第五十三話『氷織の過去/裏切り者』
ヘリの中、氷夜は過去を思い出していた。
まだ六歳だった頃、暗殺学園へ入る前の話。
彼は北国の国王のもとに産まれた子だった。
両親から偉大なる愛情を受け、幼くして才能を発揮して育った。その一つにナイフの扱いがあった。
彼は生まれながらにナイフを華麗に扱い、その内生き物をナイフで解剖するようになった。
それを見て彼に畏怖する者がいたが、彼は周囲の視線を気にすることなくあらゆる生物を解剖した。
それが災いし、彼は国王から気味悪がられた。
国王には他に多くの子供がおり、後継者が一人消えることに何の抵抗もなかった。
そのため、彼は密かに殺されるはずだった。
だが──
国王が次期国王を決定した日、革命が起きた。
多くの者が殺され、幼い氷夜もまた殺されそうになった。だがそこで命を庇ったのが国王だった。
幼い氷夜を命からがら国王が川に投げ、運に頼った。そこで拾われた先が一人娘がいる家庭だった。
「私は吹雪。あなたは?」
「俺は……」
彼は川を流れる際、岩に頭をぶつけて自分の名前を忘れていた。
「名前ないんだ。じゃあ私の母の旧姓で呼んでもいい。なんか兄弟ができたみたいで嬉しいし」
彼は氷夜と呼ばれ、その家族のもとで生きてきた。
毎日が平穏な日々だった。だがある日、事件は起こる。
氷夜がかつての国王の子供だと発覚し、命を狙われた。その際に東国の暗殺者──斑鳩が駆けつけ、救出した。
家族は全員東国の海洋都市に移住し、その際ある条件を結んだ。十八才になるまで、吹雪と氷夜を暗殺学園で引き取ること。
そして今、二人は暗殺学園で死ぬような日々を過ごしている。
ヘリの中、氷夜と氷織は肩を寄り添い合っている。
氷織は頭に包帯を巻き、眠っている。
氷夜は眠る氷織を愛おしく見つめている。
(必ず守るよ。吹雪)
♤
午後九時。
暗殺者のほとんどが旅館の地下に集合していた。
中には死んだ者や治療中の者、未だ帰っていない者もいるため、集まりが悪い。
Cクラスは海原、風霧、不叶、姫北がおらず、Bクラスは住川、Aクラスは宮園、特待Aクラスは速水がいない。
斑鳩は集まった者たちを眺める。
浮かない顔をしている者もいれば、これまで通り平然としている者、様々な顔が窺える。
「東国に潜入した諜報員のほとんどは始末した。残る諜報員は一人というところまで追い込んだ」
「意外と皆諜報員狩りしてたんだ」
特待Aクラス神凪は陽気に呟く。
「僕のクラス、まあまあ殺せたと思うけどさすがに一位はないよね」
特待Aクラス不死もこれまで通り暗い雰囲気で呟く。
「最も多くの諜報員を殺したのは第Ⅰクラスだ」
「当たり前ですね」
特待Aクラス鳳はこの結果に当然だとコメントを残す。
自分の強さを理解しているからこそ、この結果に自信を持っている。
「報酬はお前たちで決めてもらって構わない」
「感謝しますよ。斑鳩先生」
鳳はそっと微笑みかける。
斑鳩は笑みを返すことなく、他の生徒へ目を向ける。
「今日のところは解散だ。明日は残りの諜報員を片付けてくれ」
地下での会議が終わったが、鳳だけは地下室から出ていくことなく待機していた。
鳳の事情を察知しているのか、斑鳩も出ていくことなく待機していた。
二人だけになると、鳳が口を開く。
「あなたに話があります」
「話してみろ」
♤
次の日の朝、暗殺学園十三期生全員に緊急の招集がかかる。
欠席者は昨晩のメンバーに加え、氷織だ。
「何事ですか?」
一色が緊急の招集に疑問を思い、斑鳩に問いかける。
「かつて一人の生徒によって奪われた暗殺学園の存在証明。それを持ち出し、西国へ渡そうとしている人物がいる」
氷夜は氷織がいないことを気にかけている。
住川同様治療中でこの場に来れないのかと思い、斑鳩の話に耳を傾ける。
「その人物の暗殺を氷夜に一任する」
「は、はい……?」
突然名前を呼ばれ、氷夜は慌てふためく。
話を聞いていないことを察したのか、
「つまり、暗殺学園が存在しているという証拠を西国に提供しようとする者がいる。それもうちの学園の生徒だ」
内容を簡潔にまとめて話す。
氷夜はようやく集められた意味を理解する。
「それで裏切り者というのは誰ですか?」
「──氷織吹雪」




