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うざいくらい慎重すぎる暗殺者  作者: 総督琉
第二章後編『速水碧の秘密』
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日常回『1/3のケーキ』

 第Ⅴクラスとの決闘にも勝利し、数日が経った。

 速水を巡る事件にも一旦の終止符が打たれた。

 第Ⅵクラスの親交を深めるべく、宮園の極秘オペレーションが始まろうとしていた。


 ……が、



 特等学園は東国最大の学園である。

 国からの援助が非常に優遇されており、国の首都に置かれている。

 生徒一人一人に与えられる学生証は、あらゆる店での割引券となる。あらゆる店が国の直営であるからこそ、そのようなサービスを全生徒に提供できる。


 だが暗殺学園の生徒は一般の生徒とは異なっている。

 暗殺学園生徒は外出するには上層部からの許可が必要であり、許可が下りたとしても複数の監視に見張られることになる。


 宮園はサプライズに必要なケーキを購入するため、一万円の資金援助の希望とともに外出許可を申請した。

 だが上層部はその要請に対し、承諾をしなかった。つまりは却下したのである。


 宮園は斑鳩先生のもとへ向かった。

 斑鳩は上層部の者ではないが、宮園程度の人物では上層部とは直接接触できない。そのため斑鳩が宮園の申請書を上層部に提出している。


「先生、なぜ私の申請が却下されるんですか」


「お前は一度死んでいる。氷夜によって一命を取り留めたが、この先お前の身に異変が訪れないとは限らない。その事を踏まえて、安静にさせておくべきだと判断した」


 数日前の第Ⅵクラスとの決闘の最中、宮園は心臓を銃弾で貫かれている。

 氷夜のみぞ知る治療法で現在生きている。氷夜の治療法は暗殺学園も仕組みを知らないため、宮園を放置できないのだろう。


 斑鳩も同じ意見だった。宮園を学園の外に出すリスクは大きいと考えている。

 斑鳩は別の仕事もあったため、すぐに追い返そうとしていた。

 宮園はどうしてもこのサプライズをしたかったため、斑鳩の前から立ち去ろうとはしなかった。毅然と立ち、自分の意志を押し通そうとしていた。


 その姿勢に斑鳩は突き動かされた。


「……そうだな。調理室に行けばケーキを四人前作るくらいの材料はある。存分に使え。後で補充はしておくから」


 宮園は目を輝かせ、斑鳩の案に気分を高揚させた。

 規律には遵守を示すタイプの斑鳩。だからこそ斑鳩は別の案を見出だすのに長けていた。

 優秀な暗殺者として、あらゆる面に秀でている。

 宮園は真の実力者の一面を垣間見た。


「ありがとうございます。斑鳩先生」


 宮園は職員室を後にする。

 残った斑鳩は、宮園潮から連想したある人物の写真を胸ポケットから取り出した。


「そういえばこいつも変装の名人だったな。──鬼灯(ほおずき)



 ♤



 早速宮園は新校舎の調理室に向かう。

 期待に胸を膨らませ、下から火をつければ気球のようにどこかへ飛んでいってしまうほどウキウキ気分な様子。

 その胸を萎ませたのは調理室だった。


「これがケーキ……」


 宮園の料理の腕は致命的だった。

 ケーキの材料は十人分作れるほど有り余っていた。だがほとんどが理解の難しい芸術作品のように無惨に消えていった。

 味覚を確認するためだけにあるような強烈な味、西洋の芸術家が見れば唸るような奇々怪々な見た目。どれをとってもケーキとは呼べない。


 残った材料は一人分。

 クリームまみれの両手を悲観する。


「…………」


「──落ち込むことないんじゃないか。潮」


 宮園の背後には三人の暗殺者が立っていた。

 決して命を狙っているわけではない。彼女らは宮園の支えとなりたい。


「ケーキ作りの楽しい時ってのはやっぱり作ってる時だ。というわけで、私たちも力を貸そう」


 速水、赤羽、幽の三人が調理室に集う。


「サプライズだったんだよ」


「その気持ちは真摯に受け取らせてもらう。気持ちはいくらあってもありがたい」


 速水は宮園の頭をポンポンと撫でる。

 その行為によって宮園の身体は仄かに火照る。


「じゃあ皆で作ろうか」


 速水は着ていたブレザー脱ぐと、その下にはエプロンが現れた。

 模様は迷彩柄。


「暗殺者たるもの、あらゆる準備をしておくものだ。そうだろ。赤羽、幽」


「何で迷彩……?」

「エプロンじゃ隠れないでしょ」


 赤羽と幽は速水のエプロンをじっと見つめる。その下に着る純白のシャツには紛れていない。


「それにオレたち、エプロンなんてないって」

「まさか料理するとは思わなかったし」


 赤羽と幽はシャツの姿のまま変わらない。

 だが速水は慌てることなく、まるでそれも想定の内だと笑ってみせた。


「そんなこともあろうかと、二人分のエプロンも用意している」


 速水が手に出した二つのエプロン。それを見て二人は絶句する。

 一つはハートマークが無数に描かれたピンクのエプロン。もう一つは腹筋が描かれたエプロン。


「これ着なきゃいけないの」


「忘れたんだから文句は言わない」


「何でオレらがこんな目に……」


 二人は文句を言いつつ、速水が差し出したエプロンを身につける。

 幽がハートだらけのエプロンをつけ、赤羽が筋骨隆々のエプロンをつける。


「赤羽、ムキムキじゃん」


「本当にオレがムキムキだったら握り潰してるぞ」


 赤羽は赤面しながら速水に強気で張り合う。

 速水は声を押し殺すように笑い、宮園と幽は赤羽を見てニヤニヤしている。

 普段はクールな赤羽の羞恥心をくすぐり、速水は満足していた。


「十分楽しめたし、ケーキ作りに取りかかろうか」


 それから四人はケーキ作りを始めた。

 放課後の調理室には賑やかな声が波風のようになびいている。

 誰が見ても暗殺者だとは思わない。ただ青春を謳歌する高校生だ。


 扉一枚を挟み、斑鳩が調理室の様子を聞いていた。


「青春か……」


 斑鳩はふと自分の過去を懐かしむ。

 その時間は秒針が数度動く程度の時間だったが、斑鳩にとってはきっと長く感じられた。

 自然と身体が嘘の温もりで包まれたように熱くなるのを感じる。


「世界は常に回り続ける。変化の渦を絶やさぬように、永遠の変化が繰り返される。まだ若き暗殺者よ、この刹那を楽しめ」


 調理室からは学生の元気な声が響き渡る。

 自分が手にした銃弾のにおいも忘れて。

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