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ANgelic of the Dead  作者: 書庫
五章--閉ざされた国、ファルムス帝国--
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第九十八夜:思い出せない

「待って――!!」


思わず叫んでいた。私は、誰かに会いたかった。

あの光の中で、確かに手を伸ばしたのだ。

けれど今、目を覚ましたこの瞬間、その“誰か”の顔も名前も思い出せない。

胸の奥がひどくざわめいた。


視界が少しずつ焦点を結び、見慣れた顔と、見知らぬ顔が映る。

リージュと……青い髪の女性。

彼女は妙に堂々と立っていた。


「ミナ!良かった、大丈夫? 頭、痛くない?」

リージュが心配そうに駆け寄ってくる。


私は自分が泉の浅瀬に半身を預けていたことに気づく。

冷たくも、ぬるくもない不思議な水。

肌に触れる感触が、どこか懐かしくて落ち着く。


「……ああ、頭痛は……なくなっている」

手から零れ落ちる水を見つめる。

掌の中に、ほんのりとした温もりが残っている。


まるで誰かに手を取られていたような――そんな感覚があった。


「良かったー!成功だね、ロゼリアさん!」

リージュが嬉しそうに声を弾ませる。

その横で青い髪の女性――ロゼリアと呼ばれた女性が、腰に手を当てて笑った。


「ふふふ!我が知識は天使の中でも随一!当然のことさ!」

……声がやたら大きい。


あと、なぜポーズを取るのだろう。


私は呆然としながら、彼女たちのやり取りを見ていた。

そうだ、私は――記憶操作の魔術の副作用で倒れたのだった。


「しかし……ここは?」

周囲を見渡す。ここは、今までのファルムス帝国とはまるで違う。

光の粒が空を漂い、草木が風と共に呼吸しているようだ。


ロゼリアが胸を張って言い放つ。

「ここはルミナリエの泉!世界樹ユグドラシルから直接根を張る聖なる泉だ!!」


……声が大きい。しかも何かキメポーズをしている。

けれど、確かにこの場所の“気”は清浄だった。魔の気配がまるでない。


私はリージュからこの場所までの経緯を聞いた。


「そうか……ホムラノまでは覚えているのだが、そこからはかなりおぼろげで……迷惑をかけたな」

言葉を絞り出すように謝ると、リージュは首を横に振った。


「気にしない、気にしない。ほら、それより着替えよう。

ここ、暖かいけど風邪引いちゃうよ」

優しく肩からタオルをかけてくれる。


不思議な場所だ。気温は一定で、泉の水はまるで生きているように温もりを伝えてくる。

だが、同時に――身体の奥がわずかに震えていた。


この泉に満ちる“聖”の力が、魔族である私の中の“闇”と反発している。

清らかで、暖かくて、けれど――少し、怖い。




泉のほとりから少し離れた場所。

男子組は馬車のそばでのんびりと休んでいた。


「さて、そろそろかな?」

木陰で寝転んでいたフォスターが、妙にキリッとした顔で立ち上がった。


「ん?どうしたの、フォスター?」

ジークが首を傾げる。


「いや、こういうのは“お約束”ってヤツだろ。覗きに行くんだよ、の・ぞ・き・に」

ドヤ顔。


ジークは、頭を抱えた。

「はぁ……何のお約束なの……バレたらミルベーナに切り刻まれちゃうよ?」

「いいじゃねぇか。男のロマンだ」

「ロマンで切り刻まれたらどうするの!?」


そんな真面目な抗議を、フォスターは華麗にスルーした。


「おーい、プルワー!」

木登りして遊んでいたプルワが、フェリオと一緒にひょこっと顔を出す。


「なぁに?フォス兄ちゃん?」

「これからオレと一緒に――大人の階段、登りに行かねぇか?」

ウインクつきで、ド直球な誘惑。


「おとなのかいだん!?」

キラッキラの目で食いつくプルワ。

その横で、フェリオがぴたりと止まり、尻尾をバサッと広げた。


「……(イヤな予感)」

どうやら動物的直感で悪巧みを察知したらしい。


「フォスター、プルワをダシに使わないでよ。止めないと僕も怒られるんだからね」

「ったく、ど真面目野郎だなぁジークは。いや、単純にウブ過ぎるだけか」

「だ、誰がウブだよ!」

「あーあー、照れんな照れんな。青春ってやつだろ」


そんな軽口を叩いている間に、プルワは完全にやる気モードだった。

「おもしろそー!見に行くー!」


「ちょっ、プルワ、何言ってるの!?」


止める間もなく、フォスターが満面の笑みで叫ぶ。

「よし、やっぱお前はおとこだプルワ!行くぞ!!」

「おー!!」


そのままプルワを肩に担ぎ、脱兎のごとく走り出した。


「あああ、ちょっと二人ともー!!」

ジークの制止も虚しく、二人の姿は木々の向こうに消えていった。


肩の上で「キュッ」と小さな鳴き声。

いつの間にか、フェリオがジークの肩にぴったり張り付いていた。


「フェリオはやめておいたんだね。偉い偉い」

なでると、フェリオは誇らしげに尻尾をゆらした。


ジークはため息をつきながら木陰に腰を下ろす。

「……なんかもう、ここは平和だねぇ〜……」


遠くでフォスターの「見えねぇ!藪多すぎ!!」という声が響いていた。

「兄ちゃん!階段ないよ!藪だらけだよー!」プルワも大変……楽しそうだ。

更新日は毎週火、木曜日の11時更新となります。

元のペースに戻せそうになり次第、お知らせいたします。


【2025年3月31日、第一夜〜第三夜 改稿リライト】リライト

現在第一夜〜第三夜の文章と構成を全面的にリライトしました。

以前のバージョンを読んでくださった方も、改めて楽しんでいただけたら嬉しいです。


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