第九十五夜:蒼穹? 青き雷翼? マグナ・ロゼリア
「お、おい、ちょっと待ってくれよ!」
ロゼリアが振り返った。青い鎧が光を反射して、やけにキマって見える。
「どうした、斧の君!」
……斧の君?
なんだその称号みたいな呼び方。
「おののきみ?」
ジークがフェリオを抱えたまま首を傾げてる。
あー……説明すんのも面倒だ。後でまとめてやるか。
オレは片手を上げてジークたちを制した。オレが話す。
「いや、ツレが馬車の中で魔術の後遺症で寝込んでんだ。
前の町で、アンタに聞けば何かわかるかもって言われてさ……」
「何ッ!?暗黒の術式をその身に宿したと申すか!」
え?なんでそんな話になる?
「あ、いや、暗黒は関係ねぇと思うんだけど……」
聞いちゃいねぇな、コイツ。
ロゼリアはオレの言葉をまるっと無視して、右手を掲げた。
風がピタリと止まる。
「流星号!!」
次の瞬間、山の向こうからドドドドドッと地鳴り。
土煙を巻き上げながら、何かが迫ってくる。
「な、何!?新手!?」
リージュが素早く反応したが、そこに現れたのは……
「ヒヒィィィン!!」
馬――いや、あれは馬って呼んでいいのか?
馬車ごと踏み潰せそうな巨体、雷をまとった鬣
蹄が地面を叩くたびに、土が跳ね上がり、空気がビリビリ震える。
「な、なんなんだよ……」思わず声が漏れた。
横を見るとジークもリージュも、完全に目が点になってやがる。
「よく来たな、流星号!!」
キィィンと澄んだ音が響いた。
……その一言で地平線が鳴るってどういう仕組みだよ。
「な、なんだその名前……」思わず口から出た。
ロゼリアは堂々と胸を張って答える。
「蒼穹を駆ける光の化身――我が忠馬の名だ!」
「いや、ポエムかよ……」
馬の名前だったのかよ……
後ろでジークがデカい馬に「カッコいい……!」って目を輝かせてるし、
リージュは「ちょっと痛い……」って引いてる。
オレだけが現実に取り残されてる気がした。
「旅人よ、暫し待たれよ!」
そう言うとどこからともなく檻を取り出し、気絶した野盗どもを手際よく放り込み始めた。
どこに隠してたんだよ、それ……
「流星号! 我、ルミナリエの泉へ向かう! この悪党どもをヴァルカン《帝国死部隊》まで運べ!」
「ヒヒーン!!」
まるで「了解した!」って言ってるみてぇに、流星号は檻を引きずりながら豪快に駆け出した。
土煙と雷光を残して、あっという間に見えなくなる。
「野盗……可哀想に思えてきた……」
すげぇ檻揺れてぶつかってたぞ、拷問か何かか?
……静寂。
風だけが通り過ぎる。
「……ねぇ、フォスター」
ジークがぽつりとつぶやく。
「ん?」
「この人……天使、だよね?」
「あぁ、多分な。間違いなく頭ひとつ抜けてるけどよ……方向が違ぇ」
「え?」
その時、ロゼリアが髪をかき上げ、片目を押さえてうずくまった
「……右眼が、疼く……! 封印が……共鳴している……」
「ど、どうしたの!?」
リージュが心配そうに駆け寄る。
フォスターはただ、頭をかきながらぼそっと言った。
「……あー、あとで説明してやるから。とりあえずミナのこと、見てもらおうぜ」
「え、う、うん……」
「さぁ、暗黒にまみれた者はどこだ!」
まただ。
何をするにも毎回ポーズを決める。
構え、決め顔、風のエフェクトまで完備。
完璧に、クセが凄い。
「だから暗黒は関係ねぇって……こっちだよ、見てくれ」
オレがため息まじりに言うと、ロゼリア――いや、“蒼穹さん”は誇らしげに頷いた。
「ふむ、案内ご苦労。さすれば、この魂を清める刻!」
……オレ翻訳:「つまり今から見せてくれってことだな」
馬車の中で待ってるミナとプルワのところに案内する。
ロゼリアが顔を出した瞬間、プルワがパッと飛び出した。
「あー!青い人だー!」
「ん?プルワ、知り合いか?」
目がキラッキラしてやがる。
ロゼリアと握手して、なんかずっと「うわー!本物だー!」って言ってる。
どうやらこの蒼穹さん、プルワがまだファルムスにいた頃、けっこう有名だったらしい。
“青き雷翼の守護天使”とか呼ばれてたとかなんとか。そりゃテンションも上がるわな。
なんで今と二つ名が違うのは、めんどくさいから聞かないでおこう。
ロゼリアは馬車の中を覗き込み、真剣な顔をした。
「この少女だな……暗黒に蝕まれし魂が、我が右眼と共鳴しておる……」
なんで右眼、疼いてんだよ……
たぶんオレ以外、誰も何言ってるかわかってない。
リージュなんか完全に「?」顔だ。
「えーと、どうにかなりそうか?」
オレが聞く。
「我が先行する、ついてくるのだ!」
返事を待つ前に、蒼穹さんはもう走り出してた。風を切る青い鎧。
速い……めっちゃ速い。
「あ、おい!ちょっと待てよ!! 二人とも、早く乗れ!」
外にいたジークとリージュも慌てて馬車に飛び乗る。
「フォルスティン、アイツについてってくれ!」
「はいはい〜」
どんな状況でもペースを崩さねぇのはフォルスティンの長所だ。
いや、今だけは頼りになる。
馬車がガタガタと走り出す。前方では青い鎧の天使が稲光みたいに道を照らしていた。
……すげぇ。かっこいいんだけど、なんか違う。
「オレたち、何してんだろうな……」
そう呟くと、後ろでリージュが笑った。
「フォスター、さっきからずっと通訳してるよね」
「まぁな……誰かやらねぇと、会話が進まねぇだろ」
揺れる馬車内、リージュはミルベーナの上半身を軽く抱きながら、少しでも頭への揺れを抑えていた。
こうしてオレたちは、“蒼穹さん”ことマグナ・ロゼリアに引っ張られながら、
ルミナリエの泉を目指してひた走ることになった。
ちなみに、アイツの喋りを少しでもわかりやすく説明しようと頑張ったオレの苦労を、誰も覚えちゃいねぇ。
更新日は毎週火、木曜日の11時更新となります。
元のペースに戻せそうになり次第、お知らせいたします。
【2025年3月31日、第一夜〜第三夜 改稿】リライト
現在第一夜〜第三夜の文章と構成を全面的にリライトしました。
以前のバージョンを読んでくださった方も、改めて楽しんでいただけたら嬉しいです。
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