼女の瞳の奥には、燃えるような怒りと、深い悲しみが渦巻いているはずだ。

 なのに、今はただ、俺を案じるような、痛々しいほどの心配の色だけが浮かんでいる。


「そうだな。ハンスたちはこの村の手伝いを続けてくれるか?」

「ええ、構いませんぜ!」


 ハンスは胸を叩き、力強い笑みを浮かべた。煤で汚れた頬に、白い歯が浮かぶ。

 リーニャも小さく頷き、「私にできることは少ないと思いますけど……精一杯頑張ります」と、震える声で言った。

 すると、イザベラが眼鏡の奥から俺をじっと見つめてきた。


「私たちはいいとして……シビさん、あんたはどうするのさ?」


 その声音に、俺は眉をひそめた。


「わかってると思ったんだけど」

「その賊を退治するんでしょ。本当にできるのかい?」

「ん? 俺が賊如きに後れを取るとでも?」


 イザベラの言葉が、静かに、しかし鋭く突き刺さった。


「普段のあんたなら大丈夫でしょうよ。でも今、あんたが不調だってこと……気づいてるわよね? 戦いに絶対はない。負ける可能性だって、十分にある」


 瞬間、俺の胸に苛立ちが込み上げてきた。


「は? 不調なわけねえだろ。絶好調だよ。俺が賊如きに後れを取るとでも本気で思ってんのか?」


 空気が一気に張りつめた。

 イザベラの眼鏡が、焚き火の炎を反射して冷たく光る。

 そのときだった、


 パンパン、という乾いた拍手の音が、緊張を切り裂いた。

 エレナが両手を打ち鳴らし、穏やかだが芯の強い声で言った。


「シビさん。誰もあなたの実力を疑ってはおりませんわ。イザベラさんも……わたくしがしっかりフォローいたしますので、どうか……ね?」


 彼女の柔らかい声と、哀しげな微笑みに、イザベラも言おうとしたことを吞み込んだ。

 エレナの瞳は、まるで俺の傷を心配するように揺れていた。

 その夜、俺たちは焼け残った倉庫の隅に体を横たえた。

 藁の上で寝転がっても、焦げた匂いと遠くから聞こえる村人のうめき声が、なかなか眠りを許してくれなかった。


 見てろよ。

 余裕で終わらせてやるよ。

 闇の中で自分の手に視線を落とし、俺は心の中で毒づいた。

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