第百六夜:泉を後に
翌朝 ―― ルミナリエの泉を後にして
夜明けの薄光が泉の面に揺れ、昨夜の神々しい光の名残がまだ残っている。
神と大天使との邂逅はあまりに突然で、そして強烈だった。
だがその重さとは裏腹に、一行の目覚めはどこか軽かった。
ミルベーナもゆっくりと上体を起こす。
昨夜まであれほど苦しめられていた頭痛が、すっかり引いている。
「……体が、軽いな」
リージュが笑いながら駆け寄る。
「だよね!ミナ、顔色すっごく良いよ!」
フォスターは御者台の荷物をまとめながら振り向いた。
「ま、神様自ら治療に加わってくれたようなモンだしな。これで治ってなきゃ逆に驚くぜ」
ジークも頷きながら馬を撫でている。
「ユグドラシル様の光……あれはほんと、すごかった……」
――そして、馬車が動き出す頃合いを見計らって。
ロゼリアが胸を張りながら先導しつつ、ミルベーナへ問いかけた。
「さてミルベーナ殿!昨夜のこと、どこまで覚えている?」
「……ちゃんと覚えているよ。まさか、あの場に唯一神と大天使が来られるとは思わなかったが」
フォスターが鼻を鳴らす。
「驚いたのはオレらもだよ。よりにもよってサリエルだけならともかく、
“神様とご対面”とか聞いてねぇっての」
「あはは……でも、ちゃんと話してくれたでしょ?」
ジークが昨夜の説明をまとめるように座りなおす。
そして――
一行はミルベーナに、あらためて“正式な情報”を共有した。
● 天使に選ばれた者は、力の代償として記憶を喪失する。
● リージュは特異な存在であり、喪失範囲が大きい。
● 世界には“新たな理”が迫りつつある。
● ファルムスはその渦中に入りやすい土地で、調査と救済が必要。
● 女神ユグドラシルは、それを新たに“天使四名”に託した。
ミルベーナは静かに聞き終え、目を伏せる。
「……しかし、リージュの記憶が特に欠けていた理由が力の強さと相まっていたとは……」
リージュは少し不安げに手を握りしめた。
「……あたし、迷惑かけてばっか……」
ミルベーナはその手をそっと包む。
「気にするな。リージュは私たちに頼れば良い。
女神ユグドラシルも“思い出す必要は無い”と仰っていたのだろう?」
リージュは小さく頷いた。
ジークはほっとしたように胸をなでおろし、
フォスターは御者台で長く息をついた。
「つーわけで、今日からは“天使五人+フォルスティン”の六人体制。
ヴァルカンまで気合い入れて行くぞ」
「僕らも居るよー!!」
「きゅー!!」
プルワと朝の散歩をしていたフェリオがぶーたれる。
「あ、悪ぃ、悪ぃ」
昨日の出来事は天使以外は眠っていたので、少しプルワはご機嫌ナナメだ。
ロゼリアは槍を肩に担ぎ、いつもの調子で吠える。
「うむ!我ら、蒼穹の守護天使部隊!世界の理に挑むのだ!!」
「……そんな部隊名は付けていない」
ミルベーナの冷静なツッコミが入る。
ロゼリアは気にせず胸を張った。
馬車は再び道を進み、
火山帯と街の影――“ヴァルカン”が遠くに見え始めた。
静かで、しかし確かに力強い一歩だった。
更新日は毎週火、木曜日の11時更新となります。
元のペースに戻せそうになり次第、お知らせいたします。
【2025年3月31日、第一夜〜第三夜 改稿】リライト
現在第一夜〜第三夜の文章と構成を全面的にリライトしました。
以前のバージョンを読んでくださった方も、改めて楽しんでいただけたら嬉しいです。
Xアカウント
https://x.com/r5mswm?s=21&t=YDHDT292BvtoU2Xhs0cHWQ




