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TS貴族令嬢の複雑すぎる婚活事情  作者: 桜木桜


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第20話

 クーランベル伯爵領を抜けると、二つの山脈に挟まれた細い平地――シュミシオン回廊に辿り着く。

 このシュミシオン回廊を抜け、関所であるシュミシオン城を通った先にあるのが、東西を二つの山脈に挟まれた堆積平野――ブドゥーダル平野である。


 このブドゥーダル平野は西大陸有数の――否、最大の先進地域である。

 事実として、他の公爵領では最大都市となれるレベルの都市がいくつも点在している。

 現在、西大陸で普及が始まっているフォークなどのカトラリーが生まれたのも、この土地だった。


 このブドゥーダル平野がそれほどまでに豊かである理由の一つは、この地が西大陸有数の穀倉地帯だからだ。

 大陸東部からシュミシオン回廊を通って流れ込む大河と、東西の山脈から流れ込む雪解け水と土砂はこのブドゥーダル平野に多くの恵をもたらしている。


 もっとも、それだけでは“最大の先進地域”となる理由としては片手落ちである。


 ブドゥーダル平野を他地域から追随を許さぬほどに、文化的・経済的に引き上げているのは、南部にある西大陸最大の貿易港――ブドゥーベル市である。


 ブドゥーベル市は統一帝国時代から南大陸や東大陸のような先進地域と、後進地域である西大陸を繋ぐ窓口だった。


 それは千年以上の月日が経った現在でも同様で、多種多様な物産がブドゥーベル市を通って輸出・輸入され、また様々な文化や人材が西大陸に流れ込んでくる。


 我がブドゥーダル公爵家の本拠地ともいえる、このブドゥーベル市――ブドゥーベル城に私が入城したのは、年末の十日前であった。


 滑り込みセーフと言ったところだ。


「あらまあ、ロゼリア姫。随分とのんびりとしたご到着だこと。……次期当主としての自覚が足りないのではなくて?」


 登城してすぐに私に文句をつけてきたのは継母だった。

 彼女は私の母親を嫌っており、そして「坊主憎けりゃ」理論で私まで憎んでいる。

 

 昔は細かいことであれこれと罵声を言われたり、魔力で威嚇されたり、鞭で打たれたりといろいろあったが、今では私の礼儀作法が完璧で文句のつけようがないレベルに達し、魔力量でもこちらが上回ったせいか、大人しい。

 まあ、陰口を言ってることは知ってるけど。


「やはり女の身では……」

「クーランベル伯爵領にて、裁判の上訴がありまして、それに手間取りました。わたくしの不徳の致すところです。以後、気をつけます」


 お前の実家が雑な判決出すからその尻拭いに時間が掛かったんだよ。

 と、私が反論すると継母は押し黙った。


「あら、まあ、そう……では、次からは気をつけるように」


 継母は扇で口元を隠すと優雅にその場から立ち去った。




「しかしお姉様。いくら何でも、ご到着が遅すぎませんか?」


 荷解きを終え、ようやく落ち着けた頃。

 継母に少し似た声の主に、私は非難を受けていた。


 金髪に碧眼の愛らしい顔の少女が、プクっと頬を膨らませた。


「わたくし、一人で年始の年中行事を執り行うことになるのではないかと……冷や冷やいたしましたわ」

「裁判に手間取りました。……余計な心労をかけてしまい、申し訳なく思っています」


 プリプリと怒る少女――ブランシュに私は小さく頭を下げた。

 遅刻にルーズなこの世界でも、さすがに数日単位となると非難されて然るべきである。


 しかしお姉様を労うという名分で始まったはずのお茶会だが、いつの間にやらブランシュによる説教になってしまっている。

 いや、私が悪いんだけどね。


「次からはこのようなことが、無いようにしてくださいませ。わたくし、お父様やお姉様と同じようなことはとてもできませんからね」

「ブランシュ一人ではありませんよ。お義母様も……」

「まあ! お姉様、それはもしかして、皮肉でしょうか? なおさらに決まっているではありませんか」


 全く、ズケズケ物を言う子である。

 誰に似たのか……まあ、母親だろうけど。


「しかしお姉様が手間取るお仕事なんて……それはどういった案件だったのでしょうか?」

「……」


 クーランベル伯爵がさぁー! と愚痴りたいのは山々ではあるが、ブランシュの前では言いづらい。

 人様の伯父についてとやかく言うのは気が引ける。

 が、しかし私が言い淀んだことにブランシュは気づいたらしい。


「まあ、察しましたわ。己の土地すらまともに統治できないのに、ブドゥーダル全ての地を望むとは、身の程を知らないにもほどがありますわ。これだから枝葉は……」

「ブランシュ」


 私は声を低め、彼女の名を呼んだ。

 私の雰囲気が変わったことに気づいたのか、今まで軽快に話していたブランシュの口が閉じられる。


「言葉と場は選びなさい」


 枝葉。

 それは分家を侮蔑する言葉である。


 家柄とか血統の良し悪しは人の価値観次第というか、顔の好みのようなもので多少分かれるのだが、基本的に分家は馬鹿にされる傾向がある。

 虎の威を借る狐的な存在だと認識されているからだ。

 そもそもとして、本家の威光や援助なしで独立している貴族なら「○○家の分家」なんて名乗らないので、当たり前と言えば当たり前ではある。


 とはいえ、枝とか言われて良い気分にはなるまい。

 本家と分家がギスギスしがちなのは、こういう何気ない言動が根本原因じゃないかと思う。


「……わたくしと、お姉様の二人きりですよ?」

「しかし耳はあります」


 私は背後に控えている使用人を意識しながらそう答えた。

 これはこの世界の貴族あるあるだが、上位者は下位者を人として認識しない。

 ブランシュにとって使用人たちは同じ人ではないため、「お姉様と二人きり」と考えたのだろう。

 だが彼らはちゃんと生きていて、耳だって聞こえる人間だ。

 ここでの会話を誰かに話さない保証はない。


 もっとも……大なり小なり貴族はブランシュと似たような考え方をしている。

 人間扱いされていないということは、その証言は人間の言葉として扱われない。

 例えるなら、ポンコツAIやオウムが変なことを言っているようなものだから、貴族であるブランシュが「そんなこと言ってませんわ」と言えば終わりだ。

 

 だが弱みは極力、見せるべきではない。

 枝葉という言葉を使わなければいけない理由はないのだから、使用は避けるべきだ。

 父も枝葉と言う言葉は使うが、こういう人に聞こえる場所で言ったりはしない……そもそも言うべきじゃない気がするけど。


「……お姉様がそう、おっしゃるのであれば」


 ブランシュは渋々という様子でうなずいた。

 が、しかし不満はあるらしい。


「お姉様は生真面目が過ぎると思いますわ。誰かのように怠けているのも問題ですが、お姉様はお仕事のしすぎです」

「わたくしだって、遊ぶことはありますよ。趣味だってあります」

「お姉様の趣味のほとんどは、一般的にはお勉強、お仕事と言いますわ。……聞きましたよ。今はガルザァース語を習われているとか。あのような田舎の言葉まで……」

「ラークノール公爵家は、今や王国北部の重鎮ですよ。我々とも、地理的に接していますし……重要な相手です。今後は交流も増えていくでしょう。味方になるにせよ、敵になるにせよ、言葉を知ることは重要です」


 ……まあ、半分くらいは私の趣味だが。

 私の言葉にブランシュは眉をひそめた。


「……お姉様。まさかとは思いますが、交流とは……わたくしが、ラークノール公爵家に嫁ぐことではありませんよね? わたくし、絶対に嫌ですわ! あんな海賊の野蛮人と……それに、どんな辱めを受けるか」


 ブランシュはブルブルと身を震わせるように言った。

 この世界では家柄が釣り合わない相手と結婚することは大変な屈辱であるとされる。

 ……私にはあまり理解できない感覚だ、

 まだ「力こそすべて」の方がわかりやすい。


「可能性はあるでしょう、もちろん、わたくしがトール殿と結婚することも」

「まあ! お姉様、嘘でしょう? お姉様のような高貴な方が、そんな……だったら、わたくしの結婚相手は、どなたですか? 馬か犬ですか? ご冗談はやめてくださいませ」


 あり得ない、あり得ないと言わんばかりにブランシュは首を左右に振った。

 そして鼻息を荒くしながら、断言する。


「お姉様は世界でもっとも高貴なお方なのですから、世界でもっとも素晴らしい殿方とご結婚されるべきです。そしてわたくしはその妹ですから、二番目に素晴らしい殿方と結婚するべきです。それがあるべき姿ですわ」


 この世界には家柄フェチ、血統フェチとも言う性癖がある。

 日本人が王子様とかお姫様という肩書に憧れを抱く感覚とは異なり、家系図そのものに興奮を覚えるという、倒錯的な嗜好である。


 ブランシュはそれである。


 なお、この世界では比較的メジャーな性癖らしい。

 現代日本で言えば「女性の胸が好き」くらいの感覚だろうか。


 これは小耳に挟んだ話だが、同じ趣味を共有する女性騎士たちと、家系図を眺めながら「誰と誰の組み合わせが良い」とか「こことここのカップリング最高」みたいに、議論しているらしい。


 ちなみに私は彼女たちの性欲の捌け口になっているそうだ。


 まあ確かに、私の家系図は馬で例えれば“シ〇ボ〇ル〇ル〇”とか“シ〇ザ〇”とか、みたいな名前がズラっと並んでいるようなものなので、その手のオタクからすればテンション爆上げになってしまうのは無理もないかもしれない。


 もっとも、対象は馬じゃなくて人間、しかも血の繋がった姉なのだから、かなり業が深いけど。


 なお、デラーウィアに「あなたも私に興奮するんですか?」と聞いたところ、「わたくしも家柄の良い方には多少感じるところはありますが……」と前置きした上で、「ブランシュ様はちょっと度が過ぎます」と言っていた。

  

 胸で例えるなら「大きめが良い」くらいなら普通でも、「Jカップ以上じゃないと嫌だ」レベルになると異常だ。

 つまりブランシュは変態である。


 なお、デラーウィアには「全く感じるところがない姫様も姫様です」と言われてしまった。

 私も変態だった。


「いいですか、ブランシュ。……わたくしたちの婚姻相手は、公爵家にとってどれだけの利益をもたらすかが、その基準となります。家柄は一つの要素に過ぎません。必ずしも望む条件の方と巡り合えるとは限りませんし、意に沿わない相手と結ばれることもあるでしょう。……それは覚悟しておきなさい」


 この世界の結婚は九十九・九%、政略結婚だ。

 つまり好きではない人とするのが結婚であり、恋愛とは対極の物である。

 ……まあ、もちろん私としてはブランシュには幸せな結婚をして欲しいけど。

 私? 結婚自体、そもそもしたくないから。誰が相手でも不幸せだし、どうでもいいよ。


「別にそれくらい、言われずとも分かっておりますわ。でも、嫌と口にするくらいはよいでしょう? お姉様だって……ラークノール公爵家はできれば避けたいでしょう?」

「お相手の前で漏らさぬ自信があるなら、別に構いませんが。……それと、わたくしは別に家柄に拘りはありませんから。別にトール殿と結ばれることに抵抗はありませんよ」


 そもそも男と結ばれることに抵抗あるけど。

 それを言い出すとキリがないので言わない。


「そうでしょうか? ……家柄以外で比較しても、お姉様に釣り合うとは思いませんが。お手紙、拝見させていただきましたが、わたくしよりも酷いではありませんか」

「でも、少しずつ良くなっているでしょう? わたくしは努力して、成長できる方を好みます」


 例えばラザァーベル伯爵のドラ息子はまあ……ちょっとアホだが、しかし頑張った結果、両手両足を失ったわけである。

 結果は伴わなかったとはいえ、頑張りと根性は認めてあげたい。


「ですが、お姉様と比較して……」

「そして、わたくしはあなたの頑張りも知っています。ですから、己を卑下することなく、もっと胸を張りなさい」

「……そう言ってくださるのは、お姉様だけですよ。贔屓が過ぎます」


 とは言うものの、ブランシュは嬉しそうだった。

 正直、ブランシュは可哀想だと思う。私みたいな、中身がいい年した人間と比較されて……。 

父からは「姉を見習え」と叱られ、継母からは「どうして父親が同じなのに!」と詰られ、本当に気の毒だ。


「しかし、お姉様は器が大きいですわね。……逆にどのような方がお嫌いなのですか?」

「……敢えて言うのであれば、為すべきことを為さない、怠慢な方です」

「ああ、伯父様みたいな……」

「誰が、とは一言も口にしていません。勝手な推察はやめなさい」


 あの人は頭が良い訳では無いが、特別悪いわけではない。

 だが仕事はしないのだ。

 そのくせ、利権ばかり要求してくる。


 私の即位に口出ししているのも、「彼自身がブドゥーダル公爵になりたいから」ではないだろう。

 主張を引っ込める対価として、利権を要求しているだけ。

 要するに楽して利益が欲しいのだ。……気に食わない。


「そう言えば聞きましたよ、お姉様。伯父様が置いた関を燃やしたと。いくら伯父様に非があるとはいえ、お姉様が自ら手を下すなんて……お転婆が過ぎませんか?」

「違いますよ、ブランシュ。わたくしは賊が勝手に設置した関を、伯爵の代わりに除いたのです」


 クーランベル伯爵は自分が設置したとは言わなかったのだから、私はクーランベル伯爵が設置した関所を破壊していない。

 ……建前上は。


「どちらにせよ、伯父様は内心では怒り心頭でしょうね」

「自業自得です」

「それもそうですが……わたくし、伯父様のお気持ちも、少し分かりますのよ」


 私が首を傾げると、ブランシュはクスっと笑った。


「自分の娘ほどの年の女が、自分よりも優秀だったら、嫉妬でどうにかなってしまいますわ」

「嫉妬するくらいであれば、その分、仕事に励めばよいのに」

「ふふっ……それができれば、嫉妬はしません」

「……よくわかりませんね」

「お姉様はそれで良いと思いますわ」


 ブランシュはクスクスと笑ってから、ブランデー入りのお茶を飲み干した。

 そして咳き込んだ。

 無理しなければいいのに……。




 年末年始の年中行事とは、即ち宗教的な儀式である。

 西大陸のメジャーな宗教(というよりは信仰?)は精霊信仰と祖霊崇拝である。

 日本の神社で行われるような祭祀を想像してくれればいい。

 いわゆる、アニミズムである。

 

 この世界は祭政一致が当然であるため、宗教行事はすべて政治に繋がる。

 サボることは許されない。


 もっとも、今回は私とブランシュの二人で分担できたので、いつもより落ち着いて過ごすことができた。


 そして年始から十日ほど時が立ち、祭祀イベントが落ち着いてくる頃……。

 ブドゥーダル公爵領の騎士たちが、続々と登城してきた。


 新年の挨拶と、忠誠の誓いを行うためだ。


 これは別に義務でもないが、この時期はブドゥーベル城に領主がいることが多い。

 またブドゥーダル公爵領は道路などのインフラ整備が進んでいる。

 何より、ブドゥーダル公爵領はトルーニア公爵領と比較しても“中央集権レベル”が高いので、騎士たちはあちらから挨拶に来るのだ。


 騎士たちの人数も多いため、大抵は代表者が挨拶の言葉を口にする。

 流れ作業で足にキスをさせ、最後に上奏したいことがあるようなら話を聞く。

 もっとも、殆どの騎士はキスを終えたらとっとと帰ってしまうが……。


「信仰の擁護者にしてブドゥーダルの地の太守様並びに後継者様に、新年のご挨拶と誠実を誓うために参りました」


 少し変わった口上を口にしたのは、どこか異国情緒を感じさせる衣服に身を包んだ老人だった。

 色の濃い肌に、彫の深い顔立ちはあまり西大陸では見られない造形だ。


「太守の名代として、ブドゥーダルの地とバークスの血を継ぐ者として受け入れましょう」


 私はそう言うと足……ではなく、手の甲を差し出した。

 老人は深々と頭を下げ、それから私の手の甲にキスをする。


「……忠誠を誓うことができぬ非礼を、どうかお許しくださいませ」

「許しましょう。わたくしは、あなたがたにとって、誠実を誓うことが地に立つ者に対する最大の敬意であることを理解しています」

「ははぁっ……」


 彼はこの世界では非常に珍しい、“一神教”の集団の指導者であった。

 彼らは宗教上の理由から、足へのキスができない。

 自分たちが“忠誠”を誓えるのは、唯一の神だけらしい。


 これはこの世界の領主層とは、非常に相性が悪い信仰・思想である。

 だからといって積極的に殺しに行くほど暇ではないが、だからといって守ってやる義理もないと考えるのがこの世界の領主たちである。


 領主の庇護が受けられないということは、ある意味「どんなことをしても許される相手」だ。

 というわけで彼らは世界各地で迫害を受けている。


「あなた方がわたくしに誠実である限り、わたくしもまたあなた方に誠実でありましょう。その生命と財産に庇護を与え、その信じるものを擁護いたします」


 私はお決まりの台詞を口にする。

 彼らは土地を持たないが、代わりに学問に秀でており、また技術力も高い。

 ブドゥーダル公国に養蚕をもたらしたのも彼らだ。

 というわけでブドゥーダル公国は“忠誠の誓い”の免除などの特権を与え、彼らを庇護している。


「ところで、あなたの孫娘はわたくしによく仕えてくれています。後で労ってあげてください」

「ははっ……姫様にお褒めのお言葉をいただけるとは、光栄の極みにございます」


 孫娘、つまりシークに会ってあげてねと伝えて、会話を終える。

 ちなみにシークは私の足へのキスに抵抗がない。

 シークに限らず、最近は彼らの中で“若者の宗教離れ”が深刻化しているらしい。


 なお、彼ら一神教集団をルーツとする騎士たちは、“東方派騎士”と呼ばれている。

 彼らが東大陸の出身だからだ。

 シークを始めとして、文官として出仕している者が多く、宮廷での発言力はそこそこ強い。


 シークの祖父を見送ってから、私はデラーウィアに尋ねる。


「本日はこれで終わりだったと記憶していますが」

「はい。……ですが、つい先ほど、黒狼騎士団の方々がご到着されました。いかがされますか? 本日はもう遅いので、明日に回すことも……」

「もう登城しているのでしょう? 通してあげてください」


 せっかく、待ってくれたのに「今日は受付終了しました」は可哀想である。

 デラーウィアも内心ではそう思っていたのか、少しホッとした表情で頷き、文官たちに指示を出す。


 しばらくして、豪華な正装に身を包んだ男たちがやってきた。

 黒い肌に彫の浅い顔立ちは、西大陸ではなく南大陸でよく見られる容貌だ。


「我らの偉大なる主君、そして後継者様に新年のご挨拶と、忠誠を誓うために参上いたしました。どうか、その勇ましき御御足にキスを捧げさせてください」

「忠誠を受け入れましょう」


 リーダー格の男……黒狼騎士団の団長は簡潔に挨拶を述べると、私の前に跪き、足の甲にキスをする。

 そして少し驚いた様子で目を見開き、僅かに微笑を浮かべた。


「昨年よりも、また一段と神威が増しましたな……姫様」


 騎士団長はニコニコと非常に上機嫌だった。


 彼はブドゥーベル市と南方の島々を拠点とする騎士団……というか、海賊団である。

 通常、騎士には“土地”が与えられるが、彼らには交易権や略奪権などの特権が与えられている。

 ブドゥーダル公爵家の海軍戦力は黒狼騎士団頼りなので、無碍には扱えない。

 なお、彼らのような南大陸にルーツを持つ騎士たちは“南方派騎士”と呼ばれている。

 こちらは武官として出仕している者が多い。


 筆頭騎士頭がその代表例だ。


「南方の情勢はいかがでしょうか」

「大陸は徐々に落ち着きを取り戻していますが、海上は落ち着くまでにはもうしばらく、掛かるでしょう」


 南大陸には“南帝国”(と我々が呼んでいる)国があるが、この国はしょっちゅう内乱状態になる。

 そしてそのたびに海上では海賊が跋扈する。

 彼ら黒狼騎士団もまた、そのような海賊が起源である。


「もっとも、太守様の御旗を穢す者は海の藻屑となることに、変わりはありませぬ」

「頼もしい限りです。……建国祭の折は、客人の護衛をよろしくお願いいたします」

「ははっ! 命に代えても」


 それから南大陸で売れ行きの商品など、あれこれ話していると、窓から西日が差してきた。

 ……少し長話が過ぎた。


「ご存じの通りですが、今はこちらの情勢も落ち着いていません。ですが……落ち着き次第、そちらに赴こうと思っています。いつまでには、とは約束できませんが」


 巡幸できなくてごめんね。でも、行けるようになったら行くから。

 私がそう伝えると、騎士団長は感じ入った様子で平伏した。


「ははぁっ……お心遣い、痛み入ります。兵たちも喜ぶでしょう」


 それから別れの挨拶を終え、騎士団長は立ち去って行った。

 なお、彼はこの後、ブドゥーベル市に在住の妻子とゆっくり過ごすらしい。

 単身赴任させて申し訳ない気持ちになる。もっとも、妻の方も海に出たくはないと思うけど。

 

南方派騎士や東方派騎士は、ブドゥーベル市を中心に活動しているため、その妻子は私たちの手の届く範囲にいる。 

また彼らに与えられている“御恩”は土地ではなく特権であるため、勅令一つでこれを取り上げることも可能だ。

何より、彼らはマイノリティであるため、私たちの庇護がなければ生きられない。

彼らが重用されているのはそのような背景がある。


地元民よりも異邦人の方が信用できるとは、皮肉な話である。

いや、私たちも異邦人みたいなものか。

地元民と母国語、違うし。


「おつかれさまです、姫様」

「ええ、全くです。……湯浴みの準備をお願いします」


 足が唾液でベタベタである。

 どうでもいいけど、間接キス……いや、やめよう。


「もうすでにご用意はできております」


 さすが、仕事が早い。


名前:アントシア・エル・クーランベル

性別:女

身分:貴族

年齢:30半ば

性格:頑固・執念深い・短気

趣味:庭弄り、裁縫

特技:ダンス

好きな異性:身分の高い男性

結婚相手に求めるもの:前妻との結婚を取り消して欲しい

一言:あの女さえ……



名前:ブランシュ・エル・ブドゥーダル

性別:女

身分:貴族

年齢:9歳(そろそろ10歳)

性格:頑固・正直・傲慢

趣味:歴史研究(家系図研究)

特技:二百年くらいなら有力貴族の家系図を空で書ける

好きな異性:身分の高い男性

結婚相手に求めるもの:西大陸で二番目に高貴な女性と結婚できることに感謝してくださいませ

一言:最近、蛮族の話になると、お姉様が饒舌になるのですが……気のせいですよね? そんなお姉様とあろうお方が、そんな異常性癖持ってないですよね?

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