034 いわんやケモミミをや 1
あれから数日。
セリアとリゼルは順調に腕を上げ、今では既に果実水を入れたカップの中に氷を生成して冷やすことができるし、冷めたスープを温めることもできるようになった。
よしよし……。
「何が『よしよし』よっ!」
「……あ、聞こえてた?」
「思い切り聞こえてたわよ!」
スマンかった……。
いや、頭の中で独り言を呟いているつもりが、ついうっかりと思念波として出しちゃう場合があるんだよな。
「ちゃんと戦闘にも使えるようになってるでしょうが! 全く……」
ブツブツと文句を言うセリアと、苦笑しながら黙って見ているリゼル。
リゼルは、ちゃんと冗談だということが分かっていて、笑って流してくれるからな。
セリアは、もう少し心に余裕を持とうな……。
「うるさいわよっ!」
「あ、心の中で思っただけなのに、またうっかりと念話を飛ばしちゃってたか……。ゴメンゴメン!」
「それって、本音でそう思ってるってことじゃないの!
……というか、二度目はわざとだよね!!」
あ~、ゴメンゴメン……。
「まあ、属性魔法で倒した獲物は、傷口を短剣でグリグリしたり、火矢や火責め用の油を腰に提げておいて毛皮が焦げているのを誤魔化したりと、色々小技を使っているから今のところは大丈夫そうだよな」
「そうね。まあ、疑われている兆候があれば、すぐにこの町から離れて遠くの領地、もしくは他国へ行けばいいだけのことよ。
最悪の場合、名前を変えてハンター試験を受け直してもいいしね。
今の私なら、一発合格間違いなしよ」
まあ、そうだろうな。無限の魔力があって、魔法の連射が可能。オマケに細かいコントロールが得意。
いくら一発あたりに込められる魔力量が少なくても、そんなの問題にもならない程の有用さだ。
そりゃ、属性魔法を隠していても、合格間違いなしだろう。
あ、ギルドに到着した。
セリアとリゼルが仔狼に話し掛ける痛い子だと思われないように、ギルド内では普通には話せないんだよな。
まあ、俺からふたりにしか聞こえないように念話を飛ばすことはできるし、ふたりは互いに話している振りをして俺にも聞かせる、ってことにすれば全く話せないことはないけれど、セリアの奴はすぐに、うっかりと俺の方を向いて話したり怒鳴ったりするからなぁ……。
リゼルの方は、そんな失敗はしないのに……。
「じゃあ、いつものように情報ボードと依頼ボードを確認しましょ」
ギルド内に入ると、リゼルに向かってそう告げるセリア。
うん、さすがに初っ端から失敗したりはしないか。
「……ん……?」
情報ボードを見ていたセリアが声を漏らしたので、つい聞いてしまった。
「どうかしたか?」
「ああ、いえ、獣人の子供の行方不明事件が……」
あ! セリアの奴、俺に向かって説明を始めやがった!!
「わふんわふん!」
「あ……」
自分のやらかしに気付き、サッと顔を赤らめて、周囲を素早く見回すセリア。
幸いにも小声であったことと、早朝の混雑時間帯を過ぎていて近くに他のハンターがいなかったため、不審な顔を向けている者はいないようだ。
少し離れた場所にいる者には、リゼルに話し掛けたように見えるだろうしな。少し位置がズレているけれど……。
まあ、小さいことは気にしない!
「獣人の子供の行方不明事件が、何件か起きてるみたいね……」
今度は、ちゃんとリゼルの方を向いて再度言い直したな。
「……詳細は?」
「情報ボードには、あまり詳しいことは書いてないわよ。詳細が知りたければ、ギルド職員に聞くか、別途自分で情報収集するしかないわ。
ギルド職員に聞くと、情報によっては有料の場合もあるけれど、この件に関しては犯罪行為の予防や犯人逮捕に資するだろうから多分無料で教えてくれるわよ。
……まあ、その前に依頼ボードを確認すべきだけどね」
「あ、それに関する依頼が出ている可能性があるってことか!」
「そうそう……」
今度はボードに向かった体勢で、横にいるリゼルと話しているような振りをして話しているから、足元にいる俺と会話しているとは思われないだろう。
……俺は口に出しては喋っていないしな。
「……あるわね、連続行方不明事件に関する依頼……。
子供の発見、手掛かりになりそうな情報の提供、その他諸々、何でもそれなりの報酬が出るって。
依頼失敗時の違約金その他のペナルティなし、受注パーティ数無制限、事前の受注手続き不要。
勿論受注に対する報酬はナシで、成果にのみ報酬が支払われる。……常時依頼と同じ扱いね」
「いや、それってもう普通に常時依頼で良くね?」
「いえ、薬草採取や角ウサギ狩りと同じ扱いというのは体裁が悪いでしょ。
それに、状況の進展によって依頼内容や報酬額が次々と変わる可能性もあるし……」
「あ、確かに……」
一応は、依頼元も考えてるのか。
誰が依頼してるのか分からないけど……。
被害者の家族、警備隊、領主の配下、その他諸々。誰が依頼してるのか……。
「依頼元は、警備隊ね。まあ、そこが担当部署だというだけで、指示を出したり報酬金を提供したりしているのは領主様なのだろうけど……」
おお、さすがセリア。俺が知りたがっていることをちゃんと察してくれたか!
「……何となく伝わるのよ。使い魔としてパスが繋がっているからかしらね……」
あ、はっきりと念話にしなくても、ある程度の意思疎通ができるのか?
でも、それじゃあリゼルには全く伝わらないよな、これ……。
あ~、チラリとリゼルの方を見ると、セリアの言葉を聞いて少し不機嫌になってるみたいだ。
仕方ないじゃん、使い魔としての俺のマスターも、命の恩人なのも、セリアなんだからさ……。
まあ、なるべく念話で、ふたりを相手にして話すように気を付けるか……。
「じゃ、とりあえず職員に説明を聞きましょ!」
「へ~い……」
「うん!」
あ、セリアがずっとひとりで喋り続けているのを不審に思われないように、リゼルが返事をしてくれたぞ。俺の返事は他の者達には聞こえていないからなぁ。
ホント、リゼルはその辺り、よく気が回るんだよなぁ……。




