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魔法もスキルもない50歳、腕型PC一台で異世界をハックする。~疲れやすいおじさんは効率重視で成り上がる~  作者: ぱすた屋さん
【第4章】管理者権限の奪還(ルート・アクセス・ウォー) ~偽りの神と虹色の反逆者~

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第7話:仮想空間へのダイブ



 「全権限(Root)」を手に入れた瞬間、世界は静止した。

 



 勝利の咆哮を上げるフェンリルも、安堵の涙を浮かべるエリナも、膝をつく管理者の少年も。すべてが「一時停止ポーズ」をかけられた映像のように、その場で固定された。

 

 次の瞬間、俺の足元から床という概念が消失した。

 

「……おわっ!? 相棒、なんだ、何が起きてる!!」


『警告:権限昇格に伴う「管理者権限の同期シンクロナイズ」が開始されました。

 ……佐藤。あなたの意識は現在、物理層ハードウェアから切り離され、この世界の「深層カーネル」へとダイブしています。

 ……周辺環境を再レンダリング中。……ここは、世界の「記憶」が蓄積される、非公開のアーカイブ領域です』


 真っ白だったサーバー・ルームが、猛烈な速度で書き換わっていく。

 

 それは、言葉にするのも難しい、極彩色の「情報の奔流」だった。

 色彩設計を数千枚重ね合わせたような、狂おしいほど鮮やかな光の粒子が透明なレイヤーのように何層にも重なり、空間を埋め尽くしている。

 

 上下左右の感覚が消え、俺はデータの海を漂う「一つのプログラム」になったような感覚に陥った。

 

「……これが、……世界の深層……。……なんて、……なんて無茶苦茶で、……美しい設計デザインなんだ……」

 



 俺は思わず、その色彩の波に手を伸ばした。

 デバイス『Link』が、周囲のデータを必死にデコードし、俺の脳に視覚情報として翻訳し続ける。

 


 以前、俺が王都でハックした「色彩」は、この深層にある膨大なデータの一部を、ほんの少し表面に引き出したに過ぎなかった。ここにあるのは、さらに高解像度で、さらに濃密な、この世界が「生まれてから現在に至るまで」のすべてのログだ。


『……佐藤。……奇妙な「メタデータ」を検知しました。

 ……この仮想空間の構成要素の一部に、……あなたの元の世界、……すなわち「現実」のデータが含まれています。

 ……座標ポインタが指し示す先を確認。……それは、……あなたの「記憶」の一部です』


「……俺の、記憶? ……まさか」


 俺は、意識を情報の奥底へと集中させた。

 

 虹色の霧を抜けた先。そこに浮かんでいたのは、異世界の神殿でも、管理者の城でもなかった。

 

 ――それは、古びた、見覚えのある「リビングルーム」だった。

 


 使い込まれたソファ。

 娘が中学に上がった時に買った、少し大きめのダイニングテーブル。

 棚には、妻が大事にしていた鉢植えと、家族四人で撮った色褪せた写真。

 

「……嘘だろ。……なんで、……なんでここに、……俺の家があるんだ」

 

 俺の心臓が、現実のものとは思えないほど激しく鼓動した。

 



 一歩踏み出すと、足元でカサリと音がした。

 それは、娘がかつて描いた、拙いけれど一生懸命な「家族の絵」だった。

 

 

 

 その光景は、生成された動画のように、時折グリッチを起こして激しく揺らいでいる。

 俺は震える手で、その絵を拾い上げた。

 

「……相棒。……解析しろ。……これは、俺がこの世界に持ってきた『キャッシュ』なのか? ……それとも……」


『……否定。……これは佐藤、あなたの主観的な記憶ではありません。

 ……この世界の「根幹システム」の一部として、最初から組み込まれていた定数コンスタントです。

 ……この世界を創った『原初の設計者』は、……あなたの記憶の断片を、……世界の「美しさの定義プロトタイプ」として採用した可能性があります』


 目まいがした。

 

 俺がこの世界で「美しい」と感じ、デバッグしてきた色彩。

 俺がハックして、エリナたちに与えた「高彩度なデザイン」。

 それらは、俺が元の世界で、孤独な残業の合間に夢見ていた「家族の笑顔」や「鮮やかな未来」の投影だったというのか。

 

 世界そのものが、俺の抱いていた「未練」や「憧れ」を、最上位の仕様書として、これまで動いてきたのだ。


「……皮肉だな。……現実では守れなかったものが、……ここでは世界の『法則』になってるなんて」


 俺は、写真の中の娘と息子を見つめ、自嘲気味に笑った。

 

 その時。




 リビングの奥にあるドアが、音もなく開いた。

 

 そこから現れたのは、エリナでも、管理者の少年でもなかった。

 

 ――真っ白なドレスを纏った、顔のない「少女」の影。

 

 彼女は、鋭くも美しいシルエットを持ち、その全身は水滴のような透明な光の粒子を纏っていた。

 

『――ようやく、届いたのね。……「外部監査役」にして、……この世界の真のパパ』


 その声は、かつて、俺の娘がまだ幼かった頃に、仕事から帰った俺に駆け寄りながら放った「おかえり」という声と、瓜二つだった。


「……誰だ。……あんたが、……このシステムの『真の管理者』か」


『管理なんて、もうしてないわ。……私は、……あなたが捨てたはずの「こだわり」を守り続けてきた、……ただのバックアップ。

 ……でも、気をつけて。……あなたが「ルート権限」を手に入れたことで、……世界を完全に灰色の沈黙へ沈めようとする「最終セキュリティ」が、……あなたの元の世界での『負の記憶』を糧にして、目覚めようとしているわ』


 少女が指差した先。

 虹色の空の向こう側に、巨大な「黒い穴」が開いた。

 

 それは、色彩を拒絶し、すべてを無機質な「労働」と「諦め」へと引きずり戻そうとする、漆黒のノイズ。

 俺がかつての世界で、最も憎み、最も恐れていた、あの「孤独な絶望」が、モンスターの形をして、仮想空間の果てからこちらを見つめていた。

 

「……なるほど。……最後のバグは、……俺自身の『過去ログ』ってわけか」


 俺は、震える指でメガネを押し上げ、デバイスの画面を叩きつけるように展開した。

 

「……相棒。……これ以上ない、……最悪の案件だ」


『了解。……難易度:測定不能。……生存報酬:未定義。

 ……佐藤。……あなたの「未練」を、……最高の「パッチ」に書き換える準備はできていますか?』


「……当たり前だ。……家族の前で、……かっこ悪いデバッグなんて見せられるかよ」


 俺は、虹色に輝く仮想空間の中で、迫りくる黒いノイズに向かって、全力のコードを打ち込み始めた。

 

 

 物語は、仮想空間という名の「心の鏡」の中で、

 自らの過去をデバッグし、真の「世界の所有権」を掴み取るための、最終試練へと突入する。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

 第7話は、物語の核心に迫る「仮想空間ダイブ」編でした。

 

 佐藤さんのルート権限取得によって開かれた、世界の深層アーカイブ。

 そこに、彼が元の世界で残してきた「家族のリビング」が再現されている……という展開に、おじさんがこの世界で「色彩」にこだわった真の理由(家族への想い)をリンクさせました。

次回、第8話「特権昇格(sudo)の儀」。

 自分の「負の記憶」から生まれた漆黒のノイズに立ち向かう佐藤さん。

 彼は、かつての自分自身の絶望をどう「デバッグ」するのか。

 そして、仮想空間からエリナたちの待つ現実世界へ、本当の意味で「帰還」するための、究極のコマンドとは。

 

 おじさんの「心のアップデート」が始まります!

 

 続きが楽しみになりましたら、ぜひ【ブックマーク】や【評価(★★★★★)】で応援いただけると嬉しいです。

 佐藤さんの「家族への想い」をエネルギーに変えるのは、皆さんの応援の声です!

 

よろしくお願いいたします!

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