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ANgelic of the Dead  作者: 書庫
五章--閉ざされた国、ファルムス帝国--
155/158

第百四十七夜:死塚(しにづか)

風が、止まっていた。


高台の上。

張られた簡易拠点の布が、わずかに揺れる。


その向こう。


――それは、広がっていた。


「……」


誰も、すぐには言葉を発さない。

視界の先。

地面が、黒く沈んでいる。


いや――


“腐っている”と言った方が近い。


小さな丘のようなものが、いくつも点在している。

その一つ一つに、洞窟の様な穴が空いていた。


そこから、ゆっくりと。

紫がかったもやが、滲み出ている。


「……あれが」

ジークが、息を吐くように言った。

死塚しにづか、か……」


「ああ」

短く答えたのはアランだった。

「ネクロスの異常個体たちの発生源とされている場所だ」


それ以上の説明は無い。

だが、十分だった。


遠く。


地面を這う影が、ゆらりと動く。

人の形をしている。


だが。

歩き方が、違う。


「……生きて、る?」

誰かが呟く。


「死んでいる」

即答。


アランの声は変わらない。

「だが動く。それがネクロス共だ」


風は無い。

音も、無い。

それなのに。


“何かがいる”とわかる。


「……瘴気が、濃いな」

ミルベーナが、わずかに眉を寄せる。


「この距離でこれだ。中に入れば、まともに呼吸も出来んだろう」

「君たち天使以外は、長時間吸うと奴等の仲間になってしまう。だからこその前線拠点だ」


オルセラ将軍が視線を落とさずに言う。


「ここまでは安全圏。だが、ここから先は別だ」


『瘴気』それは黒涙湖の周りに蔓延しているものだった。

しかし、稀に地表へ噴き出る箇所が有る。

瘴気に長時間触れたものは、自我を失い、倒れ、そして蘇る。死人として。

今回の調査は『瘴気』に関してもアランは解明するつもりだ。


その時。

遠くの“穴”の一つから。

ゆっくりと。

腕が這い出てきた。


「……っ」

リージュが小さく息を呑む。


地面を掻き、引きずるようにして、一体のネクロスが姿を現す。

そのまま、ふらりと歩き出す。

この距離ともやでは、ナグリスかどうかも判別出来ない。


――どこへ向かうわけでもなく。

ただ、漂うように。


「……巣、か。だが心配めされるな!我が居れば、あの亡骸どもはすぐに殲滅してみせよう!!」

声を上げたのは、天使マグナ・ロゼリア。


アランは頷かない。

否定もしない。


「内部構造は未確認だ」

淡々と告げる。

「だが、周期的にネクロス共が発生しているのは事実だ」



――七日前。


死塚しにづかの調査に出る」


あの時。

食卓で告げられた一言。


「帰還していない調査隊もある」


資料を指で叩きながら、アランは言っていた。

「内部に関しては、ほぼ空白だ」


「……つまり?」

フォスターが眉をひそめる。

「入ってみるまでわからん、ってことか」


「そうだ」

迷いのない肯定。

「これ以上国力を下げるわけにはいかない」


「作戦開始日は七日後。死塚しにづかまでは一日の距離だ。

この数日でいつもの仕事を先に終わらせてもらう」


朝から休みだと思っていたみんなは、それぞれ顔をしかめる。

しかし、その意味は『ようやくこの時が来た』その顔だった。


「ったく、ファルムス帝国は今日もブラックだぜ」

フォスターはいつものおちゃらけたセリフを言いながらも、真剣な顔を崩さない。


「では、これより作成説明に入る――」



現在。


風は、やはり吹いていない。

だが。

“何か”が流れている。


目には見えない圧。


「気持ち……悪いな」

リージュが嫌悪の表情で吐き出す。


「当然だな」

ミルベーナが言う。

「ここは“生きている者の場所”じゃない」


その言葉を聞いていた。

ジークは、何も返さなかった。

ただ。

遠くのネクロスの群れを見ていた。


(……同じだ)


解体した、あの時と。

動き。

質感。


違いは――

数だけだ。


「……ジーク?」

リージュが小さく呼ぶ。

「大丈夫?」


「……うん」

短く答える。


だが、その視線は逸らさない。

逸らせなかった。


「準備は整っているな」

アランの声が、全員の意識を引き戻す。


「今回の調査は二手に分かれる」

「外縁部の殲滅。内部侵入し調査をする、二部隊」

「無論、天使のみでの構成だ」


その言葉に。

オルセラ部隊の一人が愚痴を吐くように、恐怖を抑え笑う。


「へへへ、マジかよ……あんなの、ただの地獄じゃねぇか」


完獣ベスティアだからわかる感覚。

『死』がそこに待っている。

オルセラ将軍の部隊は最低限のバックアップ。

あの瘴気の中闘い続ければ、死の同胞と化す。


空気が、わずかに揺れる。


「臆するな!我が同胞たちよ!」

オルセラ将軍の声で部隊に緊張が走る。


「我らが役目は、この道のりまでの天使様への力の温存!そして拠点の防衛である!

しかし、最悪の時は我らが天使様の盾となる所存!気を引き締めろ!!」


「……ウ、ウオーーーッ!!!」


オルセラ将軍の檄に士気が高まる。


「あ、あの……オルセラ将軍。あまり大きな声は……」

リリアが懸念して声を掛ける。


「問題ない。どうせ奴らはここまで来れん。士気が低いよりマシだ」

アランは死塚しにづかを見つめながら諭す。


アランが一歩前に出る。


「それでは、作戦を開始する!!」


その瞬間。

場の空気が切り替わった。

日常は、完全に消える。


残るのは。

任務だけ。



一足先に先陣を舞ったのは、マグナ・ロゼリアだった。


いかづちを守護とする我が雷槍よ――!」

「天を裂き、地を穿て!」

「全てを焼き払い、薙ぎ払え!」


「奥義!!神鳴走閃かんなりそうせん!!」


地に着く前に、マグナ・ロゼリアはいかづちとなった。

その足は止まらない。

死塚しにづかの周りに所々にいかづちが走り、そして落ちる。


その勢いは止まらない。


死塚しにづか

その“巣”へ向けて。

一行は、動き出した。


「行くぞ!!」

※2026/4月〜6月の間、どこかで1〜2週間ほど執筆をお休みします。(引越し予定)

それ以外はいつも通り、更新日は毎週火、木曜日の11時更新となります。


【2025年3月31日、第一夜〜第三夜 改稿リライト】リライト

現在第一夜〜第三夜の文章と構成を全面的にリライトしました。

以前のバージョンを読んでくださった方も、改めて楽しんでいただけたら嬉しいです。


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