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TS貴族令嬢の複雑すぎる婚活事情  作者: 桜木桜


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第12話

 私とトール君がダンスを踊り終える頃には、随分と遅い時間帯になっていた。


 もし都合が良ければ、明日の夕食は私たちの天幕で食べてください。


 そんな提案をしてから、私たちはラークノール公爵家の天幕から撤退した。

 自派閥の貴族と別れの挨拶をしてから、ブドゥーダル公爵家の天幕へと戻る。

 私と、そして専属侍女であるデラーウィアと二人きりになった。


「……彼の手を取ったのは失策だったでしょうか?」


 ちょっと不安になった私は、恐る恐るという調子でデラーウィアに尋ねる。

 するとデラーウィアは特に迷う様子もなく答えた。


「それを判断するのは旦那様です。此度の一件は旦那様へ、もれなく報告申し上げます」


 説教は帰ってから、お父様に受けてください。

 デラーウィアの無情な言葉に私は思わず肩を落とした。


 私は前世人格があったこともあり、この世界に生まれてからずっと優等生だった。

 だから怒られ慣れていない。

 帰った時のことを考えると、少々、胃が痛くなる。


「……姫様のご判断に大きな誤りはなかったかと思います。友好関係を笠にあのような迫り方をする方が不誠実です」


 デラーウィアは憤った声音でそう言った。

 なるほど、そういう風に捉えることもできるのか。

 つまり私は被害者、悪くないな!


 ……と、そんな開き直り方を脳内でしたことがバレたらしい。

 デラーウィアは私をジト目で睨みつけた。


「しかし姫様も、あまりにも無警戒です。あのような場で星座の話など……構えておくべき場面です。トール様が姫様に執心されているのは明らかなのですから」


 この世界でも星座の話は、ロマンティックな口説き文句に繋げやすいらしい。

 実際、ガルザァース人に伝わる、赤い星を中心に踊り合う恋人が云々というエピソード以外にも、良い感じのラブエピソードのある星座はいくつかある。


「此度の狩猟では、王家は我らに譲歩を示していたのですから。……挑発と受け取られても、文句は言えません。もっとも、非公式な場での純粋なやり取りに口を挟むような、狭量な真似はしないとは思いますが」


 別に私たちに限らず、夜中に星でも見ていたらロマンティックな雰囲気になり、それに流されてラブロマンスを始めてしまう貴族や騎士は少なくない。

 そしてこの世界にはプラトニックな恋愛は許容するべきであるという考えがある。


 そもそもとして、この世界の貴族や騎士の結婚は、九十九・九%が政略結婚であり、好きでない相手と結婚するのが当たり前だ。

 現代日本人にとっては恋愛と結婚は地続きだが、この世界の人にとってはその両者は矛盾する。


 極論、この世界において恋愛は浮気か同性愛しかない。

 そして恋心というのは、抱いてしまう時は抱いてしまうものだ。


 だからプラトニックな間柄では許してあげようという考えが根底にある。

 

 分かりやすい例で言えば、騎士が主君の妻を口説くのはセーフだ。

 それに対して妻が応えるのもセーフだ。

 これに文句を言うと、器が小さいと言われる。


 もっとも、ベッドで同衾まで行ったら即死刑だけど。


 私とトール君のやり取りは極めて健全であり、傍目からも「十代前半の少年少女がちょっと背伸びしてラブロマンスをやっている」くらいにしか見えない。


 ……なんか自分で言うと、すごく恥ずかしいな。

 ともかく、あの程度でどうこう言われたりはしないわけだ。

 

 というか、そもそも第二王子なんて未亡人の女性相手に非嫡出の子供を三人も仕込んでいるのだから人のことをどうこう言える立場じゃない。


 そしてそれは父もだ。


「……旦那様には誤解無きようにとお伝えしますから。ご安心ください」


 最終的にデラーウィアはそう締めくくった。

 誤魔化しはしないが、庇ってくれるということか。


「ありがとうございます。……お姉様」

「そのような呼び方をされても、嘘偽りは申しませんよ」


 デラーウィアは顔を背けながらそう言った。

 そしてあらためてこちらに顔を向けて来た時には、彼女はいつもの無表情へと戻っていた。


「ところで……ここからは姉妹だけの話とさせていただきますが」

「はい」


 要するにここからは父には伝えないということだろう。

 意図を理解した私は頷いた。


「姫様は……何か、秘めたる想いがありますか?」


 秘めたる想い……?

 私がトール君に対して、恋心を抱いているかという意味だろうか?

 そんなわけないだろ。

 私は心は男のつもりだ。

 そして同性愛者じゃない。


 男の子に恋するわけないじゃないか。


「いえ、特にそのようなものはありませんよ」

「……そうですか」

「そうは見えませんでしたか?」

「……申し訳ございません。疑うわけではありませんが、その、普段よりも生き生きしていらっしゃるように見えましたので」

「……今回が?」


 そんなに楽しそうにしているように見えたのだろうか?

 ……まあ、楽しかったことは否定しないけど。


「……いえ、普段から。お手紙の返信を考えていらっしゃる時も」

「……そうでしたか」

「無自覚でしたか?」

「そうですね」


 私は少し冷静になり、トール君への感情について考えてみる。

 十秒ほど思案してから、私はデラーウィアに答えた。


「友人として好ましく思っています」

「友人として、ですか」

「はい。男女のそれはありません」


 私の言葉にデラーウィアはなるほどと頷いた。

 あまり納得はしていなさそうな顔だ。


「ところで……これは仮定のお話ですが」

「はい」

「もし姫様に……想い人ができた場合は、ぜひご相談ください」

「想い人ですか。……まあ、できるとは思いませんが」


 男の私が男に恋するわけがない。

 とはいえ、仮定の話である。もしできたとしたら……うーん。


「政略結婚に恋心など、不要だと思っていますが。何か、考慮されることはあるのですか?」

「相性は重要です。……もちろん、お相手にも依りますが」


 政略結婚がたまたま恋愛結婚になることはあり得るということか。

 もっとも、私にとっては国益が最重要だ。

 結婚に恋愛感情なんて勘定に入れるつもりはない。

 ……今のはギャグじゃないぞ?


「それにプラトニックな範囲であれば、お手伝いいたします」


 未婚・既婚問わず、“恋愛遊び”をする貴族は珍しくない。

 それを推奨するようなことをデラーウィアが口にするのは意外だが……。

 溜め込まれるよりはマシということか。


「それに姫様の子であれば嫡出の是非は……いえ、今のは失言でした、お忘れください」


 こんなあからさまな失言をするわけがないので、きっと本音なのだろう。

 男の場合は托卵の可能性があっても、私の場合は私の股間から出て来た以上は間違いなく私の子である。


 実際、女性君主の場合、たまに「彼女の子は実は……」という噂話を聞くことがある。

 火のない所に煙は立たぬとまでは言わないが、そういう事例は少なくないのだろう。


 もっとも悪評は立つ。

 推奨できることではあるまい。


 何より、不倫なんて私がやりたくない。

 罪悪感で子供の顔とか見られなくなりそうだ。

 同盟相手である夫ともギスギスするだろうし、百害あって一利なしだ。


「何より……解決はできずとも、寄り添うことはできます故。……姉として」


 そう言うデラーウィアはとても照れくさそうだった。

 普段は姉を名乗れないので、久しぶりにお姉ちゃんぶれて嬉しいのだろう。


「心遣い、感謝します」


 私は妹として、腹違いの姉に頭を下げた。

 その後、私は筆頭騎士頭にも念の為尋ねてみたが……「気にしすぎ」と大笑いされた。


「姫様にも年頃の少女らしいところがあるのだと……安心いたしました」


 筆頭騎士頭は口元を緩ませながらそう言った。

 他の騎士たちも、何故かほんわか雰囲気を醸し出していた。

 私は何度も否定したのだが、それが逆に「それっぽい」感じになってしまった。

 彼らは父にどう報告するのだろうか、そして父は何と言うだろうか。

 違う意味で気が重くなった。


 と、そんな感じでトール君との関係を勘繰られながらも、私は狩猟地にやって来た貴族たちとの社交に勤しんだ。

 おかげでロゼリア酒の名も広がったし、石鹸に興味を示してくれる貴族も増えた。

 個人的な人脈も増やせたし、成果は上々といったところだろう。


「いやはや、疲れましたね」

「おつかれさまです」

「しかしまさか……野外での不倫現場に出くわすとは思いませんでした。こんな秋の夜に裸になって……寒くないのでしょうか」

「全くですね」

「良い土産話もできたところですし、そろそろ帰還の……」

「狩猟はこれからです、姫様」


 デラーウィアは真面目腐った顔でそう言った。

 私は思わず肩を竦める。


「分かっています。……冗談ですよ」


 狩猟大会は今日からだ。

 厳密には今日が開会式で、明日から五日間に渡って狩猟が行われ、七日目に閉会式となって、順次解散となる。


「お疲れのところ申し訳ございませんが……くれぐれも、気を抜かないように」

「ええ、もちろん」


 陰謀渦巻く、狩猟大会の始まりである。



名前:デラーウィア

性別:女

身分:騎士

年齢:15歳

性格:公正・勤勉・節制・貞節

趣味:読書、作詩

特技:速筆、速読

好きな異性:真面目で誠実な人

結婚相手に求めるもの:ロゼリアの力になること

一言:私の母はもう登場済みです


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