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魔法もスキルもない50歳、腕型PC一台で異世界をハックする。~疲れやすいおじさんは効率重視で成り上がる~  作者: ぱすた屋さん
【第3章】監査役の意匠再構築(グラフィック・ハック) ~失われた色彩と女神のバグ~

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第3話:ビビット・カラーの衝撃



 王都、聖都ルミナス。

 そこは、石造りの白壁が連なり、至る所に精緻な彫刻が施された、この世界における「美と伝統」の極致のような街だった。

 だが、馬車の窓からその景色を眺める俺の目には、街全体がどこか「色褪せた古い映画」のように映っていた。

 

「……相棒。……王都全域の魔力スペクトルをスキャンしろ。……ノイズフロアの状況は?」

 

『了解。……スキャン実行。

 ……佐藤。王都の魔力環境は極めて劣悪です。……女神像の機能不全に伴い、街を覆う結界の波形が乱れ、定常波が干渉し合っています。

 ……視覚的な「色褪せ」は、空間の魔力密度が低下し、光の屈折率が不安定になっているためです。……端的に言えば、街全体の「彩度」が、物理的に削り取られています』

 

「……テクスチャの解像度が落ちてるわけか。……末期症状だな」

 




 馬車が止まったのは、街の中央にそびえ立つ『白銀の大聖堂』の前だった。

 天を突くような尖塔と、無数の聖人像に囲まれたその場所は、本来なら世界で最も神聖な場所であるはずだ。だが、その中心に鎮座する『始まりの女神像』は、今や巨大な影のように、輪郭をぼやけさせて立ち尽くしていた。

 


 馬車の扉が開くと、そこには赤い法衣を纏った老人たちが、眉間に深い皺を寄せて列を成していた。

 その中央に立つ、一際豪華な冠を被った老人――聖教団の最高権威、大司教ゼノスが、冷ややかな視線を俺に向けてくる。

 

「……マルチェロ。……この、くたびれた男が、レアルトで噂の『監査役』か? ……このような、魔力すら感じられぬ凡夫に、我が国の至宝を委ねるというのか」

 

「は、はい、大司教閣下! サトウ殿は迷宮の理を解き明かした賢者であり……」

 

「……賢者か。……見たところ、ただの行き倒れの中年にしか見えぬがな」

 

 隣に立つ、絵筆を杖のように持った男――宮廷筆頭絵師のジョヴァンニが、嘲笑を浮かべて鼻を鳴らした。

 

「監査役殿とやら。……芸術とは、魂の祈りだ。……我ら宮廷絵師たちが数百年の伝統に基づき、最も『慎み深い色彩』で修復を試みても叶わなかったものを、貴様のような素人がどうこうできると思うなよ」

 

 伝統、慎み深さ、魂。

 ……エンジニアが現場で最も嫌う、根拠のない精神論のオンパレードだ。

 

 俺は深く、重いため息を吐き出すと、石畳を鳴らして彼らの前に進み出た。

 

「……大司教閣下。ジョヴァンニさん。……先に言っておきますが、俺は芸術家じゃありません。……俺がここに来たのは、この女神像という名の『壊れた広域サーバー』を修理リブートするためです」

 

「……さ、さーばー? ……何を訳の分からぬことを……」

 

「……論理ロジックで分からせてやるよ。……相棒、ホログラム出力。……王都全域の『魔力伝導率スループット』の可視化を開始しろ」

 

 俺が左腕のデバイス『Link』を掲げると、大聖堂の広場全体に、青白いグリッド状の光が展開された。

 

「な……なんだ、この光は!? ……魔法ではないのか!?」

 

「……驚くのはまだ早い。……見てろ。……これが、あんたたちが『慎み深く』塗り直した後の、現在の魔力の流れだ」

 

 ホログラムが、女神像を中心とした魔力の流れを赤く染め上げる。

 女神像の表面で、魔力は行き場を失い、激しく火花を散らしながら霧散していた。

 

「……魔力が漏れている(リークしている)。……あんたたちが使った『慎み深い灰色』や『落ち着いた茶色』は、魔力の波長を吸収し、熱に変えてしまう性質がある。……つまり、あんたたちは良かれと思って、女神像に『防熱材』を塗りたくったんだ。……これじゃ、結界の信号が街に届かないのは当たり前だ」

 

「……な、何をデタラメを! ……色彩は、神への敬意を表すものだ! ……物理的な性質など……!」

 

「……性質がすべてですよ、ジョヴァンニさん。……神様が物理法則の上に成り立っている以上、法則を無視した美学はただの『バグ』だ」

 

 俺は、デバイスの画面をスワイプし、馬車の中で生成した「再構築デザイン案」を、女神像の巨体に直接プロジェクション・マッピングした。

 

 ――瞬間。

 大聖堂を包む空気が、一変した。

 

「…………っ!!」

 

 大司教ゼノスが、杖を落としそうになりながら絶句した。

 ジョヴァンニは、信じられないものを見たというように、持っていた絵筆を握りつぶした。

 

 そこに現れたのは、これまでの王都の美学を根底から破壊する、暴力的なまでの「色彩の奔流」だった。

 

 瞳は、高出力のレーザーを思わせる、鮮烈なシアンブルー。

 肌には、魔力の流動を示すマゼンタとイエローの幾何学模様が、ビビットなコントラストを描きながら刻まれている。

 衣装は、光を100%反射するクロームシルバーと、影さえも拒絶する絶対的なブラックのコンビネーション。

 

 それは現代のトップクリエイターたちが描く「彩度の極致」を、古代の魔導回路のロジックで再構成した、究極の機能美だった。

 

「……な、なんという……。……なんという冒涜的な姿だ!!」

 

 大司教が、震える指でホログラムを指差した。

 

「……このような……このような毒々しい色は、酒場の看板か、あるいは異国の妖魔の類だ! ……これが女神だなどと、断じて認めん! ……直ちに消せ! ……聖域を汚すな!!」

 

「……『美しい』から『汚れている』に評価が変わるのは、個人の主観だ。……だが、数値は嘘をつかない」

 

 俺はデバイスを操作し、デザイン投影後の『予測魔力出力』のグラフを表示させた。

 

 折れ線グラフが、垂直に近い角度で跳ね上がり、限界値を突破していく。

 

「……この高彩度、高コントラストな配色。……これこそが、古代の設計者が意図した『最高効率のアンテナ色』だ。……色彩の波長を魔力の周波数と同調シンクロさせることで、エネルギーの減衰を0.02%以下に抑えられる。……結果、王都の結界出力は320%向上。……街を覆うノイズは一掃される」

 

「……320%だと……!? ……馬鹿な、そんな数字……魔法学の歴史上、一度も……!」

 

 ジョヴァンニが、うわごとのように繰り返す。

 

「……あんたたちの『芸術』で、街が救えるのか? ……慎み深い色で、魔物の侵入が防げるのか? ……答えろよ。……できないなら、口を閉じろ。……これは、国のインフラを守るための『デバッグ作業』だ。……感情論を差し挟む余地はない」

 

 俺の冷徹な正論が、広場を支配していた。

 



 大司教も、神官たちも、宮廷絵師たちも、圧倒的な「結果の予報」を前に、反論の言葉を失っていた。

 彼らが守り続けてきた数千年の伝統が、おじさんの持ち込んだ「現代の最適化理論」の前に、ただの非効率なデータとして処理されていく。

 

「……サトウ殿。……君の言うことは分かった。……だが、国民が、この『異質な姿』を受け入れると思うか? ……女神がこのような姿になったと知れば、暴動が起きるやもしれん」

 

 大司教ゼノスが、最後の抵抗として、政治的な懸念を口にした。

 

 俺は、ふっと口角を上げた。

 その懸念は、かつての俺が、新しいUIユーザーインターフェースを導入する際に、現場の反発を恐れるクライアントから何度も聞かされたものと同じだった。

 

「……『慣れ』の問題ですよ、閣下。……人間は、機能的で、自分たちを救ってくれるものを、最終的には『美しい』と定義し直す。……それに、見てくださいよ、このデザイン。……最高にクール(格好いい)で、最高にキュート(可愛い)でしょう?」

 

 俺はホログラムの女神の顔をズームアップした。

 鋭い視線の中に、一筋の慈愛を感じさせる絶妙なバランス。

 それは、俺が深夜のレンダリングで追い求めた、究極のキャラクター像だ。

 

「……一週間。……一週間で、このデザイン通りに女神像を塗り替える。……それが、この街を救う最短ルートだ」

 

「…………。……分かった。……そこまで言うのであれば、全責任を貴殿が負うことを条件に、許可しよう」

 

 大司教が、重々しく頷いた。

 

 ジョヴァンニは、悔しさに震えながらも、俺の投影したホログラムのデザインを、食い入るように見つめていた。絵師としての本能が、その「異質な美」の中にある、絶対的な調和を感じ取ってしまったのだろう。

 

「……さて。……相棒。……承認は取れた。……次は、資材の調達と、現場のワークフローの構築だ。……まずは、このビビットな色彩を再現できる『魔導インク』の化学式を作成しろ」

 

『了解。……プロジェクト「女神の再構築」、実装デプロイフェーズに移行します。

 ……佐藤。……これより先、物理的なリソース管理が鍵となります。……あなたの「プロジェクトマネジメント」の手腕が問われます』

 

「……PMプロジェクトマネージャーなんて、一番胃が痛い役職だな。……だが、やるしかないか。……定時退社を勝ち取るために」

 

 俺は、沈みゆく夕日に照らされた女神像を見上げた。

 

 今はまだ、灰色に霞んだ巨大な塊。

 だが、一週間後、この街は世界で最も鮮やかな、究極の「色彩システム」によって再起動されることになる。

 

 くたびれたおじさんの、王都でのデバッグ。

 伝統という名のバグを塗りつぶす、史上最大の「塗り絵」が、今ここから始まった。


 第3章・第3話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

 

 今回は、王都の権威層を相手にした、おじさんの「正論プレゼン」を主軸に描写いたしました。

 

 伝統や宗教を盾にする神官たちに対し、「数値」と「機能」で真っ向から反論する佐藤さん。

 「慎み深い色は魔力のノイズになる」という、いかにもエンジニアらしい解釈で女神像のデザイン変更を認めさせるカタルシスを描きました。

 

 また、描写につきましても、大聖堂の空気感や、おじさんのPMプロジェクトマネージャーとしての苦悩など、4000文字の密度を確保するため細部まで加筆しております。

 

 次回、第4話「美少女勇者のプロデュース(意匠改修)」。

 女神像の修復と並行して、その広告塔となる「実在の勇者」の装備品まで、おじさんがデバッグすることに……。

 「最高に映えて、最高に強い」美少女勇者の誕生を、どうぞお楽しみに!

 

 物語の続きが気になりましたら、ぜひ【ブックマーク】や【評価(★★★★★)】で応援いただけると、おじさんの胃の痛みが少し和らぎます!

 よろしくお願いいたします。


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