第四十一話『そして始まる最悪の日』
修学旅行当日まで、多くの者ができる限りの準備を尽くした。
各々が各々の計画を実行するため、ひっそりと暗躍する。
特待Aクラス生はそれぞれの目的を実行するべく動き出し、幽と風霧・海原は遺言回収の計画を立て、西国は東国落としのために息を殺す。
「──さあ、最終決戦へ向けて東国の闇を暴こうか」
深い深い海底の向こう側から誰かが言った。
その声が誰のものか、後に彼は知ることになる。
♤
修学旅行当日。
行き先は冬待の街。
年中雪が降り続ける異常気候の街。冬にはもちろん冷たく雪が降るが、夏には暖かい雪が降る。
東国の観光名所として賑わっている。
特等学園からバスで一時間。
旅館に七台のバスが停車する。降りていく生徒の中に暗殺者はいた。
「王子、気を引き締めなさい」
「はい」
鳳は王子へ忠告をする。
王子は金の前髪を整えて平静を装いつつも、緊張を抱いていた。
「潮、どっちが多く撃退できるか勝負しよう」
「いいね。この修学旅行を勝利の記念日にしてみせる」
速水は宮園へ勝負を持ちかける。
宮園は金髪を揺らして微笑み、速水の提案に食いついた。
旅館に着いた生徒らにはしばしの自由時間が与えられる。だが暗殺者が向かう場所はたった一つ。
全員が旅館の地下に続く扉を通り、地下室に向かう。旧校舎地下一階にある大広間と構造やレイアウトは似ている。
幽、風霧、海原が着いた頃には既に皆集まりきっていた。
全員の集合を確認すると、斑鳩が前に一歩踏み出す。
「今回の暗殺対象は事前に伝えてある通り、東国に忍び込んだ西国の秘密機関『見えざる手』のメンバー。潜入した数は三十六人」
「六死刑は来ないのですか」
「それならおそらく──」
「斑鳩、大変なことになった」
勢いよく扉を開けたのはCクラス担任白草。
彼女はすぐに備えつけのテレビに駆け寄り、報道番組を流す。
画面には生放送されている都市の映像が映し出されている。軍港に停泊している一隻の軍艦。そこから冠を被った男が現れ、その周囲を多くの兵士が囲む。
まるで最重要人物、人間国宝のように厳重な扱いで登場した男。
「あの人って……」
世界中が知っている人物。
その人物が海洋都市に来ている。
「何で西国の国王が……っ!?」
その場にいた多くの者が唖然とする。
西国国王クイーン。十三日の金曜日で崩壊した国を科学文明で発展させた先駆者。
彼女の側に仕える者の一人、それは六死刑の火刑である。
まるで暗殺者の動向を調べるために来ている。
「なぜ……東国は彼らの来国を断らなかったのですか」
「上は強気らしい。ここで暗殺者がいないと示せれば、西国だけでなく全ての国に暗殺者の不在を証明できるとお考えだ」
疑問を投げ掛ける氷織に斑鳩が説明する。
氷織は上層部に不信感を露にする。その表情を斑鳩は見ないふりした。
「状況がどうなろうと、我々がすべきことは一つ。潜入している『見えざる手』を一人残らず葬れ。もし気付かれれば海洋都市に控えている軍艦が火を吹くことになる」
全員に緊張感が走る。
斑鳩の言葉に最も震撼していたのは氷織だった。
「修学旅行は二泊三日。期限内の作戦完了を期待している」
斑鳩はそう言葉を残して去っていった。部屋に残された三十二人の暗殺者。
暗殺者らはそれぞれに思う。
失望を、悲痛を、笑みを、興奮を。
「鳳さんの予想通りですね」
期待通りの結果になり、ポーカーフェイスで喜びを隠す鳳に王子が言った。
「そう来てくれなければこちらの計画も台無しになっていました。──感謝しますよ。斑鳩先生」
「……え?」
「何でもありません。とりあえず『見えざる手』を処理しましょう」
「では行きましょうか」
鳳と王子は一足先に部屋を出る。
二人の背中を鋭い眼光で睨みつける者が一人いる。
「鳳、お前を殺す。必ずだ」
誰かが言った。
誰にも届かない宣戦布告。




