第百十七夜:レクイエム(鎮魂歌)
明けましておめでとうございます。
本年も、ANgelic of the Deadを、どうぞ宜しくお願いします。
「……前のに、似てる」
気づいたら、ぽつりと口から言葉が漏れてた。
「確かに、同じ“ミセリコルデ”だからな。慈悲の短剣――とも呼ばれている」
ミナが隣で頷きながら、あたしの背中をそっと押すように言った。
「手に取ってみたらどうだ?」
うん、と自然に頷いてた。
目の前の木箱から、指先が吸い寄せられるみたいに――
あたしはその短剣……いや、“レクイエム”を手に取った。
細い刃と柄。
でも不思議と、頼りない感じはしなかった。
柄の先には、ちょうど中指にはまりそうなリングがついてる。
なんとなく気になって、そこに指を通してみた。
「……ん?」
軽く引いてみた瞬間、シャラッと細い金属音。
柄の内側から、鎖がスルスルと伸びてきた。
「……わ、不思議。こんな小さな短剣なのに、どこから鎖が出てるんだろ?」
ただの独り言のつもりだったけど――
「お、お、お、お嬢ちゃん!?な、なんで使えてんだ!?」
店主のおじさんが、めっちゃ目を見開いてる。
「えっ?へ?え??」
あたしも目が点。
「え、ただ鎖が出てきただけだよ?使ってなんか――」
でも、手に馴染む。
すっごく、馴染む。
あたしにとって自然な動きだ。
……投げてみたら、どうなるんだろう?
ちょうど奥に弓の的がある。試すには十分。
「えいっ!」
力を込めて振った瞬間、レクイエムが空を裂いて飛んだ。
『パッカーン!!』
的のど真ん中に突き刺さって、そのまま真っ二つに割った。
「ふぁっ!?」
変な声が出たのはフォスター。
……うん、わかる。
あたしもちょっとびっくりした。
でも、もっとびっくりなのは――
レクイエムの鎖がぴんっと張って、あたしの中指とつながってたこと。
「……っ」
思わず右手を引くと、短剣が空中を弧を描いて戻ってきた。
吸い込まれるみたいに、あたしの手の中へ。
「……すごい……」
ジークの声。後ろでみんなが静かに息を呑んでるのが分かった。
「……あれ? もしかして、コレ……使えてる……の?」
信じられない。でも、確かに――そう感じた。
少しの沈黙のあと、フォスターが破顔して叫んだ。
「スゲーよ姫!弓の的が壊れるくらいの威力だぞ!?めちゃくちゃ使いこなしてるって!」
「お、大げさだなぁ……」
でも、ちょっとだけ……嬉しい。
「こりゃたまげた……お嬢ちゃん、相当ソイツと相性が良いみたいだな」
おじさんも苦笑しながら言ってくれる。
「……ふふっ、決まりだな。気に入った?リージュ?」
ミナの声。優しくて、後押ししてくれるようで――
うん、と力強く頷いた。
ピンクとゴールドの装飾もあたし好み。
なにより、この子が――呼んでくれた気がした。
「うん、この子が良い!」
「よっしゃ!お買い上げ、ありがとうございます!」
おじさんが上機嫌に笑って、木箱の蓋を閉じる。
「……よろしくね、レクイエム」
あたしはそっと短剣に呟いた。
投げても戻ってきてくれる短剣――
もしかして、あたしにピッタリかも……!
リージュの新たな武器を手に入れ、一行は《帝国死部隊》の庁舎へと向かっていた。
馬車をそこに預けてあるのだ。
朝の光が街の石畳に反射し、まだどこか静かな空気が漂う中――
「良い買い物をしましたね」
フォルスティンが横を歩くリージュに笑いかける。
「うん、すっごく手に馴染むよ。それに――ほら!」
リージュは軽く跳ねるような足取りで、腰に差したレクイエムを引き抜いた。
短剣を器用にクルクルと回転させ、そのまま逆手に構える。
「こんなこともできちゃう!」
ポーズもばっちりだ。
「おお、これは見事。魔具と相性が良いと、ここまで扱い方に違いが出るんですね」
さすがの物知りフォルスティンも感心している様子だ。
だが、そこにすかさずミルベーナの指摘が入る。
「リージュ、嬉しいのは分かるけれど――街中で刃物を振り回さないようにね」
「あっ、ご、ごめんなさい!」
ぱっと周囲を見回して、ぺこりと頭を下げるリージュ。
幸い、通行人たちはあまり気にしていないようだが――目立つのは確かだった。
その様子に苦笑しつつ、フォルスティンがふと思い出したように尋ねる。
「でも、お高かったんじゃないですか? あれほどの魔具ですし」
会計を担当していたミルベーナが静かに頷いた。
「そうだな。ただ、相場よりはずっと安かった。
あの魔具、使い手が現れずにずっと売れ残っていたらしい」
「おや、それはまた……武器にも縁というものがあるんですねぇ」
「まぁでもよ……」
横からフォスターが補足する。
「お得意様になってくれーって言われたぜ。
鍛治士もいるし、特注武具も作れるからって、店主の営業トークすげーのなんの」
「ふふっ、しばらくはファルムスに滞在する予定だ。良い武器屋と繋がっておくのは悪くない。
だからこちらも、多少は色をつけて払っておいたよ」
流石はミルベーナ。先を見越しての判断だった。
通りの角を曲がりながら、ジークがふと思い出したように言う。
「そういえば、ロゼリアさん。書簡できたかな?
朝、馬車を預けた時は“もう少しで完成する!”って……」
「そういや、あのブッ飛び姉ちゃん、今日はいつものモードに戻ってたな……」
フォスターがぽつりと呟く。
「ちょっと中身が心配になってきたぞ……」
“ブッ飛び姉ちゃん”。
窓を割って部屋に入ってきた印象からすれば、まったく的外れでもない。
リージュも思わず口元を押さえて笑ってしまう。
その時だった。
「……あ、言ってたらロゼリアさん見えてきたよ!」
ジークが前方を指差す。
通りの先、《帝国死部隊》の門の前に、見覚えのある青髪の姿が立っていた。
空のような青い鎧が、朝日に反射してわずかに輝いていた。
更新日は毎週火、木曜日の11時更新となります。
元のペースに戻せそうになり次第、お知らせいたします。
【2025年3月31日、第一夜〜第三夜 改稿】リライト
現在第一夜〜第三夜の文章と構成を全面的にリライトしました。
以前のバージョンを読んでくださった方も、改めて楽しんでいただけたら嬉しいです。
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