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うざいくらい慎重すぎる暗殺者  作者: 総督琉
第三章『紅夜の修学旅行』
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第三十七話『西国が動き出す』

 五月が始まる。

 学生たちは、五月のメインイベントである修学旅行に期待を抱き、暗殺者はわずかな殺気を添える。


 新校舎の屋上。

 速水が盗聴器やその類いの物がないことを確認した後、第Ⅵクラスの暗殺者──速水、宮園、赤羽、幽が集結する。


「去年の修学旅行は国内最大級の遊園地だって。やっぱ一流の学校だと旅行先も一流なんだね」


「東国最大の学園ってのもあながちお飾りだけじゃないね。まあ一般生徒とは違う俺たちじゃ普通に楽しむのは無理だろうけど」


 修学旅行について楽しそうに話す宮園に、赤羽は暗殺者としての立場から本音を吐露する。


「修学旅行で任務あるなら楽しめないじゃん」


「調べたところ、去年は遊園地で失踪者が出てるそうだよ。結構な権力者だって。つまり修学旅行の場所は暗殺学園が暗殺の場所を決めてるだけだろうね」


 赤羽は事前に修学旅行の件を調査していた。学園の図書館にある新聞記事や評論を読み、情報収集を行っていた。


「ってか暗殺学園は極秘組織なんだよね。特等学園はグルなのかな。それとも知らないのかな」


「多分知らないと思うよ。知ってるのは国のトップかそこら辺じゃないかな。暗殺学園の存在を知られるリスクは一パーでも減らしたいだろうし」


 赤羽と宮園が話を交わしている。

 その間、速水は終始無言で旧校舎を見ていた。


 宮園は目線を赤羽から速水へ移し、本題へ促す。


「碧、私たちを集めた理由って何?」


 全員の意識が速水へ向く。

 速水は全員に顔を向けると、ポケットから一通の手紙を取り出した。

 手紙が入っていた封筒は校舎の壁そっくりの色使いがなされている。


「何が起こるか知らされていないけど、暗殺学園から一通の書簡が届いたよ。それも厳重な暗号文で」


「解読したの?」


「数字と曜日を使っただけの単純な暗号文だからね。一分あれば解読できたよ」


 速水は暗号が書かれた面を開いて全員に見せる。全員が身体を硬直させ、暗号の意味を理解できなかった。


「ちなみに内容は?」


 宮園が聞くと、速水はすんなりと答えた。


「暗殺学園十三期生集結」


 三人は一同に震えた。

 一ヶ月の間、暗殺学園からの指令は何一つなかった。だがここに来て、全員を集結させようとしている。

 暗殺学園ですら対処に困る事態が起こっている可能性が高い。


「場所は旧校舎地下一階の大広間。時刻は二十時」


 鬼気迫る事情である懸念をする宮園、赤羽、幽。

 だが速水は全てを悟った表情で手紙を見ている。


「もしかして呼び出される内容を分かってたりするの?」


 宮園は恐る恐る問いかける。

 宮園の問いに対し、速水はすぐには答えない。一瞬周囲に視線を配らせ、後に答える。


「どうやらここ暗殺学園の存在が気付かれつつある。すぐに動くぞ。三国のどこかが」


 速水は真剣な面持ちで口にする。

 三人は一様に恐怖を感じていた。

 もし本当だとすれば、自分達の命はどうなるか。その考えが頭を過る。


「何でそう思った」


「半分勘だ。根拠は薄い。それでも理由を挙げるとすれば幾つかある」


 小さな声で訊く赤羽に、速水は平然と返す。


「まず一つ、宮園の外出申請が断られた件だ。理由は体調の心配ということだが、暗殺学園がそのようなことを心配するとは思えない。弱肉強食を掲げるくらいだ。よほど貴重な戦力でない限り、死んだなら死んだで片付ける。つまり暗殺者をむやみに外に出したくない理由があった」


「言われてみればそうかも。私、ただでさえAクラス末席なのに」


「次に四月に暗殺学園からの音沙汰が一切なかった件だ。これまで先代は四月の時点で多くの任務を受けた。だが一つどころかゼロ。暗殺学園に予想外の何かがあったんだろう」


 速水は暗殺学園のことをよく調べている。その上で彼女はそう結論をつけた。

 速水の推測は根拠が少ない点があったが、全員が納得していた。速水の実績から考えれば当たっていてもおかしくない。


「多分、私たちは最悪な時代に生まれてきた。それを食い止められるのは私たちだ。全員で生き残って青春するよ」


 速水は皆に勇気を与える。

 速水が言う通りの現実になっていれば、世界は危険な状態に陥る。

 だが速水は毅然と振る舞った。速水の姿勢が全員の心にも勇気を与えてくれる。


「二十時まであと九時間」




 二十時になり、旧校舎地下一階にある大広間には鳳を筆頭とする暗殺学園十三期が全員集まっていた。

 特待Aクラス、Aクラス、Bクラス、Cクラスの面々が一同に顔を合わせることは滅多にない。

 特待Aクラスは全員集められた意味を理解しているようだった。


 特待Aクラス第五席、八神は速水を睨みつけている。速水は鋭い視線に気付きながらも、一切を無視し、宮園と雑談を交わす。


 異様な空気の中、特待Aクラス担任の斑鳩を筆頭に、Aクラス担任鴻巣、Bクラス担任白草、Cクラス担任古木が姿を見せる。

 全員が強者の風格で現れる。全員が修羅を生きたようなオーラだ。


 斑鳩は大広間の端にある壇上に上がり、残り三人は壇の横で立つ。


「察している者もいるが、本題を話そう」


 到着して早々、斑鳩が話し始める。

 息をのむ者、平然と待つ者、楽しみにしている者、敵を睨む者など、多種多様だ。


「ここ暗殺学園の存在が気付かれ始めている」


 速水の推測通りだった。


「とはいえ、確定的な情報が流出したわけではない。あくまでも僅かなヒントを辿ってある国が探りを入れに来ている」


「国が……っ!」


 それさえも速水は推測していた。


「場所は西国。やがて西はここ東へ疑念の真相を探りに来る。それが丁度修学旅行の日と重なる」


 全員がそれから先の内容を察した。

 暗殺者に課せられる任務は一つ。


「その日、西国の敵を殺せ」

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