第九十四夜:蒼穹の守護天使、見参!!
誰の声だ!?
オレは目の前の野盗に警戒しながら、目だけで声の先を追う。
「誰だ!? 姿を見せやがれ!」
野盗の一人が聞こえた言葉に気を取られた。
ザッ、ザッ、ザッ――。
砂利を踏む音、鉄の擦れる音、怒鳴り声。
オレはもう少しで一人目の懐に踏み込むところだった。
それなのに、空気の“質”が、唐突に変わった。
……なんだ? 風が、止まった?
その瞬間――どこからともなく、妙に通る声が響いた。
「かくも浅ましき闇の徒よ……! その魂の錆を、蒼穹は赦さぬ!!」
さっきの声の……!?
「……はぁ?」
全員、動きが止まった。
全員、その言葉を口にした。
野盗の連中も、獲物を構えたまま目を白黒させてる。
ってか、“蒼穹”? “赦さぬ”? ……おいおい、随分難しい言葉使うなぁ?
でもその声、なんか――やたらと勇ましい。
まるで古戦場に立つ伝説の猛将みたいな口ぶりで、ちょっとワクワクした。
「天の審き、降ろすは我が槍。雷の巫!我こそは、蒼穹の守護天使ッ!!」
……えっ、自己紹介!? このタイミングで!?
次の瞬間、頭上でバチンッ、と空気が裂けた。
眩しい閃光。
思わず目を細めたけど、耳の奥に焼き付くような音――いや、雷鳴だ。
「――神鳴」
声が落ちた瞬間、地面を這うように青白い光が走った。
稲妻が大地を舐め、岩を割る音が轟く。
野盗たちの怒鳴り声が途中で切れて、代わりに空気が焦げる匂いがした。
気がついた時には、オレの前に“青い人影”が立ってた。
槍を片手に、青い鎧が雷光を反射してチカチカ光ってる。
その後ろには――気絶して、山積みになった野盗の山。
「……はぇ?」
全員無傷(?)で気絶。馬車も無事。
いや、ちょっと待て、何だこの完璧な後処理!?
その女――全身青い鎧の女性から天使の力が解けていくのを、指先で風になびく銀髪を払う。
「お怪我は? 若き旅の者たちよ」
声が凛としている。まるで詩を朗読してるみたいだ。
オレは斧を下ろして、呆気にとられながら言った。
「……いや、助かったけどよ。あんた、何者だ?」
彼女は微笑み、胸に手を当てて名乗った。
「我が名はマグナ・ロゼリア! 此岸にて“蒼穹の守護天使”と呼ばれている」
まるで『ジャキーン』という効果音でも鳴らすかのように、
槍を振り回しながら、体全体で決めポーズをしている。
(呼ばれてる……って、マジかよ……絶対自分で言ってんだろ)
オレは苦笑しながら、でもどこかでゾッとした。
冗談みたいな登場なのに、あの雷の威力――
間違いなく“本物”だ。
そして同時に、胸の奥で何かが引っかかった。
天使。
また、天使か……。
この国に来てから、良くも悪くも“上”の存在ばかりが降ってくる。
だが――この女は、なんか違う。
いや、“本物”の天使ってのは、こういう奴なのかもしれねぇ。
そう思った瞬間、風がふっと吹き抜けて、ロゼリアのスカーフがはためいた。
あれだけの登場しておきながら、本人はきょとんとした顔で振り返る。
「……ところで、我が詠唱、少々長かっただろうか?」
……やっぱり変なやつだぁぁぁーー!
「ん? マグナ・ロゼリア? 確か、ヴァルカンに居る天使の名前……?」
ジークが呟いた瞬間、オレはようやく思考を引き戻した。
「フォスター、フォスター……」
「ん、あぁ、助かったな」
まだ少し目がチカチカしてる。
あの雷の余韻が、空気の奥にまだ残ってやがる。
ジークが俺の袖を引いて、小声で言った。
「あの人、マグナ・ロゼリアって言ったよね? それに、あの力……」
……間違いねぇ、今のは天使の力だ。
ただの電撃なんかじゃない、あれはかなり強い天使の力だ。
視線の先では、本人がまるで遠足帰りみたいに上機嫌で野盗を縛ってる。
「これでよし。罪人たちよ、暫し蒼穹の裁きを待つがいい!」
(なんでそんな楽しそうに言えるんだよ……)
リージュが俺の後ろに寄ってきて、こそっと言う。
「ねぇフォスター……なんか、あの人……楽しそう?」
「ああ……オレら以外の天使って、みんなこうなのか?」
「いやー、どうなんだろうね……」
オレの苦笑いに、ジークも苦笑いで返す。
ロゼリアは野盗をひとまとめに結び上げると、槍の先をトンッと地面に突き立てた。
そして――唐突に、空を見上げて言った。
「くっ……! 又か……右眼が――疼くっ!」
全員、固まった。
「えっ!? だ、大丈夫なの!?」
リージュが慌てて駆け寄る。
「ま、まさか呪いとか……?!」
ジークまで本気で焦っている。
ロゼリアは少し間を置いてから、静かに目を伏せた。
「……蒼の雷が、未だ鎮まらぬのだ」
オレはなんとなく気付いてた。
頭を掻いて、ぼそっと呟いた。
「……こりゃアレだな。拗らせてるやつだ」
リージュが「え?」と聞き返すより早く、
ロゼリアはキラリと槍を肩に担ぎ、誇らしげに言い放った。
「では諸君、我が聖域――ヴァルカンへ案内しよう! そなたらに、蒼穹の加護を!」
「これはこれは、また面白くなりそうですねぇ♪」
フォルスティンがいつもの糸目で楽しそうに笑ってやがる……
……なんか、すげぇのに巻き込まれた気がする。
更新日は毎週火、木曜日の11時更新となります。
元のペースに戻せそうになり次第、お知らせいたします。
【2025年3月31日、第一夜〜第三夜 改稿】リライト
現在第一夜〜第三夜の文章と構成を全面的にリライトしました。
以前のバージョンを読んでくださった方も、改めて楽しんでいただけたら嬉しいです。
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