032 特 訓 5
そして翌日。
三度やって来た、既にお馴染みとなった岩山。
そこで再び繰り広げられる、セリアとリゼルの属性魔法実技訓練。
「「うむむむむ……」」
「力みすぎて、漏らすなよ?」
「うるさいわよっ!」
「黙れ犬っころ!!」
お~、怖い怖い……。
「いや、場を和ませようと思って……。
それと、精神集中を乱す敵からの妨害に耐えるための訓練という意味合いがあって……」
「黙れ!」
「今夜の犬鍋の具にするよ!」
「…………」
イカン、殺気立ってるなぁ……。
ふたりとも、こんな口汚い言葉を使うような子じゃないんだ。いつもなら、これくらいの軽い冗談は笑ってスルーしてくれるんだよ。
緊張しているのか、絶対に失敗するわけにはいかないと焦っているのか……。
余程、精神的な余裕がなくなっているのだろうな。
別に、失敗してもいいのに。
今までにない画期的なことに挑戦するんだ。成功するまでに数カ月とか数年とか掛かっても、何の問題もないだろう? 日々の生活費くらい、普通に稼げるのだから……。
前世で観ていたアニメでも、『この魔法を会得するまでに、5年掛かった』なんて台詞はザラにあったしな。
何か、生活費とは別に、属性魔法を早く会得したい理由でも……、って、イカンイカン!
あまり女の子のプライバシーに踏み込むのは良くないよな。気にしないことにしよう。
……とにかく、しばらくは黙って見ていよう。
それで進展がないか、助言を求められればアドバイスするか……。
「炎の精霊よ! 我が魔力を糧に、炎の弾を作り出せ!!」
セリアが、俺が一昨日やって見せた時の呪文詠唱を参考にして、余計な部分を省いてシンプルにしたものを詠唱した。
より唱えやすく、イメージしやすいものにしたのか。さすがセリアだ。
そしてそれに続いて……。
「炎よ出でよ! ファイアーボール!!」
リゼルの呪文は、更にシンプルだ。
魔法のことを殆ど知らない俺が唱えた呪文は当てにせず、いるかいないか分からない炎の精霊なんかを名指しにするのはやめて、超単純化した言葉に想いの全てを乗せたか……。
ふたりとも、文字通り、全力だな。
そして……。
ぽひゅ!
ぷしゅん!
「……」
「「…………」」
「「「………………」」」
それぞれの手の平の上に立ちのぼった僅かな煙に、憮然とした表情のふたり。
いや、しかし……。
「よし、やったな!」
「馬鹿にしてるの!」
「下手な慰めなんか要らないよ!」
あ~、拗ねちゃってるな……。
「違うよ! 今まで何も出ないか魔力塊しか出ないかだっただろ。それが、今回は煙が出たんだぞ、煙が!!
魔力塊以外のものが出た。
……そして、煙が出るのは、どんな時だ?」
「あ……」
「熱くて、火がつきそうな時……」
うむうむ、分かってきたかな?
「そうだ。今のはもう、ただ魔力塊をぶつけ合うだけの魔法の域を超えてる。
……立派な属性魔法に一歩踏み込んでるぞ。
壁は越えた。あとは、繰り返し練習して少しずつ前へ進むだけだ」
ちょっと大袈裟に言ったけれど、こういうのはメンタル面も影響するだろうからな。
子供には、褒めて伸ばしてやることも必要だ。
「……や……」
「や……」
「「やったああああぁ〜〜!!」」
お~、少女が抱き合って喜ぶ姿は、可愛いなぁ……。眼福眼福!
「……って、この程度のことで喜んでいられないわ」
「うん、早く練習して完全にマスターしよう!」
「うわぁ、急に冷静になるなあぁ!!」
あんなにぴょんぴょん飛び跳ねながら喜んでおいて、ふたり揃って急に真顔になられたら怖いわっ!!
* *
あれからファイアーボールの特訓を続け、ふたりは何とか火球を出せるようになった。
俺はこのままファイアーボールを完全にマスターした方がいいだろうと言ったのだけど、ふたりはそこでアイスジャベリンの訓練に移行した。
……何でも、氷魔法が使えるようになると飲み物が冷やせるし、肉の保存可能日数が延びるからだってさ!
獲物や敵を一撃で倒せる強力な魔法を、ひとつだけでも完全に身に着けるべきだと思ったのだけどなぁ……。肉の保存くらい、俺のアイテムボックスに入れておいてやるのになぁ……。
でも、まあ、氷があると便利か。暑い日に涼しくできるし、シロップがあればかき氷も作れるからな。
それに、属性は違っても、属性魔法は全て、今までの魔力塊ぶつけ合いゲームに較べれば共通点があるだろう。ひとつずつマスターしていくのも、併行して全種類を同時に進めていくのも、大して変わらないか……。
一点特化型と、広く浅くの万能型。それぞれ、利点もあれば欠点もある。
そしてこのふたりなら、どちらのルートを選ぼうが結果的には全ての属性を極めて、『全属性特化型』になるだろうから、関係ないか。
……あ、いや、全属性を極めたなら、それは特化型とは言わないか……。
あ~、もう属性魔法のコツを掴んだのか、氷の塊ができ始めているなぁ。
こりゃ、すぐに風魔法とか土魔法とかも練習を始めそうだぞ。
錬金魔法とかで金や宝石を造ったりはしないだろうな?
貴族や王族に捕らえられるぞ?
……いや、そんなものは造れなくても、属性魔法が使えるとバレた時点で、貴族王族神殿勢力、研究者に金持ち連中、犯罪者から他国の間諜まで、入れ食い状態だろ。
ふたりとも分かってるのかなぁ、その辺りのこと……。
7月9日(木)、『ろうきん』コミックス15巻、『ポーション続』コミックス5巻、刊行です。
よろしくお願いいたします!(^^)/




