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魔法もスキルもない50歳、腕型PC一台で異世界をハックする。~疲れやすいおじさんは効率重視で成り上がる~  作者: ぱすた屋さん
【第3章】監査役の意匠再構築(グラフィック・ハック) ~失われた色彩と女神のバグ~

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第5話:偽りの意匠(フェイク・デザイン)の罠



 どんな世界であっても、優れたシステムが登場すれば、必ずそれを低コストで模倣した「粗悪な互換品」が出回る。

 IT業界ではそれを『パチモン』や『海賊版』と呼んだが、この王都においてもその法則は例外ではなかった。




 女神像修復プロジェクトの中盤。エリナという「最高級の広報デモ」が成功を収めたことで、王都には空前の『高彩度ブーム』が巻き起こっていた。

 これまで地味な色に甘んじていた冒険者や貴族たちが、こぞって自分の装備や衣装を鮮やかな色に塗り替え始めたのだ。

 

 だが、その熱狂の裏側で、俺のデバイス『Link』は不穏なエラーログを吐き出し続けていた。


「……相棒。……市街地の魔力パルスに、不自然な『ノイズ』が混じっているな。……これは反射効率の低下によるものか?」


『肯定します、佐藤。……王都内の「高彩度デザイン」を無作為にスキャンした結果、その8割以上が、あなたの設計したロジックを無視した「偽物の意匠フェイク・デザイン」であることを確認しました。

 ……見た目の色を真似ているだけで、内部の魔導回路が断線しています。……それどころか、魔力を異常に蓄積し、暴発させる「脆弱性バグ」を抱えたものが散見されます』


「……デザインだけをコピーして、中身の『意味』を理解していないわけか。……典型的なコピペエンジニアの仕事だな」


 俺がバルコニーでデバイスのデータを整理していると、血相を変えたマルチェロが部屋に飛び込んできた。その後ろには、顔を伏せたエリナも続いている。


「サトウ殿! 大変です! 街の各地で、あなたの考案した『新意匠』を施した冒険者の装備が、次々と自壊、あるいは爆発する事故が多発しております!」


「……自慢の『聖なる力』が暴走した、とお怒りの神官たちも詰めかけていて……。サトウさん、街では『あの呪われた色こそが原因だ』という噂が広まり始めています……」


 エリナが沈痛な面持ちで報告する。

 保守派の連中が、この好機を逃すはずがない。俺のデザインを「危険な異端の術」として葬り去るための、巧妙なネガティブ・キャンペーン(情報戦)だ。


「……マルチェロさん、その『自壊した装備』を一つ持ってきてください。……現物を見れば、誰が犯人か一発でわかります」


 

 数分後。工房に持ち込まれたのは、無惨にひび割れた一振りの長剣だった。

 剣の身には、俺がエリナに施したのと似たような、鮮やかなピンクとブルーのラインが引かれている。だが、一目見た瞬間に、俺の胃は不快な拒絶反応を起こした。


「……ひどいな。……これはデザインじゃない。ただの『塗り絵』だ」


 俺はデバイスの透視スキャン(デバッグモード)を起動した。


「見てください。……表面の塗料は派手だが、ラインの『太さ』と『角度』がめちゃくちゃだ。……古代のロジックでは、この角度が1度ズレるだけで、魔力は『増幅』ではなく『内部反射』に変わる。……この剣、持ち主の魔力を吸い込んだ挙句、出口を見つけられずに内部から破裂したんですよ」


『補足します。……この偽装ラインには、特定の「署名シグネチャ」が隠されています。……王都の宮廷絵師、ジョヴァンニの工房で精製された塗料に含まれる不純物と、成分が一致しました』


「……あの親父、やりやがったな」


 ジョヴァンニ。先日俺に恥をかかされた筆頭絵師だ。

 彼は、俺の「高彩度」というトレンドを利用し、意図的に欠陥のあるデザインを安価にばら撒いた。そして、不具合が起きたところで「これこそがサトウの提唱する色の危険性だ」と吹聴したわけだ。

 

 これは「フェイクデザイン」という名の、悪質なウイルス配布に近い。


「……マルチェロさん。……大至急、大聖堂の広場に『公開監査パブリック・オーディット』の場を設けてください。……ジョヴァンニとその一味、それから不具合に怯える市民たちの前で、俺が直接このバグを叩き潰します」


 






 翌日。大聖堂の広場には、昨日以上に殺気立った群衆が集まっていた。

 中央の壇上には、得意げな顔をしたジョヴァンニと、それを見守る大司教ゼノスの姿。


「……皆の者、見るがいい! これが『監査役』とやらがもたらした災いだ!」


 ジョヴァンニが、壊れた剣を高く掲げて叫ぶ。


「この派手な色は、魔力の神聖さを汚し、器を狂わせる! まさに、街を滅ぼす呪いの色だ! サトウを追放し、女神像を元の清らかな灰色に戻すべきだ!」


 群衆から、怒号に近い賛同の声が上がる。

 その逆風の中、俺はエリナと共に、ゆっくりと壇上へ上がった。

 

 俺の格好はいつも通りのくたびれた上着。だが、左腕のデバイスは、王都中の魔力をハックせんばかりの青い光を放っている。


「……ジョヴァンニさん。……あんた、自分の弟子たちに『俺のデザインを真似て、わざと不備を混ぜろ』と命じたそうですね。……記録ログはすべて、俺の相棒が掴んでいますよ」


「なっ……!? 何を根拠のないデタラメを! 私はただ、市民の要望に応えて、貴殿のデザインを忠実に再現しようとしただけだ!」


「忠実、ね。……その言葉、後悔させてあげますよ。……相棒、ホログラム・オーバーレイ。……『真実の解像度』を投影しろ」


 俺の声と共に、広場全体を覆い尽くすほどの巨大な3Dウィンドウが出現した。

 そこには、ジョヴァンニが作った「偽物の剣」と、俺が監修した「本物のエリナの剣」の回路図が、左右に並べて表示されている。


「……見てください。……右が、俺の設計した本物。左が、ジョヴァンニさんの作った偽物だ。……一見同じに見えますが、魔力の流れを可視化すると、こうなる」


 ホログラムが動き出す。

 右の剣では、魔力が美しいフラクタルのように広がり、刃先へと加速していく。

 だが左の剣では、魔力がラインの継ぎバグで立ち往生し、一箇所に溜まって真っ赤に熱を帯びていく。


「……これは、デザインの良し悪しの問題じゃない。……あんたがやったのは、水道管をわざと詰まらせて、家を水浸しにするような『破壊工作』だ。……色彩とは、単なる装飾じゃない。……古代の理に基づいた『精密な数式』なんだよ!」


 俺は、デバイスからジョヴァンニの工房の仕入れ帳簿と、秘密裏に行われていた「粗悪なインクの配合表」のデータを次々と空中にぶちまけた。


「……あんたがケチった原材料費、そして意図的に狂わせた回路設計。……これらすべてが、市民の命を危険に晒した。……ジョヴァンニさん。あんた、宮廷絵師としての『プライド』を、嫉妬という名のバグで売り渡したわけだ」


「ぐ、うう……! そ、それは……!」


 ジョヴァンニの顔が、見る間に土気色になっていく。

 広場の空気は、一瞬にして逆転した。市民たちは、自分たちを騙していたのが「信頼していた宮廷絵師」であることを知り、その怒りの矛先をジョヴァンニへと向けた。


「……大司教閣下。……これが、今回の事故の真実です。……俺のデザインには、正しい『ハッシュ値(署名)』が刻まれている。……それを無視した偽物については、俺は一切の責任を持ちません」


 大司教ゼノスは、無残な比較画像を見つめた後、重々しく頷いた。


「……ジョヴァンニ。宮廷絵師の看板を下ろし、沙汰を待つがよい。……サトウ殿、貴殿の正論……恐れ入った。……どうやら、我々は『美』というものの力を、侮っていたようだ」


 ジョヴァンニは、近衛兵たちに抱えられるようにして壇上を降りていった。

 

 広場に静寂が戻る。

 俺は、安堵の溜息をつく間もなく、デバイスの新しい設定を全市民に向けて公開した。


「……皆さん。……今後、俺のデザインを導入したい場合は、ギルドが発行する『公式認証ライセンス』を確認してください。……無許可のコピー品は、君たちの命を削る。……正しいデザインには、正しい『保守運用』が必要なんです」


 




 その日の夕方。

 工房に戻った俺は、疲れ果てて椅子に沈み込んだ。

 

「……サトウさん、お疲れ様でした。……凄かったです、あの正論の連打」

 

 エリナが、淹れたてのハーブティーを運んできてくれる。

 

「……疲れるよ。……異世界に来てまで、著作権侵害の調査パトロールなんてやらされるとは思わなかった。……相棒、今回の事案をデータベースにアーカイブしておけ。……今後の『偽装対策』の基礎データにする」


『了解。……インシデント・レポート:完了。

 ……佐藤。……今回の事件で、あなたの「迷宮監査役」としての権限は、事実上の「技術標準化機構」へと格上げされました。……あなたが作るルールが、この国の新たな「OS」になろうとしています』


「……勘弁してくれよ。……俺は、ただのしがないエンジニアなんだ。……国家の標準なんて、責任が重すぎる」


 俺はティーカップを口に運び、窓の外にそびえる、まだ灰色のままの女神像を見上げた。

 

 偽物の意匠バグを排除したことで、ようやく本物の「修復デプロイ」への障害が取り除かれた。

 だが、情報の力が増せば増すほど、おじさんの日常からは「平穏」という名の定時退社が遠ざかっていく。


(……娘や息子も、SNSの『映え』に騙されて、変なもん掴まされてなきゃいいんだがな)

 

 ふと、遠い世界にいる家族の顔がよぎった。

 

「……よし、相棒。……明日は、いよいよ女神像の『色彩最適化』の最終シミュレーションだ。……残業は、今日だけで十分だからな」


 俺はデバイスの電源をオフにし、深く椅子に身を委ねた。

 

 情報の真実を守る戦い。

 くたびれたおじさんの「監査」は、色彩という名の魔法を巡る、より深い深淵へと足を踏み入れようとしていた。


 第3章・第5話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

 

 「デザインは単なる装飾ではなく、精密な数式である」

 おじさんの放つこの言葉には、現代のWebやシステムの現場でも通じる重みがあります。

 ジョヴァンニという名の「旧弊なバグ」を取り除き、佐藤さんの地位はさらに確固たるものになりました。

 

 次回、第6話「色彩のハックと魔力回廊」。

 女神像の修復に向け、おじさんは王都全体の「色彩」をコントロールし、魔力効率を最大化する壮大な実験を開始します。

 街中が鮮やかな光に包まれる、異世界初の「スマートシティ」計画とは……。

 

 続きが楽しみになりましたら、ぜひ【ブックマーク】や【評価(★★★★★)】で応援いただけると嬉しいです!

 よろしくお願いいたします。


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