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魔法もスキルもない50歳、腕型PC一台で異世界をハックする。~疲れやすいおじさんは効率重視で成り上がる~  作者: ぱすた屋さん
【第4章】管理者権限の奪還(ルート・アクセス・ウォー) ~偽りの神と虹色の反逆者~

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第8話:特権昇格(sudo)の儀



 「絶望」とは、すべてのプロセスが応答を停止し、再起動の手段さえ失った「デッドロック」の状態に似ている。

 



 虹色に輝く仮想空間のなか、突如として口を開いた「黒い穴」。そこから溢れ出した漆黒のノイズは、俺が以前構築した鮮やかなリビングルームを、無慈悲に侵食し始めていた。

 

 ノイズは、声を持っていた。

 それはかつての世界で、深夜三時のオフィスに響いていた、自分自身の「諦め」の囁きだ。

 

『――もういいじゃないか。……頑張ったところで、君はただの「交換可能な部品」だ。……誰からも期待されず、ただ消費され、最後は灰色の背景に溶けて消える。……それが君というデータの、正しい仕様さだめなんだよ』

 

「……くっ、……相棒、……ノイズ・キャンセル……。……この『負のパケット』を遮断しろ……!」

 

 俺は膝をつき、激しい目まいに耐えながらデバイス『Link』を操作した。だが、デバイスの画面は真っ赤なエラーメッセージを吐き出し、バチバチと火花を散らしている。


『……拒否。……佐藤、……これは外部からの攻撃ではありません。……あなたの「ルートディレクトリ」に直接書き込まれた、……あなた自身の過去のログです。……遮断は不可能です。……自分自身の存在を「否定」するという、最上位の命令コマンドを止める術はありません』


 漆黒のノイズが、娘の描いた絵を、家族の写真を、次々と「無」へと塗りつぶしていく。

 

 目の前に立つ顔のない少女の影が、悲しげに揺れた。

 彼女は、繊細で透明な光を纏いながら、俺の頬にそっと手を伸ばした。その感触は、データの塊とは思えないほどに温かく、切ない。


『――パパ。……このノイズは、パパが心の奥底に隠していた「管理者権限」への恐怖なの。……世界を変えるのが怖い。……自由になるのが怖い。……誰かの期待に応えられなかった自分を、許せないでいるのね』


「……当たり前だろ。……俺は、……家族を幸せにできなかった。……ただの、……くたびれた、……無力なおじさんなんだ……」



 視界が灰色に染まり始める。

 かつての孤独な残業の日々。誰にも必要とされないまま過ぎていく時間。

 「色彩」なんてものは、俺の空想に過ぎない。この世界で手に入れた「ルート権限」さえ、一時的な夢。

 そう思わせようとするシステムの「自己防衛反応」が、俺の精神をフォーマットしようと迫りくる。

 

 その時。

 俺の脳内に、別の「ログ」が割り込んできた。

 

 それは、現実世界で俺を待っている、あいつらの声だ。

 


『……サトウさん! ……信じています! ……あなたが教えてくれた色彩は、私の誇りなんです!!』

 


『――ガアアアアアアンッ!!』

 


 エリナの叫びと、フェンリルの咆哮。

 以前の冒険で、俺がデバッグし、再定義してきた彼らの存在が、仮想空間の壁を突き抜けて俺の心に「パッチ」を当てていく。

 

 そうだ。

 俺は確かに無力だったかもしれない。

 だが、この世界において、俺が「美しい」と定義したものは、間違いなく彼らの力になった。

 

「……ああ、……そうだな。……俺はまだ、……仕様書の途中デベロップメントなんだ」

 

 俺は、震える手でデバイスを掴み直し、立ち上がった。

 

「……相棒。……『自分自身を信頼できない』というバグは、……今、……ここで修正パッチする」


『……佐藤。……現在のユーザー権限では、自分自身の存在定義を書き換えることはできません。……「特権昇格(sudo)」の最終シーケンスが必要です。……しかし、それには全リソースを一点に集中させ、……あなたの「意志」を純粋なコードへと変換しなければなりません』


「……やってやるよ。……俺はもう、……管理される『ゲスト』じゃない。……この世界の、……『設計者アーキテクト』になるって決めたんだ!!」


 俺は、目の前の黒い絶望に向かって、指先を突き立てた。

 

 [Equation for Will Determination (sudo escalation):]

 $$\text{Sudo\_Auth} = \int_{Past}^{Future} (\text{Determination} \times \text{Responsibility}) dt \implies \infty$$

 

「――コマンド実行(sudo)!!……ターゲット:俺自身の『絶望』!!……アクション:デコンパイル(解体)!!」

 


 虹色の閃光が、俺の身体から爆発的に解き放たれた。

 

 

それは、「爆発的なエネルギー」と、「揺るぎない眼差し」が融合した、究極の色彩の力。

 

 侵食していた黒いノイズが、俺の放った虹色のコードに触れた瞬間、パチパチと音を立てて分解され、無数の輝くデータの破片へと変わっていく。

 

「……ばかげた『過去ログ』に振り回されるのは、……もう終わりだ!!……俺は、……この世界を、……俺の愛した色で、……上書きするッ!!」

 

 ドォォォォォォォォンッ!!

 

 仮想空間全体が、激しく振動した。

 顔のない少女の影が、眩しそうに目を細め、最後に見事な「笑顔」を浮かべた。

 



『――おかえりなさい、……アーキテクト。……世界のキーは、……今、あなたの手に渡ったわ』

 



 少女の姿が、光の粒子となって俺のデバイスへと吸い込まれていく。

 同時に、仮想空間のすべてのデータが、俺の「意志」と100%同期シンクロを開始した。

 

 

 

 ――全権限取得(Root Access Confirmed)。

 

 意識が、加速する。

 俺は今、王都の隅々まで流れる魔力、木々の呼吸、エリナの心拍数、フェンリルの筋肉の動き、そのすべてを自分の指先のように感じることができた。

 

「……お待たせ。……待たせたな、みんな」


『……佐藤。……特権昇格、完了。……現在のあなたの権限は、……かつての「管理者(少年)」をはるかに凌駕しています。

 ……これより、現実世界への「復帰リターン」を開始します。……王都の空を、……あなたの色で塗りつぶし、……絶望をデバッグする時間です』


「……ああ。……定時退社はまだ先になりそうだが、……最高に鮮やかな『仕事』を見せてやるよ」


 

 現実世界。

 王都・ルミナスの空中要塞。

 

 そこでは、灰色のノイズに蝕まれ、消えゆく寸前だったエリナとフェンリルが、絶望に満ちた管理者の少年の前に跪いていた。

 

「……さようなら。……不正なデータ(勇者)と、……規格外の残骸(神獣)。……君たちは、……最初からいなかったことになるんだ……」

 

 少年が最後の一撃を放とうとした、その瞬間。

 

 静止していたはずの佐藤の身体が、目も眩むような「極彩色の雷」を纏って爆発した。


 

 ――ズドォォォォォォォォンッ!!

 


 管理者の要塞そのものが、内側から虹色の光によって引き裂かれる。

 

「……な、……なんだ……!? ……ボクの要塞が、……物理法則ごと……書き換えられていく……!?」

 

 少年の驚愕の叫びのなか、佐藤がゆっくりと、空中に「着地」した。

 

 彼の背後には、以前の王都よりもはるかに高解像度で、鮮やかな色彩を放つ「巨大な翼(魔力回路)」が展開されていた。

 その姿は、かつてのくたびれたおじさんではなく、世界を再定義する「神の設計者アーキテクト」そのものだった。

 

「……仕様変更だ、少年。……この世界は、……今日から『オープンソース』になる」

 

 佐藤の指先が、空中に巨大なコマンドラインを描き出す。

 

「……俺たちが望む、……最高にカラフルな未来へと、……今、……この瞬間、……デプロイする!!」

 

 くたびれたおじさんの監査記録、第4章。

 

 物語は、自らの絶望を乗り越えた「真の管理者」の誕生と共に、

 クライマックス――世界の所有権を完全に書き換える、歴史的決戦へと突入する。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!

 

 第8話は、佐藤さんが自らの過去と向き合い、真の「管理者権限(sudo)」を獲得する、物語全体を通しても極めて重要なエピソードでした。

 

 「自分は無力だ」という自分自身の否定。それこそが管理者側が仕掛けた「最強のセキュリティ」だった……。

 それをエリナやフェンリルとの「今、この瞬間の絆」で突破し、過去を否定するのではなく「仕様の一部」として受け入れた上で上書きするおじさんの姿。

 

 

 次回、第9話「世界の所有権を書き換えろ」。

 真の管理者となった佐藤さんが、ついに少年の管理コンソールを完全にハックし、王都を「初期化」から救い出します。

 しかし、追い詰められた管理者の少年は、世界の「ハードウェア」そのものを自爆させるという、最悪のファイナル・コマンドを起動させてしまい……。

 

 第4章の結末に向けて、物語は加速を続けます!

 

 続きが楽しみになりましたら、ぜひ【ブックマーク】や【評価(★★★★★)】で応援いただけると嬉しいです!

 おじさんの「特権昇格」を支えるのは、皆さんの熱い声援です!

 よろしくお願いいたします!


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