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魔法もスキルもない50歳、腕型PC一台で異世界をハックする。~疲れやすいおじさんは効率重視で成り上がる~  作者: ぱすた屋さん
【第3章】監査役の意匠再構築(グラフィック・ハック) ~失われた色彩と女神のバグ~

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第6話:色彩のハックと魔力回廊



 どれほど高性能なサーバーを構築しても、そこに繋がるネットワーク――すなわち『足回り』が腐っていれば、システム全体は本来のパフォーマンスを発揮できない。

 

 王都・大聖堂のバルコニーから見下ろすルミナスの街並みは、相変わらず美しい。だが、俺のデバイス『Link』が網膜に投影する「魔力トラフィック・マップ」は、絶望的なほどに真っ赤なアラートを吐き出していた。


「……相棒。……王都のパケットロス率を再計算しろ。……女神像コアから街の端まで、どれだけの魔力が無駄に捨てられている?」


『スキャン完了。……現在の魔力伝導効率は22.4%。……深刻な「ボトルネック」を確認しました。

 ……原因は、無計画に増築された石造りの建物と、それらに塗られた低彩度な塗料による魔力の乱反射です。

 ……佐藤。女神像をアップデートしても、これでは信号(魔力)が街の隅々まで届く前に減衰し、ノイズに消えてしまいます』


「……メイン基板だけ新しくして、配線は数十年前のボロボロなケーブルを使い回しているようなもんだな。……これじゃ『神速ブロードバンド』なんて夢のまた夢だ」


 俺は深くため息をつき、手元のタブレット状のホログラムを操作した。

 以前までの俺なら、迷宮の中だけで完結していた。だが今の俺は『迷宮監査役』であり、この国の「技術標準化」を担う立場だ。

 なら、やることは一つ。

 街全体を一つの「回路(基板)」として捉え、大規模なインフラ工事を断行する。


「……マルチェロさん、エリナさん。……女神像の修復に取り掛かる前に、まずは『ケーブルの引き直し』をします。……王都全域の『色彩最適化カラー・オプティマイゼーション』を開始しましょう」





 

 翌日から、王都の住民たちは前代未聞の光景を目にすることになった。

 

 俺の指揮の下、数千人の労働者と神官たちが、街の主要な街道――大聖堂から東西南北に伸びる「メインストリート」の壁や石畳を、次々と鮮やかな色彩で塗り替え始めたのだ。

 

「サ、サトウさん……。本当に、この色でいいのでしょうか? ……私の鎧と同じ、この目がチカチカするようなピンクやブルーを、パン屋や宿屋の壁にまで塗るなんて……」

 

 エリナが、新調したマゼンタのアクセントが光る装備を纏いながら、困惑したように街並みを見つめる。

 彼女の横では、刷毛を持った職人たちが、建物の一階部分に「シアンブルー」の太いラインを、幾何学的な模様を描きながら塗り込んでいた。

 

「……いいんだよ、エリナさん。……これは単なる装飾じゃない。……女神像から放たれる高周波の魔力を、街の端にある『結界発生装置』まで、一滴も漏らさずに誘導するための『光ファイバー』なんだ」

 

 俺はデバイスで、塗り終えたばかりの壁の「魔力透過率」を測定する。

 

「……見てろ。……かつての灰色の壁は、魔力をバラバラに反射して熱に変えていただけだった。……だが、この色彩設計に基づいたこの『高彩度デザイン』は、特定の波長だけを増幅して、次の建物へとリレー(中継)させる特性がある。……これを街全体に張り巡らせれば、王都は一つの巨大な『魔力回廊メッシュネットワーク』に変わるんだ」

 

 俺が提示したのは、現代のスマートシティ構想をファンタジーの色彩理論で再構築した、いわば「スマート・ルミナス計画」だった。

 

 主要な建物の角には、エッジの効いた黒とゴールドの「ノイズフィルター(魔石プレート)」を設置。

 路地裏の入り組んだ場所には、透明感のある色彩を使い、魔力の「レイテンシ(遅延)」を最小限に抑えるよう計算して配置した。

 

 はた目には、王都が急速に「サイバーパンク」のようなサイケデリックな姿に変貌していくように見えただろう。

 だが、その一色一色、一線一線には、俺とデバイスが数億回のシミュレーションを重ねて導き出した、絶対的な「論理ロジック」が詰まっている。

 

「……サトウ殿! ……街中の魔力計が、異常な数値を叩き出しています! ……塗り替えが終わった区画から順に、魔力の安定度が劇的に改善しているという報告が……!」

 

 マルチェロが、興奮で鼻息を荒くしながら駆け寄ってきた。

 

「……ああ。……今まで『通信エラー』で消えていた魔力が、ちゃんと宛先(目的地)に届くようになった証拠ですよ。……これで女神像サーバーの負荷も下がる。……インフラの最適化こそ、最大のデバッグだ」

 




 

 数日後。王都の四つの主要幹線道路の塗り替えが、ほぼ完了した。

 

 夕闇が迫る頃、俺はエリナを連れて、大聖堂の最上階にある「マスター・コントロール・パネル」の前に立った。

 ここから、街全体の「色彩回路」に魔力を通し、テスト稼働を行う。

 

「……エリナさん。……君がこの街の『起動スイッチ』だ。……その剣を、女神像の台座にある入力ポートに差し込んでくれ」

 

「……はい! ……行きます!」

 

 エリナが、極彩色に輝く聖剣を、石造りの台座へと力強く突き立てた。

 

 ――瞬間。

 

 ドォォォォォォォォンッ!!

 

 地響きと共に、女神像の胸元から、目も眩むような「純白の魔力パルス」が解き放たれた。

 その光は、かつてのように霧散することなく、俺たちが塗り上げた「極彩色の回廊」へと吸い込まれていく。

 

 王都の路地が、建物が、石畳が、次々と発光を開始した。

 大通りを流れるシアンブルーのラインが川のように輝き、交差点に配置されたマゼンタの結界石が、夜空に向かって真っ直ぐな光の柱を突き立てる。

 

 


 

 それは、中世の夜にはおよそ相応しくない、しかしあまりにも荘厳な「光のグリッド」だった。

 

「……美しい……。……街が、生きているみたいだ……」

 

 エリナが、光り輝く自分の街を見下ろして、感嘆の声を漏らす。

 

「……街は生き物じゃない。……巨大な『OSオペレーティング・システム』なんだよ、エリナさん。……正しいルールと、正しい色彩を与えれば、世界はこうして正しく機能し始める」

 

『計測完了。……王都全域の魔力伝導率、89.2%を達成。……初期化前の4倍の出力を記録しました。

 ……佐藤。……この「魔力回廊」の構築により、女神像の修復に必要な環境(実行環境)が100%整いました。……いよいよ、メインプログラムの書き換えが可能になります』

 

「……ようやく、本番のデプロイができるな。……足回りがこれだけ強固なら、どんな高彩度なデザインを流し込んでも、システムは耐えられる」

 

 俺は、熱を持ったデバイスの画面を閉じ、達成感と共に冷えた夜風を吸い込んだ。

 

 


 ふと、遠い街の夜景を思い出した。

 単身赴任先のアパートの窓から見えた、無機質な都会のビル群。

 あの時、俺は「あの光の一つ一つに、疲れ果てた誰かがいるんだな」と、ただ冷めた目で眺めていた。

 

 けれど、この街の光は違う。

 俺が、俺と相棒が、この手で一本ずつ引き直した「命の回路」だ。

 

(……娘や息子も、この景色を見たら『お父さん、やるじゃん』って言ってくれるかな)

 

 柄にもないことを考え、俺は苦笑した。

 

 

「……さて。……マルチェロさん、お祝いの酒はまだ早いですよ。……明日からは、女神像の『ファイナル・レンダリング』に入ります。……一分の狂いもない色彩を、俺が直接この手で刻み込む」

 

 おじさんの指先が、再びホログラムの波形の上を滑る。

 

 色彩という名のハック。

 街全体を回路に変えたおじさんの「インフラ工事」は、ついにこの世界の根幹である『女神』の心臓部へと、その光を届かせようとしていた。

 

 伝統という名の「ノイズ」が消えた王都で、真実の色彩が、かつてない解像度で再起動リブートされる時が迫っていた。


 第3章・第6話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

 

 街全体のペンキ塗りを「光ファイバーの敷設」と言い切るおじさん。

 文字通り「彩度」をハックすることで、魔法の世界にサイバーパンクな美学を定着させてしまいました。

 

 次回、第7話「フェイクニュースと『情報の正当性』」。

 街が輝きを取り戻したのも束の間、佐藤さんの「色彩ハック」を魔導汚染だと断じる、巧妙な情報戦が仕掛けられます。

 おじさんは、目に見えない「情報のバグ」をどうデバッグするのか。

 

 続きが楽しみになりましたら、ぜひ【ブックマーク】や【評価(★★★★★)】で応援いただけると嬉しいです!

 よろしくお願いいたします。


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