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うざいくらい慎重すぎる暗殺者  作者: 総督琉
第三章『紅夜の修学旅行』
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第四十話『やがて始まる修学旅行』

 大広間での会議の後日。

 幽はいつも通り学校に向かう。その背を三人がひっそりとついていく。


「ねえ、幽って暗くて無口なんだよね」

「オレと戦った時は陽気だったけどな」

「殻を破れる瞬間と破れない時があるんだろうな。幽の場合は特に」


 宮園、赤羽、速水は幽の動向を追っていた。

 昨夜、会議が終わると同時に幽に小型の盗聴器をつけていた速水。森の中で風霧と海原がした話を聞いている。


「遺言か……。なあ赤羽、有栖川にはどれほどの協力者がいたか分かるか」


「分からない。あくまでも推測だけど、十人近くいるんじゃないかな。卒業試験で死んでる人もいるかもしれないけど」


「遺言が全員に配られているとすれば、それら全ての把握をする必要がある。遺言の内容によっては、最悪な結末を迎えるかもしれない」


「Cクラス、Bクラスの内通者は僕か幽に接触する。残るはAクラスだと思う」


 Aクラスは宮園の在籍していたクラスだ。


「ごめんだけど、私には誰が有栖川と関係があったか分からない」


「最終的に洗い出せば良い。今は幽に接触した二人の暗殺者の動向を追わなければな。彼らの行動次第で、暗殺学園が露呈する場合がある」


 速水は以前にも懸念していた不安を口にする。

 暗殺学園の公表。それは多くの暗殺者の死を意味する。


「幽、まだ先走るなよ」



 ♤



 東国にある放棄された都市『黒火の街』

 そこに顔を布で覆った人物が両手に棒状の物を持って現れる。棒状の先端には寒い日に出る白い息のようなものを纏っている。


 瓦礫だらけの家屋が建ち並び、そこの壁に様々な人間が座り込んでいる。

 ある者はタバコを吸い、ある者は謎の葉っぱを食べ、ある者は多くの人が見ている前で窃盗を行った。

 無法地帯。国が見捨てた場所ではよく見られる光景だ。


「吐き気がするな。こんな国があるというだけで」


 彼は街中に聞こえる声で言った。

 呟くなんてものじゃない。あえて堂々と声を轟かせた。


 無論、無視するわけもない。

 たった一人の相手に対し、街中が鋭い視線を向ける。そのどれもが殺意を纏っている。

 だが男は一切怯まず、周囲の反応を冷静に窺っている。


「なあお前、ここがどこだか分かってないな」

「ひどいこと言ってくれるじゃん。発言に似合った行動をしなくちゃいけないよな」

「逃げるなよ。ってか逃げられないけど。ここにいる全員がお前の敵だ」


 三十を超える人々が男を囲んでいる。その中には銃やナイフなど、武器を持つ者が混じっている。


「正さねば。お前らの脳を正さねば」


 男は失望していた。

 男の態度に群がる人々の怒りは増すばかりだ。


「お前、いい加減にし──っ」


 男に殴りかかった豪腕の男性。振りかぶった拳は男の顔目掛けて放たれる。だが拳はかわされ、交換に棒状の先端を首に押し当てられた。


「それ、罪だよね。はい死刑」


 男性の首は突然冷凍保存されたように氷の膜を帯びていく。その膜は一瞬で全身に広がり、雪像のように固まった。

 周囲にいた人々は目の前で起こる現象に騒然とした。


「何……っ」

「お前、何をした」

「ふざけるな。こんなことして良いと思ってるのか」


「俺は、世界の正義率を高めたいだけなんだよ。そのために罪人には死んでもらう」


 男は更に二人、喉元に棒の先端を当てる。それだけで当てられた者は一瞬で全身を凍り漬けにされた。


「街の人口はせいぜい三万人くらいか。全員死刑対象な」


 男は棒を振るう。先端が放つ白い冷気は、周囲にいる人々を次々と凍り漬けにしていく。

 逃げる人々もいるが、そんな彼らを追撃するように銃弾が額を射止める。


 家屋の屋根には、狙撃銃を持った女性が立っている。

 彼女は次々と逃げ惑う人々を狙撃する。


「さすがは『見えざる手』の幹部マスカレード。すべきことを理解しているね」


 男が戦闘を始めてから一時間後、街にいた全ての生物が死亡した。

 人だけでなく、犬や猫、蝶や蟻まで。

 死体が散らばる街の中心で、男と女性はガスマスクをつけていら。


「面倒な仕事を増やさないでください。おかげで別で使用するつもりだった毒ガスをここで使う羽目になってしまった」


 女性はガスマスクを外すと、男もガスマスクを脱いだ。


「我々の存在を隠匿するため、一人も生かしてはおけません。冷気での殺人なんてあなたぐらいですよ」


「気をつける。だが罪人を見てしまえば自制できるか分からない」


「グレイシア様。我々が隠密で来ているということがバレてしまえば国際問題になりますよ。そうなれば我々が罪人になります」


「大丈夫だよ。罪を裁くのは英雄だ」


「グレイシア様は英雄になりたいの」


「いいや、俺は既に英雄だ」


「そうですか……」


 マスカレードはこれ以上その話を広げるつもりはなかった。内心、面倒くさいと思っていたからだ。

 マスカレードは懐からカメラを取り出し、別の作業を行おうとしていた。

 レンズを向け、シャッターを切る。そこに映ったのはグレイシア。


「邪魔だなこいつ」


「六死刑様に向かってなんて口だ」


「さすがに業務の邪魔をされては困ります。こちらはあなたのせいで計画が台無しです」


「ちなみになんだが、西国は俺たちを送り込んで何を企んでいる?」


 マスカレードは「そんなことも知らないんですか」とため息を吐き、これは重症だ、と言わんばかりの表情で頭を抱える。


「事前に通達がある通り、暗殺者の存在を確認することですよ。相変わらずグレイシア様は人の話を聞きませんね」


「そっか。でも確認ってのは正確には違うだろ。西国が求めているのは東国に暗殺者がいるという証拠、他国に証明できるものだろ」


「さすがですね。ってか最初から分かっていたんじゃないですか」


「いいや。今の情報から西国が欲しいものを考えただけだ」


「そうですか。ではこれからはちゃんと人の話を聞いてくださいね」


「で、西国はまた動きを見せるんだろ」


 流鏑馬のように話題を振られ、マスカレードは過剰なストレスを感じていた。


「作戦を頭に入れていないくせに分かってるんですね」


「優秀な奴の行動を読むの、好きなんだよ」


 マスカレードは舌打ちをこぼす。


「八日後、西国は大きく動きます。それはグレイシア様が察しの通りです」


「やっぱ当日か。ちなみに暗殺者がいそうな目星はついてるのか」


「当日に予定されている重要な行事は三つ。一つ目は晴天の都市での国防会議。二つ目は海洋都市での軍事演習。三つ目は冬──」


「──特等学園の修学旅行」


「……なぜそれが重要な行事だと?」


 マスカレードは目を見開き、グラグラと揺れる瞳をグレイシアに向けている。

 グレイシアははにかみ、笑みをこぼす。


「冗談だよ。で、何て言おうとしたんだ」


 マスカレードは一瞬、反応に遅れた。


「重要な行事の三つ目は、冬待の街で行われる富裕層のパーティーです」


「さて、修学旅行はどこになるかな」


 グレイシアはこれからを心待ちにしていた。


「グレイシア様。ちゃんと指示通りに動いてくださいね。くれぐれも別の持ち場にいかないこと」


「目的を果たせば良いんだろ」


「それはそうですが……」


「じゃあ好きにさせてよ。そうでなくちゃ俺の本気が出せないんだから」


 冷気がどよめく死人の丘で、グレイシアは殺意を溢れさせていた。隠す気配のない、見せつけるような殺意。

 マスカレードは恐怖でグレイシアに視線を向けることさえできない。


「多分だけどね、これから起こる戦いは最終決戦の引き金になる」


 グレイシアは見ている。

 この戦いの結末が、どのような方向に進むのか、を。


「回避できるかは東国次第だけどね」


 やがて始まる東国と西国の接触。

 暗殺者に迫る死刑執行人。

 東国に待ち受ける結末は一体……。

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