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ANgelic of the Dead  作者: 書庫
五章--閉ざされた国、ファルムス帝国--
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第百夜:大天使サリエル

私は髪を結いあげ、いつものように高い位置でポニーテールを作る。

指先に残る水の感触と、頬をなでる風が心地よい。

泉の水は冷たくもなく、まるで体の奥から澄みわたるような清らかさだった。


「さて……。」

息を整え、ミルベーナは静かに立ち上がる。


「あー……もう陽が傾いちゃってるね……。」

リージュの声に、ふと顔を上げる。

湖面に映る空が橙に染まり、ゆらゆらと光が揺れていた。

そうか、ずいぶん長い時間、夢のように過ごしていたのだな。


「そんな時間だったか……確か、ヴァルカンへ行く途中だったのだな?」

「うん。 野盗が出てね。危ないところをロゼリアさんに助けてもらったの」


その横で、ロゼリアは胸を張り、片目を隠した髪を風になびかせながら夕陽を背にポーズを決める。

「ふはははは!あの程度の輩、我が《神鳴かむい》の前には無に等しいさ!」


……うむ、もうだいたいどういう性格なのかは掴めた。

ツッコむのは体力の無駄というやつだ。


「あー……ロゼリア殿、ヴァルカンへは今から向かうと、どのくらいの距離だろうか?」

「ふむ。我一人なら夜の訪れを待たずとも着けるが……人並みの移動速度なら一日かかるな。」


つまり、普通なら丸一日。だが彼女なら数刻で到達するほどの脚。

(私の飛行速度とほぼ同等か。それ以上か? さすがは“蒼穹”と名乗るほどの天使だ。)


「ここはかなり安全そうだ。聖なる力がひしひしと伝わる。一泊しても大丈夫ではないか?」

「うん、そうだね。泉の光も強いし、夜でも明るそう。」


「我はどちらでも構わぬ。ここまで案内あないしたからには、最後まで付き合おう!」


次は地面にぺたんと座り込み、まだ顔を真っ黒にしてへたれているフォスターを見下ろす。

つま先で、ぴし、と軽く蹴る。


「いつまでわかりやすい演技をしているんだ。ここに野営を張るぞ。

ジークたちを呼んでこい!」


「うぐっ……ありがとうございます!」


なぜか感謝された。

(どうして、蹴られて礼を言うんだ……? この男は時々、理解に苦しむ。)


「行くぞ、プルワ!ジークたちを呼びに行くぞ!」

「がってーん!」


二人は勢いよく走り出した。

その背を見送りながら、ミルベーナはふと湖面に映る空を見上げる。

夕陽の色が泉の水に溶け込むように沈んでいく。

――こうして穏やかに呼吸できることが、どれほど久しぶりだろう。

頬に触れる風がやわらかく、胸の奥が静かに満たされていく。

今夜は、きっと穏やかな夜になる。



一行は聖なる泉のほとりに集まり、それぞれが小さな焚き火の周りで腰を下ろしていた。

ジークが笑顔でミルベーナの回復を祝うと、リージュも安堵の表情を浮かべて肩を撫で下ろす。

ロゼリアは胸を張って「我の加護の成果だ!」と自慢げに言ったが、誰も咎めることなく穏やかに笑った。


泉から吹く風は柔らかく、空気はどこまでも澄んでいる。

夜空には無数の星々が瞬き、まるでこの場所だけが別の国に存在するかのようだった。

あの濁った空の続くファルムスとは思えない。

湖面には星の光が映り、風に揺れるたび、世界樹の葉のようにきらめいた。


「……今日は、穏やかな夜になりそうだ」

ミルベーナが呟くと、誰もが同意するようにうなずいた。

それぞれの寝床を整え、一人、また一人と静かに眠りにつく。


気がつけば――フォルスティンを除く全員が、安堵に満ちた顔で深い眠りに落ちていた。

焚き火の音だけが、一定のリズムで夜を刻んでいる。


フォルスティンは馬車のそばに腰を下ろし、ぼんやりと空を見上げていた。

「……やれやれ、皆さん随分と無防備ですねぇ。」

苦笑をこぼしながらも、彼自身はなぜか外に出ようとしない。

馬車の奥から、かすかに漂う“何か”を感じているようだった。



そんな静寂の中で――異変は訪れた。



最初に揺らいだのは、泉の水面だった。

風もないのに、水が円を描くように広がり、淡い光が立ち上る。

その光に呼応するように、天使たちの身体が、ゆっくりと動き始めた。


眠りについたまま、フォルスティン、プルワ、フェリオ以外の皆は無意識に立ち上がる。

まるで何かに導かれるように、泉の中央へと歩みを進め、同時にこうべを垂れた。


その瞬間――泉が、夜空を切り裂くほどの強い光を放つ。


全員が思わず目を細める。

眩い光が焚き火をかき消し、草原を昼のように照らし出した。

一行は光に刺激され、次々と目を覚ます。

立膝のまま目を開けた全員が、思わず息を呑む。


光球の中心――そこに、純白の六枚の翼を持つひとりの天使が姿を現した。

柔らかな金の光を纏い、荘厳とした、どこか萎縮させる光を漂わせるその姿。


「大天使……サリエル」


ミルベーナが小さく呟く。

その名を呼ぶ声とともに、泉の光が静かに落ち着いていく。

大天使サリエルは、ゆっくりと羽を広げ、地上の一行を見下ろしていた。

100話到達です!

見てくださっている方々、本当にありがとうございます!!


一応なろうのEP的には少し前に100は行ってたのですが、個人的な話数ではここで100話です!

まだまだ未熟で、伝えたい事や彼らの冒険をうまく組み上げれてないかもしれません。

ですが、最後まで走り続ける所存ですので、皆々様方、どうぞ今後も、我が作品。


【ANgelic of the Dead】を、最後までよろしくお願いいたします。

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