第百七夜:鉄の街ヴァルカン
ルミナリエの泉を後にして数時間。
山肌が赤銅色に変わりはじめる頃、一行の前に“巨大な溶岩城塞のような都市”が姿を現した。
煙突の煙が空へ立ち上り、重厚な金属音が絶え間なく響いている。
「諸君!!ここが我が守護するヴァルカンの街だ!!」
ロゼリアが胸を張って指し示す。
街の騒音が大きすぎて、あの声ですらやっと聞こえる程度だ。
「この街は武具の創生者が多く、その輝きもファルムス一なのだ!!」
ジーク、リージュ、プルワがぽかんとする。
フォスターが頭をかきながら小声で説明した。
「つまりだな……鍛治職人がバカみてぇに多くて、
武器と防具がこの国で一番すげぇ、って言いたいんだろうよ」
「あ、なるほど……ロゼリアさん語だと難しいね……」
リージュは苦笑いを浮かべた。
ミルベーナは街を観察しながら、ホムラノからの話を思い出していた。
(帝国の兵が多い……ゾンビ対策ではなく、街そのものの統制のためか。
確かに独立国家と呼んでも差し支えないほど、帝都の干渉が強いな……)
街中に入り、宿を探そうとしていたその時だった。
「ロゼリア天使!!」
鋭い声が通りを切り裂くように響いた。
振り返ると、緑髪を三つ編みにした眼鏡の女性が、
《帝国死部隊》の制服を揺らしながら駆け寄ってくる。
「こ、これはこれはロミナ嬢!流星号は役目を果たせたかな?」
ロゼリアの表情が一瞬ひきつる。
ロミナと呼ばれた女性は、頬をひきつらせながら怒りを爆発させた。
「また無茶苦茶して!!この左遷天使!!」
ロゼリアと遜色ない大声。
街の金属音をかき消して響き渡る。
「左遷天使……?」
耳を塞ぎながらジークが呟く。
「あと都合のいい時だけ“嬢”を付けるんじゃなーーい!!
ステラちゃんに大籠を無理矢理引っ張らせたせいで、中の野盗たちは全身打撲!!
見た目が野盗だからって問答無用で運んで来たら、取り調べ以前に全員喋れない状態なんですよ!!
どうするんですかーー!!」
火山が噴火したかのような怒号。
ロゼリアは背筋を伸ばしたまま痙攣し、ガクガク震えだす。
「ヒィィィィッッ!す、す、す、すびばぜーーん!!」
今まで見た誰より情けない声を出しながら、ロゼリアが地面に頭をこすりつける。
一行は完全に置いてけぼりだ。
フォスターが呆れ顔でつぶやく。
「……おいおい、天使が偉いわけじゃねぇけどよ、なんであんなに怒鳴られてんだ?」
「ひ、人の上下関係って奥深いね……フォスター……」
ジークが震えながら返す。
リージュは小声で提案した。
「……ねぇ、ちょっと街、見て回ろうか……?」
その言葉に、全員が迷いなく頷いた。
(今ここにいるのは危険だ……色んな意味で)
一行はすっと横に抜け、
後ろではロミナがさらに烈火の如く叱り続け、ロゼリアが地面に額をこすりつけていた。
「や、やめてロミナ嬢!顔が……顔面を擦り下ろさないでぇぇぇ!!」
街の入口で、容赦ない説教が今日も響き渡っていた。
ミルベーナたちは、まだロゼリアが怒鳴られ続けている背後をそっと離れた。
ヴァルカンの街は、先ほど見えた通り、火山岩で作られた建物がびっしりと並び、
至るところから鉄を打つ音と熱気が溢れていた。
「ビックリしたー、ロゼリアさんにも怖いものあるんだね」
リージュが肩をすくめる。
「左遷天使って言われてたよね。どういう意味なんだろ?」
ジークが不思議そうに首をひねった。
「ま、色々あんだろ。ここは地元らしいし」
フォスターが気の抜けた声で返す。
「あははははっ、面白いものを見せてもらいましたよ」
フォルスティンは腹を抱えて笑いっぱなしだ。
「ふぅ……」ミルベーナは眩しい街の光を見ながらため息をついた。
「フォルスティン、まだ明るいから街を見てまわりたい。別行動で構わないか?」
「はい、構いませんよ。ここには宿屋街があるので、そこでこの馬車を見つけてください」
「助かる」
「あー、あたしも行くー!」リージュが手を挙げる。
「お、オレも行くぜ」フォスターも軽々と続く。
結局、みんな馬車から降りてしまい、
フォルスティンだけが「おやおや」と笑いながら馬車を進めて行った。
街の熱気が肌を刺す。鉄と油の匂い、溶岩のような赤い光。
ミルベーナはふと、鍛治場の火花に目を奪われた。
「鍛治の街か……少し昂るな」
戦士の血が騒ぐのか、珍しく目が輝いている。
「じゃ、みんなで見てまわろ!」
とリージュが明るく言ったその瞬間――
「待って!」
プルワがピタッと立ち止まった。
全員が振り向くと、プルワは珍しく真剣な顔つきで言った。
「それ、あんまり良くないかも……前にも言ったかもだけど、
ファルムスは“人間族と獣人族”が一緒なの珍しいんだ。
悪い人に絡まれやすくなるし、できるなら分かれた方が良いと思う……」
その言葉で、イスナーヴの宿屋での嫌な視線を思い出す一行。
「あ、そっかぁ……」
リージュは困った顔をしたが、次の瞬間には決断していた。
「じゃあ、あたしとプルワとジークで一緒に行こう。
そっちはミナとフォスターなら大丈夫かな?」
「うん、それなら大丈夫。あと何か聞いたり買うなら、同じ種族の人を選んでね」
プルワがきっちり補足する。
フォスターがその頭を大きな手でわしゃわしゃと撫で回す。
「良いガイドだ♪流石だな、プルワ」
「ぬわー!やーめーろーよー!」
とプルワが飛び跳ねる。
二組に分かれ、一行はヴァルカンの街へと散った。
「また後でねー!」
リージュの声が熱気の中に響き、鉄の街にこだましていった。
更新日は毎週火、木曜日の11時更新となります。
元のペースに戻せそうになり次第、お知らせいたします。
【2025年3月31日、第一夜〜第三夜 改稿】リライト
現在第一夜〜第三夜の文章と構成を全面的にリライトしました。
以前のバージョンを読んでくださった方も、改めて楽しんでいただけたら嬉しいです。
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