表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法もスキルもない50歳、腕型PC一台で異世界をハックする。~疲れやすいおじさんは効率重視で成り上がる~  作者: ぱすた屋さん
【第3章】監査役の意匠再構築(グラフィック・ハック) ~失われた色彩と女神のバグ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/49

第4話:美少女勇者のプロデュース(意匠改修)



 プロジェクトにおいて、最も難しいのは「技術的な課題」ではない。

 「ユーザー(大衆)の心理的抵抗」をどう排除するか。それが、エンジニアが直面する最大の壁だ。

 

 王都・大聖堂の地下にある、広大な魔導工房。

 俺はそこで、デバイス『Link』が吐き出す膨大な「資材調達リスト」を睨みつけていた。女神像を塗り替えるための「高彩度・高伝導インク」の精製には、王室の宝物庫に眠る希少な魔石を大量に消費する。

 

「……サトウ殿。……大司教閣下からは許可をいただいたが、街の空気は依然として冷ややかだ」

 

 マルチェロが、工房の隅で胃を押さえながら声をかけてきた。

 窓の外からは、大聖堂を取り囲むように集まった群衆のざわめきが聞こえてくる。彼らにとって、女神像は絶対の聖域だ。それを「くたびれた異邦人」が極彩色に塗り替えるという噂は、不安と怒りを持って街中に広がっていた。

 

「……『慣れ』の問題だと言いましたが、導入初期のUI変更には、必ず強力な反発(バグ報告)が伴うものです。……だから、まずは『デモ(実演)』が必要なんですよ」

 

「デモ……? 女神像をいきなり塗るわけには参りませんぞ」

 

「像ではなく、人でやります。……マルチェロさん、俺が頼んでいた『モデル』は連れてきましたか?」

 

 俺がそう尋ねると、工房の重い扉が開き、一人の少女が戸惑いながら入ってきた。

 

「……あの、失礼します。……王宮騎士団、第7部隊所属のエリナと申します……。……私が、サトウさんの手伝いをすればいいのでしょうか?」

 

 彼女は、王都でも期待の若手と名高い「ランクA勇者」だった。

 だが、今の彼女の姿は、俺の目には「極めて非効率な初期設定」にしか見えなかった。

 

 くすんだ銀色の重厚な鎧。地味な茶色のマント。

 才能はあるが自分に自信がなさそうな、どこか影のある表情。

 それはまさに、ギルドで出会ったセリアやクラウスを彷彿とさせる、未熟なシステムの佇まいだった。

 

「……エリナさん。……君のその装備、誰が選んだんですか?」

 

「えっ? ……あ、これは代々の勇者に伝わる、由緒正しい『聖なる鎧』ですが……」

 

「……捨ててください。……そんな『互換性のないレガシーデバイス』を身に着けているから、君の魔力出力は常に60%で頭打ちになっているんだ」

 

 俺は、デバイスのスキャン光を彼女に浴びせた。

 網膜上に展開される、彼女の魔力回路の3Dモデル。

 

『解析完了。……エリナ・ルミナス。

 ……魔力ポテンシャル:極大。……ですが、装備品による「インピーダンス不整合」が発生中。

 ……現在の銀色の鎧は、特定の魔力波長を反射・減衰させてしまい、彼女の天賦の才を「ノイズ」として処理しています』

 

「……聴いたか。……君が『重い』とか『息苦しい』と感じているのは、物理的な重さじゃない。……システムが君の魔力を拒絶しているエラーのサインだ」

 

 俺は工房のテーブルに、馬車の中で設計した「新装備のデザイン案」を投影した。

 

 それは、アリステアたちの時とは次元が違う、俺の「美意識」と「ロジック」を極限まで融合させた意匠だった。

 

 お気に入りの作家の色彩感覚を取り入れた、ビビットなネオンピンクのアクセント。

 俺のいた世界で人気のあったの、鋭利で力強いシルエットを形成する黒い魔導繊維のアンダースーツ。

 鎧は最小限の「急所防御」に留め、その表面には、女神像の回路図をダウンサイジングした幾何学的な「高出力ライン」を刻み込んでいる。

 

「……な、なんですか、この服は……!? ……こんなに肌を露出して、しかもこんなに派手な……! ……これでは勇者ではなく、踊り子のようです!」

 

 マルチェロが悲鳴を上げる。

 

「……黙って見ててください。……これは『衣装』じゃない。……彼女の魔力を外部へノーロスで出力するための『ブースター』ですよ。……エリナさん。君は、自分の本当の力を見てみたいと思わないか?」

 

 エリナは、ホログラムに映る「あまりにも鮮やかで、美しい自分」を、食い入るように見つめていた。

 18歳という若さ。かつての俺の娘も、こんなふうに新しい服を前に、期待と不安を混ぜたような目をしていた。

 

「……私、……やってみたいです。……今のままじゃ、誰の役にも立てない気がして……。……サトウさん、私を、変えてください!」

 

 






 それからの三日間、俺は寝る間を惜しんで、エリナの「システム再構築ビルド」に没頭した。

 

 デバイスの魔力合成機能をフル稼働させ、王室の魔石を液状の「魔導インク」へと変換する。

 彼女の骨格、筋肉の動き、魔力の流動クセ。そのすべてを0.01ミリ単位で調整し、新装備を彼女という「ハードウェア」に最適化フィッティングさせていく。

 

「……相棒。……このマゼンタのライン、もう少し彩度を上げろ。……視覚的な『美しさ』は、この世界では『魔力の情報密度』に直結する。……より鮮やかに、より鋭く。……見る者の視神経をジャックするほどの『解像度』を与えろ」

 

『了解。……色彩強度のオーバードライブを実行。

 ……佐藤。……この意匠は、もはや人間の手による芸術を超えています。……「神のインターフェース」の断片が、彼女の肌の上に定着していきます』

 

 作業が進むにつれ、エリナの瞳には、かつての弱々しさは消え、確固たる「光」が宿り始めていた。

 装備を一つ身に着けるたびに、彼女の周囲の空気が、パチパチと高密度の魔力で震え始める。

 

「……すごい。……体が軽い。……世界が、今までよりもずっと『鮮明』に見える……!」

 

「……当たり前ですよ。……君の視界から、ノイズ(無駄な既成概念)をすべて取り除いたんですから」

 




 

 そして。

 大聖堂前の広場。集まった数千人の市民と、批判の準備を整えていた神官たちの前に、彼女は姿を現した。

 

 太陽の光を浴びて、彼女の全身が「発光」しているように見えた。

 

 地味な銀色を脱ぎ捨てた、鮮烈なシアンとマゼンタのコンビネーション。

 鋭く立ち上がった黒い髪の隙間から覗く、青白く光る瞳。

 彼女が一歩踏み出すたびに、足元から魔力の波紋が広がり、周囲の「色褪せた風景」を塗り替えていく。

 

 


 

 広場を支配したのは、怒号ではなく、完全な「静寂」だった。

 あまりにも美しく、あまりにも圧倒的な「新時代の美学ビジュアル」。

 それは、言葉による説明など必要としない、暴力的なまでの説得力を持っていた。

 

「……あれが、……エリナ様なのか……?」

「……神々しい……。……派手なのに、不思議と心が震える……。……あれが、本当の『勇者の姿』なのか?」

 

 人々の呟きが、波のように広がっていく。

 

 エリナは、その手に握った新設計の聖剣を、一気に振り抜いた。

 

 ――ズドォォォォォォンッ!!

 

 空に向かって放たれた、極彩色の魔力奔流。

 雲を裂き、王都の空に巨大な「虹の亀裂」を刻み込む一撃。

 

「……皆さんに、お伝えします!」

 

 エリナの声が、デバイスによる音声増幅ブーストを伴って、街全域に響き渡った。

 

「……サトウさんの示す『色』は、冒涜ではありません!……これは、私たちが忘れてしまった、女神様本来の『力』そのものです!……私は今、かつてないほど、自分が女神様に守られていると感じています!」

 

 その言葉は、どんな説教よりも深く、市民たちの心に突き刺さった。

 

 不信感という名の「バグ」が、一瞬にして消去されていく。

 人々は跪き、新たな姿の勇者へ、そしてその背後に立つ「おじさん」へと、畏敬の念を込めた眼差しを向けた。

 

「……よし。……相棒。……プレゼンは成功だ」

 

 俺は工房の影で、冷や汗を拭いながら小さくガッツポーズをした。

 

『……お疲れ様です、佐藤。……市民の支持率アクセプタンス、82%まで上昇。……女神像の修復に対する反対意見は、統計的に無視できるレベルまで減少しました。

 ……なお、エリナ・ルミナスの戦闘データは、以前の4.2倍を記録。……デザインが機能ファンクションを凌駕した瞬間です』

 

「……ふぅ。……さて、マルチェロさん。……外の空気も変わった。……いよいよ、本番(女神像の塗り替え)に入りましょうか」

 

 俺は、呆然と立ち尽くすマルチェロの肩を叩いた。

 

 美少女をプロデュースし、その圧倒的なビジュアルで世界を黙らせる。

 くたびれたおじさんの「意匠改修デザイン・ハック」は、王都の伝統を鮮やかに塗り替え、いよいよ国家規模の「再起動リブート」へと向かっていく。

 

 

「……それにしても、相棒。……あの衣装、ちょっと気合を入れすぎたかな」

 

『……否定できません。……ですが、佐藤。……あなたの「趣味」が、この国の結界を救う最大の変数になったことは、否定できない事実です』

 

「……仕事だよ。……これは、立派な仕事なんだ……」

 

 俺は自分に言い聞かせ、沈みゆく夕日の下、極彩色に輝く王都の空を見上げた。


 第3章・第4話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

 

 おじさんの「趣味」と「ロジック」が爆発した回でした。

 エリナさんを最高に可愛く、最高に強くプロデュースしたことで、街の空気は一変。

 「定時退社」を愛するおじさんですが、デザインへのこだわりだけは譲れなかったようです。

 

 次回、第5話「偽りの意匠フェイク・デザインの罠」。

 佐藤さんの活躍を快く思わない勢力が、見た目だけを似せた「粗悪な偽物」を流通させ始めます。

 情報のプロであるおじさんは、この「フェイクニュース」ならぬ「フェイクデザイン」をどうデバッグするのか。

 

 続きが楽しみになりましたら、ぜひ【ブックマーク】や【評価(★★★★★)】で応援いただけると、おじさんの創作意欲がさらにブーストされます!

 よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ