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ANgelic of the Dead  作者: 書庫
五章--閉ざされた国、ファルムス帝国--
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第九十三夜:来たる蒼穹の風

野盗は道の真ん中に仁王立ちし、肩で風を切っていた。

背後の茂みや岩陰にも、薄汚れたコートや顔布で身を隠した影がいくつも見える。

谷筋の道は左右を低い岩と疎らな灌木に挟まれ、見通しが利かない。逃げ道は少ない。


「何か用か?」

フォスターが御者台から軽やかに飛び降り、砂利を踏んで前へ出る。


「いやぁにいちゃん、最近ここらはオレらの縄張りでよう、ちょっとばかし通行料をもらってんだ」

親玉らしき男が、片手で棍棒をくるくる回しながら薄笑いを浮かべる。

近くの岩陰から金属が擦れる音がして、周囲の影がじわりと半歩ずつ前に出た。


「おーいフォルスティン? ファルムスは道通んのにも金渡すのかー?」

フォスターがわざと大きな声で振り返る。


「……アレでしょうね、所謂ゆすり、ショバ代と言う、姑息な稼ぎ方でしょう」

御者台のフォルスティンがにこやかに毒を吐く。


フォスターは肩をすくめ、親指で自分の胸を指した。

「だとよ。オレらガキだから銭なんて持ってねぇんだよなぁ〜」

と、なんともむかつく顔で調子に乗り、相手を挑発する。


「て、テメェら……、ガキだと思って優しくしてたら調子に乗りやがって……」

親玉の口角がピクリと引きつる。


フォスターはさらに一歩、わざと砂利を踏み鳴らして前へ。

「いやぁ、今聞いたでしょ〜、オレたちガキだからお金なんてありやせんよ〜。

代わりに『笑顔スマイル』なら無料ただなんだけど要るか?」


「要らねぇよ!ガキが!!」

即答の怒声。茂みからくぐもった笑いが漏れ、同時に頭上の岩棚で小石がぱらぱら崩れ落ちる。

高所にもいる。弓か投げ槍?あるいは石投げだ。


フォスターが間合いを測っているその一瞬に、御者台のフォルスティンが指先をひらりと回した。

薄い蜃気楼のような像が御者座に残り、同じ姿の彼がふっと馬車の幌の影へ溶ける。

気配は霧のように薄く、誰も気づかない。



馬車の内側で、彼は幌をそっと押し上げる。

「失礼、ただいま窮地にございますので、少々静粛に」

囁き声が落ちる。


ジークが頷き、ミルベーナの額にそっと手を当てる。

「野盗だよね? ミルベーナは安定してる。僕は外に出る。合図があったらすぐ援護する」

「きゅっ」フェリオがジークの肩に移り、首元へ潜る。


「プルワ。馬車から出ないで。ここでミナを守ってて」

リージュが短く指示を飛ばす。

「う、うん。わかった」

プルワはアンクレットをそっと撫で、呼吸を整えた。



外。

親玉が指を二度鳴らす。左右の影から三人、さらに後方から二人、半月形に包囲を狭めてくる。刃の鈍い光、錆びた鎖、使い古しの盾。どれも貧しさが染み付いているが、殺気は本物だ。


「通行料は銀貨三十だ。馬二頭でさらに二十。合計五十。ほら、早くしな」

「五十もいるのかよ。景気がわりぃなぁ、あんたら」

フォスターが笑って見せる。

片手はいつでも斧に届く腰の位置、つま先は砂利に潜り、踏み切りの角度を探る。

親玉が棍棒の先でフォスターの胸元を小突く。

「笑ってられんのも今のうちだ、死にてぇのか?」


その時、斜面の上で短い口笛が上がった。

二音。合図だ。頭上の灌木の影が一つ、二つ、形を変える。弓手がいる。


フォスターは目だけで空を撫でた。

薄い雲が西から流れ、光が柔い。影は短く、動きを読まれにくい。

正面二、右三、左二、背後にも足音。馬は耳を伏せ、前足を細かく刻む。

今飛び込めば、馬車が巻き込まれる。時間を稼ぐしかない。


「なぁ親分。値切りはきくのか?」わざと声を張る。

「はぁ?」

「景気がわりぃのはそっちも同じだろ。

ほら、代わりに歌でも一曲。『巡り樹恋唄』って知ってるか?」


親玉が一瞬だけ目を白黒させ、次の瞬間、怒りで真っ赤に染まる。

「ふざけんな!!」


その怒号と同時に、後方の茂みから別の野盗が姿を見せた。

薄い布で顔を隠し、短弓を半ばまで引いている。

矢羽がかすかな風鳴りをつくり、森の匂いと混ざった。


「フォスター、左上」

ジークの声が幌の影から滑る。フォスターは顎だけで頷く。

「んじゃ、最終確認。ほんっとーに金しか受け取らねぇのか?」

「当たり前だ!」

親玉が棍棒を振り上げた。


「だよな。――なら、これはどうだ」


砂利を蹴る音とほぼ同時に、御者台の“フォルスティン”がひらりと立ち上がった。

蜃気楼の像が帽子をつまみ、陽気に一礼する。

次の瞬間、像は風に千切れた紙のようにばらばらに砕け、灰色の光粒となって空にほどけた。


「なっ……今の、何だ!?」


「幻術だよ、おっ・さん」

フォスターが地を半歩滑り、親玉の棍棒の内側へ体を捻り込む。

右手で手首を打ち上げ、反対の肘で顎を弾く。

棍棒が地面を跳ね、親玉がよろめく。


「護身術とか、使うの久々だぜ」

隙ができた瞬間に、斧を構えるフォスター。


その瞬間、頭上から放たれた短い矢がフォスターの肩口を狙って沈む――

が、矢はふいに軌道を外れて土に突き刺さった。

幌の陰、フォルスティンの手のひらが軽くひと撫でされ、空気の層が刃の角度をわずかに歪める。


「行くよ!」

ジークが幌から躍り出る。

足に雷のような力をまとわせて地を蹴り、左斜面の二人のうち一人の膝を正確に払う。

もう一人が驚愕の声を上げた瞬間、リージュの投げナイフがその男の手首に刺さり、弓が逸れた。


親玉は口から唾を飛ばしながら吠える。

「おめえらぁ、構わねえ! ブチ殺せぇぇぇ!」


谷道に靴音と怒鳴り声が満ちる。

乾いた草が踏み潰され、砂が弾け、冷たい風が焚き火の残り香を散らす。

フォスターは斧に手をやったまま、ちらと馬車に目をやる。

馬車のには、眠って戦えないミルベーナ。守るべきものははっきりしている。


「悪ぃな。通行料は――命懸けで取りに来いやあぁぁ!!」

フォスターの負けない気迫の大声。


彼が土を裂いて踏み込み、野盗の輪が一斉に狭まる。



しかし森の奥、遠雷のように低く、鉄を擦る音が一つ響いた。

空気が変わる。誰かが、近づいてくる。

その時、高台から張りのある透明な声が響き渡った。


「よく耐えた!! 若人わこうどよ!!」

【通貨の種類】共通通貨(※地域により価格の差は有り)

銅貨百枚→銀貨一枚。銀貨百枚→銀貨一枚。銀貨百枚→金貨一枚。と言ったレート。

宿は一部屋、銀貨数枚〜高くて二十枚。朝、昼、晩の食事は合計約銀貨一〜五枚(地域差)

金貨は高額商品や、建物購入などで使われることが大半。

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