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ANgelic of the Dead  作者: 書庫
四章--死の大行進《デス・マーチング》--
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第四十九夜:あたしの戦い方

八十七名の葬儀を終えた次の日、リージュは朝から身支度を整えていた。



うーん……

右手でペタペタと叩いてみる。

痛くない。


くるくるっと肩を回してみる。

違和感なし。


それから、鞘からミセリコルドを引き抜いて、

素振りを――ひゅっ、ひゅっと振ってみた。


……うん、問題なし!


昨日の夜、ルシェルさんに腕を診てもらった時に「もう大丈夫」って言われたけど、ホントに、こんなにすぐ治っちゃうんだ……


あたしとフォスターはケガしちゃってたから、この数日はずっとお休みさせてもらってたんだよね。フォスターは昔の記録をずっと見てたみたいだけど、「おかしい場所が見当たらない」とかってぼやいてた。

あの人の怪我も、まだ完治にはもうちょっとかかるみたい。


――で、あたしは今日は早起きして、ある場所に向かってる。


腕も治ったし、あたしもジークみたいに、ちゃんと戦えるようにならなきゃ。

せめて、自分の身くらいは守れないと……!


着いた。

たぶん、ここ。

訓練場。


おさんぽは許されてたから、たまたま見つけた場所だった。

敵と見立てた的が、いくつか立ってる。

木とワラで出来てる、人型の的。

この数日で何度か見かけたけど、ギルドの人がたまーに訓練してたくらい。


その時話しかけてみたら、「今は忙しいから、時間を見つけて身体がなまらないようにしてるだけ」って言ってた。

街の防衛や復旧が優先されてるから、今はあんまり使われてないみたい。


だから……今日は、ここで練習してみようかなって。

まずは、素振りから。

あたしなりに、出来ることから。


うーん、でも流石にこの的、傷つけちゃダメだよね?


あたしは人型のワラ人形の横に立って、ゾンビのことを思い出しながら素振りをしてみた。

頭を狙う、貫くように――


ひゅっ、ひゅっ、と風を切る音だけが響く。


……うーん、やっぱり素振りだけだと、全然ダメ。

ゾンビを倒すには、ちゃんと頭を貫かなきゃいけない。

でも素振りじゃその感触が全く分からないし、当たってるかどうかも、実感がない…。


うーん…どうしよう…。

このままだと何の練習にもなってない気がするし…。

うーん……、うーーーーん……。



「朝から精が出るな」


「わっ!?」


あたしは反射的に、声がした方へ向き直り、ミセリコルドを構えていた。

目の前には、すらっとした背の高い女性――あ、あの人は…


「いやいや、特訓は感心するが、武器を向けるのは感心できないな」


……アイシスさん!


すぐに我に返って、あたしは慌ててミセリコルドを鞘に戻した。


「ご、ごめんなさい! 急に声が聞こえて、びっくりして……」


アイシスさんは、柔らかく微笑みながら首を横に振った。


「気にしないでくれ。驚いたのはこっちだが、反応としては悪くない」


ちょっと、救われた気持ちになった。

怖そうな人って印象だったけど、なんか落ち着いてて……優しいかも。


「ゾンビ相手の特訓かい、リージュ天使?」


「え、あ、はい。えと……“リージュ”で大丈夫です。その呼ばれ方、慣れない……」


アイシスさんの瞳がほんのり柔らかくなった。


「そうか、なら“リージュ女史”。訓練場とはいえ、真剣を振るうのは感心できないな」


えっ、やっぱりダメだった!?

あとじょしってなに??

あたし変なあだ名つけられがちじゃない??


……そういえば、前に見た人たちは木の剣を使ってたかも……

うぅ、やっちゃった…。


「ご、ごめんなさい、あたし、ここなら訓練できそうだなって思って……」


あたしがしゅんとしていると、アイシスさんは「ふむふむ」と頷きながら、奥の方へ歩いて行った。

何かと思ったら、大きな木箱を開けて、その中から木の剣を取り出してくれた。


「先ほどの短剣と同じくらいのサイズだ。これなら、的に当てても壊す心配はない」


差し出されたのは、やや短めの木製の剣が二本。

実際に握ってみると、ミセリコルドと似た長さで、振ったときの感覚も軽すぎず、ちょうどいいかも。


「……ありがとうございます!」


あたしはちょっと顔を明るくして、深く頭を下げた。

これなら本格的に練習できそうだ。

やる気が、少しずつ湧いてきた。



木剣を握り直し、あたしは一呼吸おいてから的に向かって踏み込んだ。


ひゅっ、と音が鳴る。

手応えはない。

まだ全然、届いてない感じがする。


「構えが少し高いな。相手がゾンビなら、体勢を崩す動きは致命になる。

身体がふらつかないよう、重心を意識するのが大切だ」


声の方を見ると、アイシスさんが腰に手を当てて、どこか楽しそうにこっちを見ていた。


「え、あ…!はい!すみません、もう一度やってみます!」


あたしは少し体勢を低くして、今度は踏み込みの重心を意識しながら斬り込んだ。


「――悪くない。ただ、もう少し“逃げ道”を考えるんだ」


「逃げ道?」


「そう。斬るのはいい。だが、当てたら終わりではない。

ゾンビは一撃で倒れないこともある。

外れたら、次の手を考えておかないと、自分が噛まれる」


……うう、確かにそうだ。

あたし、当てることばっかりに集中してた。


「だからな、特に小柄な者や力の劣る者――

リージュ女史のような戦士には、“逃げ”を意識した動きが重要になる」


アイシスさんは、自分の腰に差していた木剣を抜いた。


「よく見るんだ。私がやるのは、あくまで“女性の力でも通用する”戦い方だ」


そう言って、スッと低い構えを取り、軽く跳ねるように的に近づいたかと思えば――


パシッと的の“こめかみ”あたりを突くように斬り上げた。

すぐに体勢を引いて、背を低くして間合いを離す。


「今のは“すれ違い斬り”。当てて、すぐ離脱。

逃げながらでも狙える技だ。力が足りないなら、速さと狙いで補うんだ」


「……す、すごい……!」


「覚えておくんだ。力がないからって、斬れないわけじゃない。

特に天使の力を使えるリージュ女史なら、うまく使えば“当てるだけ”で十分な威力になるんじゃないか? 無理に力で押し込む必要はない」


あたしは素直に頷いた。

アイシスさん、やっぱりすごい…。


「じゃあ、やってみようか。構えから、ゆっくりでいい。

足の位置と、体重移動に集中して」


「はい!」


アイシスさんの動きはしなやかで、それでいてちゃんとした“強さ”があった。

今までのあたしは、ただ真っ直ぐに突っ込むだけだったけど――


今ならちょっと、“違う戦い方”が見えてくる気がする。


何度か構えと動きを繰り返すうちに、あたしの動きにも少しだけスムーズさが出てきた。


アイシスさんはそれを見て、ふっと優しく微笑んだ。


「筋がいい、リージュ女史。

さっきよりも動きが柔らかくなってる。無駄な力も抜けてきた」


「ほんとですか……? ちょっと自信ついてきたかも」


「だが、大事なのはここからだ」


アイシスさんが、手近にあった木の的をトントンと叩いた。


「当てただけでは、ゾンビは止まらない。

ましてや短剣は刺突向き。突き刺す場所が悪ければ、むしろ反撃される」


「うっ……」


「だから、確実に止める“場所”を覚えておくこと。

頭部、特に目の奥、脳に届く深さが理想。でもそれが難しいなら――」


アイシスさんは木の的の“膝”の辺りを木剣で指した。


「足を狙う。特に膝下を斬れば、ゾンビの動きは大きく鈍る。

群れの中で逃げる時間を稼ぎたいときは、迷わず足を狙う」


「なるほど……。倒すんじゃなくて、“動けなくする”のも手なんですね」


「そう。全部倒す必要なんてない。目的は“生き延びる”こと。

状況に応じて、優先すべきはなにかを見極めることだ」


あたしは短剣を構えなおして、木の的の脚に向かって素早く斬りつけてみた。

コツンという音がして、少しだけ木剣の感覚が手に残る。


「いい反応だ。足を狙うのは意外と難しい。

ちゃんと膝の位置を覚えることと、低い姿勢で入ること。

姿勢が高いと、逆に狙われやすくなる」


「ふぅ……よし、もう一回!」


構えて、踏み込んで、斬って、離れる。


一撃で決められないなら、二撃三撃で。

倒せないなら、止めればいい。


――それなら、あたしにも、戦える道がある。



「少し助言しただけなんだがな。その調子だよ、リージュ女史。いい筋をしている」


アイシスさんに褒められて、ちょっとだけ誇らしい気持ちになった。


ゾンビは、怖い。戦いも、怖い。

でも、それでも――逃げないために。


あたしも、自分なりの戦い方を身につけていきたい。



その後も、あたしは戦い方をアイシスさんから教わった。

驚いたのは、その教え方。

力任せじゃなく、あたしの身体の動きに合った戦法を、

言葉と実演を交えて丁寧に教えてくれるの。


「いいかい、リージュ女史。君の戦い方に一番大事なのは“回避”と“牽制”。

そして、決して焦らないこと」


その言葉通り、あたしの身体に教えがすっと馴染んでいくような、不思議な感覚があった。

あたしに向いているのは、一撃で仕留める戦い方じゃない。

避けて、動いて、相手の隙を見つけて小さく刺す。

そうやって確実に“生き延びる”こと。


「先ほども言ったが、正確にはゾンビの足の腱を狙うんだ。

ここを斬れば、さすがのゾンビも立っていられない。

逃げる時にも、仕留める時にも応用が利く」


あたしは木の的に向かって、アイシスさんに言われた通り斬りかかる。

一撃、もう一撃。

すこしずつ、ほんの少しずつだけど、あたしの中に“戦い方”ができていく感覚があった。


……でも。


ふと気づくと、アイシスさんの声が止まっていた。

変だな、と思って振り返ると、

アイシスさんはじっとあたしのことを見つめていて、何かを考え込んでいるようだった。


「……あ、あのっ、どこか悪かったところありました……?」


恐る恐る聞くと、彼女は少しだけ目を細めて、あたしにあるものを渡してきた。

反射的に受け取ったそれは、小さな――投げナイフだった。


「えっと、これは……?」


「ついてきてくれるか?」

それだけ言うと、アイシスさんは訓練場の少し離れた場所へと歩き出す。


着いた先には、遠くに立てかけられた一枚の木板の的。

風で微かに揺れているその中心を、アイシスさんは木剣でコツコツと叩いた。


「そのナイフで、この的を狙って投げてみてくれるか?」


えっ……?

なんでだろ……

戸惑いながらも、あたしは言われた通りに構える。


投げナイフなんて、まともに扱ったことなんてなかった。


でも――一度だけ、あった。


リディアさんに、怒り任せで、ナイフを投げたときのあの感覚。

あたしはその時のことを思い出して、ナイフを一本だけ、構えず、力も入れず、自然に投げた。


スコンッ!


「えっ……?」


自分の目を疑った。

ナイフは、的のど真ん中に突き刺さっていた。


「やはりな……」

アイシスさんが満足そうに頷いている。


「え……えっと、何が“やはり”なんでしょうか……?」


混乱してるあたしに、アイシスさんは静かに言った。


「リージュ、君は……向いているよ、投擲武器。とても感覚が鋭い。

力に頼らず、正確に狙いを定める……この訓練場でそんなふうに投げた者は、初めて見た」


「えっ……」

思わずあたしの口が開いたままになった。


あたしが――向いてる?


ほんとに……?


心臓が、少しだけトクンと高鳴った。

今後はしばらく火、木曜日の11時更新となります。

元のペースに戻せそうになり次第、お知らせいたします。


【2025年3月31日、第一夜〜第三夜 改稿リライト】リライト企画進行中(牛歩)

現在第一夜〜第三夜の文章と構成を全面的にリライトしました。

以前のバージョンを読んでくださった方も、改めて楽しんでいただけたら嬉しいです。


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https://x.com/r5mswm?s=21&t=YDHDT292BvtoU2Xhs0cHWQ

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