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ANgelic of the Dead  作者: 書庫
五章--閉ざされた国、ファルムス帝国--
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第百十二夜:感染被害

夕暮れの街に、血と恐怖の名残が滲んでいた。


屋根伝いに移動しながら状況を見下ろした時、すでに勝負はついていた。

フォスターが最後のネクロスを切り伏せた直後だった。


……フォスター、間に合ってた……?

そう思ったのも束の間、胸の奥に残る重さは消えなかった。


不幸中の幸いだったのは、ネクロスが街の奥深くまでは入り込まなかったことだ。

被害は、衛兵一名、市民二名。

決して小さくはないが、もし侵入に気付くのがもう少し遅れていたら、被害は倍どころでは済まなかっただろう。


フォスターとミルベーナの動きは、正直、圧倒的だった。

迷いがなく、判断が早い。

二人が前に出たことで、街は守られた。


だけど――


地上で、フォスターが兵士たちと激しく言い合いになりかけているのが見えた。

助けたはずの市民が、連行されていく光景。

理屈では理解できても、感情が追いつかない場面だった。


その時、ロゼリアさんが割って入った。

派手な登場、相変わらず大きな声。

でも、指示は的確で、迷いがなかった。


……この街の天使なんだ。

あの人は。


フォスターもミルベーナも、最終的にはロゼリアさんに場を任せ、宿屋街の方へ向かっていった。

あの判断は正しかったと思う。

これ以上感情でぶつかれば、余計に事が拗れていた。


正直、フォスターたちに合流したかった。

フォスターの横に立って、言葉を添えたかった。


でも、街全体がざわついていた。

憲兵が走り、灯りが増え、人々が扉を閉めていく。

今は、誰かが“静かに引く”役目も必要だった。


だから、リージュとプルワを連れて、僕たちはそのまま宿屋街へ向かった。


屋根の上から見たヴァルカンは、昼とはまるで違う顔をしていた。

鍛治の街。

強さを誇る街。


その裏で、恐怖を押し込めて成り立っている街。


……この街で、この国で、僕たちは何を守ることになるんだろう。


夕焼けが消え、夜が降りてくる。

その境目を、屋根の上で静かに越えながら、僕はそんなことを考えていた。



宿屋で合流を果たした一行は、男子部屋に集まっていた。

部屋の中央には簡素なテーブル、その周りに椅子を引き寄せ、緊張が解けきらないまま腰を下ろしている。


「なんなんだよアイツら!」

最初に声を荒げたのはフォスターだった。椅子に浅く腰掛け、苛立ちを隠す気もない。

「助けた人間を、まるで罪人みてぇに連れて行きやがって……!」


その向かいで、フォルスティンは優雅に紅茶を口に運んでいた。

湯気の立つカップを置き、落ち着いた声で口を開く。


「治外法権、というものですよ。郷に入っては郷に従え。この国では、ごく当たり前の判断です」


一瞬、空気が張り詰める。

だが、フォルスティンの言葉は続いた。


「感染被害というのは、疑わしきは隔離する。

それを徹底しなければ、被害はねずみ算式に広がっていく。感情論では防げない領域です」


理屈としては、正しかった。

フォスターも、ジークも、それは理解している。


「それに……」

フォルスティンは少しだけ声の調子を落とす。


「噛まれた事実を隠し、静かに死を待つ者もいます。

運命を受け入れられず、周囲に黙ったまま……そうして、最悪の結果を招く」


その言葉に、フォスターとジークの表情がわずかに曇った。

思い当たる節があったからだ。


まだ二人だけで旅をしていた頃。

ある村で、感染者を匿っていた住民たちがいた。

あの時は、ジークの力があったからこそ、事態を食い止められた。


――もし、あの場に自分たちがいなければ。

村ごと失われていても、おかしくはなかった。


「……わかってるよ」

フォスターは低く呟いた。「理屈は、な」


短い沈黙が落ちる。


「ところで」

その空気を切るように、ジークが口を開いた。


「どうやってネクロスは外壁を越えてきたんだろう?」


その問いに、ミルベーナが静かに応じる。


「その件も含めて、後ほどロゼリア殿が説明に来る予定だ」


その声音には、いつもの皮肉や冗談はなかった。

街中への配慮――あるいは、状況の重さを理解してのことだろう。


部屋には再び静けさが戻る。

それぞれが、今日見たもの、選ばれなかった選択、そしてこの街の“やり方”を胸の内で反芻していた。


夜は、まだ長い。

更新日は毎週火、木曜日の11時更新となります。

元のペースに戻せそうになり次第、お知らせいたします。


【2025年3月31日、第一夜〜第三夜 改稿リライト】リライト

現在第一夜〜第三夜の文章と構成を全面的にリライトしました。

以前のバージョンを読んでくださった方も、改めて楽しんでいただけたら嬉しいです。


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