031 特 訓 4
「……じゃあ、実技訓練を再開するぞ。
属性魔法がどんなものかは分かっただろうし、詠唱の例もだいたい分かったよな?
詠唱の呪文は、覚える必要はないぞ。あれは、ふたりに分かりやすいようにと、考え方を言葉にしただけだ。ああいうことを前提として頭に入れておけば、詠唱なんか必要ない。
まあ、最初のうちは補助として適当な呪文を唱えるのもいいかもな。
さっき俺が唱えたのをそのまま真似る必要はないし、毎回同じ呪文にしなくてもいいぞ。
フィーリングだな、フィーリング!
考えるんじゃない、感じるんだ!!」
「「…………」」
「ん? どうした?」
ふたりとも、黙りこくっている。
「何か、疑問点でも?」
「「大有りよっ!!」」
「え~? どの辺りが?」
「「全部よ、全部っ!!」」
* *
「……なる程、魔法とはそういうものじゃない、と?」
俺の確認の言葉に、ジト目で、こくりと頷くセリアとリゼル。
「う~ん、そう言われてもなぁ……。
とりあえず、アレだ、アレ!」
「何?」
「考えるんじゃない、感じるんだ!!」
「それは、さっき聞いたわよっ!」
「……セリアは頭が固いのかなぁ……」
「これが、普通のまともな人間の反応よっ!」
あ、怒った……。
リゼルは、なまじ頭が良いからか、今までの自分の常識がガラガラと崩れたみたいで、セリアのように怒鳴る元気もなさそうだ。
「とにかく、やってみなよ」
「……うう、分かったわよ……」
ふたりとも、文句を言うことより、属性魔法修得の方を優先したみたいだな。
* *
「……うう、できない……」
「いくらやっても、何も起こらないか、普通の魔力塊が出るだけ……」
「「「…………」」」
駄目だ。いくらやっても、セリアとリゼルの特訓は何の進展もない。
「こりゃあ、イメージの基礎ができていないのかなぁ……。
仕方ない。明日は一日中、宿で座学だな。それで、火や水、風とかの科学的な勉強だ。
今日はもう特訓はやめて、帰りながら獲物を狩るぞ。
特訓をやっている間、収入がないからな。生活費は必要だ」
……主に、俺の食費としてな……。
「分かった……」
「異議なし……」
座学より実践訓練の方が、と言って反対するかと思ったけれど、ふたりとも素直に頷いた。
どうやら、ふたりもこのままじゃいくらやっても進展しないと思ったのかな。
とにかく、意地になってこのまま続けるとか言われなくて良かったよ。
ふたりとも、素直で真面目だからなあ……。
* *
「……というわけで、空気の中には水分が含まれているわけだ。
鍋を火に掛けたままにしておくと、中の水がどんどん減っていくだろ? そして鍋から出る白い湯気が空気中に消えていくよな? その湯気を手に当てると、濡れるだろう?」
「「確かに……」」
「井戸を掘れば、水が出る。つまり、地面の下には大量の水があるわけだ。それを呼び出せばいいんだよ。……どこの地下にも必ず水があるというわけじゃないけど……。
近くになければ、造ればいいんだ」
「「なる程……」」
……思っていたより、ふたりの理解が早い。
リゼルは頭が良い、とセリアが何度も言っていたけれど、リゼルだけでなく、セリアもかなり頭が良いぞ、この世界の者としては……。
これは、アレかな。
5歳も年下のリゼルが何でも自分と同じように出来るから、『この子、天才!!』と思っている。
……いや、事実、充分頭が良いんだけどな、それって……。
そして、実はセリアも頭が良いけれど、リゼルと較べてしまうから普通に見える。
もしくは、性格的なもので、その頭の良さが普段の行動では目立たない。
……良い場面では妹に出番を譲るとか、自分の考えをあまり強く主張しないとかで……。
まあ、確かに言動的には明らかにリゼルの方が頭が良さそうに見えるし、事実、そうなのだろうけど、セリアも決して頭が悪いわけじゃない、ってことだ。
「物質は全て、小さな粒で出来ている。岩をどんどん砕いていくと小さな粒になるし、植物も動物の肉も、細かく刻み続ければ幾らでも小さくなるだろう? そして極限まで小さくなれば、もうそれ以上は小さくできない限界に達するわけだ」
「物は、擦れば熱くなるよな? だから、どんどん擦ると、火がついていなくても熱くなって……」
うん、多少の誇張や不正確な説明があっても構わない。
ふたりが何となく『そういうものなんだな』というイメージを抱いてくれれば、それでいい。
俺も、別に原子や分子、水の生成とかにそんなに詳しいわけじゃない。
だから、魔法には物質に関するそんなに正確な知識が必要だというわけじゃないのだろう。
大まかなイメージ。そして確固たる想い。……多分、必要なのはその程度だと思う。
そう思う理由? ……俺にできているからだよ。
こういう感じで、一日中、科学知識を教え込んだところ……。
「どうしてそんなことを知ってるのよ……」
セリアに、また問い詰められた。
これは、きちんと説明しない限り、治まりそうにないな。
仕方ないなぁ……。
「セリア、お前、呼吸の仕方、誰に教わった?」
「……え? そ、そんなの誰にも教わってないわよ。生まれた時から自然にできていたに決まってるでしょ。でないと、生まれてすぐに死んじゃうじゃないの!」
「じゃあ、泣き方は? 赤ん坊の時の、泣き声の出し方は?」
「そんなの、誰でも自然にできるわよ!!」
……よし、掛かったな。
「そうだ。人間なら、それが普通だ。雛鳥は、親鳥が飛ぶのを見ただけで、誰にも教えられなくても最初からちゃんと飛べる。……木の上に巣を作る鳥だと、ぶっつけ本番で飛べなければみんな地面に落ちて死んじゃうからな。
……そう、生き物は皆全て、生まれた時から生きるために必要な最低限の知識と能力を備えているものなんだよ! だから俺の知識と能力も、俺が生まれた場所では生き残るのに最低限必要なものだってことなんだよ、うん!」
そう、ドヤ顔で熱弁を振るった。
「でっ、でも、私達は生まれた時には何も知らなかったし、何もできなかったわよ!」
セリアがそう主張するけれど、それに対する説明はちゃんと考えてある。
「それは、この世界は生きるための難易度がヌルい上、成長するまで親や所属している集団が護ってくれるから、最初から自分を護れるよう色々な能力を身につけておく必要がないからだろう?
だからその分、色々な教えを受けて急速に知識と能力を高めることができるよう、潜在スペックが高い、空き容量の大きい白紙状態の発展性がある状態で生まれてくるんじゃないか?
幼児の安全が確保できる、成熟した社会形態を持つ高度な生物にしか与えられない贅沢だよ」
「「なっ、なる程!!」」
それらしい解説、それも自分達の種族を持ち上げた説明をされると、くっコロ、いやいや、イチコロだ。
いくら頭が良くても、所詮はお子様。このフェン様の話術には敵うまい。
伊達に、前世で口車の弥七と呼ばれてないぜ!
……いや、嘘じゃないぞ。
ちゃんと、呼ばれてない、って言ってるじゃん!




