第百九夜:禁句
ズドォォォン!!!
石畳を揺らすほどの衝撃とともに、身長二メートル越えのモヒカン巨漢が吹っ飛んだ。
ジークの芯のブレない上段蹴りが、見事にアゴへクリーンヒットしている。
倒れた巨漢の周りで、モヒカンの仲間と思われる三人組が騒ぎ出した。
「レッ、レッドの兄貴ィーー!!」
「お、おい!あの嬢ちゃんヤバくねぇか!?」
当の本人、ジークは本気で困ったように溜息をつきながら言う。
「……全く。僕は男なんですけど!!」
その一言で、野次馬がざわめいた。
「え、男なの?」
「うそー、あんなに可愛い顔してるのに……!?」
「いやそこじゃねぇよ!!あの蹴りだよ!!」
状況は完全にカオスだった。
そして事の起こりはーー少し前に遡る。
ーーリージュ
ーー油断してたら、事件が起きたーー
久々だなぁ……ジークと二人で(いや、プルワとフェリオもいるけど)街を歩くの。
なんか、デートみたいでちょっと楽しい。
そういえば、さっき街に入る時に思ったんだけど……
「ねぇプルワ、この壁、なんか“ねずみ返し”みたいになってたのって何で?」
壁の上部に金属製のトゲがずらーっと並んでて、見張りもめっちゃ多かった。
気にならないわけがない。
「そういえばあったね、変なトゲトゲ。見張りの人も多かったし……」
ジークはこういうのよく見てる。
ほんとすごい。
「うーん、オイラも街中は初めてだし、よくわかんない。
昔はあんなの無かったと思うけど……」
プルワも知らないってことは……最近作られたのかな?
「でもなんか、急ごしらえって感じだったよね」
ジークの観察眼は本当に頼りになる。
あたしじゃ気付けなかった。
そんな話をしていた、その時。
「きゃっ!」
しまった、ボーッとしながら歩いてて、人にぶつかっちゃった。
「ご、ごめんなさ……」
「あぁん? どこ見て歩いてんだオラァ!! 」
「いっったぁぁ!!ひざが割れたぁぁ!!」
「おい、大丈夫かイエロス!!」
え……何この “絵に描いたようなチンピラ三人組”。
モヒカン、ちっちゃいおじさん、根暗そうなお兄さん……フルコンボだ。
「おいねぇちゃん!!ウチの舎弟に何してくれんだ!!治療費よこせや!!」
「大丈夫か、イエロス!?」
「痛いよ〜痛いよ〜」
いや絶対ウソでしょ!?
『痛いよ』めっちゃ棒読みだし。
そこまで強くぶつかってないしー……
と思ったら、すっとジークが前に出てきた。
「その人、わざとリージュに近寄って当たりましたよね?
転んだ時も……ひざじゃなくて“背中側”でしたけど」
えっ?そうだったの?
ていうかジーク……かっこよすぎない!?
「んだとぉ!!イチャモンつけんのか嬢ちゃん!!」
……嬢ちゃん?
誰のこと?
『ピキッ』
空気が凍った音がした気がした。
ジークの微笑みが……笑ってない。
「お仕置きが必要みてぇだなぁ!!」
モヒカンがジークにビンタしようとした。
次の瞬間。
ズドォォォン!!!!
モヒカン男が宙を舞ったのだった。
「……“嬢ちゃん”じゃありません。僕は男です」
「レ、レッドの兄貴ィーー!?」
倒れたモヒカン男は白目をむいて完全に伸びてる。
でもそれより……怖い。
ジークの笑顔が、なんていうか……凍った炎みたいに静かで、熱くて、怒ってて。
あたしもプルワも、同時に“ひっ”って声を飲んじゃった。
「こ、このアマー!!」
さっきの小さなおじさんが、わざとらしく膝を押さえてたヤツだ。
その人がナイフを抜いてジークに突っ込んでくる。
「ジーク!!」
叫んだ瞬間ーー
もう遅かった。
ジークは一歩横に滑るみたいに避けて、ひょいと足を引っ掛けて転ばせ、
そのまま峰打ちみたいに靴底で背中を押さえつけた。
「だから男だって言ってるでしょ。
……あと膝はどうしたんだよ、膝は?」
声が、低い。
あ、これ本当にキレてるやつだ……!
プルワがあたしにしがみついてきて、
フェリオまでいつの間にか肩に乗ってきて「きゅ〜……」ってため息みたいな鳴き声を出した。
なんでため息?
なにその悟った顔。
「くっ、くそ……ならこっちの女を……!」
残りの根暗そうな人が、ナイフ持ってあたしに突っ込んでくる。
プルワを守らなきゃ!
投げナイフ……!
アイシスさんに教えてもらったあの技を今ならーー
バキィッ!!
「えっ……?」
あたしがナイフを抜くより早く、横から風みたいにジークが飛んできて、くるんと回し蹴りを叩き込んでいた。
……さっきまで怒ってたのに、動きが綺麗すぎ。
地面に転がった三人を眺めつつ、ジークはひと息ついた。
「ふぅ……ちょっとやり過ぎちゃったかな。
大丈夫?リージュ、プルワ」
声が柔らかい。さっきまでの怖さはどこへやら。
そのギャップでさらに心臓が忙しい。
「だ、だいじょ……いや、えっと、あの人たちの方が大丈夫!??」
ようやく口が動いたけど、もう遅い。
蹴りの勢い、ゾンビに使う時と絶対変わんないよねアレ。
ジークの蹴りってゾンビの頭吹っ飛ばしたりするんだよ??
「え?あぁ、ちゃんと手加減はしたよ。
流石に全力は出さないって」
……いや、手加減であんな吹っ飛ぶの……?
“女の子呼ばわり”ってやっぱりジークの逆鱗なんだ……
そう思っていると。
「おい!!そこで何をしている!!」
えええええ、憲兵さん!?
あの甲冑、絶対本職だよ!
「ど、どーしよ、どーしよーー!」
プルワが慌てて跳ね回る。
「まずいな……リージュ、ちょっとごめんね」
「えっ な、なにーーきゃっ!?」
突然、体がふわりと浮いた。
え、え……お姫様だっこ!??
「プルワ、背中に捕まって!」
ジークはあたしたちをまとめて抱え込むと、そのままひと蹴りで屋根へジャンプした。
街の屋根瓦が近づいて、ふわりと浮く感覚がして。
怖いのに、胸がちょっと高鳴って、風がくすぐったくて。
夕焼けの空が広がっていた。
橙色の光が、ジークの横顔に輪郭を作ってて。
あたしは、息をするのも忘れそうだった。
「きゅーー!!」
フェリオもなぜか超ご機嫌だった。
……うん、色々すっごかった。
でもなんか……すごく楽しかったかも。
更新日は毎週火、木曜日の11時更新となります。
元のペースに戻せそうになり次第、お知らせいたします。
【2025年3月31日、第一夜〜第三夜 改稿】リライト
現在第一夜〜第三夜の文章と構成を全面的にリライトしました。
以前のバージョンを読んでくださった方も、改めて楽しんでいただけたら嬉しいです。
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