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TS貴族令嬢の複雑すぎる婚活事情  作者: 桜木桜


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第5話

 王都での社交から帰国して、早くも一月半。


「……はぁ」


 その日もみっちりと、夜のおつとめ(セックス)の授業があった。

 外遊先ではやりにくいので、城にいる間に終わらせたいのだろう。

 授業が長時間に及び、私は何度も笑ってしまい、何度も手を鞭で叩かれた。


 理屈では分かっている。

 女である私にとっては、一番大切な授業だ。

 子供ができなければ、性交渉が成立しなければ、困るのは私だ。

 夫が勃起障害だったら、あの手この手で勃たさなければならない。


 そのために実用的な知識と技術を学ぶのは大切だ。

 大切……だけど、私にとっては直視したくない話だ。


 笑わないとやってられない。


 ところであの張形、かなり長いし太いけど、あれがこの世界の男の平均サイズってことはないよね?

 あんなの、体内に収める自信ないけど。


「お疲れですか? 姫様。本日の政務を明日に回しても……」

「問題ありません。明日に回す方がかえって、気になって眠れなくなりますから」


 私は側仕えの侍女に、授業が終わるまで待機させていた騎士を呼ぶように伝えた。

 しばらくしてピンク色の髪の女性騎士が入室してきた。

 二十歳前後に見えるその女性は、緊張した面持ちで私に挨拶をする。


「それでは石鹸の売上から、報告してください」

「は、はい……」


 石鹸。

 現代日本人には必須のアイテムだが、この世界には存在しなかった。

 これは私にとっては、大問題だ。

 考えてみて欲しい。

 汚い男のおチソチソを体内に収めたいか?


 私は嫌だ。せめて清潔であって欲しい。


 そこで私は肌に優しい、性器もちゃんと洗える石鹸を開発し、この世界に普及させることにした。

 しかし問題が生じた。

 全然、売れないのだ。


 考えてみれば当然だ。 

 手も洗わない、風呂も入らない連中にはそもそも石鹸なんかいらなかった。

 石鹸がなかったのは技術力がないからではなく、そもそも需要がないからである。


 もういっそのこと、無料で配ろうかなとも考えた。無料ならもらえるし、使うかなと。

 しかし、父から「上のものから要らないものを押しつけられても反感を買うだけだからやめなさい」と説教されてしまった。


 自暴自棄になった私は不良在庫となった石鹸の廃棄を命じてから、不貞寝した。

 それからしばらく経ったある日、封臣の貴族家や騎士家の女性たちから「石鹸が欲しい」と注文が相次いだ。

 ……なぜ? 私は不貞寝しかしてないのに。


 気になったので調査をしたところ、私に仕えている女性騎士の一人が白状した。


 どうやら捨てるのが勿体なくて、捨てるふりをしてこっそり売りさばいたらしい。

 そう白状しに来た彼女の顔は死んでいた。どうやら処罰されると思ったようだ。

 ゴミとはいえ、横領と言えば横領である。

 しかし私はそれ以上にどうやって売りさばいたのかが気になった。


 詳しく聞いてみたところ、「ロゼリア姫が美人なのはこの石鹸を使っているからだ」という売り文句で売り払ったらしい。 

 ロゼリア姫は美人+ロゼリア姫様は石鹸を使っている=石鹸を使うと美人になれる。

 という方程式を導き出したらしい。

 要するに「衛生物品」ではなく、「美容品・化粧品」として売ったのだ。

 この世界の人間は風呂には入らないし、衛生状態にも興味を持たないが、美容には関心がある。

 だから売れたのだ。


 ……天才じゃったか。


 ひたすら恐縮していた女騎士ちゃんであるが、私はおおいに感心した。

 そして根掘り葉掘り聞いたところ、彼女は公爵家支配下の大都市の商家の生まれだった。

 だからその辺りの感覚が冴えていたわけだ。


 やはり私のようなアホが適当な考えで適当なことをするよりも、彼女のように優秀だったり、経験がある人に費用と共に丸投げした方が上手く行くんだなと思った。


 ところで「商人」なのか「騎士」なのかどっちなのかと思うかもしれないが、この世界では「騎士」とは広義では「騎士階級」という一つの階層そのものを指す。

 そして「騎士階級」とは「魔力を持つことができる富裕層・有力者層」を指す。


 詳細は省くが、この世界では魔力は金で買える。

 他にも気合いと根性が必要になるけど。


 そして騎士と言っても、武官もいれば文官もいる。

 女騎士ちゃんは、文官だ。

 会計を担当していたらしい。だからこっそりゴミを横領できたわけだ。

 

「……以上になります。売上は好調と評して良いかと。現場からは設備の拡大を求められています」


 女騎士ちゃん――シークは私にそう報告を上げた。


 現在、シークはブドゥーダル公立商会――私が前世知識で作った物品を販売するための機関――の幹部として、その辣腕を振るっている。


 彼女は良い意味で庶民的であり、常識的だ。

 しかしそれでいて頭が柔らかく、私の意図を汲み取り、良い具合にこの世界の価値観に落とし込んでくれる。


 私の今の価値観や世界観は、前世価値観とお貴族・お姫様価値観が混ざりあってカオスになっており、常識から外れている。

 彼女のように私の非常識を修正してくれる存在は得難いので、重用している。


「次に紙と白磁の開発についてですが……」


 シークの報告は簡潔で分かりやすかった。仕事はできるのだ。

 ちょっとセコいというか、金にガメツイところが玉に瑕だが……。


「いいでしょう、進めてください。……あぁ、そうだ。石鹸ですが、ラークノール公国へと持って行こうと思っています。用意しておいてください」


 社交では商人たちも随行する。

 できればラークノール公爵家に石鹸を売りつけたい。

 蒸し風呂の習慣があるらしいので、需要はあるはず。


「当然、あなたにも来てもらいます。準備をしておいてください」

「……はい。かしこまりました」


 シークは一礼してから退出した。

 

 それから仕事をしたり、勉強したり、魔力を増やす修行をしているうちに、協定締結のために旅立つ日となった。

 出発地は今、私がいるブドゥーダル公爵家の“北の城”――トルーニア城であり、目的地はラークノール公爵家の“南の城”となる。

 最短で片道、十日ほどになる。

 もっとも、道中で封臣の貴族家や騎士家を訪問して回るので、実際は二週間程度掛かる見積りだ。


 もちろん、私一人だけではなく、護衛や世話係、書記官なども随行する。

 人数は合計二百人ほどになる。

 これは多いか少ないかで言えば多い方だ。

 まだ戦争中ということもあり、護衛の比率が高い。

 普段の国内での巡幸であれば、五十人もいれば十分だ。


「姫様。そろそろ到着いたします。ご準備を」

「ええ、わかりました」


 私は本を閉じ、軽く身なりを整えた。

 しばらくして馬車が止まり、扉が開く。

 私は騎士の手を借りて、ゆっくりと馬車から降りた。


「ようこそお越しくださいました。ロゼリア姫」


 出迎えてくれたのは、事前打ち合わせ通りトール君だった。

 彼は右腕を曲げて右手を胸の高さに、左手は下げたまま腰から離れた位置に置き、小さく会釈した。

 両手にも、腰にも武器を持っていないという意味の挨拶だ。


 もっとも、彼のすぐ後ろには武装した侍従が控えており、少し離れた背後には武装した兵たちがいる。

 数はこちらと合わせて二百人ほど。


「お招きくださり、感謝いたしますわ。トール殿」


 私はドレスの端を摘み、軽く持ち上げる。

 この仕草も「武器なんて持ってないですよ」という意味がある。


 なお、この世界の女性騎士は本当にドレスの下に武器を隠し持っていることがあるので、前世の世界とは緊迫感が違う。

 

 だからこそ、互いに挨拶を終えた途端に、ピリピリとした緊張感が薄れたのを感じた。

 魔力はテレパシー的な効果があるので、こういうのは伝わる。


「先導いたします。どうぞ、こちらに」

「かしこまりました」


 私は再び馬車に乗り、トール君率いるラークノール公爵軍の先導の下、ラークノール公国を進んだ。

 半日ほど進んだところで、ようやくラークノール公爵家の“南の城”に到着した。


 城というと、某夢の国のお城をイメージするかもしれないが、ここの城は無骨な要塞という感じだった。

 純度百%の軍事拠点という感じだ。


 殺意マシマシ、戦争ヤル気マンマンである。

 隣接する伯爵はさぞや怖かっただろう。


 城には戦争の当事者である伯爵たちや、立会人となる貴族、王家の外交官がすでに到着していた。

 私たちが最後だったようだ。

 ラークノール公爵の姿はない。もっとも、これは当初の打ち合わせ通りである。


 ブドゥーダル公爵が自分の代わりとして次期当主を送り込んだのだから、ラークノール公爵もそれに合わせるのは自然なことだ。

 ラークノール公爵としては、トール君に花を持たせたいというのもあるかもしれない。


 全員集合した以上、戦争状態がいつまでも続くのは良くないので、パパっと休戦協定を結んでしまうことになった。

 もうすでに中身はできているので、互いに内容を確認し、サインをするだけだ。


 最後に一人ずつ順番に「約束はちゃんと守りまーす!」と宣言して終了だ。

 

 締結が終わった時にはすでに夕暮れであったため、その日は一度解散となった。

 そして翌日、平和を祝うということで昼食会が開かれた。


 ただし、城内部では会食ができるようなスペースがないので、会場は城壁の外、青空の下で行われることとなった。


 形式は立食だ。

 この人数だと着席でもいいような気もするが……まあ、多分席順を考えるのが面倒くさかったのだろう。

 ゲストである私を一番、トール君を二番目として、当事者の伯爵たちをどうするかで大揉めしそうだ。

 休戦を結んだ直後でギスギスするのはとても良くない。


「生牡蠣をいただけますか?」


 給仕に頼み、生牡蠣をお皿に乗せてもらう。

 私が事前に好物だと伝えていたこともあり、メニューには生牡蠣があった。

 時期的にも、手紙の内容としても、岩牡蠣だと思う。


「お口に合いますか? 我が領の牡蠣は」

「はい、とっても」


 トール君に声を掛けられ、私は大きく頷いた。

 それから下品にならない程度に口角を上げ、喜びを示す。


「わたくしの好みを覚えていてくださったのですね。とても嬉しく思います」


 ラークノール公国は海に面しているため海産物が豊富だが、それは北部の話だ。

 ここはラークノール公国から最南端。

 北から南まで、牡蠣を生で食べられる状態で運ぶのは、例え魔法があったとしても手間だろう。

 私に対する好意の表れと見ていい。


「う、うむ……まあ、手紙にも書かれていたからな」


 トール君は頬を赤らめ、目を逸らした。

 前よりも私への好意が強まっているような気がするが、気のせいだろうか?

 時間経過で恋心が熟成されてしまったとか……?


 これはこれで困ったな……。


「ところで……わたくしの名を冠したお酒の味はいかがでしょうか?」


 トール君が手に持っている飲み物は、ロゼリア酒という名前の特別なお酒だ。

 葡萄酒から作られた蒸留酒――つまりブランデーである。

 なぜ私の名前が冠されているのかと言えば、私が開発を命じたからだ。


 もっとも、欲しかったのはお酒ではなく、高濃度のアルコールである。


 この世界の女性の死因第一位「産褥熱」(原因:助産師の手が汚い)を回避するために、消毒用アルコールが欲しかっただけである。


 ただの酒精が強いだけのお酒を、飲み物として完成させたのは我が領の酒造家たちだ。 


 これは後から知ったのだがこの世界には「酒の熟成を促進する魔法」みたいなものがあるらしい。


 我が領の葡萄酒が高品質と名高いのは、葡萄生産に向いている土地というのもあるが、その手の魔法を代々継承している一族がたくさんいるからでもある。

 やっぱりこういうのってやる気と技術の両方がある人に任せるのが一番なんだなと思った。


 こうして開発された蒸留酒は父のお眼鏡にも適った。


 そして親馬鹿を発揮した父は完成した蒸留酒に「ロゼリア」と名付けた。

 やめて欲しかった。

 私、なんにもしてないのに……。


 と、そんなロゼリア酒は、本日、初の社交界デビューとなった。

 まだ量産できていないので、当分の間は外交の道具として使われることだろう。


「非常に美味です。香りと色合いがとても素晴らしい。人を惹き付け、虜にし、酔わせてしまう魅力は……あ、あなたと同じようだ。ど、どちらに酔っているのか、わからなくなりそうだ」


 トール君は顔を真っ赤にしながら言った。

 しかし何だか不自然というか、読み上げるような口調でもある。

 多分、渾身の口説き文句として、事前に考えて来たのだと思う。


「まあ、お上手ですね」


 素直に手を叩き、喜んでおくことにした。

 私は男を立てられるいい女だ。中身は男だが……。


 するとトール君は顔を綻ばせると、グラスの酒を一気飲みした。

 そして使用人に空になったグラスを手渡し、私との距離を詰めた。


「そ、その……帰国した後、社交ダンスの練習をいたしまして……」


 トール君はモジモジとしながら、割と唐突にダンスの話を始めた。

 もう何が言いたいのか分かったが、私は男を立てられる良い女なので、最後まで待つことにする。


「この後、社交ダンスの時間を設けています。その時……あなたに、練習の成果をお見せしたいと思っています。その、いかがでしょうか?」


 要するに社交ダンスの時間に踊ってくださいという話だ。

 別に事前予約なんてせずとも、その時にその場で誘えばよいと思うのだが。


「はい、よろこんで」


 私が答えるとトール君は露骨に嬉しそうな表情を浮かべた。

 告白に成功した中学生男子みたいだ。


 こんなに好かれるのは予想外だ。

 彼と婚姻が成立する可能性は限りなく低いのに……。


 俺と結婚しないと侵略するぞ!とか脅されたらどうしよう。

 機嫌は取りつつ、結婚は諦めてもらう方法を考えないといけないかもしれない。


 その後も二人で軽く談笑していると、こちらに一人の男性が近づいて来た。

 トール君と話したそうにしているが、彼は私に夢中で気が付いていない様子だ。

 仕方がないので私は「おや?」と露骨に男性に視線を向けた。

 

 ようやくトール君は男性の存在に気付いた様子で、彼に視線を向けた。


「これは……ラザァーベル伯爵。お久しぶりです」

「お久しぶりです。トール殿」


 ラザァーベル伯爵――うちの元帥はトール君に礼をした。

 トール君は少し驚いた様子で、ラザァーベル元帥の右手を見た。


「姫様より、ご恩寵を賜りました」

「ほぅ……」


 トール君は目を見開いた。

 私の治癒魔法の実力は有名な話だが、やはり風評と実際に手が生えている人を見るのとでは、印象も違う。


「こうしてお会いできることを楽しみにしておりました」


 それからラザァーベル元帥はトール君と世間話を始めた。

 最初は愛想よく相槌を打っていたトール君だったが、段々と機嫌が悪くなってきた。


「あなたのご子息はご無事です」


 そして途中から会話の流れをぶった切り、本題に突っ込んできた。

 慎重に自分の息子の無事を確認しようとしていたラザァーベル元帥は、ギョッとした表情を浮かべた。

 私もギョッとした。多分、この場の全員がギョッとしたと思う。

 一触即発だ。


「両の眼を始め、そのお体には傷一つ付けておりません。……もちろん、あの後から、という話ではありますが。あなたのご子息は最後まで勇猛果敢に戦われましたので、不本意ではありましたが、必要な措置を取らせていただきました。ご容赦いただきたい」


 トール君は全く悪びれた様子もなく、そう言った。

 それからラザァーベル元帥の返事も待たず、言葉を続けた。


「仮初ではありますが、こうして両家共に剣を収めることとなりましたので。身代の金をお支払いしていただいた時点で、御身の下にお返しいたします」


 お前の用件って、要するにこれだろ?

 他に確かめたいことがあるなら、回りくどい言い方せずに早く言え。


 全くもって貴族らしくなく、優雅さにも欠ける……しかし堂々としていて、全く隙を感じさせない態度だった。


 これはミニ・ラークノール公爵だ。

 ……キャラ違い過ぎでしょ。


 私、無事に国に帰れるだろうか?

 ちょっと心配になってきた。


 拉致・監禁・強姦は勘弁して欲しい。


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