第百四十六夜:遂に来た日
朝。
珍しく、ゆっくりとした時間が流れていた。
《帝国死部隊》の一階、食卓にはパンとスープ、そして簡単な焼き物が並んでいる。
窓から差し込む光が、木のテーブルを柔らかく照らしていた。
「……平和だぁ……」
思わずそんな言葉がフォスターの口から漏れる。
「どうした急に気持ち悪いこと言い出して。私たちが、平和にしているんだぞ」
向かいに座るミナが、呆れた顔でスープを口に運ぶ。
「いやだってよ、ここ最近ずっとバタバタしてたじゃねぇか。
たまの休みくらい、こう……なんだ、のんびりしたくもなるだろ」
「その“たまの休み”でも朝食に遅刻しかける奴がよく言うものだ」
「るっせぇな!」
そんなやり取りに、リージュとプルワがくすくすと笑う。
「でもほんと、こうやってみんなでご飯食べるの久しぶりだね」
「うん!なんかちょっと嬉しいかも、ファルムスに戻る時以来かなぁ?」
プルワはそう言いながら、パンをちぎってスープに浸している。
お手伝いのエドナが用意した朝食は、どこか懐かしい味がした。
「……あれ、ジークは?」
オレが周りを見渡すと、ちょうど奥の階段からジークが降りてきた。
「おはよう、みんな。ごめん、ちょっと遅れた」
「おあよ〜。今日は休みだろ? そんな急がなくてもいいのによ。
オレは嫌味を言われたけどな……」
「小さいやつだな」
「いちいち絡んでくんじゃねぇ〜!」
フォスターとミナが笑いながらお互いの悪口を言っている。
「あはは……仲良いね。昨日は寝るのが遅かったから、寝坊しちゃった」
「きゅー!」
そう言いながら席についたジークは、少しだけ考え込むような顔をしていた。
「どうかしたの?」
リージュが首をかしげる。
「うん、昨日帰りにアランから。“午前中は皆外出しないように”って言われたんだ」
「は?なんだそれ」
思わず声が出るフォスター。
「理由は?」
ミナが短く問う。
「詳しくは聞けなかったけど、“話がある”って。
それで全員揃う時間を見て来るって言ってたよ」
一瞬、空気が少しだけ引き締まる。
「……珍しいな、あいつがわざわざこっちの時間に合わせるなんて」
フォスターが呟くと、ミナも小さく頷いた。
「確かにな。いつも自分の都合で動く男のイメージが強い」
「えー、なんだろう? また追加のお仕事かなぁ?」
リージュが少し不安そうに言う。
「変なのしか持ってこねぇだろ、あいつは」
「否定できないのが嫌だね……」
ジークが苦笑する。
その時だった。
――コンコン、と扉がノックされる。
「来たか」
ミナが立ち上がるより早く、扉が静かに開いた。
「全員いるか」
淡々とした声。
そこに立っていたのは、予想通りアランとリリアだった。
「おはよう、みんな」
相変わらず無表情で、手には何枚かの紙を持っている。
「全員揃ってるな。時間を取らせ……一人居ないか?」
「あー、フォルスティンなら二日前から休暇だしてたぜ、知り合いに会いに行くとかで」
「む……まぁ後で話せば良いだろう。今回は天使中心の話だ」
オレがそう言うと、アランは室内を一瞥してから口を開いた。
「結論から言う」
一瞬の間。
「――死塚の調査に出る」
その言葉に、場の空気が一気に変わる。
リージュが小さく息を呑み、プルワの手が止まる。
ジークの表情も、わずかに強張った。
ミナだけは、静かにアランを見据えている。
「……ようやく来たか」
低く、短くそう言った。
「準備は進めていた。あとは調査に動くだけだ」
アランはそう言って、手に持っていた資料をテーブルに置く。
「今回の調査は、これまでの任務とは別格だ。
危険度も、優先度も高かったが、ようやく追いついた」
その言葉の重さに、誰も軽口を挟まない。
さっきまでの穏やかな空気は、もうどこにもなかった。
フォスターはパンを一口かじってから、ゆっくりと息を吐く。
「……はぁ。やっぱ休みって感じじゃねぇな」
「午後は自由にしていい、調査前に休息をしておけ」
即答するアラン。
「へいへーい」
思わず愚痴と笑いが漏れた。
――でも、嫌じゃなかった。
むしろ。
「で? 調査は誰が行くんだ」
オレはそう言いながら、椅子に深く座り直す。
日常は、終わった。
ここからは――仕事だ。
※2026/4月〜6月の間、どこかで1〜2週間ほど執筆をお休みします。(引越し予定)
それ以外はいつも通り、更新日は毎週火、木曜日の11時更新となります。
【2025年3月31日、第一夜〜第三夜 改稿】リライト
現在第一夜〜第三夜の文章と構成を全面的にリライトしました。
以前のバージョンを読んでくださった方も、改めて楽しんでいただけたら嬉しいです。
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