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うざいくらい慎重すぎる暗殺者  作者: 総督琉
第三章『紅夜の修学旅行』
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第三十八話『各々の仕掛け』

 西国は東西南北の中で最も犯罪件数の少ない国である。その所以は、身の毛もよだつほど恐ろしい刑罰にある。

『六死刑』と呼ばれる六人の死刑執行人。

 全員が国内全域での刑の執行を許されている。彼らの前で罪を行えば、どれほど小さな罪であれ死刑囚である。


 暗殺学園の生徒は三国の情報を詳しく叩き込まれている。そのため、動き出した国が西国だと知った瞬間、全員が頭に過らせたのが六死刑だ。

 六死刑は東国が最も恐れている相手。


 百年前、暗殺ビジネスが最も隆盛した時代、最大の障壁となったのが先代六死刑。

 暗殺ビジネスでは東国が先頭に立ち、莫大な利益を得た。

 彼らは東国の暗殺者を次々と処刑し、暗殺ビジネスと真っ向から対立した。結果は世界そのものの腐敗により決着はつかなかったが、暗殺ビジネスを最も追い込んだのが西国の六死刑。


 その歴史を全ての国が知っているため、自国の治安維持として高い機能を持ち、その上他国への抑止力としても絶大な影響力を持つ。


「斑鳩先生、やはり六死刑が動くのですか」


 Bクラス主席一色が問う。


「たとえ動くとしても一人だ。だが西国は確定的な情報を得られていないため、大規模に兵を動かせない。今回動くのは六死刑直下の極秘情報収集部隊『見えざる手』」


『見えざる手』は主に他国へのスパイ活動、犯罪組織への潜入を行う組織。表向きにはその存在は知られていない。

 彼らの収集した情報をもとに六死刑が動いている。

 情報の収集に関してはエリートである。


「では穏便にしておく方が良いのでは。そうであれば暗殺組織がないという誤解を与えられるかもしれない」


 Aクラス主席王子は言った。

 彼の意見に賛同している者はこの場に多くいた。


「できれば私もそうしたいところだ。だが我が東国は問題を多く抱えている。上からの命令で、『見えざる手』のメンバーをできる限り殺さなければいけない。修学旅行では第Ⅰクラスから第Ⅵクラスで競ってもらう。最も多く西国の敵を殺せた者には報酬が与えられる」


「愚策ですね。暗殺者の存在を露呈させるような行為ですよ」


 Aクラス第五席氷織吹雪はため息をついて呆れる。

 王子も同調している。


「確かに愚策だ。だが幸いなことに東国は治安が最低な国だ。平穏な首都と放棄された数々の都市。厳重な治安維持と治外法権同然の街。その上巨大な犯罪組織が出来上がっているという噂もある。つまり、殺しても問題ないと上は考えている」


 罪に咎められるのは噂でしか知られていない巨大犯罪組織とやらで、暗殺学園の生徒ではないということだ。

 この暗殺にほとんどの生徒が乗り気ではなかった。ほとんどの生徒が後ろ向きな姿勢だが、鳳が切り出す。


「潜入する敵の数は把握しているのですか」


「こちらもスパイを潜入させている。そこで確かな情報を入手している」


 鳳の前向きな姿勢に第Ⅰクラスの王子や不和、一色は驚いていた。

 この行為は自分の首を絞めるだけだと誰もが認識していた。

 しかし前向きな姿勢だったのは鳳だけではなかった。


「やっぱ強気じゃないとね」

「眠いけど、さすがにやるしかないよね。いい加減暗殺しないと腕が鈍っちゃうし」


 神凪と不死も鳳に同調して一歩前に出た。

 新たに同調する特待Aクラスの二人を見て、大広間には異様な空気が漂う。


 残りの特待Aクラスはどう動くのか、全員の意識が氷夜、八神、速水に向く。

 氷夜はカップルのように氷織と腕を組み、話には割っていこうとしない。

 八神は速水だけを見て、自分が他の生徒から視線を向けられていることを気に止めない。

 速水は壁に背をつけ、周囲の反応を感じながらも、一切の身動きをせず息を潜めていた。


 鳳もそっと速水を見ていたが、動かないと知り、視線を外す。


 全員の視線は再び鳳、不死、神凪の三人へ移る。


「何で『見えざる手』が極秘組織か分かってる? 知られちゃまずいから極秘なんだよ。知られたら自分の国が他国へスパイ行為を行っているってバレちゃうから」


 スパイ行為は禁止されていないが、敵を作る行為には違いない。『見えざる手』という組織の存在の漏洩は、戦いのきっかけとして利用できる。


「『見えざる手』を全員殺したところで、西国はそれを発表できないんだよ。まあ自国の身を危険に晒した上で公表する可能性もゼロじゃないけど、もしそれをすれば西国は未来が見えていないことになる」


 神凪は言った。

 特待Aクラスの生徒は西国の結末を理解していた。教師陣も同じく。

 AクラスやBクラスにも結末を察している者が数人見受けられる。


「全員殺せば問題ないです。それだけのことですよ。皆さん」


 特待Aクラス主席が言っている。

 その説得力が多くの者の心を突き動かした。特にCクラスやBクラスを中心に。


「この作戦について異議を唱える者がいなければ、作戦の続行を確定とする。九日後の修学旅行で再度作戦や敵の情報を伝える。以上だ」


 誰一人として異議を唱える者は出なかった。鳳の尽力もあり、自然と会議は丸く収まった。


「…………ふっ」




 斑鳩ら教師は全員大広間を後にした。

 CクラスやBクラスの生徒らは、同じ暗殺クラスだった頃の者たちと話を交わしていた。


 幽のもとにも二人の暗殺者が歩み寄る。

 Cクラス主席と次席。

 二人は現在第Ⅰクラス、つまりは鳳が率いるクラスに所属している。


 鳳はCクラス二人をチラリと見ると、他の第Ⅰクラス生徒を一見する。その後、王子を連れて大広間を後にした。




 旧校舎屋上。

 真夜中の月が明るく輝く空を見上げ、鳳は言う。


「王子、もしあなたがあの場の空気に飲まれてしまっていたら、あなたの首を切っていましたよ」


 突然の宣言に王子は微かに震える。

 鳳の顔は王子に向く。


「それは一体どういう意味ですか」


 今にも殺されるのではないか、そんな恐怖心で手が汗でびしょ濡れになる。

 王子は苦笑いを浮かべ、鳳の言葉の真相を探る。


「暗殺学園の本質をお忘れですか。たった一人、最強の暗殺者さえいれば、あとは全て捨てても構わない」


 王子は鳳の目を見た。その目の先には王子がいるはずだが、瞳が映し出すのは鳳だった。

 王子は鳳の目的に気付いている。だが深入りをしない。常に彼女の纏う殺気が地雷のように思えたから。


「あの場での話し合いは全て嘘です。今回の作戦は愚策です。最悪暗殺者の存在が露呈するかもしれない」


「…………」


 王子は黙って鳳の話を聞く。


「今回の会議で全てのクラスは士気が上がったでしょう。私が直々にありがたい言葉を与えたんですから。しかし修学旅行当日、士気は急に下がるでしょう」


「…………」


「王子、あなたも少しは気付いているでしょう」


 鳳の問いかけに王子は小さく頷く。


「士気を上がった状態から落とすことで、暗殺当日のパフォーマンスを崩すつもりなのですね」


 探り探り、まだ答えが曖昧ながらも答えた。


「ではなぜ士気が下がると思いますか」


「西国がそう簡単にこちらの手中に落ちるとは考えにくい。おそらく既にあちらも策を打っており、それが修学旅行当日に発動する……ということですか」


「まあそんなところですね。まあ当日になれば分かりますよ。神凪と不死の思惑と同様に、私がしたかったことが」


 鳳は答えを伝えなかった。

 だが王子にのみ、その欠片を与えた。


「何を信じるかはしっかり決めておきなさい。そうでなければそれは愚者です」


 その言葉を最後に、鳳は闇夜に紛れて消えていった。

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