035 いわんやケモミミをや 2
あれからギルド職員に話を聞いた。
……といっても、大して詳しい話があったわけじゃない。
獣人の子供が何人か、行方不明になった。ただ、それだけだ。
誘拐されたと決まったわけじゃない。でも、迷子や事故にしては明らかに不自然な状況での行方不明であり、頻度も異常。
……ま、誘拐されたと判断するのが妥当なやつだ。
警備隊は、悪い奴らは捕まえてくれるけど、地道な捜査は苦手と言うか、やってくれない。
アレは武力集団であって、アタマを使う仕事はあまりできないんだってさ。人手も足りないそうだし……。
これが、被害者が人間で、しかも貴族や有力者の子弟であれば話も違うらしいけど、獣人の子供だからなぁ。
表向きは差別はないってことになってるけど、実際にはやっぱりなぁ……。
でも、それをカバーするために報酬を出してハンターに依頼を出しているというのは、領主やその配下の者達が結構しっかりやってくれているということか。
やる気のない警備兵より、カネ目当てのハンターの方が役に立つ、か……。
……悪くない。
悪くないな、ここの領主……。
勿論、ハンターじゃない普通の住民でも、情報提供者には褒美が出るらしい。
そっちは荒事や積極的な調査とかじゃなく、たまたま見掛けたとか、不審なことがあったとかの『たまたま情報』くらいだろうけど、それでも貴重な当たり情報が得られる可能性はゼロじゃないからな。
そして、結論として……。
「受けるわよ、この仕事!」
「異議なし!」
「わふん!」
……まあ、受けるも何も、受注手続きは不要だし期限もペナルティもないから、あまり関係ないんだけどな……。
他の連中も、別の依頼をやりながら、少し心に留めておく、っていう程度だろう。
勿論、怪しい者を見掛けたりヒントや手掛かりを掴んだりすれば、即座に全力で食らい付くだろうけどな。
で、フェンリルはと言うと……。
「この誘拐事件の調査を中心に進めて、その途中で出会った魔物を狩って調査期間中の生活費に充てるわよ。貯金は切り崩さない。……いいわね?」
「うん!」
「おう!」
さすが、堅実が服を着て歩いているような奴、セリアだ。しっかりしてやがる。
まあ、素人が少し調べたくらいで、そうそう簡単に手掛かりが見つかるわけがないからな。
いくらやる気がないとは言え、警備隊も最低限の調査はやっているだろう。
そして俺達ハンターには捜査権も強制権もないから、確実な証拠があるか現行犯でもない限り、取り調べや証言の強要とかはできない。
それで、警備隊以上の結果を出すのは難しいよな。人数も少ないし……。
だから、他のハンター達は『駄目で元々』、『たまたま情報が手に入ったら』という感じで、他の依頼遂行のついでに、という程度の認識なのだろう。
でも、セリアは『この依頼のついでに、生活費稼ぎのための常時依頼もこなす』という方針だ。
……普通の、逆。
他のパーティなら、こんなやり方だと収入激減でメンバーから文句が出るだろう。
ハンターと言っても、家族持ちもいるんだ。そんな、報酬ゼロで終わりそうな依頼なんか本腰でやれるわけがない。
そんなことをするのは、馬鹿か余程のお人好しだけだ。
……そう、『フェンリル』みたいな……。
「さすが、セリアだぜ。俺のマスターだけのことはあるな!」
「……何よ、おだてたって夕食の品数は増えないわよ!」
照れてやがるな、セリアの奴……。
まあ、調査の途中で魔物を狩って生活費稼ぎ、なんて、『フェンリル』くらいしかできないよな。
途中で魔物に出会ったとしても、角ウサギやコボルトの死体を担いだり腰にぶら下げたりしたまま調査を続けることはできないだろう。いくら屈強な成人男性であっても……。
だから、それは収納魔法持ちの俺がいる、『フェンリル』にしかできないんだよな。
でも、だからってこんな報酬を得ることができる確率がかなり低い依頼にたくさんの時間を割かなきゃならない理由にはならない。
他のパーティのように、片手間で、心に留めておく、という程度でいいはずだ。
自分達には何の義務も責任もない、無関係の事件なのだから……。
「……俺に配慮した?」
以前、俺がケモミミ少女に執着していることを話したからな。……特に、ネコミミ。
ネコミミ少女の寝込みミを襲う。
……って、うるさいわっ!
襲わないよ! YESネコミミ、NOタッチ!
ネコミミは愛でるものであって、決して触れちゃ駄目なんだよ!
『GOタッチ』じゃないぞ、『NOタッチ』だ、『NOタッチ』!!
「ん? 別に、そういうワケじゃないわよ。
獣人だとか人間だとか、関係ないわ。ただ、子供達の笑顔と未来は護らなきゃならない。それだけのことよ。……何か、変かな?」
……よぉし、いい返事だ!
「うむ。それでこそ、我ら……」
「「「無敵のパーティ、『フェンリル』!!」」」
* *
今日は一日中、被害者達の家族に話を聞いて廻った。
家族は、藁にも縋る思いで懸命に状況を説明してくれたけれど、かなり疲れているみたいだった。
まあ、憔悴しているのもあるだろうけど、警備隊やらハンターやら、話を聞きに来る連中に何回も、何十回も同じ話を繰り返し喋らなきゃならないから、疲れ果てるのも無理ないよな。俺達もその疲労積み重ねの一因になってるわけだし……。
でも、正直言って、家族に話を聞いてもあまり参考にはならなかったな。
誘拐された時に居合わせたわけじゃないし、自宅で攫われたわけでもない。
まあ、子供がよく行っていた場所とか、どんな性格だったとかは少し参考になるけれど……。
攫われた場所が分からないから、臭いを辿るのも難しいしな。
誘拐されてから時間が経ちすぎているし、雨も降ったし、現場も不明。
これじゃあ、さすがに俺の嗅覚でも難しい。
一応、本人の衣類を嗅がせてもらって、被害者の臭いは覚えておいたけどな。
そして夕食も終わり、セリアとリゼルはそれぞれ属性魔法のイメージトレーニングを始めた。
ベッドに横たわってやるから、いつもそのまま寝落ちするんだよな。
……よし、そろそろ行くか……。
そっと宿を抜け出して、夜の街に……。
ちゃんとギルドで貰った使い魔登録の首輪をしているから、いきなり討伐されたりはしないだろう。
他者の使い魔を捕まえても、売ることも使役することもできないから意味がないしな。
まあ、苛めて憂さ晴らしをするか、食べるかだな、俺の使い途として考えられるのは……、って、怖いわっ!!
まあ、俺を捕まえられる人間はいないよなあ、どう考えても……。
だから、セリアとリゼルも俺がひとりで出掛けたのを知ったところで、別に心配したりはしないだろう。
そして俺の行き先は、ハンターギルドで仕入れた情報による、とある場所だ。
俺は耳がいいから、飲食コーナーで喋っている連中の話が聞こえるんだよ。
道順も、事前に確認済みだ。
みんなで買い物に行く時に、あっちへ行きたい、そこの通りを通ってみたい、とか言うと、セリアとリゼルは俺の希望通りの道を通ってくれるからな。
あちこちでおしっこをするんじゃないよ、と釘を刺されたけど……。
縄張りを示すためのマーキングはしないってば!
とにかく、場所は確認済みだということだ。
よし、さっさと用事を片付けよう!




