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TS貴族令嬢の複雑すぎる婚活事情  作者: 桜木桜


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第18話

 その後、私は父と建国祭の段取りについてあれこれ話し合った。

 どうやら父は私に建国祭の準備をさせたいようだ。


 社交を主催するのは極めて重要度の高い仕事だ。

 招待状の作成はもちろん、貴族たちがきちんと来られるようにルートの選定や順番、宿泊場所なども考えなければならない。

 他にも料理の用意や、楽師や道化師の手配なども必要だ。


 そして大事なことだが出席者が貴族である以上、席次だったり、貴族同士の関係性についても考慮しなければならない。


 逆にこれを熟せれば、統治者としての能力を内外に示せる。


 ……もっとも、基本的には過去の先例に習えばいいし、そもそも細かいことは部下がやってくれる。

私があんぽんたんでも、失敗することはないだろう。

後継者の評価はそれを支える家臣も含めての評価になるので、「私が主導しなければ!」と色気を出す必要はないし、しない方がよい。


「新年までにはブドゥーベル城に行きなさい。本格的な準備は、新年が終わった後でも良い」

「おや……? お父様は?」

「私はトルーニア城に残る」

「……ラークノール公爵が攻めて来る可能性は、そこまで高くはないと思いますが」


 この前の狩猟大会では、トール君を始めとするラークノール公爵の関係者はこちらに友好的な態度だった。

 油断して良いわけではないが、そこまで警戒するほどではない気もする。


「皇帝の動きが不穏だ。ここに来て、船着場や道路の整備を開始した。……建国祭前に攻めて来ることはないだろうが、念のためだ」


 要するに「お前の動きは分かっているぞ」と皇帝に示すわけか。


「……それと、ロゼリアが建国祭を主導するとなれば、私が共同統治者として指名しようとしていることは、誰もが察する。追い詰められた分家共が下手を起こさないように、重石が必要だ」


 ブドゥーダル公国は三つの公爵領で形成されている。


 最北、実効支配が及んでおらず、ラークノール公爵と係争中のヨートグル公爵領。

 最南、私たちの本拠地とも言えるブドゥーダル公爵領。通称、内地。

 そして中部、今、私たちがいるトルーニア公爵領。


 東京と神奈川と千葉まとめて「東京」呼びしているような感覚である。


 トルーニア公爵領の中心地であるトルーニヤ城(とトルーニヤ伯爵領)は私たちの支配下にあるが、その他のいくつかの城や伯爵領はブドゥーダル公爵家の分家が支配している。

 要するにこのトルーニア公爵領は分家の影響力が強い地域だ。


 私たちのご先祖様はブドゥーダル公爵領を統一した後に北進し、トルーニア公爵領に進出した。

 そしてブドゥーダル公爵領を守る盾とするためにトルーニア公爵領に分家を配置したのだ。

 結果として内地となったブドゥーダル公爵領は大いに発展したが、代わりにトルーニア公爵領には火種が残った。

 まあ、支配領域が広いので、仕方がない面はある。


「というわけで新年と建国祭の準備は頼む」

「分かりました。……あと、二か月弱ほどありますから。北部を巡幸してから、参ります」

「むっ……それはまた、慌ただしいことだ。もう少しゆっくりしても良いと思うが……」

「お父様が休まれるのであれば、私も休みますよ」

「……お互い様か。無理はしないように」

「心得ております」


 それから私は仕事ではなく、親子としての雑談をしてから、執務室を出た。





 巡幸とは、貴族が領地の各地を直接、視察する行為である。

 その目的や理由は複合的な物だが、もっとも分かりやすいのは封臣たちを監視するためだ。


 基本的にこの世界は通信技術が発達していないため、領地のどこで何が行われているのかを把握することは難しい。

 また、基本的にこの世界の貴族や騎士は反骨精神が強く、そして地元志向である。


基本的に騎士たちはみんな私有地と城を持っている一国一城の主だ。

全員が自営業者であるため、少なくとも会社の上司・部下のような明瞭な上下関係ではない。


 もちろん、国内の諸侯を統制するために監査を派遣することはあるが、彼らの権限は領主権力に敵わない。

 そもそも彼らが賄賂をもらっていない保証もない。


 よって、もっとも確実な方法が「直接領地を見る」ことになる。

 もちろん、貴族や騎士たちも「主君が我が家に来る!」と聞いた瞬間にやましい物はすぐに隠すので、巡幸によって悪事がバレることはまずないが……。


 主君が来ることがある、だけで悪事のハードルは上がる。


 少なくとも反乱の準備のためにこっそり城を作るなんてことはできない。

 城なんて隠せないし。


 他にも主従関係の確認という効果もある。

 

 そもそもだが、西大陸における封建制度、主君と家臣の関係性には“主君の主君は主君にあらず”という大原則がある。


 だから騎士たちに直接、忠誠を誓わせることは重要になる。

 そのためにはこちらから出向くのが、一番手っ取り早い方法だ。


 他にも争いごとの仲介――つまり裁判をやったり、特権の追認のために勅許を出してあげたり、やることは多い。


 なお、特にやましいことがない限り、封臣たちは主君が来てくれることを歓迎する。 

 主君に忠誠心をアピールできるし、周囲に主君から信頼されていること、親しい関係にあることを知らしめることができる。


 また何らかの紛争を抱えている領主にとっては、抑止力になる。

 少なくとも自分たちの主君が宿泊中の城には攻め込めないし、仮に主君が去った後でも心理的なハードルは高くなる。


 ……先程も説明した通り、領主は全員、自営業者であって、領主同士は決して友達ではない。

 主君を同じくする隣人が攻め込んでこない保証はないのだ。

 

 なお、貴族や騎士に限らず、この世界の住民はまあまあ好戦的である。

 農民なんて純朴そうなイメージがあるかもしれないが、全然、そんなことない。

 水利権を争って隣の村に攻め込んだりとか、村民が暴行を受けたから隣の村まで男衆総出で復讐に行きましたとか、そういうことがたまにある。

 むしろ教養がない分、騎士よりも凶暴で残忍だ。

 治安、悪すぎである。


 そういうわけで、やはり巡幸は大切だ。

 領主が目を光らせていることをアピールするだけで、治安はマシになるのだ。


 ああ、それとこれは私個人の事情だが……。

 “主君の子は主君にあらず”というのも、この世界の原則である。


 騎士たちは家に仕えているのではなく、個人に仕えているのだ。


 だから私が父の後継者になるには、ただ父に後継者と指名されるだけではなく、父と封建契約を交わしている騎士たちからも、主君と認められ、忠誠を捧げてもらう必要がある。


 不動産で例えると、マンションを相続できても、部屋の住民が住み続けてくれるか、ちゃんと家賃を払ってくれるかは部屋の住民次第という感じだ。


 だから巡幸は絶対にやらなければならない。


 しかしここ最近は外遊続きで、領内を回れていない。

 来年になれば建国祭の準備に拘束されることは分かっているため、今のうちに回れるだけ回らないとならないわけだ。


 というわけで、私は最低限の手紙の処理を終えると、早速トルーニヤ城を出立した。


 まずはトルーニヤ城から西に向かい、ふらふらと各地の騎士領を回りながら北上。

 ヨートグル公爵領に入り、ラザァーベル伯爵領に到着した。


 ここはラザァーベル伯爵、つまり我がブドゥーダル公爵家の元帥が守る土地だ。

 対ラークノール公爵家の最前線である。


 ラザァーベル市まで赴くと、ラザァーベル伯爵は市を囲む城壁の入口で私を出迎えてくれていた。


「お久しぶりです。狩猟大会以来ですね、ラザァーベル伯爵」

「ははっ、お久しぶりです。ロゼリア姫……いえ、ロゼリア公とお呼びした方がよろしいか?」


 ラザァーベル伯爵は少し悪戯っぽい笑みを浮かべながらそう言った。

 どうやら私の共同統治者就任の話がすでに伝わっていたようだ。


「いえ、それは今のわたくしには少々、重い……もうしばらく、待っていただければと」

「では、心待ちにしております」


 挨拶を済ませてから、私はラザァーベル城へと入城した。

 ラザァーベル伯爵は歓迎のための宴会を催してくれた。


「最近、北の方は如何でしょうか?」

「随分と圧力が減りました。……全ては姫様のおかげでございます」


 どうやら私の外交努力が実り、ラークノール公爵からの軍事的な圧力が減っているようだった。

 そして交易活動も活発になっているらしい。

 食事を終えたところで、ラザァーベル伯爵が神妙な表情を浮かべた。


「姫様。実は我が領の騎士たちが姫様にご挨拶をと……」


 事前に聞いていた通り、ラザァーベル伯爵は城に騎士たちを集めて置いてくれたようだ。

 これは非常に楽で良いが……ラザァーベル伯爵には何のメリットもない。

 何が狙いだろうかと、騎士たちに足にキスさせながら、考える。


「おつかれさまです。姫様」

「いえ、構いません。取り次ぎ、感謝いたします」

「ははっ……可能であれば、息子にも姫様にご挨拶をさせたかったのですが、お見苦しい姿を見せるわけにはいかず……」


 なるほど。跡取り息子の両手両足を生やしてくれというのが、ラザァーベル伯爵のお願いだったようだ。

 まあ……迂闊なところもあったとはいえ、彼もブドゥーダル公爵家のために戦った結果、そうなったわけだし。

 治してあげてもいいか。

 何より、シンプルに可哀想だ。

 とはいえ、今、魔力を使うと明日の移動に響くし、かといって彼の治療のために長居するわけにもいかない。


「新年から建国祭が終わるまで、私はブドゥーベル城に滞在する予定です。こちらまで、連れて来て頂ければ……」


 建国祭の準備の合間に治してやるから、後で連れて来い。

 そう伝えるとラザァーベル伯爵は深々と私に頭を下げた。





「ふぅ……いい湯ですね」


 ラザァーベル伯爵領を出立して二週間。

 十二月の初旬頃。

 私はブドゥーダル公国の北西、オーセン伯爵領にある温泉に浸かっていた。


 温泉は炭酸系だ。

 シュワシュワと肌を刺激する感触が心地よい。


そして景色も良い。


 辺りには白く染まり始めた雄大な山々が見えるし、少し身を乗り出せば旧都オーセン市やオーセン宮殿、そしてオーセン神殿が見える。


 私のご先祖様が愛した景色であり、そして私もこの景色と温泉が好きだ。


「姫様。あまり身を乗り出さないでください。危険です」


 私が景色を楽しんでいると、デラーウィアが苦言を口にした。

 彼女も私と一緒に入浴中だ。温泉に入っている時くらい、気を抜けばよいものを。


「大丈夫ですよ。落下防止用の柵もありますし……」

「そちらではありません。……不埒者が見ているかもしれません。魔法を使えば可能です」

「湯着を着ているのだから、大丈夫でしょう?」

「そういう問題ではありません」

「確かに。服が肌に張り付いて、裸より卑猥に見えるというのは一理ありますね」

「姫様!!」

「怒らないでください。冗談ですよ。別にいいでしょう? お風呂に入っている時くらい……」


 貴族令嬢だって下ネタの一つ二つ、言いたくなる時はあるでしょ。

 まあ、聞いたことないけど。

 とはいえ、デラーウィアに後でお説教されたくないので私は身を乗り出すことをやめた。

 代わりに隅でお湯をチャプチャプさせて遊んでいるシークに近づく。


「シーク」

「は、はい!!」


 私が声を掛けると、シークは背筋をピンと伸ばした。

 温泉に入る時くらいは気を抜いてほしい。

 あなたたちが気を抜かないと、私も気を抜けないじゃない。


「もしこの湯を売るとしたら、いくらの値が付けられるでしょうか?」

「え? そ、それは……姫様の入った残り湯という意味でしょうか?」


 どういう発想だよ。


「違います。源泉から汲み上げた、このシュワシュワするお湯を飲み水として売った場合のことです」

「な、なるほど。であれば、そうですね。かの大帝が愛用したという逸話もありますし、姫様も使われているくらいですから……」


 シークの目が商人の物になる。

 彼女は少しだけ悩んだ様子を見せながらも、私に値段を提示した。中々の金額だ。


「なるほど。……ちなみに私が浸かった後の残り湯の場合はどうなりますか?」

「ま、まあ……十倍の値はつけても良いとは思います。……表向きには売れませんが」

「では、横流しにするしかありませんね」

「そ、その節についてはどうか、ご、ご勘弁を……」

「冗談ですよ」


 お湯の中で土下座しそうな勢いのシークに私は笑って言った。

 それから私は一緒に入浴中の、他の女官たちに話しかけに行った。


 ……本来、貴族が臣下と一緒に入浴することはあり得ない。

 だがそこは私が無理を言って、入浴させている。

 彼女たちと交流を深めるため……というのは建前で、女の子の裸を見たかったのだ。

 私に仕えるだけあって、見た目の良い子が多いのだ。


 夢に見たハーレムである。

 もっとも、チソチソを失っているせいか、興奮に物足りなさがあるけど。


 なお、「湯浴みの世話をするため」というのが彼女たちと入浴している表向きの理由だ。

 ちゃんと貴族としての体面も守っている。


「そろそろ、上がりましょうか」


 逆上せそうになったところで、私は立ち上がった。




 身を清め、正装に身を包んで向かうのはオーセン市にある神殿、オーセン神殿である。

 神殿の前では、男爵級の魔力を身にまとった老人と、神官たちが出迎えてくれた。


「お忙しいところ、ようこそおいでくださいました、姫様。霊廟の守護者として、心よりお礼を申し上げます」 

「血と地と力を受け継ぐ者として、当然の責務です。あなた方がこの霊廟を守護しているからこそ、わたくしは統治に専念することができます。オーセン伯爵として、大帝の末裔として、格別の感謝を申し上げます」


老人――神殿長と挨拶を交わしてから、私は神殿の中に入った。

そして最奥の間にある霊廟に対し膝を突き、頭を下げた。


 この霊廟に祭られている人物こそ、西大陸で「大帝」と呼ばれる唯一の人物。

 カルテマ帝である。

 今から二百年以上前、この西大陸の統一を成し遂げた人物だ。


 彼は交通の要衝であるこの地に都を打ち立て、統一帝国崩壊後の暗黒時代を終わらせた。

 彼の立てた帝国は、その死後に分裂してしまったが、歴史に刻み込まれた名は不滅だ。

 今でも多くの参拝者が訪れるという。


 そのカルテマ帝、唯一の母系子孫が私だ(もっとも、非嫡出の子孫は生き残っているが)。

 父系の子孫は私の母方の祖母で絶えてしまったが、母、そして私というラインでこのオーセン伯爵領は相続され、今でも受け継がれている。


 そしてこの地とトールニア公爵領が、皇帝との係争地だ。

 帝国……そして歴代の皇帝はカルテマ帝の後継者を自認している。

 だから大帝が眠るこの地をどうにかして確保したいのだ。


 もちろん、東西交通の要衝だし、経済・軍事上の価値があるという理由もあるが。 


 正直、私にとってカルテマ帝は歴史上の人物であり、自分のご先祖様という意識はない。

 だがこのオーセン伯爵領の温泉は気に入っている。


 皇帝には渡したくない。

 そのために、やれるだけの努力をしよう。


 私は祈りを捧げながら、心にそう誓った。


名前:シーク・サーリアス・ライツァーク(ライツァークの息子のサーリアスの娘)

性別:女

身分:騎士

年齢:19

性格:冷笑的・節制・強欲・臆病

趣味:貯金・節約・投資

特技:暗記・暗算

好きな異性:ちゃんと稼いでくれるところ

結婚相手に求めるもの:賭博はお小遣いの範囲まで

一言:財布は私が預かりますから

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