第百十六夜:新しい武器
翌朝、一行は武具街へと足を運んでいた。
目的はリージュの新しい武器を選ぶこと。
昨日、ミルベーナとフォスターが先に立ち寄っており、店主には話を通してある。
時間はまだ早く、人通りもまばらな中リージュが小さく唇を尖らせた。
「ミセリコルデ、お気に入りだったんだけどなぁ」
少し名残惜しげに腰の壊れかけた短剣を撫でる。
「しゃーねーよ。使い続けたら逆に直せなくなんぞ」
大きなあくびを噛み殺しながら、フォスターが気だるげに返す。
「短剣なのだからそれは護身用に回すといい。
普段携える分には、そこまで邪魔にはならないだろう」
ミルベーナが冷静に助言を加え、皆が頷いたところで――
「ここだ」
通りの一角に建つ、やや古びた看板の下でミルベーナが足を止めた。
扉を押し開けると、低く渋い声が店内から響く。
「おう、嬢ちゃん。いくつか用意してるぜ!」
強面の店主が笑顔で応えると、カウンターの下からいくつかの武器を取り出して並べた。
二本の短剣、一本の細身の剣、そしてコンパクトなクロスボウ。
「どの子が使うんだ? 猫の嬢ちゃんか? 犬の嬢ちゃんか?」
次の瞬間――
「僕、男ですから!!」
ジークの怒号が、店内を突き抜けた。
凄まじいオーラが全方位に炸裂する。
ガチャン――と何かが棚から落ち、ギシ……とジークの足元の床が軋む。
「おいおいおっちゃん、挨拶でいきなり地雷踏むなよ……」
フォスターが苦笑しながら肩をすくめ、リージュの背を軽く押して前に出す。
後ろではフェリオがてしてしとジークの頬をたたいてなだめているが、全く効果は無い。
「ど、どうしたんだ?ジークは……」
ミルベーナが小声で問いかけると、リージュもそっと耳打ちする。
「いや、あたしも昨日知ったんだけど……ジーク、女の子に間違われるの、すっごい嫌みたい……」
「ジーク兄ちゃんの地雷……」
小声で頷くプルワ。
きょとんとした表情が逆にジークの笑顔で怒りゲージを加速させていく。
その横では、半笑いしながらフォルスティンが静かに口元を隠していた。
「まあ、どちらにせよ可愛いというのは褒め言葉なのですがね」
「そのフォローが一番傷えぐるタイプだぞ……」
フォスターがため息交じりに呟く。
そんな混乱の最中、店主は全く悪びれる様子も無く、武器を一つずつ指さしながら解説を始めた。
「どうだい、実際触ってみな?」
武具屋の店主がごつい腕を組みながら問いかける。
並べられた、二本の短剣、細身のレイピア、そして小ぶりなクロスボウ。
あたしはとりあえず、短剣の一本を手に取った。
手首のスナップで軽く構え、刃の形状をじっと見る。
あたしが今使ってるのは、両刃で真っ直ぐ――とにかく刺すことに特化した細身の短剣。
だけどこれは……
「片刃……刺すよりも、斬る短剣……なのかな?」
そう呟いたあたしに、ミルベーナが補足を入れる。
「そうだな。もちろん刺突も可能だが、これは主に斬撃を狙う設計だ。
二刀で斬る型が想定されているだろう」
構えを数回試してみたけど、どうにも手応えが軽すぎた。
あたしは短剣を元に戻し、今度は細い剣を鞘から引き抜いた。
細身で長く、優雅な曲線。
「レイピア、レディソードなどと呼ばれる物だな」
レディソード……ミナが言うその言葉通り、いかにも貴族が所持していそうな“綺麗な剣”だ。
店主のおじさんが顎で奥を指す。
「奥に試し切りできる場所がある、使って構わないぜ」
あたしたちは裏手の訓練スペースへ移動した。
木の床に整然と並べられた藁人形のカカシたち。
……アイシスさんと訓練してた時も、こんなの使ったっけ。
懐かしさに胸がちくりと痛む中、あたしは一つ一つの武器を試した。
片刃の短剣、レイピア、クロスボウ――
動きを確かめながら、振って、斬って、撃ってみる。
でも……
「どうだ、リージュ?手に馴染むものはあったか?」
ミルベーナの問いに、あたしは苦笑いしか返せなかった。
「……ううん、ダメ。
短剣は今までと扱い方が違うし、レイピアは……なんて言うか、長すぎる。
重心も変だし……」
結局、どれも“これだ”って感じじゃなかった。
「なぁ姫、クロスボウはどうなんだ? コンパクトだし、連射もきくみたいだぞ?」
フォスターが軽い調子で肩をすくめる。
「うーん……上手く当たらないんだよね。
ナイフと違って、勝手に飛んでっちゃうから、狙ったところに当たらないの」
自分の手から“放つ”感覚に違和感があった。
ナイフなら、狙って、投げる――その一瞬に“自分”がいる。
でも、クロスボウは……どこか、他人任せみたいで、しっくりこなかった。
「ふむ……リージュは意外と感覚で武器を使うタイプなのだな」
ミルベーナが小さく頷く。
「となると、いきなり武器を変えるのは得策では無いかもしれん。
自分の動きと合致してこそ、真価を発揮するものだ」
みんながそれぞれに考え込む中、武具屋の店主がふいに言った。
「……ちょっと待ってな」
そう言うと、彼は無骨な背中をカウンター奥へと消していった。
何か、別の選択肢があるのかもしれない。
あたしたちは静かに、次の一手を待った。
「ほれ、とっときの品だぜ」
おじさんがそう言って持ってきたのは、小さな木箱だった。
重厚な留め金を外し、パカッと蓋が開かれた瞬間――目に飛び込んできたのは、装飾の施された一本の短剣。
刃の根元から柄にかけて、柔らかなピンクと鈍く輝くゴールドが流れるように混ざってる。
派手なのに、なんだろう……優しい。
「慈悲の鎖剣――またの名を『レクイエム』って呼んでる魔具だ」――またの名を『レクイエム』って呼んでる魔具だ」
ミナがそっと手を伸ばして、柄に触れる。
「魔具か……こういう類のものは、使い手を選ぶからな。リージュが扱えるかどうか……」
「そうなんだよな」
おじさんが鼻を鳴らす。
「たまーに、鍛治職人がこういうのを作るんだけどよ。
客が見た目気に入っても、武器に認められねぇと使いこなせねぇんだよな」
……魔具。
意思を持つ武器。選ぶのは、あたしじゃなくて――あっち。
なのに、あたしの視線はもう、そこから外せなかった。
金属の冷たさとは違う、どこか懐かしい光がそこにあった。
まるで呼ばれてるみたいに。
今年一年、ANgelic of the Deadをご覧いただき、ありがとうございます。
まだまだ彼らの旅は続きますので、良ければ来年も、最後までお付き合いくださいませ。
【2025年3月31日、第一夜〜第三夜 改稿】リライト
現在第一夜〜第三夜の文章と構成を全面的にリライトしました。
以前のバージョンを読んでくださった方も、改めて楽しんでいただけたら嬉しいです。
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