第九十九夜:男のロマンだ!
遠くから、泉のせせらぎと、かすかな声が聞こえてくる。
「よし……ようやく近くまで来たぞ……」
フォスターが、藪をかき分けながら小声で囁いた。
「兄ちゃん、あそこだ、あそこ!」
プルワも目を輝かせながら隣でしゃがみこむ。
二人の顔には、もはや探検家のような緊張と期待が入り混じっていた。
「しかし……数日寝込んでたからか、久々の水浴びは良かったな……」
ミルベーナの声が聞こえる。
フォスターは思わず耳をそばだてた。
「き、聞いたかプルワ……!?水浴び、だと……!!」
「す、すげぇ……!お姉ちゃんたちの神聖な儀式だね!」
「そうそう、“神聖”な……いや、“ありがたーい”儀式だ……!」
二人は息を殺して、藪の隙間に顔を寄せる。
ドクンドクンと鼓動が早くなる。
リージュの声が届く。
「下着どうする〜?」
フォスターの瞳がギラリと光った。
「きた……!下着をどうする、だと!? プルワ、これは事件だ!!」
「事件!?どういう意味!?」
「つまり……今、あの向こうでは――“着替え”が行われているんだ!!」
「うぉぉぉぉ……!!」
二人のテンションは、もはや限界突破。
フォスターは慎重に藪をかき分け――
(これが男の使命ってやつだ……!)
「自分で畳む。置いておいてくれ」
ミルベーナの声とともに、タオルが――
――ぶわっ、と大きく広がった!!
「き、きたああああああ!!!」
フォスターの脳内に祝福のラッパが鳴り響いた。
プルワも横で「まぶしい!なんか光ってるー!」と興奮気味。
次の瞬間。
ふぁさっ――。
タオルが軽やかに舞い、陽光を受けてひらりと落ちた。
フォスターとプルワは息を呑む。
……なんともスポーティな姿のミルベーナだった。
下着、か? いや違う。
どちらかというと、部屋着だ!?
ノースリーブに短パン――。
いつもの可憐な鎧姿とはまた違う、動きやすく健康的なその姿は、
それはそれで、別の意味で目の毒だった。
だが、フォスターの中で、何かが音を立てて崩れた。
「……あれはあれで良いけどよ……なんだよ……期待して損したぜ……」
ため息まじりの愚痴が漏れる。
隣のプルワはキラキラした目でうなずいた。
「オイラのお姉ちゃんも、あんな格好よくしてたよ!」
「お前なぁ……フォローになってねぇぞ……」
肩を落とすフォスター。
そのとき、リージュの声が響いた。
「あれ? そういえばロゼリアさん、どこいったんだろ?」
……確かに、さっきまで派手にポーズを決めていた“蒼穹の守護天使”の姿が見えない。
「……あそこだ」
ミルベーナが、左手の親指で“こちら”を指差していた。
「え?」
ガバァッ!!
藪の中から何かが飛び出した。
猫のような軽やかさで、二人の頭をがっしり掴む腕――!
ゆっくりと振り返るフォスター。そこには、笑顔のマグナ・ロゼリアがいた。
その笑みが、やけに神々しく見える。
「……やっても構わないか!?」
朗々とした声。まるで戦場での確認のようなトーン。
ミルベーナは髪をタオルで拭きながら、冷ややかに言った。
「プルワは離していいから、フォスターはキツめで頼む」
「承知した!!」
ロゼリアが高らかに右手を掲げる。
青い稲妻が指先に宿る。
「必殺!!――エレクトリックサンダー!!!」
バリバリバリバリバリバリバリバリ!!!!
「んぎゃあああああああああああああ!!!!」
雷光が空を裂き、地面が焦げる。
鳥たちが一斉に飛び立ち、空には黒煙が立ちのぼった。
……数分後。
髪がチリチリになったフォスターが、地面に正座していた。
顔は煤け、手には小さな湯気。
「お、男のロマンが……焼け落ちた……」
プルワが心配そうに覗き込む。
「に、兄ちゃんが焼け焦げてるよ……」
フォスターは空を見上げ、どこか遠い目をした。
「……いいんだ、プルワ……ロマンってのはな、命懸けなんだよ……」
ロゼリアは腕を組み、誇らしげに言った。
「ふっ、浄化完了!!」
その隣でミルベーナが小さくため息をつく。
「……まったく、気配に気付かないと思ったか?」
湖畔に、静かな風が吹いた。
雷鳴のあとに訪れる、妙に爽やかな空気だけが、フォスターを慰めてくれていた。
更新日は毎週火、木曜日の11時更新となります。
元のペースに戻せそうになり次第、お知らせいたします。
【2025年3月31日、第一夜〜第三夜 改稿】リライト
現在第一夜〜第三夜の文章と構成を全面的にリライトしました。
以前のバージョンを読んでくださった方も、改めて楽しんでいただけたら嬉しいです。
Xアカウント
https://x.com/r5mswm?s=21&t=YDHDT292BvtoU2Xhs0cHWQ




