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【5部開始】転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~  作者:
3章 不安定

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136話 悪夢

【注意事項】

 - 本作はR15指定です。

 - 暴力・グロテスク描写が強く含まれます。

 - 本編内の特定のシーンに**性的凌辱描写**があります。苦手な方はご注意ください。


 ドランの街の北門をくぐり抜けた瞬間、馬車の車輪が石畳から土の街道へ移るガタンという大きな振動が全身に響いた。

 木の軋む音と馬の蹄の音が混じり合い、背後の街の喧騒がどんどん遠ざかっていく。


 昼下がりの柔らかな陽射しが木々の葉を透かして、ポツポツと明るい光の斑が幌の布地に落ちては揺れていた。

 風が少し強くなり、幌の端がバタバタと乾いた音を立てていた。


 御者台ではハンスが手綱を力強く握り、その隣にエレナが座って周囲を警戒していた。

 エレナは白い僧衣の裾を押さえ、金の錫杖を膝に立てかけながら、時折森の奥を真剣に見つめていたり、自然のさえずりを楽しんでいるようにも見えた。


 幌の中は思ったより広々としていた。

 ドランの街で商品を売った分、木箱の山がだいぶ減り、壁際に残っている荷物も隙間が目立つ。

 祭りだったので、セールなどで安かったものは買ったと思うが、リーニャが増えたぐらいでは圧迫はしていなかった。

 そこらはきちんとイザベラが考えて仕入れをしているのだろう。


 中央には俺たち三人が、足を伸ばして座れるくらいのスペースがゆったりと空いていた。

 土埃と薬草のほのかな香りが、ほどよく混じった空気がゆっくり流れている。


 リーニャは荷物の隙間に腰を下ろし、小さな木箱を床に置いて、検品作業に夢中になっていた。

 細い指で革袋を一つずつ丁寧に開け、薬草を光にかざしては色や乾燥具合を確かめ、指で軽く揉んで香りを嗅いだり湿気をチェックしている。

 時折、「この薬草……ちょっと湿気てるかも……。こっちの鉱石は問題ないです」と小さな声で呟きながらメモを取っていた。


 イザベラが隣から身を乗り出して、その作業をじっくり観察していた。

 やがて眼鏡の奥の目を細め、指を差した。


「リーニャ、ちょっと待って。その左の袋、見せて」


 リーニャが慌てて袋を差し出すと、イザベラは受け取って自分の鼻に近づけ、軽く嗅いだ。


「なるほど……これは確かに少し湿ってるわね。袋の口をもう一重、しっかり縛り直した方がいい。湿気ると価値が落ちるから」

「うわ……そうなんですね。ありがとうございます!」


 イザベラは満足そうに頷き、口元を緩めた。


「全体的に検品作業は、悪くないわよ。むしろ上出来ね。湿気や微細な傷までちゃんと見てるし、メモも丁寧。この精度なら、村に戻ってから、商人を目指すなら、きっとすぐに役に立つわよ」


 リーニャは箱からぱっと顔を上げ、目をキラキラさせてイザベラを見つめた。


「ほ、ほんとですか!? イザベラさんに褒められるなんて……嬉しいです! もっと頑張ります!」


 イザベラが小さく笑って、「ふふっ、期待してるわ」と返した。

 エレナが御者台から幌の中を振り返り、優しい笑顔で声をかけてきた。


「リーニャちゃん、すごい集中してるね。疲れてきたら少し休んでね?」


 リーニャが作業の手を少し止めて、エレナの方を見上げた。


「大丈夫です、エレナさん! もう少しでこの箱が終わるので……あとちょっとだけ頑張ります」


 「ふふっ、頑張ってね」とエレナが御者台から幌の中を振り返り、優しい笑顔で声を返していた。


 ふとした拍子に指先を擦り合わせると、街で食った焼き鳥の甘辛い匂いが、まだ鼻の奥にこびりついているような気がした。

 思わず、自嘲気味な笑みが漏れる。


「……ちっ、まだ焼き鳥の匂いがしてやがる。あんなに串を開けて、その後にサンドイッチまで詰め込んだってのに、全然足りねえな」

「アヤさん、正気ですか! あんなに食べたばっかりなのに!」


 俺の独り言を聞き逃さず、リーニャが信じられないといった声を上げた。

 隣に座るイザベラが、そのやり取りにおかしくなったのか、くすくすと肩を揺らす。


「ふふふ、いいじゃない。アヤさんはここ数日働きづめだったのだしね。……ねえエレナさん、次の休憩で何か作ってあげたら?」


 イザベラが前方の仕切り越しに声をかけると、御者台に座るエレナが、手綱を握ったまま振り返って控えめに微笑んだ。


「はい。では次の休憩で、干し肉とパンを使って簡単なものをお作りしますね」


 外から届くエレナの穏やかな声を聞いていると、なんだか俺まで楽しみになってきた。


「……このまま何事もなく北の山脈まで行ければいいんだけどな」


 馬車はガタガタと絶え間なく揺れ続け、森の暗い木々がゆっくりと後ろに流れていく。

 やがてハンスが手綱を引き、街道から少し入った空き地で車輪の音が止まった。


「よし、今日はここで夜を明かそう」


 その声を合図に、俺たちは馬車を下りた。

 重い荷物を運び出し、地面の石を退けて簡易テントを設営する。

 冷え込んできた空気に鼻先を赤くしながら作業を終える頃には、辺りはすっかり日が暮れていた。


 ハンスが手際よく薪を組み、火を熾す。

 ようやく、焚き火の心地よい音が、夜の静寂に響き始めた。

 俺は広げた毛布の上に腰を下ろし、揺れる炎をぼんやりと眺めていた。

 作業でこわばった体に、森の冷気とは対照的な火の熱がじんわりと染み込んでいく。


「シビさん、お疲れ様です。……今、温かいものを作りますね」


 隣で荷物を整理していたエレナが、俺の顔を見て柔らかく微笑んだ。

 彼女は手近な切り株を台代わりにし、手際よく小鍋とナイフを取り出す。せわしなく、けれど無駄のない動きだ。


 まずは固い干し肉を薄く削ぎ、熱した鍋に放り込んだ。

 脂がパチパチとはじける香ばしい匂いが、夜風に乗って鼻をくすぐる。

 そこへ水と、香り付けの香草、さらにちぎったパンを投入していく。


「本当はもっとちゃんとした材料があればいいんですけど」


 なんて言いながら、彼女は俺の横顔を気にかけつつ、丁寧に灰汁を掬って火加減を調整している。

 火に照らされたエレナの横顔を見ていると、昼間の騒がしさや移動の疲れが、少しずつ夜の闇に溶けていくような気がした。


「シビさん、お待たせしました。……どうぞ」


 エレナが差し出してきた木製の器には、柔らかく煮込まれた肉とパンが、とろみのあるスープに絡まっていた。

 熱を帯びた器を手に取ると、かじかんでいた指先がじんわりと温まる。


「……悪いな。助かる」


 俺が短く礼を言うと、エレナはどこかほっとしたように微笑んだ。

 一口運べば、素朴ながらも深い味わいが口いっぱいに広がる。


「あーあ、エレナさんってば。アヤさんにだけお肉多めに入れてませんか?」


 横からリーニャの茶化すような声が飛んできて、エレナの頬が火の色に染まる。

 そんな賑やかなやり取りを背中で聞きながら、俺は温かいスープをゆっくりと胃に流し込んだ。


 疲れがどっと出たのだろう。

 毛布にくるまり、まぶたを閉じた瞬間に俺の意識は深い闇へと落ちていった。

 遠くで鳴く夜鳥の声。

 風に揺れる葉ずれの音……。

 そんな穏やかな音さえ、一瞬で耳の奥から消え失せた。


 俺は、たしか寝ていたはずだった。

 ……なのに、喉の奥にねばつくような熱い違和感がまとわりついている。

 息を吸うたび、鼻腔の奥がチリチリと焼けるように痛く感じた。


 これは焚き火の煙じゃない。鉄の錆びたような、濃厚で生温かい、血の匂いだった。

 鼻の奥まで染み込んで、吐き気を催すほどの生臭さ。


「……っ、は……あ、が……っ!」


 肺が痙攣する。

 無理やり空気を押し込もうとして、目を見開いた瞬間、視界が真っ赤に染まっていた。

 ここは、テントではなかった。

 足元はどす黒く粘ついた血の泥海(どろうみ)で、逃げ場などどこにもない。


 周囲に転がるのは、無数の死体だった。

 内臓をぶちまけたもの、首をねじ曲げられたもの、顔の半分を抉られたもの。

 見覚えがある顔ばかりだった。

 俺が殺してきた男たちの残骸だった。


 自分の身体を見下ろした瞬間、息が止まった。

 上着は胸から腹にかけて大きく引き裂かれ、血と泥にまみれて肌にべったりと張り付いている。

 長い髪が血でべっとりと頬や首に貼りつき、胸の膨らみが露わになっているのがはっきりとわかる。


 左足がなかった。

 膝から下が綺麗に消え失せ、断面から赤い鮮血がどくどくと噴き出し続け、足元の泥をさらに黒く染めていく。

 右肩は深くえぐれて陥没し、白く砕けた骨が皮膚を突き破って飛び出していた。

 全身に無数の骨折が走り、折れた骨が肉を内側から押し上げて異様な膨らみをいくつも作っていた。


 火傷は特に酷く、皮膚が赤黒く炭化して焼け爛れ、ところどころで黄色い膿と溶けた脂肪が泡立って垂れ落ちている。

 左目は熱い血と膿で完全に塞がれ、視界の半分が真っ暗だった。

 今、俺は地獄から這い上がってきた囚人か、あるいは悪鬼羅刹そのものだった。


 ……なのに胸の膨らみも、細い腰も、長い銀髪も、全部この惨状の中で俺を嘲笑うように残っていた。


「……う、あ……ああああああああッ!!」


 影が迫る。反射的に腕が跳ね上がった。

 『比翼(ひよく)』。


 ヌチャリ。

 相手の刃がこちらへ届く前に、刃が肉に深く沈み込む。

 重く湿った手応えがあった。

 掌にまで響く不快な振動。

 顔面に飛び散る熱い返り血の感触が、目を開けていられないほど大量に浴びせられる。


 口の中にまで鉄の味が広がり、鼻腔を焼く血の臭いがさらに濃くなる。

 俺はまた、人を殺した。

 嫌だ。来るな。

 殺さなければ、俺が殺される……!


 次の瞬間、激痛が全身を貫いた。

 背中、脇腹、太もも、胸——刺され、斬られ、焼かれる衝撃が次々と襲ってくる。

 ないはずの左足を泥に叩きつけ、折れた骨が軋む音に狂いそうになりながら、俺はがむしゃらに剣を振り回した。


 何も考えるな。

 ただ、目の前の命を消せ。

 止まれば死ぬ。ここで止まれば、絶対に死ぬ。


 泥と血を啜り、無様に這いずりながら、俺は剣を振り続けていた。

 返り血が銀髪を真っ赤に染め、胸の谷間を伝い落ち、長いスカートのような布切れを重く濡らしていく。


 死んでたまるか。

 絶対に、ここで死んでたまるかッ!

 ……叫んだ直後、意識がぷつりと途切れた。

 どれだけ時間が経ったのか。

 重い瞼をこじ開けると、俺が斬り殺したはずの男たちが、すぐ目の前に立っていた。

 内臓をぶちまけ、首をねじ曲げ、顔を半分抉られた無惨な姿のまま、濁った瞳で俺を睨みつけている。


「……俺達は、自分の欲に従っただけだぜ? なあ、アヤさんよ」

「……だから、俺が成敗した。それだけだ」


 震える声で言い返すと、男の一人が醜く口を歪めて笑った。


「嘘つけ。お前だって、あの聖女の嬢ちゃんに、俺たちと同じことをしたいと思ったんだろ?」

「違う……っ!」

「男を知らねえあの清らかな体。力ずくで組み伏せて、泣き叫ぶ顔を見ながら、ぐちゃぐちゃにしてやりたい……そう思ったんじゃねえのか?」

「違うと言ってる!」


 否定すればするほど、男たちの声は頭の中に直接響いてくる。


「お前が心の奥底で抑え込んでる欲望を、俺たちが代わりにやって見せただけだ。それを棚に上げて、正義の味方ヅラとはよくも言えたもんだ」


 男たちの背後で、俺がこれまで屠ってきた魔物たちの咆哮が重なり合う。

 黒い波のように男たちが迫り、俺の体を取り囲んだ。


「なら、お前がその体で、俺たちの損失を補填しろ。謝罪は……その『女の体』で払ってもらうぜ」


 汚れた手が、ボロボロになった服の隙間から滑り込んできた。

 熱くて、ざらついた指が、俺の胸の膨らみを強く掴む。

 柔らかい肉が男たちの指の間で形を変え、痛いほどの力で揉みしだかれる。


「な……っ、やめろ……! 俺は、男だぞ! ふざけるなッ!」


 叫んでも、返ってくるのは冷たい嘲笑だけだった。


「おい、見ろよ。この銀髪に、赤い瞳……それにこの柔らかい胸。本当は男のくせに、女の体してるなんて、最高の玩具じゃねえか」


 別の手がスカートの裾を乱暴に捲り上げ、太ももを撫で回す。

 指が内腿を這い上がり、敏感な部分に触れようとする。

 俺の体は勝手に震え、拒絶の意思とは裏腹に熱を持ち始めていた。


「やめ……ろ……っ! 触るな……!」


 声が掠れる。

 男の一人が俺の銀髪を強く掴み、後ろに引っ張った。首が反り、喉が晒される。

 もう一人が俺の胸元をさらに引き裂き、露わになった白い肌に舌を這わせてきた。

 熱く湿った感触が、胸の先端を舐め、吸い、歯を立てる。

 体が勝手に跳ねる。

 嫌悪と羞恥で頭が真っ白になりながらも、女の体は男たちの刺激に敏感に反応してしまう。


「おい、感じてるんじゃねえか? ほら、ここ、濡れてきてるぞ。女そのものだな」


 太ももの間に指が潜り込み、秘部を擦られる。

 俺は必死に足を閉じようとしたが、欠損した左足と男たちの力に阻まれ、開かされたままだった。


「やめて……くれ……ッ! 俺は……こんな……っ!」


 男たちが笑う。

 その笑い声が頭の中で反響し、俺の尊厳を、俺が男であるという自覚を、一つずつ剥ぎ取っていく。


「正義の味方ヅラして、俺たちを殺したんだろ。なら、お前も同じように犯されて、壊されて、味わってみろよ」


 男の一人が俺の腰を強く掴み、体を押し倒した。

 泥と血の冷たい感触が背中に広がる。

 熱い男根が、俺の秘部に押し当てられる感触がした瞬間。


「……あ、ああ、あああああああああああああッ!!!」


 自分の絶叫が、静まり返った夜の森を切り裂いた。

 視界が一瞬白く弾け、暗闇が吹き飛ぶ。

 肺に飛び込んできたのは、血の臭いではなく、冷え切った夜の空気とかすかな焚き火の残り香だった。


「きゃっ……!」


 寝袋の中で激しく身をよじった拍子に、すぐ傍にいた人影とぶつかりそうになる。

 荒い呼吸が止まらない。

 心臓が早鐘のように鳴り、全身が嫌な冷たい汗でびっしょり濡れ、寝袋の内側にべったりと張り付いていた。


「こ……ここは……」


 焦点の定まらない目で周囲を見回す。

 血の海も、欠損した左足も、男たちの手も、ない。

 ただ、消えかかった焚き火がパチパチと小さく音を立て、橙色の火花が夜風に舞っているだけだった。

 そこは、さっきまで俺が眠っていたはずの、静かな森の空き地だった。


「シビ……シビさん、大丈夫ですか……?」


 隣から、鈴を転がすような穏やかで優しい声が届いた。

 ふと見れば、エレナが俺のすぐ横に膝をつき、心配そうに顔を覗き込んでいる。

 白い法衣の裾が夜露で少し湿り、長い金髪が焚き火の光に照らされて柔らかく輝いていた。

 どうやら俺のうなされる声を聞いて、放っておけずに、駆けつけてくれたようだ。

 俺は震える手で顔を覆い、何度も深く息を吐き出した。

 指先が小刻みに震え、喉の奥がカラカラに乾いている。


「エ……レ……ナ……」

「エレナですよ、シビさん。……あまりに苦しそうだったので、放っておけなくて……」


 エレナは俺が勢い余って突き飛ばしそうになったことなど気にする様子もなく、寝袋の上からそっと俺の肩に手を置いた。

 その手の温もりが、悪夢の中で男たちに触れられたおぞましく粘つく感触を、ゆっくりと、優しく上書きしていく。柔らかくて、優しくて、安心できる温度だった。


 俺が落ち着くまで、彼女は黙って傍にいてくれたのだろう。

 エレナの柔らかな眼差しと、手のひらの熱が、現実の輪郭をはっきりと俺に思い出させてくれた。


 ……あれは、夢だったのか。


「あ……ああ。悪い……驚かせたな」


 ようやく絞り出した声は、自分でも驚くほど掠れていて、かすかに震えていた。


「ううん……。怖い夢でもご覧になりましたか?」


 エレナの澄んだ瞳が、俺の心の奥底まで優しく見透かそうとしているようだった。

 あの凄惨な戦場、人を殺した生々しい手応え、そして自分自身が女の体で蹂躙された屈辱と恐怖……。

 口が裂けても、言えるはずがない。

 俺は無理やり口角を上げ、いつもの軽い口調を取り繕った。


「いや……なんだろうな。もう、忘れたよ」


 だが、指先に残る「肉を断つ感触」と、肌にまとわりつく男たちの手の記憶は、そう簡単には消えてくれなかった。


 俺は寝袋の縁を強く握りしめ、冷たい夜風を肺いっぱいに深く吸い込んだ。

 ……あれは夢だ。

 ただの、夢だ。

 そう自分に言い聞かせながらも、胸の奥に残るねばつくような感覚は、朝が来るまで俺を離れてくれそうになかった。

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