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魔法もスキルもない50歳、腕型PC一台で異世界をハックする。~疲れやすいおじさんは効率重視で成り上がる~  作者: ぱすた屋さん
【第4章】管理者権限の奪還(ルート・アクセス・ウォー) ~偽りの神と虹色の反逆者~

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第9話:世界の所有権を書き換えろ



 「所有権オーナーシップ」とは、単にその対象を自由にできる権利ではない。

 それは、対象が壊れた時に修理し、古くなった時に更新し、その存在のすべてに責任を持つという「覚悟」の別名だ。



 

 王都・ルミナスの遙か上空、空中要塞の中枢。

 虹色の雷鳴を纏い、仮想空間から帰還した俺の背後には、かつてない高解像度で描かれた「情報の翼」が展開されていた。鮮烈な色彩が脈動し、エッジの効いた光のラインが、管理者の要塞の床を「俺のルール」で塗り替えていく。


「……ありえない。……ありえないよ!……ボクが数千年間、完璧に守ってきた『世界の秩序』を……外部から来ただけの君が、……どうして根底から上書き(オーバーライド)できるんだ!!」




 管理者の少年は、足元から崩れゆく要塞の瓦礫に縋り付きながら絶叫した。

 彼の周囲を舞っていた無数の「削除エージェント」たちは、俺が手に入れた『ルート権限』によって実行プロセスを凍結され、空中に静止したまま極彩色の石像のように固まっている。


「……あんたの秩序は、……ただの『読み取り専用リードオンリー』だったんだよ、少年」


 俺は空中に、巨大なホログラムのコンソールを展開した。

 以前、俺がこの世界に来たばかりの頃、画面越しに見ていた無機質なログとは違う。今、俺の指先に流れてくるのは、この世界に住むすべての生命の拍動、土壌の栄養、そして人々が抱く「明日への希望」という名の生きたデータだ。



「……あんたは世界を壊さないように、……古びたサーバーを箱の中に閉じ込めていただけだ。……でも、……システムは動かなければ意味がない。……汚れ、傷つき、それでも更新し続けることでしか、……『生命プログラム』は完成しないんだよ」


「……黙れ!……壊れるくらいなら、……ボクの手で終わらせてやる!!」


 少年の瞳が、不気味な暗黒の色に染まった。

 彼はコンソールの奥深くに隠されていた、一際巨大な「赤いアイコン」を、狂ったように叩いた。

 

『――最終警告。……物理層ハードウェアの「自爆シーケンス」が起動されました。

 ……コマンド:Format C: /Total_Collapse

 ……世界の核となる魔力炉を暴走させ、……すべての存在を、……ビッグバン以前の「完全な無」へとリセットします』


「……なっ!?……サトウさん、空が……割れていくわ!!」


 エリナが叫ぶ。

 彼女の視線の先、王都の空そのものが、鏡が砕けるように巨大なひび割れを起こし始めていた。

 それはデータの欠損ではない。この世界を支えている「大地」と「大気」そのものが、存在するためのエネルギーを失い、霧散しようとしているのだ。


『……佐藤。……深刻な事態です。……少年は「ソフト」ではなく「ハード」を壊しに来ました。

 ……どれほど優れたOS(権限)を手に入れても、……それを走らせるPC(世界)そのものが粉砕されれば、……我々に打つ手はありません。

 ……崩壊まで、……残り180秒』


「……自爆コマンドか。……最悪の『ちゃぶ台返し』だな。……相棒、……魔力炉の暴走を止めるための『逆位相波形』を算出しろ!」


『計算中。……不可能。……暴走の規模が大きすぎます。……一人の権限では、……世界全体のエネルギーを抑え込むことはできません』


「……一人じゃ、無理か。……なら、……全員でやればいい」


 俺は、デバイス『Link』の全通信ポートを解放した。

 王都に張り巡らせた「魔力回廊メッシュネットワーク」。

 以前実演した「リアルタイム・ストリーミング」。

 そして、今、俺が持っている「ルート権限」。

 それらすべてをリンクさせ、俺は王都に住むすべての人々の「意識」に、直接アクセスを試みた。





「……王都の皆、……聴こえるか。……俺だ、……監査役の佐藤だ」


 俺の声が、空から、石畳から、人々の心の中に直接響き渡る。


「……今、この世界は消えようとしている。……管理者が、……自分のものでなくなった世界を、……ゴミ箱に捨てようとしているんだ」


 地上では、人々が空の割れ目を見上げ、恐怖に震えていた。

 マルチェロが、大聖堂の前で拳を握りしめ、空に向かって叫んでいた。


「……でも、……俺は認めない。……あんたたちが毎日を懸命に生き、……この鮮やかな色彩を愛してくれた、……その『記録』を、……ただのバグとして消させるわけにはいかないんだ!」


 俺はコンソールに、新しいセキュリティ・ポリシーを打ち込んでいく。

 [Logic of Open Source Decentration:]

 $$Policy = \sum_{i=1}^{N} \text{Will}_i \times \text{Permission}_{shared}$$


「……これから、……この世界の『所有権』を、……あんたたち全員に分配デプロイする!……管理者の少年でもない、……俺でもない、……この世界を愛するすべての人間に、……世界の『管理者権限』を一部ずつ譲渡するんだ!!」


『――警告:特権の分散化ディセントラリゼーションを開始します。

 ……佐藤。……これを実行すれば、あなたは二度と「絶対的な神」には戻れません。

 ……世界は、……あなたの制御を離れ、……住人たちの意志によって勝手に動き始めますよ』


「……それが、……ソフトウェアの、……本来の姿だろ!!」


 俺は、エンターキーを……いや、自分の「魂」を、コンソールの中心へと叩き込んだ。


「――世界のオープンソース化、……承認マージッ!!」





 ドォォォォォォォォンッ!!




 

 要塞の中枢から、目も眩むような「黄金の光」が放たれた。

 それは俺一人の力ではない。

 王都の住民、隣国の兵士、辺境の村人。

 この世界の色彩を一度でも「美しい」と感じたすべての者のデバイス(心)に、世界を支えるための「権限」がダウンロードされていく。


「……何、……何が起きているんだ!?……ボクの自爆コマンドが、……無数の小さなアクセスによって、……書き換えられていく……!?」


 管理者の少年が、頭を抱えてのけぞる。

 空の割れ目から漏れ出していた破壊のエネルギーが、数万人の「世界を消したくない」という意志の力によって中和され、穏やかな虹色の粒子へと変わっていく。

 

 一人の神による支配ではなく、数万人の住人による「分散管理」。

 佐藤がもたらしたのは、ファンタジーの世界における、情報技術的な民主主義の夜明けだった。


「……サトウさん、見て!……要塞が、……世界が、……安定していくわ!!」


 エリナが、虹色に輝く聖剣を掲げた。

 彼女の剣も今、世界の一部を支える「重要プロセス」として、以前よりも力強く、揺るぎない光を放っている。


「……ふぅ。……これでもう、……勝手に再起動リセットはできないぞ、少年。……この世界の所有者は、……もう一人じゃないんだ」


 俺は、力を失い、純白のデータの塵となって消えゆく管理コンソールを見つめた。

 空中要塞はゆっくりと分解され、王都の空を飾る「虹の輪」へとその姿を変えていく。

 

 管理者の少年は、最後の光のなかで、不思議そうに自分の手を見つめていた。




 

「……ボクは、……ずっと寂しかったのかもしれないな。……一人で、……誰もいないサーバー・ルームで、……この世界を守り続けるのが……」

 

「……お疲れ様。……これからは、……あんたも一人の『ユーザー』として、……この世界を遊んでいけばいいさ」


 少年の姿が、最後の一粒の光となって空に溶けた。

 

 同時に、俺の背中にあった「アーキテクトの翼」も、静かに光を失い、消えていった。

 俺はただの、どこにでもいる「くたびれたおじさん」に戻ったのだ。

 

 だが、見上げた空は。

 

 俺が塗り替えたどの色よりも、深く、鮮やかで、力強い「真実の青」を湛えていた。

 それは、管理者でも設計者でもなく、この世界に生きるすべての命が、今この瞬間に共同でレンダリングしている「新しい世界の色」だった。


『――事後処理完了。……世界の物理層、……正常化を確認。

 ……佐藤。……あなたは今、……世界を特定の個人の支配から切り離し、……自律分散型OS(DAO)として再起動させることに成功しました。

 ……監査役としての評価:……計測不能なほどに、……最高ランクです』


「……評価なんていいよ、相棒。……それより、……見てみろ。……最高に鮮やかだろ、……あいつらが作った空は」


 俺は、フェンリルの背中で安堵の息を吐き、そのまま地上へとゆっくりと降りていく虹の階段を見つめた。

 

 

 

 それは、一人のエンジニアが世界の「所有権」という名の呪縛を解き放ち、

 誰もが「自分という世界の管理者」になれる未来をデプロイした、反逆と再生の物語の終結だった。

 

 

「……さて。……定時退社は無理でも、……今日くらいは、……ピザを食べて寝てもいいよな、エリナさん」

 

「……もちろんです、サトウさん!……王都の皆が、……あなたを待っていますよ!」

 

 

 おじさんの指先が、最後にデバイスの画面を優しく撫で、

 【Project: Root_Revolution - Status: Successful】の文字が、夜明けの空に静かに消えていった。


 第4章・第9話を最後までお読みいただき、ありがとうございました!

 

 ついに「管理者(神)」との決戦に決着がつきました。

 神の特権を独占するのではなく、世界中の住人に分配する「オープンソース化(分散管理)」という解決策。

 ITエンジニアらしいこの着想によって、佐藤さんは世界を物理的な崩壊から救い出し、誰もが世界の主役になれる「新しいOS」をデプロイしました。

 

 管理者の少年の最期の独白は、かつて独りでサーバーを支えていた佐藤さんの孤独への共鳴でもあります。

 

 

 次回、第4章・最終回(第10話)「オープンソース・ワールドの産声」。

 神の支配を離れた世界で、佐藤さんはどのような「最後の手続き(クリーンアップ)」を行うのか。

 そして、世界の全権限を手放したおじさんの前に、次なる「ネットワークの謎」が提示されます。

 

 第4章の完結まで、あと少し。

 続きが楽しみになりましたら、ぜひ【ブックマーク】や【評価(★★★★★)】で応援いただけると嬉しいです!

 佐藤さんの「有給休暇」の行方は、皆さんの応援にかかっています(笑)。

 よろしくお願いいたします!


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