033 特 訓 6
「ぜえぜえぜえ……」
「…………」
セリアとリゼルが、地面にへたり込んで、肩で息をしている。
そりゃあまあ、疲れもするだろう。
休憩なしで、ずっと属性魔法の練習をしていたのだから……。
やればやるほど上達するものだから、歯止めが利かず、やめられなくなっちゃったのだろうな。
セリアは、まだいい。
魔力タンクである俺がいるから、精神力と体力は削られても、魔力切れの心配はないからな。
でも、魔力タンクがないリゼルは、元々年齢のせいで体力が少ない上、魔力切れで完全にダウンしている。まだ気絶していないのが不思議なくらいだ。
これって、魔法の訓練にはセリアが圧倒的に有利なんだよな。
普通の魔術師は、いくらやる気があっても魔力が尽きればそれ以上は訓練できない。努力や根性でどうにかなるようなものじゃないのだ。
……でも、無限の魔力タンク付きのセリアは、気力と体力が続く限り、いくらでも訓練できるのだ。魔力は回復に時間が掛かるけれど、気力と体力の回復は、それよりはずっと早い。
これって、ズル過ぎないか? 圧倒的なアドバンテージだろう?
そのセリアに食らい付いているリゼルは、何者だよ? ……いや、本当に……。
魔法を発動させての訓練回数はセリアよりずっと少ないけれど、1回試す度にじっくり考えて、セリアの魔法発動を観察して、前回とは違うやり方を試みる。
試行回数が制限される分、1回1回を大事に試しているのだ。
むやみやたらに同じことを繰り返すようなことはない。
……天才。
リゼルに対するセリアの評価は、決して『親馬鹿』ならぬ『姉馬鹿』なんかじゃない。
実に正しい評価だ。
末恐ろしいぜ、全く……。
あ、訓練には、俺も参加してるぞ。
知識とイメージ力でふたりには圧倒的な優位に立っているけれど、威力の調整とか、自由自在に使いこなしたり、ちょっとした小技なんかは練習しないと駄目だからな。
それに、俺の属性魔法行使を見れば、ふたりのイメージ確立に少しは役立つかもしれないしな。
……そろそろふたりが限界っぽいな。
よし、今日はこの辺で終わるか。
「終了~! 今日はここまで!」
「……まだできるわよ……」
「もう少し……。切りがいいとこまで……」
あ~、もう、コイツらは……。
「駄目だ! ヘロヘロの状態で1時間無理をするのと、元気で万全の状態で30分訓練するの、どっちが効果的だと思う? 今日1時間無理をして、熱を出して明日1日寝込んだら、訓練は進むか?
手応えを感じて、やる気に満ちているのは分かる。……だけど、頭を冷やせ。舞い上がるのはいいが、それによって理性を曇らせるな。階段を踏み外すな!」
「「…………」」
「……ん? どうした、ふたりとも黙り込んで……。腹が立ったか?」
まあ、ふたりともお子様だからなぁ。仔狼に説教されちゃあ、不愉快にもなるか。
「いや、別に怒っちゃいないわよ……」
「フェンが言っているのは、確かにその通りだからね。でも、何か……」
「「お父さんみたい……」」
「ぐはぁ!!」
生後半年の俺に、何言ってるんだか……。
前世でも、28歳独身。子供どころか、妻も、彼女すらいなかったんだぞ。
それに、今世での俺の妻や子供って、多分狼か犬……。
……あ、イカン、涙が……。
「ちょ、ちょっとフェン、あんた泣いてるの?」
「ごめん、私達が悪かったよ! せっかく教えてくれているのに、指導方針に文句言ってごめん!」
あ~、そういう意味の涙じゃないんだけど、まあ、いいか……。
* *
「今日は、驚異的な進歩があった。ほぼ、属性魔法を会得したと言っても過言じゃないと思うぞ。
後は、日々努力して腕を上げるだけだからな。ふたりとも、よくやった!」
「「…………」」
夕食の後、改めてふたりを労ったところ、ふたりとも涙目になって黙り込んだ。
まあ、気持ちは分かる。
……でも、本題はこれからだ。
「で、ふたりはこの世界……、いや、世界は広いから、それは言い過ぎか。この周辺国で初の、属性魔法の使い手になったわけだけど……」
俺の言葉に、こくこくと頷くふたり。
「このことがバレると、貴族か王族か金持ちか犯罪組織かその他諸々、魑魅魍魎に捕らえられ、拷問を受けて属性魔法についての全てを吐かされたり、幽閉されて一生製氷機代わりに扱き使われたり、属性魔法の秘密を解き明かしたい研究者に解剖されたり……」
「「……ぎ……」」
「ぎ?」
「「ぎゃあああああ〜〜!!」」
「し~っ! 壁が薄い安宿で叫ぶんじゃない!」
「「誰のせいよおおォ〜〜っっ!!」」
「さすが姉妹、息がぴったりだなぁ……」
* *
「……というわけで、まぁ、狙われるよなぁ、当然……。収納魔法と同じだよ」
「じゃあ、人前で使えないじゃないの!」
「まあ、人がいない場所で使って、納入前に獲物の傷口を剣や槍でグリグリして偽装するしかないよな。
護衛依頼や合同受注、その他他者の目がある時には使えないか……」
「何よそれ! 制限が大きすぎるわよ!」
「いや、そう言われても……。
別に俺は、ふたりが属性魔法を公表しても構わないぞ? ふたりが、それでいいのなら……」
「うっ……」
そうなのだ。フェンリルである俺は、別にふたりが属性魔法のことを公表しても、全然構わない。
この世界に属性魔法が広まっても別に困らないし、それによって俺が不利になることもない。
いくら人間が属性魔法を使っても、多分俺の方がずっと強いだろうからな。
それに、この世界じゃあ特許権という概念はないだろうし、俺には自分で金儲けをすることもできない。もし稼ぐとすれば、それにはセリア達の協力が必要だ。
……つまり、セリア達がやりたいようにやってくれればいい、ってことだ。
「……で、どうする? 公表するか?」
「しないわよっ!」
「しないよっ!!」
……まあ、そうなるだろうなあ……。
『ろうきん』コミックス15巻、『ポーション続』コミックス5巻、刊行されました。
よろしくお願いいたします!(^^)/




